続きです!
「なんだよ、それって談合じゃんか」
「お嬢さん、人聞きの悪い事言っちゃいけませんよ。
私達は談合に来てる訳じゃないですよ」
「じゃあ、何だよ?」
「せっかちな人ですね。でははっきり言いましょう。
ハロ−ワーク商会も私達の事務所の傘下に入っていただきます」
2人組はそう言うと名刺を差し出した。そこには
「ギャラクシーカンパニー」と書かれていた。
ギャラクシーカンパニーとは最近良くない噂を聞く探偵事務所である。
「なるほどね、ギャラクシーさんでしたか、ではこちらもはっきり言いますね。
そのお話はきっぱりとお断りします」
斉藤は名刺を手にしながら笑顔で答えた。
「おや、そうですか・・・まさか斉藤さんは、うちがどんな所か
知らない訳じゃないですよね?」
「勿論知ってますよ。悪徳業者でそのバックに暴力団がついてる事も」
斉藤がそう言った瞬間、2人組の顔色が変わった。
「暴れても構わないですけどここにある家具はオーダーメードだから
高いですよ。たぶんあんた達のシノギじゃ買えない物ばっかりだよ」
斉藤はその場に座ったまま余裕の表情を浮かべていた。
確かにハローワーク商会の事務所にある家具は
全てインテリアショップ「ペガサス」のオーダーメードである。
だがそれ程高いと言う訳でもない。
イチビる2人組に斉藤はハッタリをかましたのだ。
「さすが大吉さんの娘だけあるな。度胸が据わってやがる」
この業界では斉藤大吉の名は意外に知られている。
何処から聞きつけたのかFBIとつながりがあるとさえ噂されていた。
「だがな、ちょっと調子に乗りすぎたみたいだな」
2人組の1人がそう言って斉藤に殴りかかろうとした時であった。
突然2人組の身体が持ち上がった。
「何だ?」
慌てた2人組が後ろを振り返るとそこには大男が立っている。
「何だてめえは?」
「おとなしく帰るか、それとも痛い目をみるか・・・どっちを選ぶかな?」
大男はそう言って2人組を睨みつける。
ただならぬその男の威圧感。
「こいつには勝てない」そう思ったのであろう、2人組はおとなしく
引き上げて行った。
「弁慶さん、ちょうどいい所に来てくれたね」
矢口がそう言うと
「NO、彼はこの事務所の用心棒」
斉藤が言う。
「へっ?そうなの?でも用心棒なんていらないじゃん、
オイラ達に勝てるやつなてそうはいないと思うけど・・・」
矢口がそう言うと斉藤は笑いながら言った。
「確かに、今の連中をぶっ飛ばすくらいは、私とあゆみでも出来るし
もっと大人数で来られても、今いる4人に勝てる連中なんてそうはいない。
でもね、解るでしょ、矢口も圭ちゃんも女の子なんだよ
もっとさ、普段から普通にしようよ。普通の女の子みたくさ・・・」
「・・・・解ってるよ・・でもボスにはオイラ達の気持ちなんて・・・」
そう言いかけた矢口はハッとする。
「ごめん・・・・オイラ達を心配してくれてるんだよね・・・」
「確かに私達は生身の人間だから矢口達の気持ちは解らない・・・
でもね、だからこそみんなには普通の女の子でいて貰いたいの。
それにみんなはあまりそう言う事考えていないみたいだけど、
人間を改造する技術があるならそれを元に戻す技術だって
あるかもしれないじゃん」
斉藤がそう言うと矢口は小さく頷いた。
「うん・・・・」
「諦めちゃ駄目だよ。実はね、これはみんなには言って欲しくないんだけど
余計な期待を持たせるだけだから・・・」
「何?」
「稲葉さんとお父さんにね、捜して貰ってるの。そう言った技術が
何処かに無いかって・・・。望みは薄いけど・・・・」
「ホント?・・・・・ありがとう・・・・」
矢口の目に涙が浮かぶ。
「普通の女の子でいたい」・・・これは中澤家の面々が誰しも心の隅に
持っている気持ちである。だが今の状況はそれを許してはくれない。
そんな矢口達の気持ちを仲間である斉藤は良く解っているつもりであった。
だが実際は自分は生身の人間である。
瀕死の重傷を負って、仕方のない決断の上に改造された矢口達の
本当の苦悩など解る筈もない。
ならばせめて自分ができる事をやろう。斉藤がそう思った時に
柴田が提案したのがペット探偵であった。
しかしそれを始めれば今回の様な事が起こる事は解っていた。
だからイマイチ決断できなかったのだが
中澤家の面々のすれ違い、飯田と安倍の喧嘩の話など
自分達ならそれ程気にしない事が中澤家では起こっている事を知って
ならば自分も仲間である以上、「リスクを負うべきではないのか?」
そう考えてペット探偵の開業を決意したのだ。
弁慶に用心棒を頼んだのも矢口達にここにいる時くらいは
普通にして欲しいと考えていたからなのである。