第57話 「仮面ライダー4号は君だ!」
各地に分散し、陽動作戦を展開したヨロイ軍団。その目的は、ヨロイ元帥が完成
させた恐怖の破壊兵器「プルトンロケット」を安全に実験施設のある小笠原から
ゼティマ日本支部、そして発射施設のある蠍谷へと移送することであった。怪人
カタツブラー、原始タイガー、そしてその他の怪人達や戦闘員を動員して敢行された
計画はその当初の目的を果たし、ついにロケットを蠍谷に移送する事に成功した。
荒涼たる大地にそそり立つむき出しの岩山。その奥底にプルトンロケットが隠されて
いるのだ。
「カタツブラー達は立派につとめを果たした。スミロドーンもな。ザリガーナよ、
ここまで来たらばあとは作戦の成功に邁進するのみ」
見渡す限りまさに死せる大地と言うべき、岩と砂の世界に立つ影2つ。一つは
黒部ダムでの戦いから離脱したカメレオンだった。彼は蠍谷に逃げ延びていたのだ。
「元帥閣下もそれを望んでおられる。ロケットも到着し、発射台への固定作業が
進んでいるところだ。ただ、やはり気になるのはライダー共だ」
鋭いはさみをかざして言葉を交わす、赤い身体のザリガニ怪人。彼こそもう一つ
の影、軍団最強の怪人としてヨロイ元帥の信任も厚いザリガーナ。しかし彼をしても
ライダーの存在は気がかりの様子だ。陽動作戦の遂行に当たり、軍団にも少なからず
損失が出ているのは二人も認識していた。だがそれも作戦が発動するまでのこと。
「しかし、仮に奴らが我らの計画に感づいたとしても手遅れだろうな」
「その通り。せいぜい東京の地獄絵を、歯がみしながら見つめて貰うとしよう」
不気味に笑うカメレオンとザリガーナ。と、二人の眼下に傷ついた身体を引きずり
ながら姿を現した一人の改造人間がいた。鋭い角と硬い皮膚を持つヨロイ軍団の
一員、怪人サイタンクだ。
「ザリガーナ・・・元帥閣下に取り次いで貰おうか!」
這々の体のサイタンクは大声でわめきながら二人の元へと近づいてきた。身構える
カメレオンを制するようにザリガーナが割って入りサイタンクに告げる。
「元帥閣下はあいにくお会いにならぬ!俺が話を聞こう」
「ならば聞け!我らヨロイ軍団、閣下の御意志に従い奮闘した。だが!閣下の
言う陽動作戦とは爆発しない偽の爆弾を仕掛けることだったのか?!」
「だとしたらどうだというのだ?」
「何ぃ?!」
この言葉を隣で聞くに及んでカメレオンも顔色を変えた。だが、ザリガーナは
お構いなしに言葉を続ける。
「それが閣下の御意志だ。たとえ発電用のダムに毒を流すのが無意味だとしても、
最初から偽の爆弾だと判っていながらそれをみなとみらいやコンビナートに仕掛け
させたとしても、任務を忠実に遂行することが我らの義務ではないか」
「・・・それでは死んでいった者達は犬死にではないか!」
ザリガーナの告げた残酷な言葉に身震いしながら答えるサイタンク。恐るべきは
ヨロイ元帥、自らの部下の命を省みようともしていない。
「元帥閣下の意図されるところは明快・・・囮は目立てば目立つほど良い。そして、
一人でも敵を倒せればなお良し」
「爆弾の真偽を知っていれば、戦いを投げ出してそれが叶わぬかも知れぬ、
そう言うことか!」
サイタンクの言葉にザリガーナは黙って頷く。陽動作戦とはいえ前線に立つ怪人達
はライダーを倒す気概で事に当たらなくてはならない。もし怪人達が爆弾が偽物で
あると知っていたり、ダムへの工作が意味のない事だと知っていたなら、作戦を
放棄して遁走する者も出たことだろう。だがそうであってはならない。
単なる陽動作戦にとどまらず、敵を一人でも減らすためには作戦の最前線に立つ
者の決死の奮起を必要とする。ヨロイ元帥の意図するところはそう言うことなので
ある。
「運が良ければ我らの命と引き替えに、ライダーの首が手に入る計算だったと
そう言うことか」
「そう言うことだ・・・だが、貴様は任務を果たせなかったな」
そしてザリガーナはそう言うなり斜面を駆け下り、一気にサイタンクとの距離を
縮めると次の瞬間、鋭く研ぎ澄まされた腕のハサミでサイタンクの首根っこを
挟み込みそのまま一気に
怪人の首を切断してしまった。
「元帥閣下の御意志に疑問を挟むことは許されん・・・何人たりともな」
ザリガーナの視線の先には、この現場を目撃しているカメレオンがいる。しかし
彼は足下の怪人が放つ鋭い眼光と邪悪な気配に射すくめられて身動きが出来ない。
サイタンクを処刑したザリガーナは大きく跳躍すると、先ほど駆け下りた斜面
を一気に飛び上がって再びカメレオンのそばに立つ。すっかりおびえて大きな
目玉をせわしなく動かすカメレオンの様子を見ていたザリガーナは、ハサミを
突きつけてこう言い放った。
「我ら改造人間にとって命令は絶対。如何なる些細な疑問も抱くことは
許されぬ。心しておけ」
その言葉は十分にカメレオンの心胆を寒からしめた。それは一介の怪人の
言葉ではない。まるで自分たちの頭上から言い渡されるような言葉だった。
言葉を失ったままのカメレオンと、仲間に対して一片の情すら抱かぬザリガーナ。
二人の怪人はそのまま山嶺の彼方に姿を消した。