仮面ライダーののBLACKRX

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237ナナシマン
 駐車場に停車していた一台の乗用車、それはスマートレディが明日香にマンション
とセットで用意し、与えたものだった。ポケットからおもむろにキーを取り出し、
明日香はキーを車の方に向けるとスイッチを押す。するとその直後、ガチャッという
音とともにロックが解錠された。いわゆるキーレスエントリーと言うヤツだ。

 「車まで用意してくれるとは太っ腹やな」

おそらくは納車されて間もない新車であろうその車をしげしげと見つめるみちよを
よそに、二人は車に乗り込む。

 「平家さん、そろそろ行きましょう」

 「あ、あぁ」

明日香の声に促され、あわてて後席へと身を滑らせるみちよ。前席には明日香と
麻美が乗り込んでおり、出発の準備は整った。

 「ところであんた、運転したことあんの?」

 「え?」

そう言ってみちよが後席から身を乗り出す。他人の運転がどうしても気になる
らしい。旧知の間柄ならばともかく、相手は出会って数日の少女である。心配に
なるのも無理からぬ話ではある。そんなみちよに、明日香が答えて言った。

 「大丈夫だって。お互いちょっとやそっとじゃ死にゃしないでしょ?」

 「・・・そう言う問題とちゃうやろ、自分」

かくして、三人を乗せて車は走り出す。目指すは夢が丘商店街。
238ナナシマン:04/03/21 23:30 ID:M56FGMHo
 車の中で明日香と麻美、そしてみちよは自分がオルフェノクと化した経緯を
打ち明けた。その会話の中で、麻美がぽつりと洩らした言葉が明日香の心に
引っかかった。それは二人の会話が、麻美の姉なつみに及んだときのことだ。

 「私って、いっつもお姉ちゃんと比べられてきたんです・・・」

 「え?」

突然の独白に戸窓う明日香。伏し目がちに呟いた麻美はすっと視線を上げ、
明日香の方を見やるとさらに言葉を続けた。

 「家でも学校でもそう・・・お姉ちゃんはいつも私の上にいて、そんな私は
お姉ちゃんのついでみたいな感じで・・・」

 「そんなことないと思うけど?」

運転中なので目を離すことは出来なかったが、明日香は少女の言葉に対して
真剣に耳を傾けていた。しかし、姉のことを語り出した麻美の表情は次第に
曇り、暗い熱気を帯びた口調で独白は続く。
239ナナシマン:04/03/21 23:31 ID:M56FGMHo
自分を姉〜なつみと比べて卑下した言葉が並ぶ麻美の一人語りを断ち切る
ように、明日香は一言だけ強い口調で言った。

 「よそうよ、そういうの」

凛とした横顔、強い意志とともに放たれた言葉。彼女は彼女なりに真剣に麻美
の言葉に向き合っていた。

 「なっち・・いや、お姉ちゃんとあなたは別の人格じゃん。違うのは当然だよ」

 「でも・・・」

 「もうそうやって自分を卑下するのはやめなよ。辛くなるだけだよ」

明日香のこの言葉に対して、麻美は何も言えなかった。いや、むしろ言わなかった
と言うべきかも知れない。彼女は隣で車を運転する少女の言葉を自分の心で
受け止めたのだ。
240ナナシマン:04/03/21 23:33 ID:M56FGMHo
 車は住宅街を抜けて、やがて市街地へと至る。時はすでに夕方、程なくして
帰宅ラッシュと重なってしまったことで、車は渋滞に巻き込まれてしまった。
ほとんど動かない車列の中で三人を乗せた車は立ち往生し、信号とともに少し
車列が動き出すとまた止まり、とそんな調子をかれこれ20分くらいは
繰り返している。

 「裏道回ればよかったかなぁ」

ハンドルを片手に一人呟く明日香。その口ぶりに少女のいらだちがのぞく。
一方、助手席の麻美は無言のまま対向車線の車列を見つめていたが、その時
彼女は一台の車を見つけた。少女の視線が、乗っていたドライバーと交錯した
瞬間、少女の中にある記憶が蘇る。そしてその記憶は、彼女の負の感情を再び
蘇らせる引き金となった。

 「あっ・・・」

 「どうしたの?」

小さく驚きの声を上げる麻美。その声に明日香が気づき、言葉をかける。しかし
明日香の言葉も耳に入っていない風の麻美は、その直後驚くべき行動に出た。
いきなり助手席のノブを引いてドアロックを解除すると、そのまま車がひしめく
道路へと飛び出していったのだ。
241ナナシマン:04/03/21 23:33 ID:M56FGMHo
 「ちょっ・・・待ちぃや!!」

 「麻美ちゃんっ!」

二人が止めるのも聞かず、麻美は道路へと飛び出すなりそのまま駆けだした。
彼女が駆けていった先に二人が見たのは動き出した一台の車だった。麻美は
その車めがけて走り出したのだ。対向車線を走る二人を車で追うことは出来ない。
さりとてオルフェノクに変化して追うわけにもいかない。

 「麻美ちゃん・・・」

車の中で、明日香はただ黙って小さくなっていく麻美の姿を見つめる事しか
できなかった。一方歩道までたどり着いた麻美は、道路が空き始めてスピードを
徐々に増していく一台の車を逃すまいと懸命に走り出した。彼女が見たその車の
正体こそ、あの雪の日に自分を撥ねた車だったのだ。
 それは言わば自分がオルフェノクと化する原因を作った相手だ。心の奥底から
わき上がる憎しみが、やがて少女の瞳を紅く燃やす。そして次の瞬間、あの雪の
日と同じように白い翼が翻ると同時に少女の体は閃光に包まれ、その収束とともに
姿を現したのは灰白色の甲冑に身を包んだかのような、鶴の意匠を持つ女性的な
フォルムの異形の者だった。さらにそこから変化を遂げ、まるで神話世界の有翼人
のような姿に変わると、翼をはためかせて宙に舞った。