一方同じ頃、ハローワーク商会。
今日一日の仕事の整理を終え、斉藤瞳は操作していたノートパソコンの電源を切る。
電源ランプが消えるのを確かめたところで、彼女はゆっくりと席を立った。振り返ると
そこにもう一人の女性の姿があった。部屋の奥から姿を現したその女性は、瞳の姿を
認めて声をかけてくる。
「あぁ、まだ帰ってなかったんだ」
「うん・・・まぁ、こっちも今終わったところ」
瞳は彼女に、会社で使用していたコンピュータのメンテナンスを頼んでいた。夕べから
調子がおかしかったので彼女を電話で呼び出し、作業を依頼していたのである。黒い
アタッシュケースを手にした黒髪のスレンダーな女性に、瞳は冷蔵庫からコーヒーを
取り出して差し出す。
「カフェオレしかないけど・・・いい?」
「サンキュ。ありがと」
瞳の差し出したそのコーヒーを、女性〜アヤカは笑顔で受け取り、細くしなやかな指を
プルにかけて缶を開けた。アヤカがいくらかコーヒーを口にしたところで、瞳がこう
切り出した。
「病院・・・辞めたんだってね」
「うん。叔父に迷惑はかけられないから。それでね、今こんな話が来てるの」
そう言ってアヤカは小脇に抱えたファイルから一通の封書を取り出して瞳に手渡した。
木村絢花様、と日本語表記で記された差出人の字体は丁寧な毛筆で書かれており、裏面
の差出人を見ると「警察庁科学警察研究所」の名が記されていた。
「警察?科警研って何?」
不思議そうに封筒を見つめる瞳。そのまま封書の中へと指をすべらせ、取り出した手紙
を読む。
「拝啓 木村絢花様 この度は・・・うぅん、難しいことばっかり書いてあるから
判らないなぁ。どういう事?」
堅苦しい文章が並ぶ手紙の中身に、首をかしげる瞳。内容は概ね次の通りだ。警察庁と
自衛隊などが中心となって結成したゼティマ対策組織がかねてから調査を進めていた、
九郎ヶ原の古代遺跡についてゼティマが発見できなかったある重要な遺物を発見した。
その研究調査について有能な人材を、彼女たちの共通の知人にしてFBI捜査官でも
ある稲葉貴子に紹介するよう依頼したところ、貴子はアヤカの名前を挙げて研究員に
推薦したというのである。さすがは貴子と言ったところだろうか、警察組織への口利きも
お手の物である。恐らくそこには、かの首都防衛隊隊長たるソニンの口添えもあったかも
しれない。
「警察庁科学警察研究所・・・そこの職員、かな?私がなるって事」
「でも、アヤカちゃんって昔ゼティマの研究員だったんでしょ?その事は・・・」
「手紙の中では触れてないから、知らないか不問にされたのかどっちかね。稲葉さん
が黙ってくれたのかも」
それだけ聞いたところで、瞳はアヤカに手紙を返す。アヤカは受け取った手紙を再び
ファイルの中にしまうと瞳にこう言った。
「私には私なりの戦い方ができると思うの。辻ちゃんやミカは自分たちの能力で
改造人間達と戦ってる。変身できない私にも出来る戦い方が見つかった、そんな感じ」
「そうなんだ・・・」
やがて二人は外に出るとドアに鍵をかける。表にはアヤカが乗ってきたシルバーの
クーペが止められていた。アヤカはポケットを探ってキーを取り出すと、そのまま車
の方にかざして小さなボタンを押す。ドアロックがガチャリ、という音ともに自動的
に解除されたところでアヤカは言った。
「送ってくけど?」
「そうね・・・お願い」
瞳はそんな彼女の好意に素直に甘えた。改造人間や人造人間で無くとも、ゼティマと
戦うすべはある。そしてそれを見つけた彼女は新しい戦いの舞台を見つけたのだ。
そんな思いとともに、瞳はアヤカに促されるままにレザーシートに身を沈める。やがて
小気味よいエンジン音とともに車は走り出した。
今日のところは以上です。続きはまた。
>>289 そうですね。主にミカ・・・ココナッツとミニモニ。主体になるかと思います。二話構成
の予定ですので長丁場になるかと思いますが、よろしくおつきあい下さい。
「中澤さんちでよかったの?」
「うん。今月のバイト代私に行かなきゃなんだよね・・・」
車内でのとりとめのない会話が続いている間に、車は中澤家に到着。それから
二人は用事を済ませて再び車中の人となった。
「さっきの話なんだけど・・・」
「何?」
「あたしも自分で首突っ込んでるクチだから人のこと言えないんだけど、まだ
奴らに追われてる身なんでしょ?危険すぎるよ」
瞳の不意の問いかけに、アヤカはハンドルを握ったまま一言だけ答える。
「判ってる。けど決めたの」
彼女の言葉を聞き、翻意はないと察した瞳はあえて言葉を続けなかった。すっかり
瞳は黙ってしまい、それからしばらく車の外ばかり眺めていたが、やがて車は
ハローワーク商会に戻ってきた。二人が別れの挨拶を交わした後で、車は走り
出した。赤いテールランプが完全に見えなくなるまで、瞳はその様子を見送って
いた。
その翌日、中澤家の昼下がり。あわただしく飛び出しておのおのマシンを駆って
走り出す数人の少女達の姿があった。実はこの直前、「少年仮面ライダー隊」の
一員である夏焼 雅から無線連絡が入っていたのである。雅の知らせを聞きつけた
少女達は、昼食もそのままに部屋から駆けだしていったのだ。
「それであの子、何て言ってたの?」
ただでさえ大きな目をより見開いて言うのはアマゾンライダーことケイ。彼女は
十面鬼と命がけの死闘を演じたが、戦いを終えて現れた謎のゼロ大帝によって密林
の秘宝ギギとガガの腕輪に隠されたキングストーンを奪われてしまった。今はその
際に負った傷も驚異的な回復力で治癒し、再び少女達とともに戦列に復帰すること
が出来たのである。
「国道を臨海工業地帯向けに走ってった怪しい車を見たって。ちらっとだけど、
黒覆面が載ってるのを見たって言ってましたよ」
ケイの言葉に応えたのは、かつてパーフェクトサイボーグの異名を取った少女。
今は少女達の絆によって人の心を取り戻した小川麻琴だ。
「とにかく今はその怪しい車を追うことが先決ね。いくよ、小川!」
「はいっ!!」
ジャングラーとヘルダイバー、2台のライダーマシンは爆音を上げて悪の企みを
追うべく走り出そうとしていた。と、その時。後方からゆっくりともう一台の
マシンが姿を現した。二人にとって、それは意外な少女だった。
「先輩達、なんかあったっちゃろ?」
聞き覚えのある声に振り返るケイと麻琴。そこにいたのは、銀色のマシンに跨る
少女の姿・・・だったのだが。
「あんた、何でそんなカッコしてんの?」
その少女〜田中れいなの出で立ちは、何故か白のエプロンが映える黒のメイド服
だった。タイミングを同じくして二人から「かわいい」と声が上がるが、れいなは
恥ずかしそうにうつむいたまま答える。
「バイトの制服・・・さゆが可愛いのがいいって言うからメイド服になったっちゃん。
ってかそんなんどうでも良いでしょ!」
彼女はたまたま出前で近くまで立ち寄った際に二人の姿を見かけ、先日の非礼を
詫びるつもりで二人に協力しようとやってきたのだ。耳まで真っ赤になった彼女は
またもむくれっ面で、照れ隠しか派手に一蒸かしするとオートバジンを駆って真っ先に
飛び出していく。
「バイトどうすんでしょうね?」
「さぁ・・・でもそれどころじゃないよね。奴らが何をしでかすか判ったモンじゃないし」
れいなのバイトの心配よりは、やはりゼティマの悪事を食い止めることが先決である。
ケイと麻琴もれいなの後を追うように走り出す。目的地は臨海工業地帯。雅の連絡の
とおりなら、ゼティマはまたしても何らかの悪巧みを働こうとしていることになる。
車を追って走る三人。道中では幸い尾行に気づかれることはなかった。2時を回る頃
三人はゼティマらしき者達がのる怪しい車が向かった臨海工業地帯に入った。
立ち並ぶ工場や石油コンビナートが敵のターゲットだとすれば、ゼティマが企むのは
一帯の大破壊であろう。それだけは食い止めねばならない。三人はそんな思いで敵の
姿を探す。しばし捜索した後、三人の視線の先に先ほどまで追いかけていた車から
降りてきた怪しげな一団が動き回っているのが見えた。改造人間に指揮された黒装束・
黒服面の部隊が、近くにある石油タンクに何かを仕掛けているのが見える。麻琴が
目敏くそれを見つけてケイに知らせた。
「保田さん、あれ!」
「間違いないね・・・多分奴らはあのタンクを爆破して一帯を火の海にするつもり
なんだろうね。小川、田中、いくよ!」
三人は作業を続ける敵の背後をついて急襲するべく、壁や植え込みに身を潜めながら
敵の元へと近づいていく。
一方、そうとは知らぬゼティマの工作部隊はコンビナートに装置を仕掛ける作業に
集中していた。作業の陣頭指揮を執るのは、ヨロイ軍団の一員であるカタツブラー。
大きな貝がトレードマークのカタツムリ怪人だ。
「お前達、ライダーどもに悟られぬうちに爆薬をセットしろ!この一帯の人間ども
には夕べ俺の卵を産み付けて操り人形にしてある。誰もじゃまだてはせんだろう」
「イーッ!」
怪人の言葉に呼応する、意気盛んな戦闘員達。この作戦こそ、ヨロイ元帥が宣言した
軍団総攻撃計画の第一歩なのだ。少女達は怪人の悪巧みを食い止めるべく、息を潜め
その背後を突かんと忍び寄る。