第56話 「悪魔のZ計画・ヨロイ軍団総攻撃!」
世界征服を目論む悪魔達の城、ゼティマ秘密基地。そこでは今日も、世界の平和
を脅かす悪しき企みが行われている。そんな中、その悪魔達も眉をひそめる悪魔の
中の悪魔が再びこの地を訪れた。小笠原の孤島でミサイル実験を行っていた、あの
ヨロイ元帥が帰還したのである。赤銅の甲冑に身を包み、唯一仮面から覗く双眸には
邪悪な輝きと口元に悪辣な笑みをたたえて、彼は小笠原から乗ってきた潜水艦を降り
ドックへと降り立った。
「久々に帰ってきたが、やはり我が家は格別だ・・・そうは思わんか?」
部下であるヨロイ軍団の構成員達を引き連れて喜色満面の元帥。彼にとって、
今回の基地への帰還は言うなれば「凱旋」であった。元帥の言葉に軍団の改造人間、
カマクビガメが応えた。
「すべては元帥閣下のご威光のたまものにございます。閣下直々にプルトン
ロケット開発の成功をお伝えすれば、首領様もさぞやお喜びのことかと」
「首領様にお喜び頂くだけではない。組織での俺の地位もますます高まるのだ。
貴様も誇るがいい、ゼーティマ一の頭脳を持つこの俺の部下であることをな」
ドックで黙々と働いている戦闘員達を横目に、ヨロイ軍団が目指すのは総司令室。
悪の総本山、ゼティマ首領と他の幹部達が一堂に会する場所だ。元帥にとって、
自らの手柄を報告するにはもっともふさわしい場所である。まさに意気揚々、元帥
とその配下達の前に阻む者は何もないかに思われた。
銀色のマントが翻ると同時に、総司令室のドアが開く。巨大な鷲のレリーフを
背に、玉座に座る悪魔元帥と彼を囲む四人の幕僚、そして死神博士やゾル大佐ら
幹部達が一同に会する中、彼らがもっとも忌み嫌う男が、彼らの考え得る最大の
戦果をひっさげて現れた。ヨロイ元帥と彼の配下達が次々と司令室に足を踏み入れる
と、幹部達の視線が元帥達に集中する。それの視線の本質が羨望なのか侮蔑なのか
それは元帥には判らなかった・・・というより、今の元帥にとって彼に注がれる
視線が後者であるはずはないのだ。周囲を見渡して得意げな表情を見せるヨロイ元帥
は、悪魔元帥と対峙して開口一番こう言い放った。
「聞け、悪魔元帥。俺は今ここに、我らの悲願である世界征服を達成する必勝の
策を携えて帰ってきた。プルトンロケット開発、成功のうちに完結したぞ」
「ほう・・・それは目出度いことだ。小笠原からご苦労であった」
「フン!俺の労をねぎらうのは貴様ではない、悪魔元帥」
悪魔元帥の冷ややかな視線を意にも介さず、ヨロイ元帥はいよいよ絶好調といった
風で首領に計画の成功を報告した。
「偉大なるゼーティマ首領様。このヨロイ元帥、ついにプルトンロケットの開発に
成功いたしました。つきましてはかねてより上申しておりました『Z計画』の許可を
頂きたいと存じます・・・」
恭しく一礼した後、口から飛び出すのは露骨な自己賛辞の数々。辟易した表情を
浮かべる幹部達の事など、彼の視界には全く入っていない様子だ。とその時、鷲の
レリーフの胸元が妖しく光る。それを見た幹部達が一礼すると、地の底から響く
ような何者かの声がどこからともなく聞こえてきた。
『プルトンロケットの開発ご苦労であった、ヨロイ元帥。この秘密兵器が我々の
目的をまた一歩前進させるだろう』
実験成功の労をねぎらう首領の言葉に、ヨロイ元帥は笑みを浮かべて一礼する。この
様子を他の幹部達は苦々しげに見ていた。首領の言葉はさらに続く。
『しかしヨロイ元帥、計画の実行についてはまだ時期尚早と考える』
「・・・?!」
Z計画上申の却下、それは元帥にとって意外としか言いようのない言葉だった。