一斉に食事を取る少女達の中に混じって、一人だけ箸も付けずにただ黙ってテーブル
に視線を落としたままの少女が一人。気遣うように里沙が声をかける。
「どうしたの?食べないの?」
少女〜れいなは連れの二人がにこやかに食事を進めているのとは全く正反対に、一人
とまどいとも疑いともつかぬ渋い表情のまま、配膳された朝食を見つめている。両隣の
絵里とさゆみがもくもくと箸を付けるのを、時折ちらちらとは見るものの自分からは
箸を付けようとしない。目の前にある暖かいご飯とみそ汁が放っておくと朝の冷たい
空気でさめてしまう。
「もしかして・・・こういうの嫌い?」
朝食の内容が気に入らないのか、それとも大勢で食べる朝食がイヤなのか。どちらに
しても気になるそぶりだった。彩がかけたそんな言葉に、れいなはふるふると首を
振って一言つぶやいた。
「・・・すいません。猫舌なんです」
「え?!」
一同唖然。そして、その直後一同爆笑。突然の告白の間が少女達にはたまらなく
おかしかったのだ。一方、れいなはしばし恥ずかしそうにうつむいていたが、やがて
小さく肩をふるわせる。そして急に席を立つと、黙って外へ出て行った。一同呆然と
する中、れいなの後をさゆみが追う。方や連れのはずの絵里は黙ってみそ汁を
すすっていた。
家の外に出たれいなはオートバジンに跨り、おもむろにヘルメットを手に取る。
エンジンをスタートさせ、今にも中澤家を去ろうとしていたその時、そんな彼女に
さゆみが追いつき、れいなの態度を問いつめる。
「れいな、せっかく朝ご飯に誘ってもらったのに失礼だよ」
「うっさい!猫舌気にしてんの、さゆも知ってるでしょ」
猫舌はれいなにとってあまり触れて欲しくない彼女のウィークポイントだった。
小さいころそれで地元の子供達から馬鹿にされていた事もあった。幼少期のいやな
思い出が、そのたびに蘇ってくるのだろうか。しかし、彼女があの場を去ったのは
なにも猫舌を馬鹿にされて憤慨した、というだけではなさそうだった。その事を
指摘したのは、二人が予想だしない一人の少女だった。
「本当にそれだけ?」
声の主は里沙だった。さゆみを追って、食事を中座して下りてきたのだ。三人を
朝食に誘った手前、彼女はれいなのとった行動の理由を知りたかったのだ。
「本当にそれだけ?」
声の主は里沙だった。さゆみを追って、食事を中座して下りてきたのだ。三人を
朝食に誘った手前、彼女はれいなのとった行動の理由を知りたかったのだ。
「気にしてたことを笑ったのは謝る。けど、何も黙って出てくことないじゃん」
「人のこと笑うただけで十分。朝ご飯美味しそうやったけど、もういらん!」
居合わせた少女達の代表として、里沙はれいなに対して詫びる。一方、当の
れいなは強情だ。しかし、この時れいなが意地になって口にしたこの言葉を、
里沙は聞き逃さなかった。反撃開始だ。
「ふぅん・・・美味しそうだったことは認めるんだぁ」
「それは・・・」
とたんに口ごもるれいな。彼女にしてみても、できることなら相伴に預かりたかった
のだが、どうしてもそれができなかった。それは、単に自分が猫舌だという身体的な
理由だけではなかったのだ。そこへさゆみも加勢に加わる。
「あのお姉さん達なら信じて良いと思う。私たちのこと話してみようよ、ね?」
突如与えられた謎の力、ファイズギアを巡る戦い。その戦いを、れいなはほとんど
一人で戦い抜いてきた。あの琢磨と名乗る男が現れて以降、直接的にギアを狙う
オルフェノクは現れなくなったものの、強力な敵の出現は少女に戦いの激化を予想
させた。味方は確かに多い方がいい。信頼できる相手ならばなおさらだ。だが。
「それが嫌ったい!」
さゆみの言葉を拒絶するようにれいなが声を荒げる。突然のことに、さゆみの肩が
小さくぴくりと震える。