一方発射基地ではいよいよロケット発射の瞬間が近づいていた。司令室では
ヨロイ元帥の指揮の下、科学者達があわただしく準備を続けている。間近に
控えた作戦実行の瞬間を待ちきれないヨロイ元帥は、気ぜわしく室内をうろうろと
歩き回っていたから思うと操作パネルの前で立ち止まり、コンソールに映し出される
各種の情報表示を見ながら、科学者達と言葉を交わす。
「準備完了の予定時刻を報告せよ」
「順調に行けばあと6時間で発射準備が完了いたします」
白衣に身を包んだ白覆面の科学者から報告を受けたヨロイ元帥は、不気味な笑み
を浮かべる。気象用のロケットですら10時間を要する準備時間を考えれば、蠍谷
へのロケットの移送から発射台への設置を終え、残る各種最終チェックや推進薬の
充填等の準備を考慮するとこの時間は早いほうなのかも知れない。だが、手柄に
はやる今の彼には長すぎるのか科学者に準備時間を早めるよう催促する。
「長いな・・・5時間、いや3時間以内で準備せよ。諸君の奮闘を期待するぞ」
白覆面の科学者達が戸惑いと焦りの表情を浮かべるのもお構いなしに、元帥は
マントを翻して司令室を後にする。自動ドアがゆっくりと開き、去り際に元帥は
科学者達にこう言い残した。
「完了次第速やかに報告せよ。発射の指揮は俺が執る」
閉まるドアが元帥の姿を隠し、司令室がさらに慌ただしさを増すのを尻目に
ヨロイ元帥は自室へと帰っていく。と、その道すがら彼は外から帰ってきた
ザリガーナと出くわした。
「ザリガーナ、貴様の作戦のおかげでロケットは無事に蠍谷に到着、発射まで
3時間を待つのみとなった。ご苦労だったな」
部下である改造人間の労をねぎらうヨロイ元帥。しかし彼はその一方で、味方
や部下の命すら何とも思わない冷酷非情な一面を併せ持っている男である。彼に
してみればこの怪人でさえも手駒にしか過ぎない。と、その時怪人が口走った
言葉は元帥にしてみれば予想外の事態であった。
「関東圏に送り込んだヨロイ軍団が壊滅した。ライダー共がこの場所に
気づいて乗り込んでくるかも知れん。奴らを釘付けにしてロケットを東京に
打ち込む腹づもりだったが、面倒なことになった」
「何だと?!科学者共の尻を叩いて3時間以内で準備するよう命じたが、
間に合わぬではないか!どうする」
先ほどの余裕とは一転、怪人の言葉に動揺するヨロイ元帥。一方のザリガーナに
とっても軍団の敗戦が予想よりも早かったことは計算外だったようだ。
「ライダー共の行動が思いの外早かった・・・もしかしたら奴らは、何かの
ネットワークを構築して作戦行動を察知し、伝達していたやも知れん」
ザリガーナの推理するネットワークの存在。それはまさしくあの少女達の事
だった。しかし、ヨロイ元帥はまだその存在を知らなかった。
「ネットワークだと?!」
元帥の言葉に黙って頷くザリガーナ。そして怪人はさらに言葉を続けた。
「『少年仮面ライダー隊』というジャリ共がいると聞く。FBIの稲葉とか
いう女の手助けでそいつらが作戦を察知して、ライダーに知らせたのだろう」
「ならば急げザリガーナ、皆殺しだ!」
腕の鉄球を突きつけてザリガーナに抹殺指令を命じるヨロイ元帥。怪人もそれ
はすでに承知していたようだ。
「判っている。カメレオン・・・いや、『吸血カメレオン』に命じてジャリ
共は任せているが、俺もこれから東京に出向く」
そう言うとザリガーナは元帥の前から姿を消した。元帥も怪人の言葉にようやく
落ち着きを取り戻したか、再び自室へと向かって歩き出した。ザリガーナの命を
受け、生まれ変わった吸血カメレオンの魔手が今度は雅達へと延びようとしていた。