9 :
牛歩戦術 :
04/02/11 02:03 ID:/n2YdsnO Wonder neighbor 1. Let’s cook 「もう昼か・・・。」掃除機を押入れにしまい、椅子に座って時計に目をやった。 12時。今日は講義がないから、特にすることもない。暇だ。 “俺”はただの大学生。普通に大学行って、適当に遊んで、普通の生活を送っている。 ただ一点をのぞいては・・・。そのせいで俺はサークルにも入れないでいた。それは あまりにも突然訪れる。あの日あの時あの場所なんて限定は全くなく、24時間体勢で 俺を襲う。 ピンポーン♪ どうやら来たようだ。玄関へ向け足を進める。 ガチャッ。 ドアは向き質な音を立てて開いた。 「勝手に入るなー!!!」大声を上げたが、石川はびくりともせずに平然とした 表情をしている。あれ?と俺が悩んでいると石川は耳から耳栓を抜き、 「ジャジャーン。」 「ジャジャーンじゃないよ!」更に石川は合鍵までかざしてみせた。うそーん。 「ご飯。」 「はい。」 「愛がないよぉ〜!!!」渡されたカップ麺とタイマーを持ちながら石川は泣いた。 「人の家で好き放題のりかっちのほうが愛がないよ。」俺がそれだけ言うと、石川は 目をウルウルさせて俺をじっと見た。俺は慌てて焼きそばを上に乗っける。 「ひど〜い。もういらない。」石川はクルッと後ろを向くと、ゆ〜っくりと一歩だけ 足を前に出した。ただ見てるだけの俺。石川は振り返り、言った。 「本当に行くよ?」
10分後 現在の進行状況、(3歩−2歩)×2 「・・・・分かった。作るから。」その一言を聞いた瞬間石川の表情は満面の笑みへと移り変わった。 凄い勢いでソファに座り、勝手にテレビの電源をつける。 「みのさんって、結局怒って適当にまとめて終わりで相談になってないよねぇ。間違いない!!」 なんなんだその変わり身の早さ・・・。俺は仕方なく台所へ向かって料理を作り始めた。今日は何にしようかな〜? 暫くして出来上がると、 ガチャッ。 「また勝手に入ってきた奴がいるー!!」俺は心の中で絶叫した。辻だった。 「美味しそうな匂いれす〜。」なんでここ3階なのに・・・辻は1階に住んでるのに・・。そういえば鍵掛けてなかったか。 「あ、ののあがって。狭苦しいところだけど。」石川が言うと辻もソファに座りテレビを見始める。もういいよ・・・。 最近人生諦めも肝心だと悟った。実を言うとしっかり3人分作っておいたのだ。
11 :
名づけ下手 :04/02/11 02:06 ID:/n2YdsnO
「今日は海砂利水魚か〜。」おなじみのネタにももう飽きた。クリームシチューを見ると、 石川は必ずこうコメントするのだ。カレーはミスターポポ、うどんは中村獅童、パスタは タンポポ。暫く談笑しながらクリームシチューを少しずつ平らげてゆく。残り3分の1 ぐらいのところで俺は口を開いた。 「で、今日は食べに来ただけ?」 「ううん。8:2でご飯だけど・・・。」石川は残りを全て口に運び、落ち着いたところで 改めて話した。 「お仕事。」 「今回は誰?」 「ごっちん。」 「ごっちんか・・・・。用件は?」 「横にいるよ。」 「へ?」
12 :
75点 :04/02/11 02:07 ID:/n2YdsnO
俺は言われるがままに横を向いた。横を向くと後藤が俺のクリームシチューの残りを全部食べていた。 「うぃ。」 「え!?」また勝手に入られた。大丈夫か?俺の家。 「このクリームシチュー、まあまあじゃん?」後藤はあっという間に俺のクリームシチューを、俺の、俺の!!!(以下略) 「じゃあ部屋来て。」なんだか一方的にペースに流されている気がする。俺は満たされないお腹をさすりつつ、 同じ階の後藤の部屋へと向かった。 部屋に入ると、俺は聞いた。 「んで、どうしたのごっちん。」後藤はエプロンを着ながら答えた。 「あのね、ちょっと食べて欲しいものがあるんだけど。」え?もしかして?? 「今度彼氏の誕生日で、料理作る事になったんだけど。」あ、やっぱそんなもんか人生。 「正直な感想を教えてね。」 「はい。」これが俺の”仕事”だった。俺がこの仕事を始める事になったのは、ほんの偶然からだった。
「値段だけあって広いなここ。」俺は大学入学と同時に高校時代からバイトでこつこつためた金と親の仕送りで一人暮らしを始めた。 その時点でかなりの金が貯まっていた俺は、部屋ぐらいいいところに住もうと少し奮発した。そして引っ越ししてきた翌日、挨拶に お隣さんのチャイムを鳴らした。 ピンポーン♪ 「はーい。」ん?嫌に声高いな・・・。アニメっぽいっていうか・・・。 ガチャッ 「え?」俺は一瞬硬直して、動けなくなった。向こうはそんな俺を見て微笑んでいる。石川梨華だ!!! 「あ、あの・・・引越しして来たので今後ともどうぞよろしくお願いします。」緊張する俺に石川は微笑みながら答えた。 「はい。」 「で、これ。パンを作ったんでよかったらどうぞ。」高校時代付き合っていた彼女に料理を叩き込まれていたため、俺は結構料理には 自信があった。石川はパンを見ると一口、目の前で食べてくれた。 「ほふぃふぃ〜!!!」食べ終わる前に少し驚いたような表情で石川は言った。 「すごいですね〜、今度教えてくれませんか?」ありがとう、元カノ!!お前の事は覚えている限りは忘れない!!
それから俺は夢のような日々を送った。毎日向こうの仕事が終わった後、料理の指導をする事になったのだ。 そして親しくなってくると、石川は言った。 「引越しの挨拶って、ほかにどこ行ったの?」 「隣の二部屋だけだけど?」 「あ〜、じゃあ知らないかぁ。」 「?」 「あのね、ここのマンション、「娘。」と卒業生、合わせて11人住んでるの。」 「11人?!」これには流石に驚いた。石川だけでなくあと10人も!? 「お仕事行くときの待ち合わせに便利だからぁ、同じにしたの!相部屋もいるけどネ。」ニコニコしながら言う石川。 俺の口元も当然緩みっぱなしだった。 料理を一通り教えた頃、石川は俺に言った。 「いいバイトないかって言ってたよねぇ?」 「うん。あったの?」 「うん。明日連れてってあげる。」
「え?ここって。」彼女たちの事務所。え?ここでお茶くみでもするの?俺はそのまま事務所の奥へと進められた。するとそこには・・・つんくさん?! 「おお、石川、こいつか?バイト探しとるっちゅうやつは。」 「はい、適任だと思います。」あの〜、話が進んでますけど。 「せや、座れや。」俺は言われるがままに座る。 「お前さんに頼みたい仕事は、まあ、なんちゅうのかな、「子供悩み相談電話」、しっとる?」 「はい。」 「あれの「娘。」版をやってもらいたいんや。名づけて『娘。悩み相談』」 「はい?」唐突な話に、俺は少しついていけないでいた。 「やっぱ、芸能界っちゅう場所におると、嫌でもストレスは溜まる溜まる。悩みの種だっていくらでもあるんですわ。 そこでいくら話しても芸能界に全く影響のでえへん素人に悩みを聞いたもらえたらええんちゃうか?思うて探しとったんやけど、 石川がお前ならええんちゃうか言うてな。」一気に説明される。 「はぁ。」 「バイトやけど、自給とかにすると収入が安定せえへんやろ、せやから月給の代わりに、こんなもんでどないやろか?」 目の前に提示された金額は自分の想像を遥かに超える額。モー娘。の悩みを聞いて、お金を貰う?しかもこんなに!美味しすぎる!! 「マンションの範囲だけでかまへんから。」 「やります!!」 「よっしゃ、この契約書にサイン。」俺はテンションが上がりまくっていたため全く契約書を読まずにサインした。そしてサインしたあとに気がつく。 「24時間体勢で悩み相談電話で受付。たとえ夜中であろうがたたき起こされて話を聞く、拒否権はない」・・・・・割が合わないかも・・・。
16 :
パンチ佐藤 :04/02/11 02:13 ID:/n2YdsnO
まず最初に出てきた料理はミネストローネ。ああ、今日の仕事は楽そうだな〜。ただ後藤が目を細めている気になる。 あの〜、本音聞きたいんじゃ?まあまずい事もないだろう。俺はスプーンでスープを拾い上げ、一気に口に入れた。 「!!!」こ、これは・・・。 ガタッ。 俺は立ち上がり、トイレに向かって体を動かした。後藤がそれに素早く反応して壁となる。 「ちょっとトイレ。」 「感想。」左・左、右・右、下・下、上(?)・上。隙間を通ろうとするもことごとく阻まれてしまった。 やばい・・・・キテル・・・。俺は声を絞り出した。 「さ・・・・・砂糖?」 「あ。」俺はふらっとした後藤の横を急いで駆け抜けた。なんてベタなんだ・・・。塩じゃないだけに始末が悪い・・・。 トイレから戻ってくると、後藤は再びミネストローネを作り始めていた。しばらく爽快な気分で料理の完成を待つ。
17 :
隠し味 :04/02/11 02:14 ID:/n2YdsnO
「はい。」リベンジマッチ。さて、今度はどうか・・・。俺は慎重に一口、二口と口に入れた。 「?」なんか変だぞ?おかしいので一気に飲み干す。 「!!!!!」ま・・・・マサカ・・・・。 「これ・・・・どこの水使った・・・?」後藤はボウルを俺の目の前に置いた。 「これだけど・・・・。え?!あ!!ぞうきんしぼ」全部聞き終わる前に俺はトイレにダイビングヘッド。 次に出てきたのは後藤お得意の創作料理。今回はトーストに納豆を乗せたものだった。後藤は電子レンジに入れ、時間をセットすると、 イスに座った。うとうとしている。また嫌な予感がしてきた・・・。 「・・・時間間違ってない?」いつまでたってもできないので俺は後藤に聞いた。 「へ?」後藤は慌てて目を開けた。俺は後藤が立ち上がる前に電子レンジの元に向かった。 「あ、黒。」俺は急いで電子レンジを切り、トーストを取り出した。後藤が食い入るように見ている。・・・食べたほうが良さそうだ。 契約書の文字が頭をよぎる。『拒否権はない』 パクッ。 あ、なんだろこの感じ。あ、そういや俺猫舌・・・。納豆が下の上でどろどろ溶けてく。でもって苦い・・・。なんで? バタッ!!! 「大丈夫?!」俺はかろうじて納豆を全て飲み込み、完全に火傷した舌を頑張ってまわした。 「・・・・・寝たら?」 「え。」
18 :
試食タイム :04/02/11 02:16 ID:/n2YdsnO
「さっきからフラフラしてるし、瞼重そうだし・・・。寝不足で力ちゃんと出せてないでしょ。」 「・・・すごいね。分かっちゃうなんて流石だよ。じゃあお言葉に甘えて、寝る。」後藤はそれだけ言うと、ソファの上で目を閉じた。 どうやらさっき電子レンジをセットしてから、自分がうとうとしていることにさえ気がつかないほど眠かったようだ。よほど疲れてるんだな。 俺は自分の着ていたコートを脱ぎ、後藤の上にそっとかけた。 すっかり目が覚めた後藤の作った料理は抜群で、俺は思わずうなってしまった。すると匂いにつられて石川と辻が再び現れた。 「美味しそうぉ〜。さすがごっちん。」石川が鍵をくるくる回しながら部屋の奥へと入ってくる。 「鍵、何本持ってるの?」 「料理上手い人の家だけ。」だけ、って・・・。4人で食卓を囲み、軽い試食会を行った。 「おいしいれす〜。これならいくられもいけます〜。」ミネストローネがどんどん辻の胃の中に納まってゆく。あれ? 昔体重関係の悩み俺に相談してこなかった?俺の視線なんてお構いなしにトーストも一気にがっついてゆく辻。 もしかしたら俺が成長期で一番食べた時期よりも食べているかもしれない。
19 :
姐御 :04/02/11 02:17 ID:/n2YdsnO
「今日はありがとう。」後藤は軽くおじぎをした。 「いやいや。」石川がニコニコしながらお辞儀し返す。食べるだけ食べて・・・。 「じゃあまたいつか。」俺は3つ先の部屋へと戻り、中に入った。鍵をちゃんとかけ、チェーンをつけた。そして台所へ行き、片付けていなかった さっきのクリームシチューを片付けようとした。 「あれ?」皿は全部しっかり洗われて、きっちりしまわれている。 コンコンッ。 「・・・・・・?!」ベランダで石川が手を振ってこっちを見ている。それを見た瞬間俺は体を180度回転、玄関へと視線を移した。既にドアが開けられている。 「う゛〜、通れないれす〜。」しかも辻が必死に入ろうとしている・・・。俺は玄関に行った。辻が嬉しそうな顔をする。 バタンッ!! ガチャッ 「!?」 ドンドンドン!!! ドアを叩く音なんてお構いなしに今度はカーテンを閉めた。更に窓を叩く音。俺は耳栓をしてソファの上に寝転がった。 ブーン。 携帯が震える。耳栓を外し、電話に出た。 「うっさいわぼけー!!!!」いきなりの大声に、俺はソファから思いっきり跳ね上がってしまった。 「ね、姐さん!!!!」電話の主は中澤だった。 「何やっとんねんワレ。ベランダに石川出して、放置プレーか?」おれは慌ててカーテンを開き、窓を開けベランダに出た。石川が明らかに機嫌の悪そうな顔をしている。 俺は上を向くと姐さんがこっちを睨み付けてきた。 「次また石川をいじめたら、クビやぞ。」ドスの効いた声に俺はただ、 「はい・・・。としか言えなかった。何これ、集団いじめ? 石川と辻を部屋に入れ、俺は言った。 「で、何?」二人は同時に答えた。 『おなか空いた』 続く?
20 :
えっと :04/02/11 02:19 ID:/n2YdsnO
駄文スマソ。 もし呼んだ人がいたら一言、「つまんなくてすんません。」 ないと思うけど少しでもいい反応があったら続く。
おー俺の立てた糞スレ有効利用してもらえてうれしいです 狼の習性で長文は苦手なんで流し読み+人をほめるのができないんで 悪いんだが ところどころ誰が話してるのかわかりにくい気がする でも続き読みたいんでどんどん書いて下さい
22 :
えっと :04/02/11 15:51 ID:/n2YdsnO
誰からも反応なくて終わりかと思いました(汗) 読みたいといってくれる人がいて本当に嬉しい限りです。 頑張って書いていきます。今夜には頑張ってうpします
sageで羊でこのスレタイだとあんま人来ないよw 気長に待ちな
24 :
えっと :04/02/11 20:34 ID:/n2YdsnO
一人でもいてくれたら充分ですw
このスレに先に目をつける人間がいるなんて…。 俺もノッとて小説書こうと思ってた。そういうわけで応援する
小説総合スレッドで更新情報を掲載させて頂きたいのですが、 できましたら、正式なタイトルなどありましたら、教えていただけませんか?
27 :
えっと :04/02/11 23:31 ID:/n2YdsnO
>>26 マジですか。
一応「Wonder neighbor」って名前です。
28 :
えっと :04/02/11 23:33 ID:/n2YdsnO
>>25 どうもです。いつ終わるか分からないけど俺が終わったら
自由に使ってください。
29 :
えっと :04/02/11 23:35 ID:/n2YdsnO
2 別れさせ屋 今日の講義は午後からだったので、俺は12時頃に目を覚ました。着替え、簡単なブランチを済ませるとテレビをつける。 ちょうどサングラスをかけたおじさんがボケをかましていた。周りが適当に笑ったところでゲストの紹介。 「あ。そういや今日か。」石川と飯田が(飯田は面識ないが)ゲストとして出演していた。いつも通りボーっとその画面を見る。 やっぱ可愛い・・・。普段喋ったりしてると大して感じないが、やっぱり彼女はアイドルなのだ。そんな石川を見ていて、 俺はふと思いついた。 「ワンギったれ。」携帯持ってたら面白いけど・・・。まさかね。仕事中だし。 石川はちょうど文字をボードに書き込んでいた。しかし突然手の動きが止まり、ペンを置くと手を下へ下げた。 持ってるよ・・・。面白くなったので日ごろの仕返しと言わんばかりに何回かした。 「あ、そろそろ行かなきゃ。」石川の出演が終わった頃、俺は家を出た。
階段教室で講義中・・・。 ブーン。 ブーン。 ブーン。 やるんじゃなかった・・・。向こうはこっちに仕事の電話をしやすいように、俺の大学のスケジュールを大体把握していた。 それを利用して授業中に延々とワン切りしてきている。しかも複数人で。 「今度はこいつか・・・。」と言った感じでいろんな人からワン切りを受ける。そろそろ誤りの電話でもするべきだろうか? いや、そんなことをしてるようでは・・・。馬鹿みたいな葛藤が続く。 「あ、着暦全部埋まった。」そりゃそうだろう。こんだけの人数でやってくるのだから。向こうは別に復讐とかじゃなくて、 遊びでやっているのはわかるが、ちょっとタチが悪いぞこれ。 ブーーーーン。 今までかけてこなかった人から電話が来た。また一人増えたのか・・・。 ブーーーーン。 しかしそれはどうやらワン切りではなさそうだ。俺は幸い一番後ろの席だったので、椅子の下に隠れて電話に出た。
「仕事の話、だよね?」俺の問いに、矢口は答えた。 「うん。今から部屋行っていい?」 「行ってもいいけど、今大学で講義受けてるから、ちょっと待ってくれない?」 「やだ。今すぐ帰ってきて。」やだって・・・。あ、そういえば俺拒否権ないんだっけ。 「・・・分かった。」とりあえず相談の電話を入れてくる子は全員俺のスケジュールを把握している。しかしこのように拒否権がないのをいいことに、 自分の好きなタイミングで呼び出す子も少なくない。特に同い年の矢口は気を使ったりはまずしなかった。 「帰る。」横にいた友達にそう言うと、友達は言った。 「お前単位やばくない?」俺ははっとしたが、 「なんとかなるさ。」おそらくこのときの俺の表情は諦めに近いものだったに違いない。 こんな事考えてもしょうがないがこのバイト、果たして割に合っているのかどうか、たまに考える事がある。何お前贅沢なこと言っているんだという人は 山ほどいるだろう。でも実際にこの仕事をやったら、きっと悲鳴を上げるに違いない。バイトなのに、自分の生活を捧げなくてはならないのだ。 例え遊んでいるときでも、電話一本で梗塞されてしまう。そのため大学は入って2年間、告白されても全部断ざるをえなかった。(といってもほんの数回だけれど) 俺は講師に一言断ると、そのまま教室をあとにした。
ガチャッ。 「おかえり〜。」 「ただいま〜って、え゛―?!」反射的にただいまと言ったが、なんで矢口、中にいるの? 「石川に借りた。」 「あ、そう・・・。」平然と言う矢口。俺はただ呆れるしかなかった。 「今日の仕事の内容は?」 「キャハハハ。」矢口はテレビを見て笑っている。あの〜、ちょっと? 「おーい。」 「え?ああ今日はね、ちょっと厳しいかも知んないけど、おいらちょっと、別れたくてさ。」 「は?別れたい?」 「そ。だから新しい彼のフリして。」新手だ。今までそんな相談なかったぞ。(あってたまるか)大体、子供相談室の変形なのに・・・。でも、 「ということは、いつもより?」俺が言うと、矢口は答えた。 「うん、ボーナスは入るよ。」や・る・し・か・な・い!(拒否権ないけど) 「じゃあ、明日午前11時に部屋来るから。」打ち合わせを終えた後、矢口はそう言って帰っていった。とりあえず、打ち合わせ通りの服を買いに行かねば・・・。
「これいいよぉ〜。あ、これも!」こいつに頼んだのは間違いだったのだろうか・・・。石川はたくさんの服を目の前に興奮気味に俺に渡してきた。 「そんなに騒いだらバレねぇ?」 「大丈夫大丈夫〜。」深々と帽子を被った10代の女の子がハイテンションで騒いでる。それだけで充分注目を浴びてしまうのに石川はまるで気にしていないようだ。 まあ石川がこんなテンションでこの場所にいるなんて、誰も夢にも思わないだろう。 「付き合ってるわけでもないのにそう言う風に書かれたら迷惑じゃん?」俺が気を使っても、石川は全然気にしていないようだった。 「だから大丈夫だよ〜。」服を渡されたところで俺は思い出したように言った。 「そういえばさ、報復(ワン切り返し)されたけど仕事中に携帯持ってるりかっちも非がない?」石川は服を増やして俺に渡した。 「控室に置いて行くの忘れたの。でも何回も、何回も、してこなくたっていいじゃない?」 あ、やばい、ちょっと怒ってる。つみあがってゆく服を見て俺は思った。 「じゃあこれ着てみて。」石川にたくさんの服を渡され、試着室に入る。にしても矢口はなんでこんな格好をさせようって言うんだろう。着替え終わり、 鏡に写る男を見ていると、石川が突然言った。 「3秒前〜」え?何カウントダウンしてんですかこの人。 「2・1・ほいっ!!」カーテンが開き、俺の視界は一気に開けた。なんか若干名こっちを見ている。その表情を見て俺は思った。 「マジでこれやるの?」
翌日、矢口と一緒に矢口の彼氏に指定した喫茶店へと向かった。矢口が俺を見て最初の感想は、 「キャハハハ!いいいい!!いける!!」確かにいけるだろう。でもなんかやなだ〜この格好。とりあえず俺は袋に服を入れた。 「じゃあ一言目は打ち合わせ通りね。」喫茶店への道のりで矢口は言った。本当に言うの?でも拒否権のない俺は従う他なかった。 「なんか目茶目茶バカみたいなんだけど。」 「えー、そんなことないよ。」矢口はテンションが下がる一方の俺を見てまた少し笑う。これを見ていい!いい!言う石川の気が知れてる。てかなんでこんなもん 売ってるんだよ・・・。 喫茶店の目の前まで着くと、矢口の彼氏はもう既に到着していた。ガラス越しに顔が見える。 「そういえばあいつだっけ。」俺は思い出すようにつぶやいた。この仕事の特権とでも言おうか、マンションにいるメンバーが誰と付き合っているかどうか、 全員教えてもらう権利を持っている。もちろんフリーの子もいるわけで、石川も今はそのうちの一人だった。 「行こう。」矢口の一言とともに俺達は喫茶店の中へ入った。物凄く恥ずかしい気持ちを抑えて。
35 :
生き恥 :04/02/11 23:46 ID:/n2YdsnO
店内に入ると、俺はすぐにトイレで着替えた。そして矢口と合流すると、やはり笑われた。そして周りが物凄い目でこっちを見てくる。 俺達は他の客と目を合わせないようにして、矢口の彼の席に座った。 「誰?」矢口彼は俺を見て物凄い不振な眼で見ている。無理もない。俺だって彼の立場なら、凄い目で見るだろう。 「あんたと別れたいの。このディアスと付き合うから。」俺を見て言う矢口。 「ボンジョルノォォォ♪」手に持つアコーディオンの間抜けな音色とともに俺は挨拶をした。 「バカ?」 ザクッ。 早速俺の胸をえぐるような一言。カウボーイハット、腕によく分からないひらひらをつけてジーンズは穴だらけ、サンダル。手にはアコーディオン。 顔はガングロにメイク。そして挨拶に「ボンジョルノォォォ♪」バカ以外にどう表現しろというのか。いくらなんでも石川やりすぎ・・・。 「真里トォォ、別レテェ、コレマスンカァ?」打ち合わせ通り片言の日本語で話す。その度にアコーディオンを鳴らすのも忘れずに。ああ、死にたい・・・。 矢口彼はそんな俺を見て、口を開いた。
36 :
合体悪口 :04/02/11 23:47 ID:/n2YdsnO
「お前誰だよキモカス。」キ・・・キモカス・・・。なんか物凄い言われをして俺はひどくショックを受けた。 「そうよあんたはキモカスに負けたのよ!」キモカス・・・。 「なんで俺がこんなキモカスに!!」 「うるさいわねぇキモカスのほうがあんたより」 「キモカスキモカスうるせぇぇ!!!」俺は思わず叫んだ。しかし、 『黙れキモカス。』矢口と彼は同時に叫んだ。 「・・・はい。」泣きそうになりながら下を向いて黙る。俺が黙ると二人はますます拍車がかかったようにもめ出した。凄い勢いで口論が展開してゆく。 あまりにも熱中しすぎて、俺が変装を解いたのにも気がついていないようだった。しばらくして俺は気がついた。そういえば俺の仕事は、二人を別れさせる事だっけ・・・。 俺は口を開いた。 「あの〜・・・。」俺に対する矢口彼の一言は、 「なんだよカス。」『キモ』が消え、『カス』の言葉の重みが増す。キモカスよりダメージが大きかった。なんとか口を開けて続けた。 「けんかするほど仲がいいという言葉もありますし、やり直してみては?」 『誰がこんな奴と!!!!』二人同時に俺を鬼気迫る表情で叫んだ。 「じゃあ、別れるで、決まりですね。」
「すごい切り替えしだったね。びっくりしたよ。」 「まあね。大分心と身体が傷ついたけど。」俺はびしょぬれになったコートを見る。あーあ、全部終わってから着替えるべきだった。にしても途中で 着替えたのに二人とも気がつかないほどに口論しているのにはびびった。てか結局あの変装全然必要なかったような。 「別れ際に水かけて一発って、女がやるもんだと思ってた。」俺が言うと、矢口はまた笑った。そして矢口はハンカチを取り出すと、俺の服を拭いた。 「ありがと。」俺は少し口元を緩ませた。意外に優しかったりするんだよな。同い年とは思えないくらいしっかりしてるし。 「じゃあお昼ご飯、おいらがおごっちゃる!」 「マジで?久々じゃん。」自然な笑顔で矢口は答えた。 「同い年のよしみだよ。」俺達はそのまま焼肉屋へと向かった。 「あ。」突然矢口は気がついたように足を止めて言った。 「皆も呼ぼうか?」 「そうだね。」何人呼ぶ気だ?
「あの〜。」 「時間がないからとにかく食べて!!!」矢口は話す暇を与えてくれない。苦しいんですが?それでも目の前の皿は全然減らない。 「あと10分、頑張れ〜。」後藤は無表情で自分はゆっくり食べながら言った。なんで? 「おごりって言ってたじゃん!!!」俺の一言にも、矢口は耳を貸す気はないようだ。 『30分以内に5人前1人で食べきったらタダ(失敗の際は料金きっちり頂きます)』まさかこれに挑戦する破目になるとは・・・。 「まあ食べきったらおごりだよ。」矢口の一言はつまり、食べ切れなかったら自腹を意味する。5人前。 「あと8分〜。」石川がニコニコしながら言う。 「やっば!!」慌てて口に詰め込む。しかし肉はそう簡単には減ってくれない。苦しんでいると徐々に時間が迫ってきた。 「ご馳走様〜。」横で同じチャレンジに挑戦していた辻が余裕たっぷりの表情で完食。 「うそぉぉ?!」 「驚いてる時間はないよ、あと3分。」後藤は矢口のビールをひゅっと拾い上げ飲んだ。俺も飲みたいけどそんな時間もない。 とりあえず焼肉以外のものを口に入れる暇も余裕もなかった。
「はぁ・・・・はぁ・・・。」なんとかギリギリ食べ終わった俺は、そのままぐったりと壁に寄りかかった。矢口は俺を見て、言った。 「もっかい行く?」 「え?!」 「冗談冗談、キャハハ!!」酔ってますます矢口は饒舌になっていた。俺はそれについてコメントする余裕もなくボーっと天井を見た。 焼肉から立ち込める煙が穴に吸いこまれてゆく。なんだか自分と少し似ている気がした。 横を見ると辻が本当にまたチャレンジを開始していた。さっき全く変わらぬ速さで食べて行く。皆びっくりして辻を見た。 辻は食べる事の喜びをかみしめるように食べてゆく。 「ごちそうさま〜!」笑顔で余裕の完食。 「恐ろしや・・・。」こいつの胃はまぎれもなく宇宙のようだ。 続く
40 :
えっと :04/02/12 00:01 ID:JTx+udE/
2話終わりです。 3話考えなきゃ。明日学校で考えるか。 部活やってるんでなかなか書けないかもしれませんがなるべく 頑張って更新していきたいと思います。(火曜は学校が休みでした)
狼からまたきましたよー更新乙 なんか萌えますな 気になったんだが改行ちょっと変じゃない? うまく改行すればすごく読みやすくなると思うよ 狩狩の職人とか参考にするといいよ 一読者の意見でした。楽しみにしてるんで頑張ってください
話のテンポがいいからおもしろかった 当分落ちないからがんがれー
43 :
えっと :04/02/12 19:22 ID:JTx+udE/
>>41 改行難しいんですよね、どのくらいですればいいのか分からなくて。
次は統一してみます。ある理由があってなるべく今日中に3話仕上げ
たいんでがんがります。
連投ごめん
>>43 自分なりのルール決めてみれば?
おせっかいだったらスマソ
46 :
えっと :04/02/12 21:30 ID:JTx+udE/
>>45 ルールですか。なんだか他の作者さんの作品を見てみると、
1文で改行している人が多いからそれがいいのかな?と
思ってはいるのですが、短い文も多いんでなかなか・・・。
とりあえず頑張ります。
47 :
えっと :04/02/12 23:11 ID:JTx+udE/
今回ちょっとチャレンジをしてみました。 主人公と石川、視点が何度か入れ替わりますので、 ☆=主人公 ★=石川 名前の欄につけますので、よろしくお願いします。
3. fever 「頭痛・・・・・。」 朝起きると、身体がだるい事に気がついた。額に手を当ててみる。 ・・・熱いかもしれない。何とか起き上がると、体温計を探した。 「あれ?ここに入れてたはずなんだけどな〜・・・。」 棚を開けて探してみるもなかなか見つからない。 「捜し物は何ですか〜♪」 聞きなれた声が聞こえてきた。 「体温計。」 「見つけにくいものですか〜♪」 その声は尚も歌い続ける。 「だから体温計だって。」 振り返ると、やはり石川が歌っていた。もう勝手に家に上がられることは諦めた。 でも今日はあまり来て欲しくなかった・・・。 「たんすの中も 棚の中も 探したけれど見つからないのよ♪」 石川はその手に体温計をかざして見せた。 「何で持ってんの?!」 声を張り上げてツッコミを入れると、頭に激痛が走った。 「頭痛―・・・。」
「38度7分。」 結構な高熱だった。これではバイトは出来そうにない。 俺はとりあえず言った。 「ちょっと2日はバイト、相談だけにして欲しいんだけど・・・。動き回るのは勘弁。」 そもそも電話相談なんだし当たり前と言ったら当たり前だが、最近は色々な場所に動き回るのが中心だったから 一応釘を刺しておきたかった。石川は言った。 「じゃああたしが全部相談受けておくよ!」 「やめとけ。」 薄れ行く意識の中、俺は必死に説得をした。30分話すと、石川はどうやら分かってくれたらしく、 「はーい。」 とだけ言った。 「じゃあ看病してあげる!!」 石川が言った瞬間、全身が激しい悪寒に襲われたのは、おそらく気のせいではない。 「や・・・。」 俺はそのまま倒れた。 「ほらぁ、介抱してあげるから。」 石川は俺を死体のようにベッドまで引きずり、布団をかぶせた。 「ありがと・・・・。」 「じゃあちょっと、料理作ってくる。」 その分には問題ない。俺が教えたんだからある程度は大丈夫なはず。
50 :
☆気合☆ :04/02/12 23:20 ID:JTx+udE/
台所まで来ると、石川は自分の身体の異変に気がついた。 「あれ・・・?」 石川は額に手を当ててみた。どうやら熱があるみたいだ。 でも看病するって言ったからにはやらなくてはならない。 「よしっ・・・。」 石川は気合を入れ直して料理を作ることにした。何を作ろうかな・・・。 そうだ!卵酒なんか熱のときはいいよね。えっと、お酒と、卵と、砂糖と・・・。 あった。 「はくしゅん!!」 あぁ〜、辛いな〜・・・。 ここで1回話を戻す。それは前々日のこと・・・。
51 :
えっと :04/02/12 23:22 ID:JTx+udE/
なんか自分で見てて色の差が分からない(汗)
>>50 は★です。変えた方がいいな・・・。
☆=主人公
※=石川
にします。すみませぬ。
「はっくしゅん!!」 阿倍の大きなくしゃみに俺は言った。 「なっち大丈夫?」 この日の俺の仕事は買い物の荷物運びだった。しかも安倍が、 「明日買い物に行くんだけれど、荷物持ちいるから誰か行く人〜。」 と挙手したため人数が増えた。相変わらず拒否権のなさに泣きたくなる。 その分確かに貰ってはいるけれど、使う時間もあまり与えられていないだけに、むなしかった。 「うん、大丈夫だべ。風邪流行ってるから気をつけないとね。」 笑顔で返してくれる安倍。更に横にいる高橋が言った。 「そう言ってる安倍さんが一番危ないんですよ?」 独特の喋りで軽くジャブ。 「もう、そんなこと言って。」 先日卒業したばかりでも、全然付き合いが変わらないのはいい事だと思う。 まあ同じマンションに住んでいるのだからある意味当たり前なのだけれど。 「これ持って〜。」 吉澤から2袋追加。とうとう持ちきれず肩にもかけた。 「おぉ、かっけー。」 何が?止めを刺すように石川も2袋。 軽く寒い風が肌に当たる。今日は大分寒い。風を受けて、 安倍がまたくしゃみをした。 「はくしゅん!!」 「本当に大丈夫ですか〜?」 吉澤が安倍の顔を覗き込む。 「うん大丈・・はくしゅん!!」 「うわ!!」 吉澤は慌ててハンカチを取り出し顔を拭いた。 二人はそのときの寒さと安倍のくしゃみから感染したことに、 全く気がついていない。当の安倍は既に元気に復活しているわけだが。
「あ〜・・・砂糖入れすぎた・・・。」 石川は考えた。・・・よし。 「卵酒作ったよ〜。」 石川の声が聞こえて俺は目を開けた。石川は机の横の椅子に座って 俺を優しい笑顔で見ていた。 「ほら。」 「え・・・・。りかっち?卵酒って普通、コップに入れて飲むよね?」 俺は卵酒が収納されている容器に目をやった。 「で、でも、たくさん飲んだ方が、効くかな〜って・・・・。ごめんなさい。」 珍しく謝られて俺は少し困ってしまった。 「卵何個使った?」 「4個。」 「4個?!」 俺の声にビクッと身体を震わす石川。 「ごめん、大声出して。じゃあ、飲むよ。」 俺はなんとか立ち上がり、スープを入れるボウル(巨大)に入った卵酒を、 スプーンを使って、ゆっくりと飲みだした。 「うん、美味しい。」 石川はそう言われると笑顔で頷いた。 「(佐藤の帳尻あわせで卵4個も入れたけど、美味しいならまあいいか。)」 石川はそんなことを考えていた。 「(これ甘いな〜。りかっちってこんなに甘党だったっけ?)」 俺はそんなこと口に出せずに飲み続けた。全部飲み干すと、 「ありがとう。じゃあまた寝るわ。」 と言って俺は布団に入り、目をつぶった。 「あ、耳栓いる?」 石川に言われ、目を開ける。 「ありがと。」 俺は耳栓を入れると、また目をつぶり、そのまま眠りに落ちた。
「(熱冷まシートとかないかな?)」 石川はふらふらと部屋を出て冷蔵庫を探し始めた。しかし見つかる気配はない。 「・・・これでいっか。」 湿布しかなかったけど、無いよりマシだろう。 石川は部屋に戻り、彼の額に湿布を貼り付けた。説明が気を全く読まずに。 「・・・あたしも貼ろうっと。」 ペタッ。 「気持ちいい〜・・・。」 とりあえず一休み。普段向こうには仕事じゃないところでもお世話になってるんだから、 たまには恩返ししないと。石川は次に自分が何をすべきか考えた。・・・・・・よし。 「掃除しよう!!」 確か押入れに入ってたはず・・・。石川は押入れを開いた。 「うっ・・・。」 奥のほうに入っていて、なかなか取り出せない。石川は渾身の力を振り絞った。 ガン!!!! ガシャン!! 掃除機を取り出せたはいいが、飛び出した掃除機を抑えきれず、反対側の壁に激突。 壁にかけられていた皿は音を立てて崩れた。 「あぁ・・・・。」 石川は血の気がひいた気がした。不幸中の幸いと言えば、彼は耳栓をしているので音が聞こえていないことか。 とりあえずどうにかしなくちゃ・・・。 ウィーン・・・。ガリガリッ。 若干嫌な音もしたが、これくらいしか処理方法が思いつかなかった。そのうち同じ皿買ってくれば一応問題はないだろう。 慎重に掃除を終えて時間を見てみると、もうお昼を回っていた。熱があるときは食欲もわかないけれど、何か食べさせないと。 えっと、病気のときの食べ物と言えば・・・。なんて名前だっけ?えっと『ぞう・・・』あ、あれだ!! 石川は彼に貰ったレシピを調べた。 ・・・あった♪
スポッ。 「お昼ご飯出来たよ〜。」 耳栓を抜かれた弾みで目が覚めた。しかしまだ頭が痛い。あれ、おでこに冷えピタが・・・。 ありがたいな、買ってきてくれたのか。 「お昼ご飯?」 「うん。」 石川に連れられ、なんとか食卓へとたどり着く。 「何これ?」 目の前の料理に対して俺は質問を聞かずにいられなかった。 「お雑煮♪」 「・・・嫌がらせ?」 「えぇ?!なんでよぉ!!病気のときは食べなきゃ!!」 「いや、それ雑煮じゃなくて雑炊じゃ・・・。」 「あんま変わらないよ〜。」 「変わるよ!!まぁいいや、せっかくだしいただきます。」 卵酒の件もあるし、俺は石川を傷つける前に食べる事に決めた。少しずつ食べてゆくと、 石川と目が合った。 「食べる?」 俺が訪ねると、 「・・・うん。」 石川は静かに食べだした。あれ?石川のおでこにも冷えピタが?俺がじっと見ていると、 石川はこっちの視線に気がつき、食べるのを止めた。そして一言、 「じゃあ何かあったら言ってね。お薬置いておくから。」 と言って部屋から出て行った。 俺はお雑煮を食べれるだけ口にし、薬を飲むと、再び眠りについた。
しばらくして目が覚めると、身体が少し軽くなっているのに気がついた。薬が効いているのだろうか。 身体を伸ばし、一息つく。首を軽く回すと、とりあえず起き上がり、リビングへと移動した。リビングに来る途中、 俺は声を出した。 「りかっち、なんか大分よくなったみた・・・・い?」 リビングを見渡すと、石川がソファで少し苦しそうに寝ていた。俺は素早く直感し、冷えピタをはがし、 普段は押入れの奥にある氷枕を取り出した。氷を入れタオルを巻き、石川の頭をそっと持ち上げると、 その間に枕を入れた。そして毛布をかけてあげると、俺は静かに一言、つぶやいた。 「ありがとう・・・。」
57 :
※梨華姫※ :04/02/12 23:34 ID:JTx+udE/
「・・・・・?」 石川は、どうやら自分が寝てしまっていた事に気がついた。よく見ると毛布がかけられている。 あれ?あたしこんなの敷いた覚えないけど・・・。ボーっとしていると、台所から音が聞こえて来た。 そっちに視線を移すと、彼が何か料理を作っていた。視線を感じたのか、彼はこっちを見て、言った。 「あ、起きた?俺はもう熱下がったみたいだから、お雑炊、作ってやるよ。」 ニコッと笑う。石川も微笑み返した。また世話になっちゃったな〜。 「ほいっ、出来たぞ。」 食卓に並べられたそれは、当たり前だけど雑煮とは全然違うものだった。 「美味しい。さすがだね。」 石川がそう言うと、彼は静かに言った。 「どうも。」 雑炊を食べ終わると、彼は言った。 「りかっち自分の部屋で休んだ方がいいでしょ。」 「そうだね、でもちょっと動くの辛いや・・・。」 まだ身体だるいし、ここで寝ていたい。すると彼は予想外の行動に出た。 「じゃあ・・・・・こうするか。」 ひょいっ。 「キャッ!え?うそ?!」 「我慢我慢。」 でも、お姫様抱っこ?! 「大丈夫だよ、歩ける!」 なんだか恥ずかしくて、必要以上に拒んでしまっている。でも彼は言った。 「さっきは動くの辛いって言ってたじゃん。」 彼は軽い荷物を運ぶようにスタスタと玄関まで歩き、ドアを開けた。 「靴はあとでね。」 部屋の前に着いたところで、石川は彼に鍵を渡した。
ガチャッ。 「この部屋入ったの久々だな〜。」 いつも向こうが来てばっかりだし。俺は石川の部屋と思われる場所に入ると、 ベッドにそっと石川を降ろした。 「じゃあ氷枕と靴持ってくる。」 氷枕と靴を持って家に入り、部屋に入ったとき、石川は静かに寝息を立てて寝ていた。 可愛い寝顔だった。 「姫、氷枕でございます。」 俺はそう呟くと石川の頭と枕の間に氷枕を置いた。全ての作業を終えると、俺はベッドの横に座り、 ふーっと息をついた。今日は大変だったな。てか俺治ったのかな?どうも薬の効果で一時的に熱が下がっているだけのような・・・。 うっ。 「頭痛―。」 部屋帰って寝なおすか。俺が立ち上がったとき、石川は俺の手を掴んだ。 「もうちょっと、もうちょっとだけ・・・。ここにいて?」 まだ起きてたのか。石川にそう言われて断れるはずがなかった。俺は少しどきどきしながら言った。 「・・・・・うん。」
数日後・・・。 「なんか掃除機最近調子悪いなぁ。」 俺が呟くと、石川は突然焦った。 「え?!そ、そんなことないんじゃないの?!」 テンパってて面白かったので、さっきから言いたかった事を言う事にした。 「あの〜、りかっち?俺のおでこに貼ったの冷えピタクールじゃなかったの?」 包帯の巻かれたおでこを摩る俺を見て、石川もおでこを摩る。 「あれしかなかったの〜。」 「おでこがヒリヒリする・・・。なんか色おかしくなったし・・・。」 「あたしも・・・メイク重ねまくり・・・。」 ご使用になる前に必ずお読みください 貼付部を紫外線にあてると光線過敏症を起こす事があります。 (1)戸外に出るときは天候にかかわらず、濃い色の衣服、サポーター等を着用し、 貼付部を紫外線にあてないでください。 (2)はがした後、少なくとも4週間は同様に注意してください。 二人に幸あれ 続く
60 :
えっと :04/02/12 23:43 ID:JTx+udE/
3話終わりです。今回依頼がないからローテンポかもしれません。 4話はなんとか明日中にはうpしたいと思います。
イイヨイイヨー 意見取り入れてもらってサンクス 俺は非常に見やすくなりました これからは就職活動で忙しくなるんであまり感想書けませんが 頑張ってください
62 :
えっと :04/02/13 21:13 ID:UtUejVbG
>>61 見やすくなりましたか。よかったです。
今日も頑張って4話書きたいと思います。
63 :
タイミング :04/02/14 00:01 ID:LeDR8IFe
4. 泉家物語 講義が終わり、教室を出ると、俺は友達に話しかけられた。 「今日このあと合コンあるんだけど行かない?」 久々の誘いに俺は喜んで乗った。 「マジで?!いくいく!!」 ブーン。 「ごめん。用事入ったみたい・・・。」 俺はディスプレイに表示される名前を見ながら泣く泣く友達の誘いを断り、 電話に出た。 「紺野、久々だね。何、今日は?」 「出来れば直接会ってお話したいんですが・・・。」 紺野は、俺に敬語で話す数少ない子の一人だった。 「分かった。すぐ帰るよ。」 最近このパターン多いなぁ、遊ぶ暇が全然ない。家賃と遊ぶための金を手に入れるためのバイトなのに、 後者の使い方を全く出来ていない・・・。逆に言えば、それだけ貴重な体験をしている。今はそれをありがたく思おう。
「紺野―。」 俺の部屋の前にいた紺野に手を振って話しかけると、紺野は笑顔で言った。 「おはようございます。」 芸能人の性?それほど気にせず家の中へ招き入れる。紅茶を入れ、話を聞く。 「傷心デート?」 紅茶を一口すすると、俺は続けた。 「傷心旅行みたいなもんってこと?」 「はい。旅行してる時間ないので・・・。」 でもあれって一人でするから意味があるんじゃ?ていうか傷の痛みがぶり返さない? でもこんな楽でお得な仕事ないし、久しくデートなんかしてないし、楽しそうだし。 「OK、分かった。で、いつ?」 紺野は嬉しそうに答えた。 「今度の金曜日です。新しく出来たショッピングモールがあるんですけど、そこに行きたいなぁって。 ゲーセンとかもあるみたいですよ。そこに朝10時に集合したいんですけど。」 俺はとりあえずその場所を教えてもらった。 「分かった。じゃあ、木曜日ね。」 紺野に言うと、紺野は軽くお辞儀をして、俺の部屋から出て行った。 「今回当たりだな〜。」 俺は少し表情を緩めてしまった。
ブーン 「お、次は誰ですか〜?」 ディスプレイには『吉澤ひとみ』の5文字が写し出されていた。俺はすぐに電話に出た。 「よっすぃー久々、どしたの?」 「遊びに行こう〜!」 いきなりだったのでびっくりした。お、美味しい仕事が次々と? 「いつ?」 「今度の金曜っす〜!」 え?マジですか? 「いや、その日はちょっと・・・。」 「え〜?!吉澤もその日しか空いてないっすよ〜!!」 よく考えてみると当たり前の事だ。二人は同じグループで、同じスケジュールで働いているのだから、 休みも当然被る。そして俺には拒否権はない。つんくさん、このくらいの事態、予測してくださいよ・・。 とりあえず、やるしかない。 「分かった。じゃあ場所は決めさせて。」 「やった〜!」 電話の向こうから喜びの声が聞こえる。場所は当然あの場所に決定。 「新しいモールすかぁ!いいっすね〜!」 ゲーセンがあるのもポイントだろうか。吉澤はあっさりOKした。 「時間はどうしようか?」 「そうっすね〜・・・。朝10時くらいでどうすか?」 緊急事態発生。修正すべし。 「ちょっと早くしていい?」 「え、いいっすよ〜。」 とりあえず9時半に決定。吉澤は最後までいいテンションで話していた。
「さて、どうする・・・。」 白紙の紙を前に、俺はうなっていた。とりあえず行動予定ぐらいは立てないとどうしようもない。 とりあえず適当な理由をそれぞれに使いまわして右へ左へ移動して・・・。とりあえず俺は頭の中で思い描いた計画を紙にぶつけた。 「これでよし・・・・。」 でもこれをちゃんとしっかりこなせないと、今回の仕事は成功しない。 「やるしかないぞ・・・。」 「何を?」 「うわ!!!」 突然背後から話しかけられて紙を隠す。今日はドアの開いた音すら聞こえなかった。 しかし石川は確かに今俺の後ろにいる。 「今日はどっから入ってき・・・・何その格好。」 俺は振り向くと、石川の格好に驚いた。何故かサンタルック。 「季節外れの梨華サンタ〜。」 石川はくるりと一回転とした。可愛い。でも口から出た言葉は、 「へぇ。」 とりあえず今は、なぜだかよく分からないが紙を見られてはいけない気がした。 「ひどいなぁ〜。喜ばせてあげようと思ったのに。」石川は少しだけ切ない表情を浮かべた。 「ところでどこから入ってきた?」 俺が聞くと、石川は押入れの方へと歩き出した。掃除機を入れているほうではない、 もっと大きい・・・・え?まさか・・・。 「ここにずっと入ってたの。」 石川は押入れの中で体育座りした。 「嘘〜?!」 「嘘だけど、ここ。」 石川は壁に手をかざした。 パタン!! 「・・・・・・。」 壁は開き、そこからは見たことのある風景が。 「ドア?」 そう聞くと石川はうなずいた。 「埋めろ〜!!!!」
67 :
計画開始 :04/02/14 00:09 ID:LeDR8IFe
AM9:25 俺は吉澤よりも先に待ち合わせ場所に着いた。さて、問題なのは吉澤の遅刻だ。それをされると俺が遅刻してしまう。 紺野はおそらく時間通りにちゃんと来るだろう。では吉澤は・・・。 「早いっすね〜!」 色々考えていると後ろから話しかけられた。遊びで来ているせいか、しっかり時間通りに吉澤は到着した。 「どこ行く?」 俺が聞くと吉澤は答えた。 「ここに来たからにはやっぱ服見ないと!」 予想通りの返答をありがとう。心でつぶやき、俺たちはとりあえず一番近くの店に足を踏み入れた。 「あ〜これもいいなぁ〜。う〜ん・・・・。」 吉澤は服選びに結構迷っていた。俺はすかさず言った。 「決まらないなら外で待ってようか?」 「うん、お願いするっす。」 「じゃあ決まったらメールして。」 俺はゆっくりと店内を出た。
AM10:00 「間に合った・・・。」 紺野が待ち合わせ時間より早く来てしまう可能性を考えて待ち合わせ場所をかなりずらしたのが仇となった。 俺が息を切らしながら待ち合わせ場所に到着すると、そこには既に紺野の姿があった。俺は息を整えると、話しかけた。 「待った?」 紺野は俺を見ると笑顔で、 「いえ全然。どこに行きましょうか?」 と言った。 「そうだな、買い物でも行く?」 「はい。」 俺はさっきの店の3店先の店をチョイスした。 「これなんかいいんじゃない?」 俺が紺野の身体にコートを重ねると、紺野の表情が変わった。あれ? 「これ、買ってもらって、『可愛いよ』なんて言ってもらったなぁ・・・。」 嘘!? 「じゃ、じゃあこれは?」 俺は手早く服を入れ替えた。 「これは・・・『うん、似合う。いや、何着ても似合うな』なんて・・・。」 うわ〜!!何やってんだ俺!!! 「俺選ばない方がいいかもね。」 俺は苦しい表情を浮かべながら言った。俺としてはただに合いそうな服を選んだだけなんだけどなぁ。 「いえ、でも嬉しいです。」 フォローしてくれるあたり出来た子だ。 ブーン 「ちょっとトイレ・・・。確か階の一番端だったよな。」 俺はそう言って店内を出た。そしてすぐにメールを開く。 『決まったっす〜☆』
「お、いいじゃん。」 「へへ。」 俺に誉められて笑う吉澤。店内を出ると、吉澤は言った。 「次はゲーセンっす!!」 吉澤の一言と共に、最上階のゲームセンターへと向かった。ゲーセンに到着すると、 俺に都合よく凄く広かった。到着すると早速吉澤はある物に目をつけた。 「これとるぞ〜!!」 UFOキャッチャーだ。吉澤はすぐに100円玉を取り出し、開始した。 「・・・・・・・よし・・・・・よし・・・・・あ〜!!!!もう1回!!!」 吉澤が何度もやっているので俺は言った。 「ちょっと他のところ見てくる。」 「うん。それまでの間にとってやるー!!」 珍しく「っす」がないところから結構気合が入っているようだ。俺は急いでエレベーターに乗った。 乗ったのは俺一人。 ウィーン・・・。 ガタン!!! 「あれ?」 どうやらエレベーターが止まってしまった。 「嘘!!マジかよ!!」 機械に計画を破られてしまうなんてなんてこった。俺はドアをガンガン叩いたが、 だからと言ってエレベーターが動き出す事はなかった。 俺結局10分のロスをしてしまった。
「大丈夫ですか?」 「え?」 「お腹。」 疑わね〜!!どうやら紺野は俺が腹を壊したと思っているらしい。あんまり心配させるのもなんなので俺は言った。 「お腹はもう全然大丈夫、むしろお腹が減ったぐらいだよ!!」 俺がそう言って笑うと紺野は真顔で言った。 「じゃあ食べに行きましょうか。」 「え?」 完全に墓穴を掘ってしまった。せめてもの救いはレストラン街がゲーセンの1階下という配置だという事。 でも飯食っている最中に吉澤から電話があったら・・・。 「(今かかってきたらやばい。)」 俺はラーメンをすすりながら、ひやひやしていた。 ブーン 「(!!!)」 極力紺野に焦りの表情を見せないように、俺はメールを見た。 友達からだった。 「(なんだよ・・・)」 俺は心の中でホッとした。とりあえず今俺にはこいつのメールの返信を打つ余裕はない。 悪いな友人A。 なんとか電話、メールが来る前にラーメンを食べ終えると、紺野は言った。 「ゲーセンに行きませんか?」 「うん。」 広いし、見つかりはしないだろう。俺は別に気にせず賛成した。
71 :
大ピンチ :04/02/14 00:35 ID:LeDR8IFe
紺野がゲームをしている間に、俺は吉澤の元へと急いだ。流石にもうUFOキャッチャーは終わっているだろう。 ・・・・ん? 「とぁ〜!!!そりゃぁ〜!!やった〜!!!」 まだやっていた。近づくと、ぬいぐるみが5,6体、袋の中に押し込まれている。 「すごいな。」 びっくりして俺は呟いた。 「イェーイ!!あ、まだやるからまたどっか行ってていいっすよ?」 なんか、一緒に来た意味無くない?でもすごく都合がよかったので俺は紺野を探しに歩いた。 「あ、トイレ行きたい。」 本当に行きたくなったので、トイレまで行き、用を済ませた。トイレから戻ると、紺野に会った。 「紺野。」 紺野はこっちを向くと、笑顔で言った。 「あ、さっき吉澤さんと会いました。」 !! やばい? やばい? やばい! 「なんかUFOキャッチャーですごいとってましたよ!一個貰いました。」 笑顔一杯なのは何?素?嫌味? 「偶然ってすごいですね。」 心の底からの笑顔?完全な作り笑い?俺が何も言わないでいると紺野は、 「どうしました?」 と心配そうに表情を覗き込んできた。どうやら本当に偶然会ったと思っているようだ。 よかった〜、なんか抜けてて。そんで二人が特に会話をしてなかったみたいだから助かった。
72 :
大ピンチ2 :04/02/14 00:43 ID:LeDR8IFe
再び紺野に適当な理由をつけ、吉澤の様子を見に行くと、吉澤は満足そうな顔でぬいぐるみを見ていた。 「あ、もう満足したっす。次は〜・・・、ここのすぐ近くにあるカラオケにいくっす!」 え?このモール出ちゃうの?でもとりあえず拒否権がない俺。ついて行く事にした。 「久々っすねぇ、カラオケ。」 「そうだね、かなり前に1回行ったっきりじゃなかったっけ?」 確かそのときはストレス発散週間とか名づけてカラオケに毎日いろんな子と言った記憶がある。 そのせいで喉がガラガラで大変だったが、楽しかったのは覚えている。 カラオケに入ると、俺は吉澤に言った。 「先行ってて、トイレ行ってくる。」 部屋番号を確認すると、俺は一旦カラオケから飛び出した。 「やばい、走れ!!」 あんまり時間がない。とりあえず出来るだけ速くゲーセンにつき、紺野をカラオケへと誘導しなくては。 俺は全力疾走でショッピングモールのエレベーターに飛び込んだ。今回は止まらず最上階へ。 「ふう・・・。」 ウィーン。 「!!」 目の前に紺野が立っていた。この光景に対して、紺野はどう思うだろう? 「・・・・トイレはこの階にもありましたよ?」 俺は一瞬こけそうになった。まだ俺のお腹の心配をしていてくれたとは。 「大丈夫。てかさ、カラオケ行かない?歌って発散しよ!」 俺は紺野の手を引くと再びエレベーターで下り始めた。
カラオケに再び入ってきて違う女の子と受付。店員からの視線が物凄く痛かったが、 我慢して受付を済ました。とりあえず吉澤との部屋と階が同じようだ。 紺野は部屋に入ると早速何曲か曲を入れだした。俺がそのあとに1曲入れる。 そこで俺は携帯を取り出して、相手のいない電話で話した。 「ごめん、仕事の話だから、ちょっと外出るね?」 俺はそう言って誰からもかかってきてない電話を抱えて部屋を出た。そのまま吉澤の部屋へ。 なんかめちゃくちゃ急がしいな・・・。 吉澤部屋に着くと、既に歌いだしていた。ストレスたまってるのかな?窓の外から手を振ると、 吉澤は笑顔で手を振り替えした。俺は室内に入ると、さっきとは別の曲を入れた。 ブーン 「あ。」 今度は本当に仕事の電話のようだった。 「ごめん、仕事だ。とりあえず話してくる。」 俺はそう言って部屋を出た。紺野の部屋へ移動しながら電話の主と話しだす。
74 :
大ピンチ3 :04/02/14 01:02 ID:LeDR8IFe
「もしもしごっちん?今仕事中。」 「誰の?」 後藤はすぐに聞き返した。なんだかかかってくると面倒なタイプに当たったな・・・。 なんて説明しよう。下手にごまかすのもバレそうだし・・・。俺は一瞬考え、 正直に答えることにした。 「よっすぃーと紺野。」 後藤と吉澤が仲いいのを考慮して吉澤の名を先に出す。 「あれ、よっすぃーは二人で行くって言ってたと思うんだけど?」 !!まずい!!まずい!! 「大人には色々あるの。」 オイちょっとそれ意味わかんねぇよ俺!! 「2歳くらいしか違わないじゃん。」 「まあそうだけどさ、で、相談?」 とりあえずはぐらかして本件を聞く。 「うん、でも明日でいいよ。めっちゃ忙しそうだから。」 ありがたい。電話を切ると、俺は紺野との部屋に入った。 ちょうど俺が入れた曲が始まるところだった。 ダン!ダン! ドラムの音とともに俺は軽くシャウトした。イントロを経て、俺は歌いだした。 「there goes my old girlfriend♪」 「英語ですか?」 「え?」 紺野に言われて画面を見る。あ!!間違えた!!こっちに入れたのはB‘zの『憂いのGypsy』だ!! エアロの『What it takes』じゃない!!イントロ似過ぎ!!俺は慌てて日本語で歌いだした。 曲が終わると、紺野は言った。 「すごいですね、いきなり英語で歌っちゃって!!」 紺野に尊敬のまなざしを受け、罪悪感を感じる。俺はその場にいられなくなり、 「ドリンクお代わり行って来る。」 と言って部屋を出た。
吉澤との部屋に戻ると、ちょうどまた曲が始まるところだった。 「ギリギリっすよ〜。」 今度こそ「What it takes」を歌う。歌い終えると、英語で歌った事からか、 再び尊敬のまなざしを受けた。 吉澤が1曲歌うのを聞いたあと、俺はドリンク、と言って部屋を出た。 今度は本当にドリンクをとり、紺野との部屋へ。 「遅かったですね、混んでたんですか?」 紺野が聞いてきたので俺はうんとだけ答えた。 紺野が歌を歌いだそうと言うときに、ドアは突然開いた。 「!!!」 俺は、自分の顔が青ざめてゆくのがよく分かった。 吉澤は俺をすごい目で見ている。そんな吉澤を見て、紺野は言った。 「吉澤さん、また会いましたね!!」 無邪気な笑顔に二人はこけた。
76 :
種明かし :04/02/14 01:14 ID:LeDR8IFe
俺は全部洗いざらい、最初から全部説明した。それにしてもなんだろう、この二股がバレたみたいな感覚は。 でも、二人の反応は、そういう激しいものとは程遠かった。 「それで最初ダメって言ってたんすか〜。」 俺に拒否権がないのをよく知っているので、吉澤は普通に許してくれた。 「でも・・・。」 吉澤は続けた。 「今回は仕事じゃなくて、ただ単に遊びに誘っただけっすよ?」 「え?!」 俺バカみたいじゃん・・・。いつもいつも仕事でしかこういう関係持たなかったから、 区別がついていなかったけれど、吉澤はもはや立派な友達のようだった。 「うわぁ〜・・・。俺何やってんだろ〜・・・。」 頭を抱えていると、紺野は言った。 「じゃあ、このあとは3人で楽しみましょうか。」 「そうっすね!」 「そうだね。」 全会一致で可決。片方の部屋は退室し、一つの部屋でカラオケを楽しむ事にした。
77 :
チョコっと :04/02/14 01:21 ID:LeDR8IFe
「喉ガラガラ〜。」 家に帰ってきて一言つぶやいた。そう言えば、後藤の相談ってなんだったんだろう。 俺は気になったので後藤の部屋に行く事にした。 ピンポーン・・・。 ガチャッ。 「あ、いいよ、上がって。」 俺は言われるがままあがると、後藤は言った。 「明日バレンタインじゃない?チョコ作ったから味見してくれない?」 にしても料理の毒見系が多いなこの子は。でも別に美味しいから問題ない。 後藤が俺に差出たチョコレートは、結構凝った作りで模様が付けられていた。 パクッ。 「うん、甘くて美味しい!」 それ以外特に表現が思いつかなかった。 「よし、ありがとう。もういいよ。」 え、もう終わり?早!!俺はなんか拍子抜けした感じが否めない。 でも終わりって言われたんだからいいか。 このとき俺はまだ、これが次の日への伏線だなんて、夢にも思わなかった。 続く
78 :
えっと :04/02/14 01:22 ID:LeDR8IFe
今回ちょっと長めでした。ラストを見てもらえば分かるように、 バレンタインネタを書きたかったので昨日までに4話を終えた かったんですが・・・。なかなか難しいものです。 5話はバレンタインが終わらないうちに仕上げられるように努力します。
79 :
えっと :04/02/14 15:36 ID:LeDR8IFe
今読み返したら、あっち行ったりこっち行ったりでなんかだめだ・・・。 しかもカラオケのネタなんて知らない人にはなんのこっちゃだし・・・。 なんかすみません。
いや面白いよ その調子で頑張って!
81 :
えっと :04/02/14 21:33 ID:LeDR8IFe
>>80 ありがとうございます。ここに来て思ったんですが、
「頑張って」の一言って、本当に励みになります。
自分のしがない文章でも面白いと思って頂いていると思うと、
胸がすごく熱くなります。頑張って今夜中に5話書き上げます!
(明日練習ですけどねw)
82 :
えっと :04/02/15 00:43 ID:gseg6OOp
う〜む、14日には間に合わなかったかw これから更新します。
83 :
寝ぼけすぎ :04/02/15 00:45 ID:gseg6OOp
5.ビタースイート AM6:30 ピンポーン 「・・・ん?」 俺は不意に鳴ったチャイムで目が覚めた。誰だろ、こんな朝早くに・・。俺はベッドから飛び降りると、 眠い目を擦りながら玄関まで歩く。 ガチャッ。 ドアを開けると、そこには後藤が立っていた。 「おはよう・・・どうしたの?」 あくびを軽くしながら応対する俺。かなり醜態をさらしてしまっているな・・・。 「ほい。」 後藤は小さな箱を俺に渡してきた。俺は頭がボーっとしていたので何の事だかよく分からず、 「何これ?」 と言ってしまった。後藤ははぁーっ、とため息をつくと一言。 「チョコ。」 そういわれてやっと思い出す。 「あ!!そうだった!今日バレンタインか。どうもどうも。」 俺は笑顔で受け取った。 「義理だよ、一応言っとくけど。」 「分かってますって。」 「じゃあ、今日これから仕事だから。バレンタインに仕事なんていいことないよ、義理チョコたくさん配らなきゃいけないからさ。」 後藤は少しだけ愚痴ると去っていった。
AM7:30 ピンポーン 「お?」 後藤が来てから二度寝しようと思ったが、他の誰かも来るんじゃないかと 期待していたため寝なくて正解だった。 ガチャッ。 今度来たのは安倍松浦。たまたま仕事に行く時間が重なった、と言うところか。 「どぞ〜。松浦の手作りだから美味しい事間違いなし!ですよぉ〜。」 ああ、松浦は世渡り上手いタイプだよな〜、とつくづく思ってみたり。でもそれでいてナルシストなのがまたいい。 「今度また荷物持ちお願いするべさ。」 え、またですか?チョコを二つ、手に持ち、俺は言った。 「はーい。松浦もいつでもかけてこいよ、悩みがあるなら。」 「はいっ、でもあんまり無理しない方がいいですよ?」 目上への対応本当に上手いなこの子。イや〜この子は伸びますよ(誰 「ありがと。じゃあお二人さん、お仕事頑張って。」 俺はそう言ってドアを閉めた。これで3つ・・・。あと8つ、期待していいのかな?
85 :
10円? :04/02/15 00:47 ID:gseg6OOp
AM8:20 ピンポーン お次は誰かな?段々楽しくなってきた。 ガチャッ 「お、姐さん、おはようございます。」 俺が期待のまなざしで見ているのに対し、中澤は言った。 「娘。の皆は仕事の後くるみたいやぞ。良かったなぁ、チョコ仰山もらえるで。」 中澤はそれだけ言うと俺から背を向けた。 「え?姐さん、チョコは?」 「裕ちゃんがここ来たんわただの報告や。」 「え〜!!」 贅沢言い過ぎかもなぁ。でもせっかく来たのだから欲しかった。 「せやったら・・・・ほれ!」 中澤はひゅっと俺に何かを投げつけた。慌ててキャッチする。 「・・・・・。」 中澤はチロルチョコを手に悲しげな表情を浮かべる俺を見て、笑いながら去っていった。
Ten minutes after・・・ ピンポーン 「あれ?なんで?」 あとはもう仕事後に来るはずだから、新聞の集金だろうか?それとも視聴料の徴収? 「はーい。」 とりあえず返事をして財布を持つと、俺は玄関まで小走りで行った。 ガチャッ 「あれ?」 ドアを開けると、そこには高橋が立っていた。俺の事をじっと見ている。その表情があまりにも真剣だったので俺は聞いた。 「どうしたの?なんか相談?」 高橋は何も言わずに、さっき後藤がくれたのと同じような箱を差し出した。 「?ありがとう。」 俺が受け取ると、高橋は俺の顔をじっと見た。心配そうな表情をしている。俺が微笑むと、高橋は安心したように笑みをこぼした。 俺が口を開くと、 「あ、何も言わないで。あとで、いいから・・・。」 意味深な発言を残し、高橋は逃げるように走り去っていった。 「???」
「さっきのなんだったんだろう?」 俺は高橋に貰った箱を見て悩んだ。とりあえず開けてみる。 「・・・・!」 それは、昨日後藤に試食を頼まれたチョコレート、しかしちょっとだけ不恰好で、昨日のよりも大きかった。もしかして、作るためにわざわざ後藤に習った? 俺は慌てて松浦と安倍のチョコを開封する。 「あ、形違う・・・。」 このチョコの大きさ、一人で後藤に習っていて、一人だけ仕事前に渡しに来た。ということはもしかして・・・・。 「・・・いやいやいや!!」 そんなはずはない。おれは20のオッサンだし。でも中澤の発言と明らかに矛盾している。 このチョコが本命だと考える方が自然・・・なはず。 「でもなぁ〜。」 部屋で一人つぶやく。最近はそうでもないが、昔は結構悩みを聞いたりはしていた。そのため結構仲がいいが、 高橋からそう言う視線で見られたことは一度もなかった。 「悩みを聞いてもらっているうちに、好きになっちゃって・・・。」 なんだかどっかの芸能人の結婚記者会見の映像が流れる。 「・・・・・・いやいやいや!!」 俺は慌ててにやける顔を叩いた。
ブーン 「ん。」 どうやら仕事のようだ。あれ?今むしろ向こうが仕事中じゃないの?なんだかよく分からないがとりあえず電話に出た。 「もしもし。どしたの矢口、仕事中じゃ?」 俺は何故か矢口は矢口と呼ぶ。同い年の女の子だと、どうしても高校を思い出してしまってこうなった。 「うん。仕事中だよ。今回の仕事は、番組のスタッフをやって欲しいんだけど。」 へ?スタッフ? 「とりあえず来て。そしたら説明するからさ。」 「お、おう。」 こういう仕事と直接接点のある仕事は珍しかったため、俺は少しだけうろたえた。 「局は?」 「テレ東。」 ハロモニか?俺はすぐに車の鍵を手に持ち、家を出た。
「で、何、スタッフをやってってどういうこと?」 俺は14人の控室に到着すると、質問した。飯田が集団から一歩出ると、答えた。 「実はスタッフの人が熱で倒れちゃって・・・。その代わりをやって欲しいんだ。」 え?なんで俺?一人ぐらいなら対応効くんじゃ?俺は思った事をそのまま口にした。 すると新メン以外は明らかにばつの悪そうな顔をした。 「いや、それが・・・。」 飯田は少しだけ気まずそうに、話し始めた。 それは、去年のバレンタインデーの事・・・。
90 :
悪質な手口 :04/02/15 00:55 ID:gseg6OOp
「大道具さん〜!!」 辻に呼びかけられて大道具の男は立ち止まった。 「どうしたの辻ちゃん。」 「ちょっと来てくらさーい!!」 辻は男の手を引っ張ると男はそのままよく分からないうちに連れて行かれた。 「ちょっと、どうしたの?」 男は聞いた。辻は何も言わない。男はそのまま辻に控室へと連れて行かれた。 部屋に入ると娘。の全員が男を見て言った。 「ハッピーバレンタイン!!」 男は喜び、箱を全部貰う。そこで安倍が笑顔で言った。 「全部食べてくださいね!」 「うん!」 大変そうだったが、男は喜んで答えた。それを見て、矢口が言った。 「じゃあ今ここで食べてくださいね!!」 男は一瞬困ったが、 「うん!」 と答えるとラッピングをはがし、チョコレートを取り出した。 「・・・・。」 入っていたのはハーシーチョコレートうん十個入り。 よく見てみると全部同じサイズの箱なので一気に開封。 全部同じものだった。男の顔が青ざめたところで、矢口はもう一回言った。 「ね?」 この男、一度言った事は絶対にひかない男だった。それを分かって、メンバーがセレクトした、 いわばターゲット。 男は何とか全部食べたが、すぐに頭に血が登って倒れた。
「で、昨日からその人様子がおかしかったらしくて・・・。今日・・・熱だって言って・・・、 休んじゃったみたい。」 飯田の言い方がなんだか申し訳ない感じで切ない。 「だからおいらたちが責任持って代わりを探しますって言っちゃったの。」 いや、矢口さん?結局大変なの俺だけじゃないですか。 「お願い。」 高橋がさっき見せたような、心配そうな表情で言う。 「・・・分かりました。」 別に拒否出来ないけど、こんなに頼まれて嫌な気はしなかった。俺が引き受けると、 全員でいっせいに色々言ってきた。 「ウェイトリフティングのチャンピオン!!」 「高校時代短距離でインハイ!」 「昔6時間耐久『命』のポーズで100万円とった!!」 そんなようなことを残り11個。 言い終わると、石川が言った。 「って皆に言っちゃった。」 「嘘!?」
「おいおい昔の根性はどこへ行った?にしてもお前ウェイトリフティングのチャンプの癖に細いな〜。」 「すみません・・・・。」 俺は何も言えずにただ働く。大道具の仕事は意外に大変だった。とりあえず、重い。道具を運びながら あっちへ行ったりこっちへ行ったり。そんなとき、たまたま高橋とすれ違った。目が合うと、高橋は笑顔になった。 どうしよう・・・。向こう本気かな? 一仕事終え、機材室の横の壁によっかかりながらボーっとしていると、話しかけられた。 「どしたん、しけた面して。」 加護だった。 「ああ、あいぼん。なんかさ。」 俺が話そうとすると、加護は言った。 「愛ちゃんの気持ち、裏切ったらあかんぞ?」 「え?」 「それだけや。ほな。」 加護はそう言うとそのまま去っていった。それにしても、こんなシリアスな場面にその衣装はないでしょ・・・。 コント前だから仕方ないか。OAお楽しみに!(何
93 :
葛藤 :04/02/15 00:59 ID:gseg6OOp
俺はなんとか仕事を終えると、他に仕事がある娘。よりも先に家へ帰った。家に帰ると、俺は高橋から貰ったチョコを、 まず口に入れた。 「・・・ビタースイート。」 そんな歌を思い出させる味だった。苦いが甘い。それがこのチョコへ与えるには最も適切な表現だった。 チョコを食べながら、加護の言葉が頭の中でぐるぐる回った。 「裏切ったらあかんぞ?」 「俺はどうしたらいいんだろ・・・。」 いや、普通にOK出せばいいじゃん。と思う人もいるだろうが、これはそんな簡単な問題じゃない気がした。 自分では明らかに荷が重過ぎる。とても背負いきれるものではないのは明白だった。付き合えるならそれはすごい嬉しいけど、 俺はあくまで仕事で彼女と繋がっている、それだけの関係だから・・・。でも断るのは勿体無さ過ぎる・・・。
ピンポーン 俺が葛藤する中、チャイムは鳴った。 「はーい。」 俺は小走りで玄関へ。ドアを開けると、高橋が入ってきた。高橋の目は、今まで見た事のないような、 大人の目をしていた。俺達はしばらく、ただ見つめあった。 「いいよ、あがって。」 しばらくすると俺は口を開いてそう言った。高橋はこくりと頷いて中へ入ってきた。 二人でソファに座ると、高橋は言った。 「どう?」 高橋は聞いた。俺は回答に困った。 「えっと・・・その・・・・なんていうか・・・。」 高橋は突然目をつぶって俺に体重を乗せてきた。 「え?!」 高橋の両手が俺を軽く包むように伸びる。 「愛ちゃん?」 どうしよう・・・。 ピンポーン 高橋は目を開いた。そこで俺はそっと高橋の腕をどけると、 「はーい!」 と言って再び小走りで玄関へと向かった。 ガチャッ。 「ハッピーバレンタイン!!」 吉澤を先頭に矢口辻加護紺野の5人が部屋へと上がってきた。 「あ、愛ちゃんもう来てたの。」 吉澤が部屋の奥を見る。部屋の奥へと入ると、5人は改めて俺にチョコを渡してくれた。 渡し終えると、矢口が言った。 「皆の前で食べてよ。」 「え、大道具さんみたいなことはないよね?」 「そんな、同じネうぐっ!!」 吉澤が途中まで言ったところで加護が口を塞いだ。ネって何?不審に思いながら、俺は箱を開けた。
「・・・・・・・・・・。」 もう一つ、 もう一つ、 もう一つ、 あと一つ。 「・・・・・・・・・・。」 「いやぁ〜、高橋フライングはダメだよぉ。」 吉澤が高橋を見て言う。 「でも、美味しいかどうか自信がなかったんで、感想さっきも聞いたのに答えてくれないし・・・。」 え?さっき? 「せっかくごっちんに習って皆であげようっていう話だったのに、なんで先に行っちゃうの〜?」 辻が笑う。 「てことは・・・・・・・・。」 俺は静かに呟いた。俺がその続きを言う前に、紺野が止めを刺す一言。 「え、もしかして本命と勘違いしちゃってました?」 俺の表情を見て、矢口が言った。 「ドッキリ大成功〜!!!」 大笑いする矢口。その途端に6人は騒ぎ出した。俺はただ、全部全く形の同じチョコ5つを見ていた。 ボコッ!! 「いて。」 後ろから加護に叩かれた。 「アホ。」 加護はそう言うと大笑いした。俺もただ笑うしかなかった。騒いでいる中、高橋に聞く。 「じゃあ、さっき迫ってきたのは?」 高橋はあっさり答えて見せた。 「眠くなっただけ。」
96 :
意味深 :04/02/15 01:05 ID:gseg6OOp
全員が帰ると、俺はチョコをむなしく食い始めた。一瞬でも期待した自分がバカみたいだ。冷静に考えたら、高橋が自分なんかを好きになるはずないのに、 あんな目で見られたら信じてしまうじゃないか。 「ふぅ〜。」 溜息をつく。 「はっぴ〜?」 甲高い声が押入れの方から聞こえた。俺は棒を取り出し、押入れの扉が開かないように仕掛けた。 「あれ?あれ〜?ちょっとぉ!!開けて〜!!!」 しばらく眺めて笑ったあと、開けてあげた。扉が開いた瞬間石川は一言。 「まあ元気出せよ。」 バタン!!! 「ちょっとぉ!!開けてよ〜!ごめん〜!!!」 口調がムカついたので思わずまた閉めてしまった。ドアを開けると石川は口を閉じたまま押入れから出てきた。 「はい。」 石川は俺に箱を渡してきた。 「何?これ。」 「チョコ。」 俺はチョコを急いで開けてみた。すると、そこにはさっき見た量産型とは全く異なった形をしたチョコが入っていた。 「じゃ〜ねぇ〜。」 石川はそのままドラえもんのように押入れに入って、戸を閉めた。 ・・・これって? 続く
97 :
えっと :04/02/15 01:09 ID:gseg6OOp
5話終わりです。 これを14日に書きたくて1日1話のペースでここまでやってきました。 (と言ってもくだらないものですがw) だからこれからはちょっとだけペースを落すかもしれません。 部活で疲れた体に鞭打って書いてたのでこれ続けたら身体がもたないかもしれないし。
なにやらよさげなIDですな 松浦も同じマンション?ハロプロ関係がどこまででてくるのか楽しみだ! 個人的には新垣登場に興味があります(ヲタではないけど) 無理しない程度に頑張ってください
99 :
えっと :04/02/16 19:39 ID:Y5IvB8sE
>>98 新垣ですか、実を言うとここの小説に興味を持って書き始めたものでして
それを頼りにキャラを構成しているため新垣のキャラがちょっと分からない
んです(汗)
>>99 確かに分かりにくいですねw
俺の書いてることはスルーしてもらってけっこうなんで
好きなように書いてください
101 :
えっと :04/02/16 21:14 ID:Y5IvB8sE
>>100 どうもすみませんw
100届いちゃいましたね。びっくりです。まさかこんなに続けられるとは・・・。
今から頑張って書きますか。
6.Wise Trap バレンタインのあの一件から、しばらく仕事が来なかった。俺自身も頭の中で色々こんがらがっていたから、それでいいと思っていた。 相変わらず石川は仕事のない昼は飯を食べに家にやってくるが、どうもいつもと違う目で見てしまって、話も弾まなかった。 一人だけドッキリに参加せず、オリジナルのチョコ。後藤に習わなかったのは別に問題ではない。俺が一通り教えた上レシピもあげたのだからチョコくらい作れる。 でもあの石川がドッキリに乗らなかったことに問題があるのだ。なぜ?俺の疑問は膨らむばかりだった。 しばらく休みが続き、正直もう仕事やめようかな、なんて思ったりもしていた。お金は充分溜まったわけだし、 目的は達成されていた。そんな時、 ブーン。 「もしもし。仕事?」 後藤だった。 「うん、部屋来て。」 俺は重い身体を持ち上げると、部屋を出た。
PM1:00 ガチャッ。 「ん?」 後藤の部屋に入ったら、マンションにいるメンバー全員が終結していた。なんだか、あらためて凄い絵だなと感心する。11人の真ん中に立った後藤が、言った。 「遊ぼ。」 ?よく分からなかったが、断る理由もなかった。 「いいけど、どんな?」 すると後藤は言った。 「鬼ごっこなんだけど、ごとー達全員が、鬼。」 はい? 「で、逃げて。捕まったらゲームオーバーだから。分かった?」 「分かんないよ!!!」 俺は怒って返した。 「名づけて後藤真希鬼ごっこ!!制限時間は午後5時まで!!逃げろー!!!」 やっと後藤が司会の理由が分かった。これ昔漫画でやってた奴のパクリじゃん。 梧桐清十郎鬼ごっこのパクリじゃん。あれは確か捕まると・・・リンチ? 俺は慌てて逃げ出した。 「タッチは10秒でアウトやぞ〜!!」 中澤が叫ぶ。いい大人まで参加してる〜?!
104 :
新喜劇 :04/02/17 23:53 ID:ygpbHBpo
PM1:15 しばらく潜んでいると、棟と棟の間の道に、加護が現れた。ちなみに俺達は大半がC棟に住んでいる。 他には松浦がA棟、安倍、紺野がB棟だ。 「?」 加護は何をしているのか、気になったのでちょっとだけ接近した。加護は皿に乗ったケーキを地面に置いた。 「俺一応人としてのプライド捨ててないんですけど・・・。」 ケーキに明らかに紐ついてるし。誰がひっかかるってんだあんな罠。加護が笑いながら去っていった頃、 「?」 辻が現れた。ケーキを見ている。辻は周りに誰もいないことを確認すると、皿を持ち上げた。 ザッ!!! 「!!!」 辻の頭上からネットが降ってきた。しかしびっくりしているのは俺で、辻はまだ気がつかずに必死にケーキにがっついている。 「のの?!なんでお前やねん!!!」 加護が戻ってくると、驚いて絶叫した。 「ほぇ?・・・なんなのれすか?!これは!!!」 辻はようやくネットの存在に気がつき声をあげた。コントやってるよ・・・。俺は半ば呆れ気味にその場を立ち去った。
PM1:30 ザッザッザッ。 後ろから足音が聞こえた。振り返ると、後藤がこっちを見ている。後藤はわずかに微笑むと、こっちに向かって走り出した。 「正攻法?!」 俺は慌てて走り出した。まさかまともに追って来る奴がいるとは!!しかしそう来るのも無理はないほど、 後藤は素人離れしたフォームで走っていた。男女の差あれど、距離差を全く開けなかった。リンチだけはごめんだ!!! 俺は必死に逃げ、なんとかA棟まで走った。自動ドアをこじ開け、エレベーターに乗り込む。 「ハァ〜っ・・・。」 ウィーン・・・・・。 なんとか巻いたか?
ガタン!! 止まった?エレベーターのガラス部分から、外の様子が見える。吉澤と目が合った。吉澤の目が笑う。俺は「閉」ボタンを押し続けた。 このエレベーターなら・・・。 シーン 「?」外から吉澤がよく分からない、と言った顔をしている。エレベーターはそのまま上へ。たまにあるのだが、 エレベーターによっては「閉」ボタンを押し続けていればドアは開くことなくそのまま上へ上がってくれる。 俺は何とかそのまま5階まで上がった。 螺旋状のストリップ階段を降りながら、外の様子を伺う。一段一段降りながら、外の方を見ると、 まだ辻加護のコントは続いているようだ。 2階まで降りると、視界に高橋が飛び込んできた。高橋は後ろを向くと、言った。 「皆、おったで〜!!」 そういえばこの前は演技入ってたせいで訛ってなかったな〜、ってそんなこと考えてる場合じゃなかった。 俺は階段を昇った。少し慌てると段と段の間に足を滑らせ突っ込みそうになる。しかし階段を昇ると、 3階の奥から安倍が歩いてくるのが見えた。隙間から2階をのぞく。高橋、紺野、吉澤。上には安倍、中澤、矢口。 ・・・。
「これで終わりだべ〜!!」安倍は嬉しそうに声をあげて階段を駆け下りた。中澤矢口もあとに続く。 同時に2階からは高橋、紺野、吉澤が一気に駆け上って行く。そして遂に ・・・。 「あれ?」安倍はなぜ目の前に、高橋がいるのか、よく分からなかった。挟み撃ちにしたはずの男は、 忽然と姿を消してしまった。高橋はびっくり顔をして何も言えない。 「なっちさん?」 ドン!!! 「?!」 突然1階と2階の間で凄い音がした。6人はすぐに2階まで降りた。 「やれやれ・・・。」 彼は立ち上がると、言った。 「じゃね。」 タッタッタッタッ・・・。 「??」 全員、一体何が起こったのかよく分からなかった。まるで目の前でマジックを見せられたような、 そんな感覚だった。
俺はとっさに階段がストリップ階段なのを利用して、上下から6人から来るまでの間に隙間に身体を通し、 階段に摑まってぶら下がっていた。キダムもびっくりだ。捕まったらリンチ、というある種の極限状態が、 俺の身体能力を上昇させているのかもしれない。 そして頃合いを見計らって着地。足に思った以上に衝撃が来てびっくりした。もう二度としてたまるかこんなこと (てか出来ない)
PM2:30 俺は建物から出ると、適当に身を隠すところを探して走り回っていた。そして、テニスコートが目に入った。 マジここ家賃高いだけあっていろいろあるな〜としみじみ感じながら、俺はコート横のベンチに腰をかけた。 今度集団で来られたらフェンスでもよじ登るかもしれない。 しばらく座っていると、突然黄色い物体が目の前に現れた。慌てて避ける。 ガン!!! テニスボールはフェンスにぶつかると跳ね上がり、俺の目の前にゆっくりと振ってきた。手に取る。 「おしい〜。」 テニスコートに目をやると、石川がラケットを持って構えてきた。 「おい!これはやめて!ちょっと危ない!!りかっち!!」 「お蝶娘。とお呼び!!」 なんなんだよこのノリ。よく見るとラケットが落ちている。もうヤケクソだ!俺はラケットを手に取った。 「・・・・行くぞ岡君!!」 石川から繰り出されるサーブをなんとか打ち返すと、向こうからあっという間に鋭いショットが身体に向け飛んできた。 なんとか打ち返すと、もう1球、別の角度から飛んできた。なんとか止める。打球の主は・・・。
「お松とお呼び!!」 松浦登場。面白がって打って来た。 しばらく死ぬ気ラリーが続いたあと、2球に対して俺は渾身の一振り。2球ともに二人の頭を越え、二人は球を追った。 ポーンッ。 ポーンッ。 ボールが落ちるのを確認すると、石川は言った。 「アウトですわよ藤堂さ・・・・・あれぇ?!」 そこには誰もいない。俺は二人がボールを追っている間に逃げていた。あんなの相手してたら死ぬ!! 残った体力を振り絞って、俺は必死に逃げた。
PM3:30 なんとか走っていると、目の前に今度は白い、そしてさっきより遥かに大きい物体が視界を遮った。 「うわ!!」 ガン!! 受け止められず、俺は顔面でボールを受けてしまった。この季節ボールとか当たると痛いんだよな〜・・・。 ヒューン 「うわ!!」 もう1球降って来た。今度は避ける。ボールの主を見た。やはり吉澤だった。吉澤は、俺が彼女の存在に気がつくのを確認すると、言った。 「勝負っすよ〜!!!」 ジャンピングサーブ。とりあえず俺はレシーブした。そして浮いた球をアタック。これは捕れないだろ。捕れても深追いだ。 逃げるには充分な時間が出来るはず。俺はそう思って逃げながら後ろを振り返った。 ・・・・回転レシーブ!?吉澤は鮮やかにボールを裁くと、またもスパイクを繰り出してきた。 思わず反射的に足が出る。 吉澤はそれを見て大幅にバック、そして後ろへダイビングレシーブ。なんと捕った。しかし次の攻撃には回れず、 ボールは無情にもそのまま地面へと落下した。
112 :
俺? :04/02/18 00:03 ID:Zsbgcz0s
吉澤は汗を拭くと、言った。 「負けたよ・・・。さあ、行くんだ。俺?俺は追わないよ。君には負けたよ・・・。 フッ、久しぶりに、本気になれた気がするよ・・・。」 え?誰キャラですか?なんかイケメン(もしくは勘違い)系?まあ好意は受け取ろう。 俺は走り出した。 「こらぁー!!!!」 俺はびっくりしてすぐに後ろを振り返った。矢口が吉澤を叱ったみたいだ。 矢口はすぐに走り出した。俺は疲れた身体に鞭打ち、走った。流石に女の子には負けない。 矢口もそれに気がついたのか、こけた。 「いたぁ〜い。」 矢口は上目遣いで俺の方を見た。 「(無視)。」 俺はそのまま走り出した。 「またんか!!」 豹変した矢口はすぐに立ち上がり、再び走り出した。しかし矢口が追いつけるはずもない、 俺はすぐに矢口を振り切ることに成功した。
113 :
ジム軍曹 :04/02/18 00:05 ID:Zsbgcz0s
PM4:00 走っていると、またも前方に、誰かが見えた。中澤だった。仁王立ちしてこっちを見ている。 「本物の鬼だ!!」 俺は方向転換すると、加速した。 「ちょいまたんかい!!!」 キレた中澤は俺を追って走り出した。俺はC棟の方へと走っていた。 またも前方に、今度は紺野。 「行ったで紺野!!」 中澤は走りながら叫んだ。 「え?や!あ!!えぇ?!」 焦る紺野を横目に俺は通過した。 「なんでやねん!!!」 中澤がキレながら俺を尚も追う。走りながら横を見ると、 辻がまだこんがらがって加護が必死にネットをひっぺがしていた。 俺は急いで自分の部屋まで階段で登った。やばい、最近運動してないから、 体力が・・・・。俺は何とか家に入った。 バタン!!! そしてそのまま奥へと・・・。
中澤は彼の部屋の前まで着くと、ドアノブに手をかけた。 「戸締りちゃんとせなあかんぞ?」 中澤は少しにやっと笑うと中へ入った。 「おーい、もう無理やで正味な話。でてきーやー。」 中澤はまずトイレを開けた。いない。 風呂、部屋、リビング、いない・・・。 「?おらへん・・・。」 押入れを開けても、いい大人が入ってたらちょっと引くし、やっぱり入ってなかった。 なんでや?窓も鍵かかっとるし・・・。中澤は仕方なく部屋を出た。 ガチャッ。 「あ。」 ドアを開け、外へ出ると、こっちをやばい!っと言った目でみている男1名。 なんと石川の部屋から出てきた。どういうことや? 「さ、さよなら!!!」 彼は猛スピードでその場から立ち去った。 「あ、追わな。」 中澤は少しして気がついた。
PM4:15 危ね〜、俺は少しホッとしながら階段を降りていった。すると、上の方からけたたましい足音が聞こえた。 また?!そりゃ1対11だけどさ。安倍が凄い勢いで走ってきた。ピンチランナーですか?俺の体力はもう限界に近い。 どうかわす?階段を降りながら考えた。今度はよじ登ってみるか?いやもう無理だな・・・。もはやまともに逃げるしかなかった。 そして1階。そのまま外へ出ようとすると、 「・・・・・・・・ど、どうも・・・。」 中澤安倍以外の9人、全員集合・・・。 「・・・・・あ!!あんなところにNEWSが!!!」 全員一瞬俺の指差した方へと視線が動く。 タッタッタッ。 ガシッ。 「あ。」 「誰がひっかかるかいそんな手。」 高橋にしっかり摑まれてしまった。そしてゆっくりと10カウント。
「ゲーム終了〜!!!」 後藤が言うと全員拍手。 「惜しかったねぇ、あと45分だったのに。」 石川が俺に話しかける。やばい、殺られる・・・。 「じゃあ行きましょうか。」 松浦が言うと全員で移動開始。え?拷問部屋ですか?俺はとりあえずローテンションで何も言わずに着いていった。 一行はそのまま中澤の部屋へ。 ガチャッ。 「ちょっと待っててね。」 俺は外で一人待たされた。少しだけ待つと、吉澤が出てきた。なんかよく分からないとんがり帽子?を付けて。 「いいっすよぉ〜。」 中へ入る。 パン!!パン!!! 『ハッピーバースデー!!』 全員声を合わせて言った。え?誰の?・・・・ん? 「あ、俺の誕生日って今日か!!」 言われてみて初めて思い出した。誕生日なんて完全に忘れていたのだ。 「え?忘れてたん?」 中澤が少し呆れ気味に俺を見る。しょうがないじゃないか、忙しくてそんな事考える余裕がなかったんだから。 11人にハッピーバースデーの歌を歌ってもらうと、俺はようやく誕生日だと言う事を実感出来た。 にしてもなんで祝ってくれるの?俺がよく分からない顔でいたのに気がついたのか、安倍が、 「日頃のお礼。」 と言って笑顔を見せた。あ〜もう、やめね〜この仕事!!!この日俺はそう誓った。 続く
117 :
えっと :04/02/18 00:10 ID:Zsbgcz0s
6話終了です。今回仕分けが細かいですが量自体は多分そんなでもないです。 面白いかどうかは分かりませんが・・・。今回も分からない人には分からない ネタが何個も出てくるし・・・。
梧桐清十郎ってw わかんない人にはわかんないだろうなw あえて書かせてもらうと誰の視点で書いてるのかわからないとこがあったかな 特に「彼」ってとこに違和感感じた。「彼」だけど「俺」っぽいっていうか。上手くいえないけど・・・
119 :
えっと :04/02/18 17:45 ID:Zsbgcz0s
>>118 視点を動かさないと話が進まないところがあって・・・。
彼は自分でも違和感感じてます。主人公名前がないからなぁ。
いっそ他人の視点は(今後あるか分かりませんが)”俺”に
すればいいのかもしれません。
中澤だったら「あいつ」とかいいかもね
121 :
えっと :04/02/19 22:56 ID:u/1uLH+N
>>121 そう言ってもらえるとほんとうれしいです
これからも差し出がましいこといっちゃうかもしれないけど
楽しみにしてるんで頑張ってください
123 :
えっと :04/02/20 18:54 ID:nLy1pjrY
>>122 頑張ります!
珍しく今日部活早く終わったんで更新します。
7.エンダァァァァー 石川、辻と3人でいつものように昼飯を食べていると、チャイムが鳴った。俺は慌てて残っていた飯を口に入れ、 辻の渋い表情を横目に玄関へと走った。 ガチャッ。 「こんにちは、ちょっといいですかぁ〜?」ドアを開けた途端、松浦が顔を出した。少しびっくりして一歩ひく。 すると松浦はすかさず部屋の中へと入ってきた。 「お邪魔しまーす。」 一応挨拶は忘れない。松浦は奥へ入ると、昼食の匂いをすぐその鼻で察知した。 「おぉ!すごーい。」 石川と辻が食べる本格インド風カレー(あくまで”風”)を見て、松浦は声をあげた。 「石川さんが作ったんですかぁ?」 「うん、すごいでしょぉ〜。」 今回珍しく石川が調理。出来もなかなかのものだった。松浦が石川に少しカレーを分けてもらう中、 俺は聞いた。 「今日は何?」 松浦は口の中の物を飲み込むと、答えた。 「ボディーガードをしてもらいたいんです。」
「ボディーガード?俺に?」 この細身の俺にボディーガードを頼むのは、かなり筋違いな話ではないだろうか? 別に高校時代運動していたからある程度体力には自信があるが、 「ボディーガードなんて、とてもじゃないけど俺の出来る仕事じゃなくない?」 思ったまま口にした。 「いえ、基本は仕事の時怪しい人がいないかどうかの監視をしてくれればいいんです。」 松浦の話によると、最近ストーカー?と思われる人影を仕事から帰る途中見ていて、 それが近寄れないように監視してほしいとのことだった。それなら大丈夫だな、と思い、 「分かった。」 とだけ答えた。 「じゃあ明日お願いしますね。」 明日?!あの・・・。 「明日・・・・試験・・・。」 「お願いしますね!!」 満面の営業スマイル。・・・。
126 :
兵器投入 :04/02/20 19:00 ID:nLy1pjrY
「俺はなぜここにいるんだろう?」 泣きながら車を運転する。助手席には松浦。俺単位微妙なのに・・・。 「頑張ってくださいね〜。」 ニコニコ笑う松浦が、余計に寂しさを誘う。俺は悲しさを紛らわそうと、適当にMDを車に入れた。 曲が流れる。洋楽だったためか、松浦は?な顔をした。俺はそれに気がつき、 「洋楽やめとく?」 と聞くと、少し申し訳なさそうにはい、と答え、自分でMDを取り出し、松浦自身が持ってきたMDを入れた。 曲が流れてくる。・・・・?聞いたことあるような・・・でも思い出せない。なんだ?しかし歌い手の声ですぐに分かった。 「あや・・・や・・・・。」 俺は少し呆れてつぶやいた。どうやら自分のアルバムを投入して来たようだ。松浦は曲に合わせて楽しそうに口ずさんでいた。 「どないやねん・・・。」 俺は松浦が聞こえないようにつぶやいた。
まず最初はTBS。赤坂だ。ちょうど新曲のプロモーションと言う忙しい時期に当たってしまったようだ。 ミニマラソンで見覚えのある心臓破りの坂を進み、車庫へ。 「えっと、うたばん?」 「そうです!一応、スタジオで見学していってください。」 俺は言われるがまま見学へ行った。 とりあえず驚いたのが、予想以上にリハーサルが多かった事だ。軽く流れを説明してそれで終わりかと思いきや、 さすが歌番組らしくないだけのことはあって、緻密だ。念密な打ち合わせが行われ、カメリハなどたくさんのリハを経て、 ようやく本番が始まった。 「にしても豪華だ・・・。」 司会の二人を見てしみじみした。面白いし、いや、面白いのは当たり前か。二人とも立派な芸人だし(何か間違っている) にしても、こんなに早いうちから撮影するとは・・・。トークが終わると次は歌録りだった。曲は一度も聞いたことのない曲だったので、 少し驚いてしまった。早いうちから色々聞けるなんて、羨ましい。たまにはデモテープくらいくれたっていいじゃないか。
松浦の歌を見て(聞いて)いると、凄いオーラを感じ、そっちの方を見た。狂乱の貴公子、ガッくんことGackt。 どうやら二本撮りらしい。Gacktは俺の存在に気がつくと、俺の方に近寄ってきた。カラーコンタクトが雰囲気を一層引き立てる。 Gacktはやはりボソッと言った。 「君は?」 「松浦の、ボディーガードを頼まれまして・・・。」 俺は柄にもなく緊張しながら答えた。普段散々芸能人と接してるのに・・・。やっぱ彼女らはそう言う感覚じゃないからかなぁ。 「そう。よろしく。」 Gacktは俺に手を差し出した。え?なんで?握手ですか?俺はとりあえず手を出し、握手した。 グシャッ。 「はぅ!!!」 「じゃ。」 Gacktは相変わらず呟く様に言うと、俺の背中を一回軽く叩き、去っていった。 ちょうど松浦がそのとき戻って来た。松浦は俺の手を見て、言った。 「どうしたんですか?手、腫れあがって真っ赤っ赤じゃないですか!!」 「・・・・なんでもないです。」
129 :
機能停止 :04/02/20 19:03 ID:nLy1pjrY
うたばんの撮影が終わると、俺達はすぐにTBSを飛び出さなければいけなかった。流石売れっ子。忙しい。俺が片手で運転をする中、 松浦がうたばんで貰った弁当にがっついていた。そういえば朝も食べてたなぁ。てかまだ10時とかですよ? 「あやや1日何回食べてる?」 「えっと・・・7回?」 多!!エネルギーの源は食べる事なのか?!一瞬辻の姿が揺らいで消えた。 「次は講談社か。」 「うん、グラビア。」 スピーカーから流れる音楽が止まった。松浦がMDを取り出すと、次のMDを探し始めた。 「あやや以外で。」 それだけ言うと俺はもてあましていた右手に軽く息を吹きかけると、左手一本での運転を再開した。
飯あんなに食べたあとにグラビア・・・。水着じゃなくてよかったネ。新曲が春頃発売らしく春系の衣装に身をまとった松浦を見ながらそう思った。 あんだけ食べて、へそ出せるなんてある意味脅威だな・・・。 「お疲れ様でした〜。」 撮影はあっさり終わった。松浦が着替え終わると、俺は言った。 「よくカメラに向かってあんなに笑えるよね。」 プロに対して言う発言ではなかったが、俺にはよく理解出来ない感覚だった。昔から写真を撮られるのは好きじゃなく、撮る方が全然好きだった。 そんな俺からしてみれば、カメラに向かって色々な表情を浮かべる松浦は不思議で仕方がなかった。 「お仕事だしぃ〜、可愛く撮りたいから。」 あ、そっか。ナルっ気があるの忘れてた。俺は納得した。全然話が飛ぶが、俺は不意に思い出したので、聞いた。 「そういえば学校ってどうしてるの?あんまり皆話さないけど。」 「今からですよ。」 「今――?!」
車が学校に到着したのは12時ぐらい、松浦の教室に到着するともう昼休みが始まっていた。松浦はクラスの友達に混じりすかさず弁当を食べだす。 「また食べてるー!!!」 俺は教室の外で見張り中。明らかに不審な目で見られて警備員に逆に監視されそうになったので事情を説明した。廊下でパンを食べながら、周りを見る。 ・・・だめだ、生徒ばっかりでこの中に混じられたら全然分からない。俺意味無いじゃん。自分の無力さに悲しさを覚えた瞬間だった。
俺は結局5,6時間目は車の中から学校へ侵入しそうな怪しい人物がいないかをずっとチェックしていた。放課後になると、 松浦は急ぎ足で車に乗り込み、次の仕事場へと向かう。 「えっと次は・・・。」 スケジュール表をぱらぱら捲る松浦。松浦は指を止めると言った。 「ラジオ、ですね。ゲスト出演します。」 というわけで出演する番組がOAされているラジオ局まで車で行く事になった。そうか、労働法で遅い時間は生だとまずいんだっけな。 ラジオ番組の裏側は、少しドタバタしているらしい。横で生放送で行っている番組があり、凄い騒ぎ様だった。 スタッフがあっちへこっちへ走り回り、CMのたびにディレクターがダメだし。こっちはなんていうか、平和だ〜。 和やかな雰囲気のままラジオも終了した。
ラジオ収録が終わると、もう夜になっていた。今日の仕事はこれで終わり、と言う事で俺は松浦と一緒に家へと車でそのまま帰ることに。 「ボディーガードは最後家に着くまでがボディーガードですよ?」 松浦がよくあるんだかないんだか分からないような台詞を発した。 「はいはい。」 俺はこのとき、完全に油断していたような気がする。相変わらず片手運転は続いていたが、別に誰もいないじゃん、 と正直余裕ぶっこいていた。しかし家に近づくと、妙な事に気がついた。 「・・・さっきからあの車、つけてきてない?」 俺は呟いた。松浦は後ろを見るとすぐに表情を変えた。 「あれです!」 俺はスピードを少し上げた。一応確認のためだ。後ろを走る車との差は全く縮まらない。 左へ曲がっても、右へ曲がっても、車は着いてきた。俺は叫んだ。 「ペーパードライバーをなめるな!!」 「え?!」 「嘘だよ。」 俺が笑うと、松浦はホッとした顔をした。
134 :
蛍原流 :04/02/20 19:09 ID:nLy1pjrY
なんとか車を撒き、マンションの駐車場に到着すると、あたりは完全に真っ暗だった。 「あ〜あ、もうこんな時間だ。」 俺が嘆くと、エンジン音が聞こえてきた。後ろを振り返る。俺はすぐに声をあげた。 「やばい!撒き損ねた!!」 車は到着し、男が出てきた。なんていうか、オタクっぽい風貌?ただ太ったタイプじゃなくてよかった、 がりがりタイプならなんとか・・・。と思っていたら男はナイフを手に取った。 「邪魔する奴は逝け!」 ブン!! 俺は奇跡的にナイフを避けた。すると松浦が俺に一瞬だけ近づき、渡してきた。 「これ!!」テニスラケット? 「そそそそ。よし、岡。エースを、 ねらえねーよ!!てか2話続けてこのネタかよ!!」 何こんなときノリツッコミさせるんだこいつは。そんなことをしている間に男は突っ込んできた。
135 :
NG :04/02/20 19:11 ID:nLy1pjrY
ブーン!! 男は腕を上から振り下ろしてきた。俺はそれをラケットで迎え撃つ。 カン!!! 鈍い音とともに、ナイフが空中で回転した。 「キャッチ!!」 松浦の言葉に、俺は反応してナイフをそのまま感覚のない右手で受け止めた。 グチャッ。 「あ。」 なんて間抜けな・・・。 ピューッ。 血がそこらじゅうに吹き出た。 「うわ!!」 運良く血が男の目に入り、男は目を擦り始めた。しめた。俺はこれをチャンスとばかりにすかさずキックを繰り出した。 う・・・力が入らない。 ボンッ。 「あ。」 なんとか当たっても、威力は微々たるものだった。俺はそのまま出血多量で貧血を起こし、立てなくなってしまった。 男はまだ目を擦ってる?・・・視界がおかしくなってきた。
136 :
恐 :04/02/20 19:12 ID:nLy1pjrY
うすれゆく視界の中で俺が見たのは、誰かが男を投げ飛ばす風景。男が地面に叩きつけられると “誰か”は男の上に馬乗り、マウントポジションに入った。ああなんてむごい。男はボコボコに顔を殴られ続けた。 男は未だに視界が遮られているままで誰にやられているのか全然分からないようだった。男が気を失ったところで、 “誰か”は俺に近づいた。 ・・・松浦?ボディーガードなんていらないじゃん・・・。俺の意識はそれ以上続かなかった。
次の日、昼頃のニュース。 次々とフラッシュを浴びながら、松浦が珍しくカメラとは違う方向を見て言った。 「ホント、恐かったです。助けていただいて、どうもありがとうございました。」 表情はその恐怖を物語っている。横にはお礼を言われて納得の行かない表情の男1名。何?いつの間に事実摩り替えたの? 目がちかちかして来た頃、報道陣が更に質問を続けた。 「お二人は、お知り合いですか?」 「はい、同じマンションに住んでいて。最近夜道に気配を感じてたんでボディーガードを頼んだんです。」 報道陣の質問は続く。 「男がナイフで切りかかってきたとき、どう思われました?」 「怖かったですよぉ〜。でもこの人、ナイフを素手で受け止めて、男を投げ飛ばしたんですよ!!ちょっと興奮しちゃいました。」 少し笑みをこぼす松浦。 「男は顔面にかなりの傷を負ってましたが。」 松浦は少し興奮気味に答える。 「ああそれはそのあとまた松浦に遅いかかってきたときに右ストレートでズバッと!!」 「では・・・・・・。」 フェイドアウト。 続く
138 :
えっと :04/02/20 19:16 ID:nLy1pjrY
7話終了です。私事で恐縮ですが、テストが近づいてきました・・・。その前に もっと書いてしまいたいなぁ。勉強と部活と小説の両立ってのはなかなか大変そうです。
おっ更新乙! なんつーかすごい読みやすくなりましたね どこが変わったのかはわかんないけど 成長が見られてうれしいですw ところどころに入れてある小ネタも気づくと楽しいですね テストですか、高校生でしたっけ? そうなら小説は後回しにしたほうがいいですよ 以上大学生より
140 :
えっと :04/02/21 19:09 ID:7qXuVQkr
>>139 読みやすくなりましたか、それはよかったです。
月曜から1週間前なので、それまでに8話は更新
したいですね。ただ8話は9話に繋がる展開なんですよね・・・。
141 :
えっと :04/02/22 22:08 ID:Cj801PTk
なんだか書いてたら初めてドラマっぽい?話が出たり架空の人物が 出てきたりしました。更新します。これを最後に次の更新はおそらく テスト後、3/5か6日あたりになります。
8. ピンポン玉 ボディーガードの一件から、大学にいると妙な視線を感じるようになった。気がつくと変な男達に囲まれている。 それでも単位が危ないから出続けなければならない。変な男達を頑張って撒きながら、俺は授業に出続け、 なんとか進級までこぎつけた。 家でほっとしていると、押入れの方から声が聞こえてきた。 「ちゃ〜おぉ〜。」 俺が押入れの扉を開けると、這う様にして石川は出てきた。 「よいしょっと。」 なんとか身体を全部通し、部屋に入りきると、石川は言った。 「旅行行かない?」 「旅行?」 突然だったので俺は驚いた。てかそんなに暇あるの?石川は話を続けた。 「温泉旅行なの。中澤さんが行けなくなっちゃって、一人分キャンセルするのも癪だから、どうかな、 って思ったんだけど、どうかな?」 俺はすぐに答えた。 「いくいく!」 「自腹だけど。」 「おい!!」
143 :
低血圧 :04/02/22 22:15 ID:Cj801PTk
明日と聞いたので俺は慌てて支度を始めた。1泊だからたいした荷物はいらない。 適当に服類をスポーツバックに詰め込み、すぐに支度は終わった。 メンバーは石川、後藤、吉澤、矢口、安倍。どうやらある程度年齢の行ったメンバーにして 騒がしいのを排除したようだ。確かにその方が疲れないから温泉に行く意図を的確に捉えている。 ただ一つ俺に問題があった。 「朝早いんだよな〜・・・。」 朝に弱い俺にとって、5時集合は地獄だった。でもまあ集合がC棟なだけマシだった。 それに間違いなく彼女は遅刻するだろう・・・。
AM5:00 「眠い・・・。」 俺はあくびをすると、目を軽く擦った。とりあえずほとんど揃っていた。 「やっぱり来ませんね。」 石川が矢口に言う。 「いつものことだよ。」 矢口はいつものように笑っている。後藤は今にも眠りそうな顔でフラフラ。吉澤が支えている。 「ごめんごめん!寝坊したべさ〜!!」 A棟の方からドタバタと音が聞こえてくる。5分遅れ、今日は90点でしょうか。 「いいよ、上出来。」 俺が言うと、 「え、でも、35分も遅刻しちゃった!!」 矢口が後ろで噴出す。俺は何を言っているのかよくわからなかった。矢口は笑い終わると、言った。 「なっちにはね、30分早く時間教えておいたから、大丈夫だよ?」 「・・・・ひどぉ〜い!!」 安倍は口を膨らませた。
「え、電車?」 俺は駅に着くと、呟いた。 「そだよ、それが?」 後藤が答えた。 「大丈夫?」 「大丈夫。」 後藤はそれだけ言うとさっさと行ってしまった。 俺達は電車で新幹線のある駅までの間、特に視線を感じることもなく普通に行くことが出来た。 無理もない。平日、早朝。そこまで人がいるわけでもないし、大体が眠そうな表情をしている。 そこまで目が行かないのだろう。 駅に着くと、眠る後藤を吉澤と二人で担ぎながら電車から降りた。そしてそのまま新幹線のホームへ。 「グリーン車?」 「そゆこと。」 確かに指定席ならある程度は・・・。でも自腹なんだっけ、なんか俺だけ痛くない?他は年収うん千万なのに。 まあ旅行を共にさせてもらうだけ、姐さんに感謝だ。 今回仕事じゃないし。
「爺・・・・婆・・・・爺・・・・婆・・・・爺・・・・婆・・・・。」 どこを見てもご老人ばかり。辺りを見回すと『老人ホーム温泉旅行ツアーご一行』の旗が見えた。なるほど。 席は二人ずつということで俺は石川と一緒になった。他はそれぞれ後藤吉澤、安倍矢口の組み合わせ。いつも通りな感じがするが、 俺はバレンタインのときから未だに石川を意識してしまっていた。真意を聞かないことには、いつまでも気持ちのモヤモヤは消えない。 いわゆる、好きでない子でもチョコを貰うと急に好きになってしまう、あの現象なワケだが・・・。石川をじっと見た。 やっぱなんだかんだ可愛い。なんで俺ここにいるんだろ。 「?どうかしたぁ?」 石川は俺の視線に気がついたのかそう言った。 「いや、別に・・・。」 「ふぅ〜ん。じゃあいいや。」 石川はそう言うと窓に視線を移し、なにやら鼻歌を歌い出した。・・・聞けない、なんていうか、恐くて。 びびってしまう自分が情けなく、弱く感じた。
147 :
仁義ない :04/02/22 22:22 ID:Cj801PTk
電車の中で駅弁を朝飯代わりにほおばる。石川と違うのを買ったのでお互いに少しずつ分け合いながら食べていると、 車両間を繋ぐドアが開いた。 「ん?」 誰かが入ってきた。おかしいな、この車両ほぼ老人ホームで貸切なのに・・・。 「・・・。」 その姿を見て、6人は絶句した。や○ざ?やく○なのか?真っ白いスーツ、サングラス、 オールバック、顔に傷。男は俺達の目の前まで来ると、胸ポケットに手を突っ込んだ。 「!!」 拳銃?!男はすぐさま手を取り出した。 「サインしていただけませんか?子供がファンなもので・・・。」 全員座っていながらこけそうになる。 「(びっくりしたぁ〜)」 「(でも絶対○くざっす!)」 「(怖いからこれ以上近づかないで!いやほんとに!)」 「(眠い・・・。)」 「(ファンなら安心だね)」 「(マジびびった〜。でもや○ざかな?)」 どれが誰かはご想像にお任せします。男はサインをしてもらうと、ポケットから何かを取り出した。 シャキーン! ナイフ?! 今度こそやばい?!男はナイフを振り上げた。
「いや、しゃれにならないっすよ、マジで。」 俺が言うと男は申し訳なさそうに言った。 「すみません、自分、顔恐いんで。」 恐いだけですか?俺はりんごでウサギを次々と仕上げてゆく男を見ながら、 冷や汗をふき取っていた。 「上手〜。」 石川は感心している。俺にはりんごの皮が血にしか見えないんですが? 「できました。どうぞ。」 全員にうさぎを一つずつ配る。 「あぁ、そうだ。」 またポケットに手を突っ込み、なにやら小さな筒を出してきた。 ・・・薬? 「爪楊枝です。」 全員再びこけそうになった。
旅館に到着すると、まず矢口が声を上げた。 「おぉ!!ごっちんやる〜!!」 「いいでしょ、探すの苦労してさ〜。いろんな人に穴場ないか聞いたんだ。」 後藤は満足そうな笑顔で答えた。冬なのに意外と客がいない。しかし寂れている訳ではなく、 まさしく穴場と言えるような風貌だった。 奥へ入ると、本当にホテルと言うよりは旅館だった。温泉、卓球、和室。まさに「和」である。 「わび」「さび」を感じつづ部屋に入ると、やはりそこも「和」な造りだった。俺は中澤の代わりだったから安倍、 矢口と同じ部屋だった。残り3人が隣の部屋。 「着いたぁ〜。」 安倍はそう言うと、畳の上で転がった。俺は座布団を3つ取り出し、座った。置いてある和菓子を口にする。 「お茶入れるね。」 矢口が部屋にあるコップを置き、入れてくれた。 「ありがと。」 矢口は自分、安倍の分も用意すると、自分も座布団の上に座り、お茶を飲んだ。 「はぁ〜、辻加護とか連れて来なくてよかったわ〜。」 同意。
150 :
売れそう :04/02/22 22:26 ID:Cj801PTk
しばらくまったりしていると、安倍が言い出した。 「温泉行くべ。」 隣部屋の3人も誘うと、浴衣を着ることになり、俺はトイレに隔離された。 「ちぇっ。」 当たり前なのに何故か悔しがりながら俺は俺でトイレで着替え。 5分後・・・。 「お〜、あんたも意外に似合うじゃん。」 矢口に言われて俺は少しだけ照れた。お二人さんにはかないません。 全員出揃うと、俺はノリで一言、言ってみた。 「シャッフルユニット?!」 全員お互いを見ると、笑顔で「せ〜の」の後に言った。 「温泉6〜!」 いいなぁ、こんなメンバーがシャッフルで揃う事ないし。 (まあ元は同じグループだけど、今となってはね)
151 :
ス :04/02/22 22:27 ID:Cj801PTk
男湯女湯に残念ながら別れていて(贅沢言い過ぎ)、俺は一人男湯に入った。でも、温泉と言う事は、定番ですよね。 身体を洗い、露天風呂につかると、女湯の方から声が聞こえてきた。こういう場合大体興奮させてくれるような話のはず・・・。 ごくり(おっさん) 「あ!ごっちんまたおっぱ」 キター! 「待って!!」 おい!!吉澤がせっかくその手の話をしだしたのに矢口が遮った。 「向こう側、いるよ?」 流石娘。一のエロ(略)俺の考えを完全に読みやがった。 「・・・・・・なっちさん最近どうですか?」 石川が一瞬の静寂の後突然言った。おそらく何を言おうか考えたのだろう。チッ。俺は脳内で舌打ちした。 しかし向こう側は何故か完全に沈黙してしまった。
女湯・・・。 安倍は遠い目で、陽が少しずつ沈み始めている空を見ていた。 「(梨華ちゃんのバカ!!だめだよ!!)」 吉澤は小声で石川に言った。 「(だ、だって急に言われても思いつかなかったんだもん!!)」 「いいの。」 どうやら聞こえていたらしい。安倍に4人の視線が集まる。 「だって今日はそれで来てるんだべ?楽しもう!」 「・・・そうっすね!じゃあごっちん、ミュージカルはどうすか?」 男湯・・・。 「『今日はそれで来てる』?どういうことだ?」 どうやらこの旅行は、ただの単純な旅行ではないらしい。何か裏に、事情が絡んでいる・・・。 別に考えたところでそれの推測すら出来ないと判断した俺は、一足先に露天風呂を後にした。
夕食は部屋で和食。たまにはこういうのもいいな。俺こういうの作れないし。ここで再び矢口が、 「辻加護連れて来なくてよかった〜。」 同意。特に辻。宇宙の胃袋の手にかかったら、俺は食べるものを失ってしまう。 食べ終わると、俺達はすぐに卓球台へ移動した。人数が多いので3点先取の勝ち残りというルールで行われた。 「ほい!」 元テニス部の石川。 「えい!」 運動神経抜群の後藤。 「たぁ!」 同じく抜群の吉澤。 その3人を核にチャンピオンは形成されていった。それに翻弄される成人3人。全然勝てない。 石川とかもっとトロそうな気がするんだけどなぁ。ちなみに石川相手にはほとんど3−0だった。 やっぱり知らず知らずのうちに意識してしまっている。
卓球台は1時間だけ借りていたので、使い終わると部屋に戻った。そしてトランプ。 なんだか修学旅行のような感覚なんですけど。やはり定番は大貧民。いざやろうというとき、 「あ、なっちはやらないや。」 安倍は外へ行ってしまった。気になるなぁ。 3ゲーム終わったところで俺はジュースを買いに外へ出た。確か自販機は旅館の外だったよな・・・。 浴衣のせいか、外は寒かった。2つ並んだ自販機で、俺は適当にジュースを買った。 ガタンッ。 ジュースを取り出すと、なんとなく、外の方を見た。あれ?自販機の左側に安倍が座っていた。 しかし様子がおかしい。目から涙が流れているようだ。 「・・・!!」 俺が見ているのに気がついたのか、安倍は驚いた顔で俺見た。 「どうしたの?」 俺は聞いたが、安倍の口から出た言葉は意外な物だった。 「えっと、目がかゆくてかいてたら、かきすぎて、涙が出ちゃった。」 「あ。そう・・・。」 とりあえず言いたくないなら無理に言わせる必要もない。俺は適当に合わせると、 「じゃあ、なっちも大貧民入ろうかな?」 なんだか必死に明るくいようとしているように見えて痛々しかった。
俺と石川は二人、罰ゲームでジュースに買いに行かされていた。まあつまり貧民、大貧民だ。 「あそこで8で流しておけば〜。」 石川が悔やんでいる。今更悔やんでもしょうがないだろ。俺だってあのとき・・・。そのとき不意に俺は安倍のことを思い出した。 「そういえば、なっち、どうかしたの?」 石川はすぐに過剰反応した。 「え、え?な、何もないよ?!」 挙動不審になりながらごまかす石川。これなら落せる。 「りかっちは嘘つくとき、眉毛がよく動く。」 俺が指差してやると、 「え!?」 石川はすぐに慌てて眉毛を触った。 「嘘だけど。」 「えぇ?!」 石川はそれを聞くと余計に焦りだした。 「で、何があったの?」 石川は観念すると、話し始めた。 「なっちさん、彼に振られたの。誤解で。」 「誤解?」 「うん、詳しくは言えないけどね。それで、それを忘れさせよう、って矢口さんが言い出して、 旅行に行くことになったの。でも・・・あたしが思い出させちゃった・・・。」 石川は落ち込んだ表情を浮かべた。俺は石川の肩をポンと叩くと言った。 「そうやって落ち込むなんて、らしくないよ?ポジティブポジティブ!」 「・・・うん!はっぴぃ〜!」 いや、はっぴぃ〜はどうかと・・・。とりあえず持ち直しただけいいか。
156 :
短! :04/02/22 22:32 ID:Cj801PTk
部屋に戻ると、 「遅〜い。」 とすぐ矢口に突っ込まれた。 「ごめん!」 俺が謝ると、安倍が立ち上がって言った。 「よし揃ったしカラオケだべ!」 吉澤がそれに反応して、俺に言った。 「あ、またあれ歌ってよ、英語の奴。」 俺は思い出し笑いをして噴出した。
ん?このイントロは・・・。安倍はマイクを持つと歌いだした。 「wow〜wow〜wow〜♪」 Time goes by・・・。全員若干気まずい表情を浮かべた。それに気がついたのか、間奏の時、 「やだなぁ、いつも歌ってるべ?」 と笑ってみせた。1周後、安倍の続いての曲は、 「想い出は〜い〜つも〜キレイだけど〜♪ それだけじゃ おなかがすくの♪ 本当は〜せ〜つない夜なのに〜♪ どうしてかぁしら? あの人の涙もお〜もいだせないの〜♪」 歌い終わって安倍は一言、 「ね?」 全員ホッとした。 その後、石川がカントリー娘。でブーイングを食らったと思えば、吉澤後藤安倍がMr. Moon lightを格好よく決めたり。 俺何歌おうかな〜、矢口と安倍が二人でふるさと(矢口が言い出し全員一瞬ドキッ。)を歌う間に考えた。 「It’s my life〜♪」 う〜む、結局洋楽の有名どころなんだよなぁ、俺。
カラオケが終わると、部屋に戻って就寝となった。 「いいじゃん別に〜」 「開けたら殺す!」 矢口のその一言を最後に襖で完全に仕切られてしまった。ブーブー。別に何もしないってんだ。 ・・・保障はしないけど。 実は窓で部屋間繋がってることに気がつき、ちょっとイケない考えが頭をよぎる。窓からいけるかも? カーテンはないし、見るくらい、ええやん。 窓をそっと開けると、向こうの窓際に安倍が座っていた。こっちには気がついていない。 月明かりがその美しさをより一層引き立てている。しかし、その瞳から一筋の雫が流れ落ちた。 なんだか必死に泣かない様に耐えているような顔だった。
ファサッ。 「?」 俺に毛布をかけられた安倍は、少しびっくりした顔で俺を見た。俺はその横に座ると、言った。 「風邪ひくよ?」 安倍はそんな言葉よりも、涙の弁解を再び始めた。 「いや、これは・・・そ、そうそう!コンタクトが痛くて!」 「無理しなくていいよ。」 俺は本心をそのまま口にした。 「む、無理なんかしてないべさ!」 「俺の仕事、覚えてる?こういう時にこそ、相談してくれないと。」 安倍は何も言わずに俺を見ていた。 「辛い時は、思い切り泣いた方がいいときもあるんだよ?」 俺が優しく微笑みかけると、安倍は満杯のコップから水が溢れた様に泣き出した。 ずっと必死にこらえていたのだろう。 俺は肩を回し、ゆっくりさすりながら何も言わずに泣き止むのを待った。
安倍は泣き止むと、詳しいいきさつを話してくれた。 安倍は大西優さん(素人)という人と付き合っていた。その大西さんと言う人は浮気超反対派な人で、安倍もそれを分かった上で滅多な事がない限り 男性との食事の誘いを断っていた。彼が大好きだったのだ。でもあるとき凄く仲のいい仕事仲間(男)と仕事の合間に昼食を食べに行ったら、 それだけで週刊誌に撮られてしまった。 『なっち 共演中の俳優とお昼の一時』 仕事仲間とご飯を食べに行くという、普通の行為に対してひど過ぎる言いがかりだった。当然その週刊誌以外はそれが分かっていて、 取り上げはしなかったが、彼はそれだけでもうだめだった。そして破局。大西さんは話すら聞いてくれず、 「やっぱりなっちはアイドルだし、そんな事もあるんじゃないかって、思ってた。でも、信じてたんだ!それなのに!」 とそれだけ言うとその場から立ち去り、番号拒否され、メアドも変えられてしまった。
俺は話を聞き終わると、話ながら泣いてしまった安倍の涙をハンカチで拭い、頭を撫でた。 「!・・・・。」 安倍は驚くも拒否はしなかった。俺は言った。 「ごめん、でも今俺に出来る事なんて、こうやって慰めることしか出来ない。」 俺は更に、安倍の目を見ながら言った。 「ごめんね、力になれなくて・・・。」 「そんな・・・そんなこと、ない・・・・べ・・・。」 また目を潤ませる安倍。安倍はその顔を俺の胸にうずめた。 「うわ?!」 安倍は毛布を俺にも分けるようにかけてくれた。俺はその上から安倍の肩に再び腕を回した。 「話を聞いてくれるだけで、うれしい・・・。」 泣きながら途切れ途切れに、安倍の声が聞こえた。俺の胸が涙に濡れてゆく。 「なっち・・・・。」 俺は呟きながら、肩をまた、ゆっくりとさすった。
ガラガラ!! 「二人で何やってんのー!!!」 矢口の突然の叫び声に俺達は飛び上がるくらい身体を震わせた。 二人で一つの毛布、俺の胸に顔をうずめる安倍、肩には腕が回っている。こりゃ変に疑われても仕方がないだろう。 「なっち〜?もう切り替えて見つけちゃったのかな〜?」 男を見つけちゃった、という意味か。 「うん。」 『え?!』 俺と矢口は同時に声をあげた。 「嘘だべ、あはは。」 笑い出す安倍。俺達もつられて頬を緩めた。 今日初めて、安倍の笑顔を見た気がした。
帰りの電車の席は、石川と吉澤が入れ代わる形になった。(だってごっちん寝てばっかりなんだも〜ん、とのこと) しかし蓋を開けてみれば俺と後藤以外全員寝てしまった。珍しいなと思ったのと、席が隣なのもあって、 俺は後藤に昨日の話をする事にした。その話を聞き終わると、後藤は言った。 「なっちはね、なんていうのかな。ピンポン玉みたいなんだよ。」 「ピンポン玉?」 「そう、ちょっとの衝撃でも吹っ飛んじゃって、壊れやすい。」 壊れやすい・・・。確かに安倍はそう言うところがあるかもしれない。昔、全く同じような形で彼と別れている安倍は、 そのときは実家に帰って泣いた、と『ふるさと』のような話を聞いた事がある。切り替えが効かず、尾を引いてしまうのだ。 俺の正直同じようにちょっと引きずるところがあるから、気持ちがよく分かる。昨日はそんな想いでおせっかいをしてしまった。 そのときの安倍の姿を見て、安倍の「脆さ」を感じた気がした。離したら壊れてしまいそうな、そんな感覚だった。 「俺はどうすればいいんだろう。」 俺はふと、つぶやいた。後藤は答えた。 「何もしなくていいんじゃない?」 「え?」 「だって言われてから動くのが仕事じゃん?」 あ、そうだった。言われてもいないのに動いたらまたおせっかいだ。 「なっちが自分から何か言ってくるまで、待とう。」 後藤はなんだか遠い目で、呟いた。
マンションに着き、解散して部屋へと戻った。なんだか、短かったような、長かったような・・・。 とにかく色々考えさせられる旅行だったと思う。これから、安倍は立ち直っていけるのか・・・。 誤解で安倍に何の非もないのに別れたのだから、しばらくはきついかもしれない。 少しすると、矢口が部屋にやって来た。中に招き入れると、聞いた。 「仕事?」 「うん。」 矢口は真剣な表情で言った。 「なっちと大西さんのよりを戻して!!」 「はい?!」 さっき後藤と出した結論を吹き飛ばすような声に、俺も吹き飛んだ。 続く
165 :
えっと :04/02/22 23:18 ID:Cj801PTk
8話終わりです。すんませんこんなところで終わって。 しかも改行で1回マジで致命的なミスを・・・。(他にもあるかも?) とりあえずこの先の展開を考えつつ期末に臨みたいと思います。(考えてないのかよ)
更新乙 試験頑張ってねーノシ
更新乙です。 以前にも改行とかの話が出てたけど、 個人的には行の先頭は揃えた方が良いと思います。 一マス空けるなら、かわりに一行分下げて書いてみるとかね。 文字のサイズは多分 最小で見てるんだろうけど、 わざと”中”まで上げて、その表示を意識しながら改行してみてはいかがでしょう。 話のテンポが良いので、読みやすくなれば もっと面白くなると思います。 長々と偉そうなこと書いてスミマセンデシタ。 期末テスト頑張ってください。応援してます。
そうだなー 1文字とか2文字だけ次の行に行きそうな時は その前のキリのいいところで改行した方がいいかも
169 :
えっと :04/02/23 18:27 ID:xqdSwZKz
>>166 168 試験頑張ります!部活も。体力落ちちゃうんで。
自分の思っているより早めに改行した方がいいのかもしれません。
>>167 中ですか。俺”小”で見てるんですよ(汗)
なんか今打ってる画面では並んでるのにいざ書き込むとずれてたり・・・。
試験後には改善してお送りしたいですね。
こんな風に書きに来るなら書けよとか思うかもしれませんがちょっと
ご勘弁を(汗)
ところで保全とかしないとdat落ちしちゃうんでしょうか?そこら辺
全然よく分からないんですよ。
>>169 そうそう落ちることは無いと思うよ
気にせず勉強しな、俺ができるだけ保全しとくから
171 :
えっと :04/02/23 20:30 ID:xqdSwZKz
>>170 どうもありがとうございます。
安心して勉強することにします。
保全
ほ
朝保全
一日一保
良小説スレ保全。 試験頑張ってください。 小説も期待しています。
177 :
えっと :04/02/29 04:46 ID:OP+J9aen
どうも、目下勉強中です。眠いです。なんでパソコンをいじってるかと言うと
歴史の試験用プリントなるものを作っているからなのですが(誰も聞いてない)
>>176 こんなしがない駄文を良小説と言ってもらって本当に嬉しいです。
試験頑張ります!
続きはもう考えてあるだけに書きたくて仕方がないのですが、我慢して試験に
望みます。ちなみに試験は月曜から5日も続くので(汗)金曜日部活終わったら
残った体力ここにぶち込みます。
留守番保全
捕鯨
起き保
ほ
おは保
183 :
えっと :04/03/05 17:40 ID:G/4b2OC4
試験終了しました!保全してくださった方々、どうもありがとうございます。 では、これから一気に残りの体力(現在24時間不眠中)を使って書きたいと 思います。
9. Dramatic story 矢口の一番最近の相談は別れさせることだった。そして今度はよりを戻すこと。 なんだってんだ一体。それに、 「ごっちんとさ、なっちが自分から相談してくるまで待ったほうがいいんじゃないか? ってことになったんだよね。」 「それだとなっちが壊れちゃうと思う。」 壊れる?後藤との話でその単語に敏感になっていた俺はちょっと反応してしまった。 「なっちは、相談する勇気がないよ。大体あんた自分で相談するなって言っちゃったじゃん。」 確かに。俺は昨晩の自分の台詞が頭をよぎった。 「ごめん、でも今俺に出来る事なんて、こうやって慰めることしか出来ない。」 この言葉で安倍はこれ以上相談する気を失くしていたとしたら・・・。 「よし、やる!」 でも、どうやって?難しい問題だった。大体大西さんと会った事もないし。それにしても・・・。 「なんで矢口、そんなに詳しく昨日の俺たちの会話知ってるの?」 矢口はやばっ、といった表情で沈黙した。 「・・・・・・・・じゃあ任せたから!!」 そして矢口はそのまま去っていった。
結局おせっかいを焼く形になってしまったようだ。しかし・・・。 「俺大西さん知らないし・・・。」 独り言を呟く。 「お困りのようだね〜。」 例の如く押入れから声が聞こえたので、俺は押入れを開いた。 「りかっち知ってるの?大西さんの事。」 「もちろん!ライブとかにもよく差し入れしてくれたもん!」 ライブで・・・差し入れ? 「えっと、大西さんって、何やってる人?」 「A.事務所の人 B.テレ東スタッフ C.ビックカメラ店頭社員 D.コンビニ店員。」 なんか全部出逢い方想像つくなぁ。 「てなんで4択なんだよ!!」 しかし俺のツッコミなんて石川は聞いてくれない。 「大西さんが仕事していた順に並び替えください。」 「嘘ぉ?!」 「早くしないと!みのさんとバトれない!!」 「えっと・・・DCBA!!」 俺は出来るだけ早く答えた。 「一番早く正解したのは・・・・・・・・・石川梨華!! 『え?やったぁ〜!!!』」 「おい!何下手な一人芝居してんだよ!!」 「嘘だけど。」 「え?!ここまでやって?!てかどこからどこまで嘘なの?!」
「正解はC。別れる前はA。」 「てことは別れて仕事やめちゃったってことか。」 「うん。大西さんが新しくやりたいことが見つかった、ってのが表向き。 実際は大西さんが芸能人不信になって辞めたがっていたのと、 なっちさんの仕事に悪影響を出さない為に辞めさせたがっていた会社側 双方の思惑が合致したって所。」 石川が難しい言葉使って話しているの初めて聞いたかも・・・。俺は驚いた。 「でもなんでその事知ってるの?」 俺が聞くと、石川は説明してくれた。 「たまたまそのビックカメラに行っちゃったの。そしたら大西さんがいて。 最初は目を逸らしたりしてきてちょっと寂しかったなぁ〜。なんとか話したら、 『この仕事をやってることは誰にも言うな』って釘刺されちゃったの。 今大西さんが何やってるのか知ってるのあたしだけじゃないかな?」 なるほど・・・。とりあえず今の話を聞いている間に、俺が今後すべき行動を脳内で整理した。 そして聞いた。 「どこのビックカメラに勤めてるの?」 石川に教えてもらうと、俺は言った。 「バイトに行ってくる。」 とりあえず俺は次の日、面接をすることになった。
「よし行くか。」 俺はビックカメラの面接へ行く準備を済ませ、家を出ようとした。すると、 「ちゃ〜お〜・・・・。」 なんだか死にそうに元気のない声が聞こえてきた。押入れを開けてやると、 エクソシストのように這って入ってくる石川。 「どした?」 顔色が明らかに悪い。石川は答えた。 「熱〜・・・・・。助けて〜・・・。」 知恵ね(以下略) バイトはあっさり採用となった。明日から、「仕事」のために仕事。 しかしその前にやらなきゃならない事がある。こっちも「仕事」だ。 「お雑炊だ〜。」 今回はそれに加えちゃんとした卵酒も作ってみた。何気ない嫌味に石川は気づく気配はない。 食べ終わり、石川を横にすると(何故か俺のベッド)、 「熱下がったな。」 「そこおでこじゃなくて顎!!」 顎をしゃくる俺に怒りの一言。 「ああ、ごめんごめん。」 わざとらしく笑って見せると改めて額に手を当てる。 「大分下がったな。今日仕事休んじゃった分、頑張れよ。」 「うん!」 石川はニコニコと笑顔で答えた。この子、テレビで画面の隅とかにいると 暗い表情のこと多いのになぁ、そんなことを思いながら俺は微笑み返した。 ドキドキを少しごまかすように。それに石川は対してもう一度笑うと、言った。 「じゃあ看病してくれたお礼に大西さんの性格教えてあげる!!」 それは願ってもないことだった。人の心を動かすには、 その人の心を知らなければならない。 「マジで?サンキュ。」 俺が言うと、石川は歌い出した。 「何もい〜わ〜ず〜に♪付き合ってくれ〜てサンキュ♪」
カーン。 鍋を叩くと石川は凄く不機嫌そうな顔でこっちを見た。俺は言った。 「7点。」 「何点満点?」 「100。」 「え〜ちょっとは増やしてよ〜。あたし一応歌手〜。」 え?初耳ですぅ。(ひどい) 「じゃあ√7。」 「やったぁ〜。」 石川はそれを聞くと喜んだ。バカ・・・・。石川は喜びながら、言った。 「じゃあ『king of大西』にしてあげる!」 「いやそんなに知りたくないから。」 俺は大西さんのパーソナリティーを叩き込まれ、明日に備えた。
189 :
助演男優 :04/03/06 00:26 ID:qgxcExkc
次の日から、俺のビックカメラでのバイトは始まった。そういえば、仕事中に相談受けたら どうするんだろ?電話相談に切り替えか?そんなことを思いながら、俺は大西さんとはじめて会った。 思ったよりは普通の人で、でも凄く雰囲気のある人だった。大西さんは言った。 「分からない事があったら何でも聞けよ!」 「はい!」 「まあ俺も入ったばっかりだけどね。」 大西さんはそう言って笑った。これはチャンスだとばかりに俺は聞いた。 「前は何やってたんですか?」 俺が聞くと、大西さんは笑いながら答えた。 「そいつは言えねぇ。」 「え〜、いいじゃないすか〜!」 「だめ。」 でも、石川の話によると・・・。 「お願いします!」 「う〜ん、分かった。」 石川の言った通り、大西さんは3回目で答えた。分かりやすい人だな。 「芸能事務所で仕事しててな。」 「え?!マジすか!?どんな人いました?」 あ〜、演技力必要だな〜、俺の仕事段々拡大されてないか?
「モー娘。」 大西さん、もしかしてもう割り切っちゃってる?大西さんがあまりにも あっさり答えたので驚いた。ならば深く突っ込んで核心に迫るしかない。 「話したこととかありますか?」 「ああ、仲良かったぞ〜。『娘。悩み相談室』なるものをやっててな。」 ・・・え?俺は全身に何かが走るような衝撃を覚えた。 この仕事は、俺が初めてではなく、前に大西さんがやっていた・・・? 俺はなるべくこの衝撃を「驚き」の表情に変えるように努め、話を続けた。 「そんで相談してるうちに付き合っちゃったりしてたんじゃないんすか?」 「うん・・・まぁ、な。」 認めたから割り切っていると考えるのか、それともこの「ため」をどう読むのか・・・。 やりすぎると今後聞きずらいと判断した俺は、適当に話を変えてその場の空気を軽くした。 とりあえず、石川から聞いた大西さんの趣味に合わせて。
191 :
心の病 :04/03/06 00:29 ID:qgxcExkc
「・・・・・・・。」 俺は家に帰ってくると、ソファに座り、ぼーっと色々考えた。大西さんから聞いた事を。 「俺は・・・・・・。」 俺は、ただの後釜なのだろうか?今までこのポストを、自分だけの特別なものだと思って 一人喜んだりしていた自分が馬鹿みたいに思えた。 石川のこのバイトを薦められたときのことを思い出した。 「いいバイトないかって言ってたよねぇ?」 「うん。あったの?」 「うん。明日連れてってあげる。」 別に、俺がこの仕事をやる初めての人だとか、そんなことを何一つ言ってない。でも石川は、 つんくに頼まれて適当な人を探していただけなのだろうか?所詮代理、所詮バイト。例えば 俺がそのうち辞めたら、また新しい人雇って・・・・。その流れがずっと、続いてゆくのだろう。 別に当たり前の事なのに、何故か嫌な気持ちになった。なんでだろう。説明が出来ないおかしいな感情に、 俺は悩んだ。
192 :
名言 :04/03/06 00:31 ID:qgxcExkc
数回のバイトを経て、俺は大西さんと飲みに行く事になった。俺の気持ちのモヤモヤは 未だ消えていなかったが、仕事はちゃんとしないといけない。俺は切り替えて仕事に望んだ。 石川のマニュアルによると、酔うと口がべらぼうに軽くなるらしい。なんでそんなに詳しいのか聞いてみたら、 「なっちさんのノロケ話。」 なんでもマニュアルはそれで手に入れたデータで9割近くを占めているんだとか。 適当に大西さんが酔っ払ったところで、俺は話を始めた。 「そういえば、前の仕事のとき付き合ってた娘とはまだ続いてるんですか?」 「いや、もう別れた。」 表情に曇りがあまり見えない。平然としている。 「えー勿体無いっすよ!!どうして別れたんですか?」 酒を飲んでいるせいか、ためらうことなく大西さんは言った。 「向こうの浮気。」 「ちなみに誰ですか?」 「安倍なつみ。」 あ、なっちとは言わない。 「え゛――!!?浮気とかしなさそうですけどねぇ?」 とりあえずフォローをしつつ話を繋げた。 「俺もそう思ってた!!!」 突然キレ気味になる大西さん。やばい!やりすぎたか?! 「でも・・・雑誌に載りゃ・・・。」 大西さんは泣きそうな顔で、ちょっと上を向き、言った。 「見えないものは、見えないままの方がいいのかもな・・・。」
193 :
2次会? :04/03/06 00:32 ID:qgxcExkc
大西さんと別れた後、俺は矢口と落ち合った。とりあえず近況報告を兼ねてだが、 飲みに行くのがメイン。俺は大西さんとの食事では話すのに必死でほとんど酒を 口にしていなかったから、一気に行った。 「行くねぇ〜。」 笑う矢口。矢口も酒を飲むと、聞いてきた。 「どう?今の所。」 「誤解は全く解消されてないみたいだね。でもまだチャンスはあると思う。 大西さんもまだなっちのこと好きなんだ。」 「手はあるの?」 「ないけど・・・やるしかないだろ。そっちの方は?」 「相変わらず、コントでもNG連発するし。」 あまり余裕持ってやるもんじゃないみたいだな・・・。 「にしても大西さんも雑誌じゃなくて彼女の事信じればいいじゃねぇかよ。」 酒の回ってきた俺の口からは本音が飛び出した。 「あ〜それおいらも思った!!」 「だよね?!そこで信じてやれないのはだめだよな。でもまあ素人と違うから そう簡単なもんじゃないんだろうけど。」 そう、簡単じゃない。日に日に石川の事が気になってゆく自分がいたが、 そう思っていつも頭の中からかき消していた。 そんな俺がこんな事言うもんじゃないんだろうけど。 信じてあげれなかった大西さん。 信じてもらえなかった安倍。 この二人の関係と心の修復は、難題だった。
「そういえば聞きたいんだけどさ。」 俺は酒の追加注文をしてから言った。 「なっちと大西さん、別れてどのくらいになる?結構経ってない?」 「うん、半年ぐらい前?」 やはり俺と入れ替わっている。タイミングもぴったり。でもそこで俺は一つ、 新たな疑問が生まれた。 「え、じゃあ半年も引きずっちゃってるって事?!」 俺はちょっと大きめの声で言うと、矢口は何故か焦りだした。 「あ・・・なんていうか・・・・。」 「どうしたの?」 「その・・・・本人が忘れかけてるときに旅行提案しちゃったらしくて・・・。 その趣旨を分かられちゃって・・・・ぶり返しちゃっ・・・た。」 騒がしい居酒屋の中で、この空間だけは、確かに今静けさが走った。 「・・・その後始末を俺がやると?」 「後始末なんて聞こえ悪いなぁ!!!なっちのためだよ!!」 そうだけど・・・。どうなのよこれ?
195 :
Aの憂鬱 :04/03/06 00:39 ID:qgxcExkc
次の日、俺は安倍の部屋に足を運んだ。 「(いるかな?)」 チャイムを押して数秒後、ドアが開いた。 「あ、どうしたの?」 安倍はいつも通り笑顔で迎えてくれた。しかし、今日はなんだか その笑顔が作ったようなものにしか見えない。 「元気かな・・・・って思って。」 安倍はすぐにその言葉の意味を理解した。 「うん、全然大丈夫!えっと、中入る?」 いつもより声を張り上げる安倍。強がっているのも表情で読み取れてしまう。 「うん。」 家の中に入ると、安倍はキッチンで何か飲み物を出そうとしている。 安倍は聞いてもいないのに、話し出した。 「仕事の調子も凄くいいし、あ!!」 ガシャン!! 安倍はコップを落として割ってしまった。 「大丈夫!?」 俺はただ怪我はないかとか、そう言う意味で言ったのに、 安倍はこれを別の意味として捕らえてしまった。 「うん!全然・・・・全然大丈夫だから、心配しなくてもいいんだべ?」 安倍の目は潤んでいた。声も震えている。 「ほんと・・・・ほんと・・・大丈夫だから・・・。ごめん、ちょっとトイレ。」 安倍は小走りでトイレに駆け込んだ。中からはすすり泣く声が。これじゃ俺も矢口と同じだな・・・。 凄く罪悪感を感じた。 「ごめん、俺帰るわ。」 「え?!い、いいの!!いいべさ!!別に大丈夫!!」 精一杯、平然を装うように努めている声が聞こえた。 「ありがとう、別に用事が出来ただけだから、気にしないで。」 俺はそう言うと安倍の部屋を出た。
その後、しばらく動きのないまま、俺は二つのバイトを続けていた。ただし相談室のほうは 電話相談に切り替わり、事前にメールを打つ、という事になった。ビックでのバイトを終えると 俺は急いで電話をかけなければならなかった。時には数件。このままだと俺の身も持たないし、 安倍が与える仕事への悪影響も凄いらしいので(現にそれを相談内容にしてきた娘もいた) 俺は一気に勝負に出る事にした。 「え・・・・・ここ?」 大西さんは俺のマンションに着くと、少し表情に陰りを見せた。ゲームで適当に釣って 仕事帰りの夕方家に誘ったのだ。来たら今更帰るとは言いにくいだろう。 「どうしました?こっちですよ?」 A棟の方をじっと見ている大西さんを呼んだ。 「お、おう・・・。」 ここで俺が少しでも表情に出てしまったら負けだ。ボロを出してもだめ。 絶対にそんなこと思いつかないだろうが気づかれたら終わりなのだ。
「ここです。」 大西さんは未だに動揺した顔つきをしていた。そりゃそうだろう。 なんせここは石川の隣の部屋。大西さんだって、知っているのだろう。 ガチャッ。 バタン。 「すみません、ちょっと待っててもらえますか?」 「ああ。」 俺は部屋に入り、ドアを閉めると言った。 「なんでいるの?」 石川がソファに座っていた。なんか雑誌を片手に持って。 「これ。」 石川はそれを俺に渡してきた。 「・・・・・え?!」 これって・・・まさか。 「やるじゃ〜ん。」 石川は俺に笑ってみせた。 「いや、違うって!」 「じゃ〜ねぇ〜。」 石川はそのまま押入れに入っていった。・・・・・。 ガチャッ。 「すみません、汚かったんで。」 「おう、上がるぞ。」 とりあえず俺が先にリビングの方へと行くと、
「よ!ほ!!」 辻加護がゲームをしていた。思わずこける俺。 「どうした?」 「あ〜待って待って来ないで!!」 俺はこけた体勢から大西さんの目の前に飛んだ。 「お前器用な事するなぁ。」 「ちょっと待っててください!!ごめんなさい何度も。」 大西さんを俺の部屋に入れようとドアをそっと開けて覗き込むと、 ・・・よかった。誰もいない。大西さんを中にいれ、リビングに行く。 「ちょっとさ、仕事中だから、帰ってくんない?」 もうどうやって入ったかなんてどうでもよかった。なるべく小声で話す。 「え〜、ケチくさいこと言うなや〜。」 「そうれす〜。ゲームぐらいしたっていいじゃん!」 「マジちょっと勘弁・・・・じゃあ明日!明日な!!」 「え〜もうお開き〜?」 後ろから高橋の声がしてまたしてもこける俺。 「どっから湧いて出てきた。」 「トイレ借りてたでけや。なんでお開きなん?ケチやね〜。」 「仕事、大西さんとなっちの件。」 それだけ言うと3人の顔つきが変わった。 「・・・しゃーないな。」 加護がそう言うと、3人はそのままテレビ側の壁を触った。 「ここ回転扉になってるんやで。」 加護が突然言った。 「え?!」 「嘘や。」 高橋が笑う。3人はそのまま入り口からちゃんと退室していった。
「マジすみません。色々汚くて。」 「もうゲームのセットしてあったんだ。」 「え?あ、はい!」 俺達はしばらくゲームをした。俺はまだ二十歳だし、いいけれど・・・。 大西さん、いくつですか?そんなことを思いながら、とりあえず「来客」を待った。 「おい弱いな〜。」 しかも強!というより自分の力を測る物差しが辻加護とかしかいなかったから、 自分の力を過信していただけかもしれない。 ピンポーン 「?」 大西さんは玄関の方に視線を移した。俺は無言で立ち上がり、玄関へと小走りで向かった。 ガチャッ。 「上がって。」 俺は彼女にそう言うと、そのまま奥へと連れて行った。
200 :
修羅場 :04/03/06 00:45 ID:qgxcExkc
『!!』 二人はびっくりした顔をして、お互いの顔を見あっていた。安倍は俺に聞いた。 「どういうこと?」 俺が答える前に、大西さんが俺を見て言った。 「お前、まさか・・・。」 「そうです。俺が二代目『娘。悩み相談』です。なっちに大体の事は聞きました。」 「・・・帰る。」 大西さんは俺と安倍から背を向け、歩き出した。 「待ってください!!」 俺の声に、大西さんは立ち止まり、こっちを振り返った。悲しげな表情を浮かべていた。 「話を、聞いてあげてください。別れるときだって一方的で、何も聞いてあげられなかったでしょう?」 「・・・・。」 大西さんは何も言わない。それを見て安倍は今にも泣きそうな顔で、言った。 「あれは、ドラマの撮影の合間のお昼ご飯を、たまたま同じ時間休みだった人と言っただけだべ・・・。」 言い終わると、目から涙が零れ落ちた。たったこれだけの事を伝えられずに、安倍はどれほど苦しんだのだろう。 その潤んだ瞳が物語っているような気がした。
201 :
復縁 :04/03/06 00:46 ID:qgxcExkc
「・・・証拠は?」 大西さんは呟いた。 「・・・え?」 安倍は声を振り絞って反応した。 「証拠を見せてみろよ!」 「もういいじゃないですか!!!」 二人の視線が俺に一気に集まる。その目から、俺は思わず叫んでしまった事に気がついた。 語調を若干弱め、俺は話を続けた。 「彼女のこの涙こそが、何より確かな証拠じゃないんですか?なっちの涙につまった気持ちを、 あなたが受け止めないで、誰が受け止めてあげるっていうんですか!誰が抱きしめてあげられるっていうんですか!!」 部屋中を沈黙が襲った。おそらく数秒の事だったのだろう。しかし俺には何時間にも感じた。 大西さんは静かに安倍の横に近づくと、涙を流す安倍の顔をそっと自分の胸に連れ込んだ。 「・・・・!!」 その途端、安倍は声をあげて泣き出した。俺は何も言わずに、静かに別の部屋へと入った。
202 :
Aの食卓 :04/03/06 00:47 ID:qgxcExkc
少しして部屋に戻ると、二人はもうすっかり仲直りしていた。 「(い・・・居づらい・・・。ここ、俺の部屋なのに・・・)」 ラブラブですな。俺はそっとキッチンに入り、夕飯の準備を始めようとしたら、安倍がそれに気がついた。 「なっちがやるべ。」 いやだから、ここうち・・・。 「肉あるべか?ジャガイモ、にんじん、たまねぎ・・・・。」 肉じゃがか。たまたま揃っていたので全て安倍に渡した。 安倍の肉じゃがはなかなかのものだった。料理自慢の俺には及ばないにしても(何様)、 見るからに美味しそうで、俺と大西さんは思わずうなってしまった。3人で食卓を並べ、 3人で仲良く食事を、 「あーん。」 出来るかボケ(怒)若干ハブられ感ありながら、3人で仲良く食事をした。
「じゃ、気をつけて帰って。」 俺が玄関で二人を送る。 「送っていくよ。」 大西さんが安倍を見て言う。いや、送っていくってあんた・・・。 二人が去ると、俺はさっき石川に渡された雑誌を手に取る。 「なんだってんだこれ・・・。」 俺は記事のタイトルだけ見ると、ベッドに投げ捨てた。 『モー娘。矢口 男漁り』 続く
204 :
えっと :04/03/06 00:54 ID:qgxcExkc
9話終了です。自分なりに精一杯ドラマっぽく、感動を目指して書いてみたのですが、 やはりそういうのは難しいですね。すみません、ヘタレで。 しかも当初の雰囲気から何の間違いか恋の話が大分絡んじゃいまして・・・。最初は そんなつもり全くなかったのに・・・。嫌だという方がいらっしゃったら、どんどん おっしゃってください(恋の話やらドラマ的話やらについて) 一応今のところは一番最初の予定だった11話で終わりたいのであと2話となって しまいました。ここからまた一層力を入れていきたいと思いますので、最後までよろしく お願いします。
ガンガッテ!! あと二話かぁ・・・・ 終わりがあると思うと寂しいなぁ・・・
試験&更新乙! あと2話頑張って!
test
更新キター! 乙ですー
209 :
えっと :04/03/06 17:30 ID:qgxcExkc
>>205 ドラマが11話構成が基本だったので、もし1話書いて反応があったらそれだけ
続けようかなと考えてました。寂しいと思っていただけると書き甲斐があります。
期待に答えられるように頑張ります。
>>206 試験は・・・まあまあまあ(汗)いや別に悪くはないですけど。
体力が抉り取られました。残り2話、話は動きますがうまく書けるように
頑張りたいと思います。
>>208 どうもです。なんかキター!っていうのも見ると喜んで頂けてるのかなと
勝手に喜んでいる自分がいますw残り2話も、そのキター!の文字が見られる
ような内容にしたいですね。
残り2話、ここまで出たマンションの住人達全員1回は出したいと思います。
ほんのちょこっと、って人も結構いますけど(というか大部分w)
一応保全
211 :
てS :04/03/08 23:14 ID:uX22cKXs
T
212 :
えっと :04/03/08 23:34 ID:ycnOVVOT
更新します。あと最終話は2回にわけて更新しそうです。長くなりそうなんで。
10.Headache 春休み直前、俺への異常な視線はかなり強くなっていた。友人は視線の主を気にしながら、俺に聞いた。 「お前あれ利用しない手ないだろ。」 ん?俺はよく意味が分からない、と言った顔をしていたのが分かったらしく、彼は付け加えた。 「適当に「これ私物だ」とか言って売りつけろ。松浦亜弥とか知り合いだろ?」 うわ〜、ひどい。でも、 「金は全然困ってないから。」 あの「仕事」、給料だけは無駄にいいからなぁ。 「え、あんな高そうなマンション住んでんのになんなんだよ?!田舎のボンボンか? ボンボンなのか?!」 うわ〜、なんかキレられた〜。でもここで仕事内容言えないよな。聞こえたらまずいし。 俺は適当な言葉を探し、言った。 「バイトが、訳アリでね。」 彼を何とか説得。でも周りの熱き男達はジワジワ近づいてきていた。 「何もないから!!君達のもん!!ではないけど・・・。何もないから!! ね?ただの友達!!」 あ、最後の一言余計かも。思ったときには遅かった。男達は更に近づいてくる。 「(・・・・逃げろ〜!!!)」 後藤のフォームを意識して俺は駆け出した。
「はぁ〜・・・・。」 俺は校舎の影に隠れてその場で座り込んだ。なんでこんなにファンの方々多いんでしょう? 明らかに右肩下がりなのに。そんなことを思っていると、うわさをすれば影。 ブーン 「もしもし。どうしたの?」 電話の主は辻だった。 「勉強を教えて欲しいのれす。」 「前もそんな話なかったっけ?そのときは確か・・・。」 「あーもう言わなくていいのれす!!」 飯だけ食って帰りまくってたよな〜。食費経費で落せないのかね? 「何テストでも近いの?」 「そうなのれす。留年は洒落にならないし。」 それは思う。今現在周りにも1人、大学にいるが、大分気まずい。 辻だとその人と比べて更にきつい状況になるだろう。 「分かった。じゃあ切るよ。いつやるかは家帰ってから話そう。」 「あ、あいぼんも一緒れす。」 「加護も?」 俺はあくまで普通のトーンで呟いたはずだった。しかし次の瞬間、強烈な視線を感じた。 ・・・やばい・・・。 「分かった。じゃ、切る。」 ピッ。 俺は全力で走り出した。
酷い目にあったもんだ。なんとか逃げ切り、俺は家に戻る事にした。とりあえず今日はもう校内にいたくなかった。 部屋に戻ると、すぐに加護からお呼びがかかった。そして部屋に着くと、明々後日の夜10時から俺の部屋で、 ということになった。時間が決まった途端、加護は俺に笑いながら言ってきた。 「にしても最近どうでっか?」 こういわれたら決まり文句を言うべきなのだろうか? 「ボチボチでんな。」 とりあえず答えたら、 「ちゃうちゃう、そうやのうて、恋の話や。」 もう一度ニヤリと笑う加護。 「どうですか?そこんとこ。」 週刊誌の事か・・・。こいつ、事実を分かった上で俺をからかってやがる。 「うるせぇな〜、矢口に聞けばいいじゃねぇかよ。」 一応確認を込めて言う。すると加護の口から凄い一言が飛び出した。 「え、でも矢口さんは「おいらたちラブラブです〜」言うてはりましたよ?」 あの野郎・・・・・・。俺の顔を見て、加護は言った。 「心配せんといてや、言うてへんわそんなこと。」 「言ってたまるか。」 「まあ「なんであいつなんかと」とは言うてたけど。」 ムカツクー!!ガラにもなくキレそうになる。
216 :
逃走体勢 :04/03/08 23:41 ID:ycnOVVOT
加護はまた俺の顔を見て話し出した。 「しゃーないんちゃう?矢口さん別れたばかりやったし狙われてたんやろ。 てか今思うたんやけどぉ。」 「何?」 「ぶっちゃけ自分どう思ってんの?書かれた事。そこまで悪い気はせーへんやろ。」 何を言うかと思えば・・・。 「・・・・正直に言っていい?」 俺は玄関に向けて歩き出した。それを目で追うだけの加護。 「なんやそれ。」 俺は靴をはき、ドアを開けると、部屋の奥にいる加護を見て言った。 「人による。」 「(正直)言うてへんやん!!」 「ほなさいなら。」 俺は関西弁の真似をしながらドアを閉じた。
バタン! 「はぁ〜・・・。」 部屋に着くなり俺は溜息をついた。今度こそ正直に言うと、 矢口と週刊誌に載ったという事自体は、向こうの気持ちは どうであれ悪い気はしなかった。街を歩いていて周りからは そう言う風に見えてたのかな?と思うと少し嬉しくなったりもする。 しかしだからと言って矢口に恋愛感情を抱いていると言う訳ではない。 教室でも言ったように、いい友達だと思っている。少なくとも、俺は。 ただ、問題は・・・。 「し〜あわ〜せで〜すかぁ♪」 こいつに、石川にからかわれるのが、なんだか凄く嫌だった。 特に「幸せ」とかそう言う言葉を使われると。 「矢口さんいないんだ〜。」 押入れからいつものように這い出てくる石川。 「いい加減飽きてよそのネタ。」 とりあえず仕事が終わると毎日のように冷やかしに来るこいつは一体・・・。 そう思い俺は言った。 「え、ネタなの?」 石川は真剣な顔つきで言った。 「は?矢口に聞かなかった?」 てか聞かなくても分かれよ。ん?演技?でもそんな演技うまい方でもないよな・・・。 あれ? 「ラブラブとか聞いたんだけど?」 もしかして、本気で言ってる?顔が真剣なまま微動だにしなかったから、俺は言った。 「あれガセだよ。俺ら全然そんなんじゃないって。てか週刊誌なんか簡単に信じないで。」 ちょっと愚痴が入ってしまったが。
「・・・・・な〜んだぁ、そっかそっか・・・。」 石川が独り言のように呟いた。 「え?」 「え?」 「いや、なんでもない。」 俺は慌てて言った。なんだ?今の反応・・・。めっちゃ気になるんだけど・・・。 石川はまるで誤魔化すかのように(俺にそう言う風に映っただけなのかもしれないけど)言った。 「ねぇ今日のご飯何〜?」 「え?食べるの?」 「いいじゃ〜ん別に〜。一人じゃ寂しいでしょ?」 「まあそうだけどさ。」 三食いずれかの時間帯で、仕事がなく家にいると、大抵このようにして飯を食べに来る・・・。 あのあとつんくさんに電話して聞いたら、食費経費で落ちないらしいし・・・。 俺は知らず知らずのうちに溜息を吐いていた。
カテキョ当日。 とりあえず色々覚悟してから俺は二人の到着を待った。時間になるとチャイムが鳴り、 二人は教科書などを持って入ってきた。 「もう一度聞くけど、本当にいいの?」 俺は聞いた。 「任しとき!」 「大丈夫れす!」 「じ、じゃあ行くぞ。数1から。」 今回教える科目は数学、国語、英語、歴史の4科目。しかも今日中にやれと言うのだから、 かなりきつい。夜中の何時までかかるか分からないが、メチャイケ期末試験ダントツビリの ツートップ。間違いなく大変だろう。 「まずこれ。『1−4』は?」 加護に振る。 「ん〜・・・・・−3?」 「正解!やれば出来るじゃん!!」 「わーい!!」 二人はハイタッチした。 「よし次。」 「またんか!!」 加護がツッコミ。 「これ高1やのうて中1や!!」 「あ、気づいた?」 さすがに馬鹿にしすぎたか?どうやら加護の逆鱗に触れたようだ。 「当たり前や!!どついたろか!!なぁのの!!」 「高1レベル〜!!」 辻はまだ喜んでいた。
「やっぱりダメじゃん。」 まさかこれほどのものとは思わなかった。試しに数列の基本問題をやらせてみたが結果は酷いもの。 よくよく考えてみれば、『1−4』を即答できなかった上疑問系だった奴らだし。 「中学レベルに落す?」 「だめれす!テストがあるのれす!!」 「諦めたら?」 「カテキョなら励ましいや!」 「じゃあコツコツやるしかないな。」 というわけで1から説明をじっくりと始めた。例題の説明後基本問題をそのやり方に沿ってやらせる 方法で進んでいった。途中で質問する事で眠らせないようにするのだ。そして2時間後。 「ここでΣはどうするの?」 「・・・・・こう?」 辻は不安げにノートに書き込んだ。 「出来るじゃん!!」 数学、success。 「つーかさ。」 数学を教え終わったところで俺は言った。 「俺より紺野とかの方がリアルタイムで受けてる分ちゃんと教えてくれそうじゃん?」 シーン。何故か二人は黙ってしまった。え?なんで?俺なんか悪い事言いました? 「あさ美ちゃんは・・・・・。」 辻は困ったように笑いながら、言った。
俺は英語のテストを受けさせている間に、高橋と紺野の部屋にお見舞い(?)に向かった。 紺野はベッドの中でボーっとしながら天井を見ていた。 「あさ美ちゃんったら熱まで出さんでもええのにね?」 「いや、あれは俺も熱出しそうになったよ。ショックだよな、同じ人間として(ひどい?)」 軽く英語の基本問題を見た後にこの部屋に来たのだが、ひどいものだった。 頭痛がするぐらいに。紺野は起き上がって呟いた。 「さすがにthe worldを『なるほど』と訳されたときは眩暈がしました。」 うわぁ〜、笑えねぇほどひどい間違いだ。思ったのだが、メチャイケは番組で、 完全に他人事だから笑えるんだよな。いざ教えるとなると笑えない。 「なんやったっけ?そのあとの・・・・そうだ!あれで倒れたんやねぇ。」 高橋は思い出したように言った。 「うん。」 「どんなの?」 「あさ美ちゃんまた倒れちゃうからあたしが言うと、 Chemistry are too fast for two.を」 なんだその文。珍回答を待ちわびてるようにしか見えない。まさか・・・。 「自信満々に、『あれ、ケミストリーって二人?違う?四人?二人。』 って書いたんやね確か。」 ある種創造の神だ。まさに紙一重。
222 :
ポタラ :04/03/08 23:50 ID:ycnOVVOT
部屋に戻ると、試験はちょうど終わっていたので採点することにした。 「・・・・・・・・・・・・・。」 メチャメチャッ!イケテル〜!!オープニングが頭をよぎる。 「あの〜、辻ちゃん?これ・・・・何?」 そうとしか聞き様がない。 「え、“あなた”、“べジット”、“私”による三角関係のコイバナ。」 問題:次の文を日本語に訳しなさい。The next time you visit my house, I will lend you that book you wanted to read. (正解:今度あなたの私の家に来たときに、あなたが読みたがっていた本を貸しましょう。) 辻の回答:次の時間あなたとべジットと私の家、私は本を、あなたは欲しい二つのリード 「あの、日本語にすらなってないですよ?」 「それはきっと問題がおかしいのれす!!」 「てかべジットってどっから出てきたの?」 ベジットといえばドラゴンボールで悟空とべジータが合体したときの名前。 そんなの知ってるのか? 「ここれすよ!!」 なんか怒り気味の辻。辻が指差したのは、visit。あ〜やっぱり。 てか笑えない・・・。
223 :
下? :04/03/08 23:52 ID:ycnOVVOT
ここで英語のリスニングを行ってみた。CDを再生する。この問題は、地図を見て行われる。 人に質問をされるから、その質問からその人はどこに行きたがっているのかを選択する。 A地下鉄BファミレスCホテルD学校E図書館。女の外人の声が聞こえてきた。 “Please follow me to the mita subway line”おー結構早口。 「え?満たされない?」 どっちかが呟いた。・・・・はい?どっちが言ったのかと思ったら、辻だった。 回答:C。 「なんでCなの?てかこの人なんて言ったと思った?」 「私を抱いて満たされないのお願い。」 「おい!そんな問題出ないから!!」 「だからホテルかな〜と。」 もういい・・・・。 英語 unsuccessful。
歴史の問題。なんでも1年のまとめのため範囲はほとんど全部らしい。きついなぁ〜。 とりあえず年号からはじめてみた。 「何年に平城京に移った?」 「えっとなんやったっけ・・・・。」 加護が悩む。辻も考え込んでいる。 「ほら、語呂合わせあるでしょ?」 俺が言うと、二人は顔を見合わせて言った。 『NATO爆撃平城京!!』 「なんだその物騒な語呂合わせは〜!!!!」 俺は大声で叫んだ。 『え?違うの?』 「いや、あってるけど。普通納豆食べて平城京だろ。」 「覚えにくいやんなぁ。」 「れすね〜。」 そうか? 「じゃあ平安京は?」 『無くした彼女と平安京。』 なくしが794か、って納得してる場合じゃねぇ〜!! 「なんでだ〜!!!まあ合ってるからいいんだけどさぁ。」
225 :
歴史続き :04/03/08 23:54 ID:ycnOVVOT
徳川綱吉が発令した「生類憐みの令」とはどんな令で、どんな問題が生じたか。 以下の単語を使って答えなさい(動物、魚、鳥、犬、食料、人民) 回答:動物愛護の命令で、魚鳥を食料として飼養することを禁じ、特に犬を愛護させた。 極端に走ったため人民を苦しめた。 辻:動物愛護協会を作り、人民とともに魚、鳥を食料とせず、 一家に一匹犬を飼う事を義務付けた。 加護:釣りに行って魚を釣り、ハンティングで鳥を射抜き、番犬として犬を飼うことを 禁止して人民は苦しめられた。 加護の最後の番犬って一体・・・?てか“動物”使ってないし。正解を教えると、 加護は言った。 「え〜なんやその答え、ののの答えの方がよっぽどそれっぽいでぇ?」 両方とも犬の所間違いすぎですよ、とは言わなかった。
現国のテストをさせている間、俺は窓の外、ベランダに出てボーっとテストが終わるのを待った。 横を見ると石川の部屋も明かりがついている。まだ寝ていないようだ。次に上を見上げる。 中澤がいた。ベランダから、夜空を眺めている。俺は話しかけた。 「姐さん聞いてよ〜。」 「・・・・ん?おお。お前か。」 随分反応が遅かったので、俺は言った。 「あれどうしたの?大丈夫?」 「たまには悩みくらいあるわ〜。」 いや、俺いるじゃん。 「いつでも相談に乗るよ。」 「う〜ん、せや、そのうちお願いするわ。」 中澤はそう言うと再び夜空の星を見上げ、なにやら考えているような表情をしていた。
227 :
毒舌 :04/03/08 23:57 ID:ycnOVVOT
続いて近世の俳句。 霞さへ まだらに立つや とらの年 松永貞徳 「さて、なぜ霞はまだらに立つんでしょうか?」 俺は辻に振った。 「え?・・・・・・冬だから?」 「どんな答えだ〜!!!しかもこれ冬じゃね〜!!」 俺も答え見るまで分からなかったけど。 「じゃあ春だから?」 加護が言う。 「そう言う問題じゃねぇ〜!!春だけどちげ−!!!」 流石にイライラが募った。大声を出してしまった。心を落ち着けると、 俺は答えを言った。 「まだらと、とらのまだら模様を掛けてるんだよ。」 二人はとりあえず納得した。そしてそのあと加護が言った。 「掛詞ってどないな意味やったっけ?」 「1語に二つ以上の意味を持たせるものだよ。例えば「待つ」と「松」とか。」 「あ〜寺田が出来へんやつやな。」 !!?
『終わったぁ〜。』 3人で声をあげる。夜中の2時。ようやく全ての科目が終了した。1教科1時間しか かけれなかったけど、とりあえずテストの方は何とかなるだろう。 「テスト絶対40点超えるぜぃ!」 辻が言う。いや・・・、そんなレベルなの?4時間もやったんだから活かしてよ。 それでも二人は満足そうな笑顔で部屋へと帰っていった。 ブーン。 「ん。」 俺は携帯を手に取り、ディスプレイを見た。中澤だった。 「もしもし、まだ起きてたの?」 「あんな下が騒いでて寝れるかっちゅうねん!んで、終わったみたいやから、 さっきの話、したいんやけど。」 「うん。分かった。」 「こんなこと相談するんわ、どうかと思うんやけど・・・。」
バン!!! けたたましい音を立てて、押入れが開いた(吹っ飛んだ)何事?! 「なんや?!」 あまりの音に中澤も電話越しから聞こえたのか、驚きの声をあげた。慌てて俺は寝室から 押入れの方へと走る。すると押入れから石川がいつものように出てきた。しかしなんか いつもと雰囲気が違う。 ・・・目が据わってる? 「ヒック・・・・・。」 酔っ払い!?のんべえ?! 「ちょ・・・ごめんなさい!急用出来たみたい!!」 「あ、あぁ・・・そうみたいやな・・・せや、また今度な?」 中澤はちょっと残念そうな声で言っていたが、俺はこの時点ではそれに気がつかなかった。 俺は、さっきからフラフラ歩き回っている石川に話しかけた。 「石川どうしたの?てか酒飲むなよ、バレたら色々と問題だぞ。」 「たまには飲みたくなっらりするのよ〜。」 絡み上戸か?石川はそのままソファに倒れこみ、 「水〜・・・。」
230 :
急展開 :04/03/09 00:01 ID:RmEDyCUP
「はぁ〜・・・・。」 水を一気飲みすると、石川は溜息をついた。そしてコップを置くと、相変わらずフラフラした足取りで、 俺に近づいてきた。 「?」 石川は両手を広げ、体全てを俺に預けた。 「うわ!おい!大丈夫か?!」 石川は相当酔っ払っているようだ。しかし俺の思惑に反して、石川の腕は俺の背中へと回った。 ちょうど抱き合う形になる。 ・・・・え? 「あ!分かった!またドッキリだろ!!」 俺は慌てて、ドキドキをごまかすように言った。しかし石川止まらない。顔が少しずつ俺に近づいてゆき、 そのまま・・・。 暫くして石川の唇が離れると、その悪戯な唇から、とんでもない言葉が発せられた。 「好き・・・・。」 その目は俺の目をじっと捉えている。ここでさっきよりひどい頭痛がした。 続く
231 :
えっと :04/03/09 00:02 ID:RmEDyCUP
10話終了です。こんなところで続きにしちゃってすみません。でも今まで 動きの全くなかった二人に動きが欲しかったので、つい(汗)
更新乙! え〜〜〜〜!!気になる〜〜〜!!!
いやああああ!!!!こんなところで切らないでーーーーーーーーーーーーーーーー 気になって気になって!!!!!
234 :
えっと :04/03/09 21:59 ID:RmEDyCUP
>>232 ,233 すみません(汗)再放送でやってたAge35に影響されました(爆)
いつも録画して見てたからいいんですけどもしそのときリアル
タイムで見てたら毎週辛くてたまんなかっただろうなぁ、っと
思っているうちにそんなのが書きたくなって・・・。
マジすみません、俺も読者だったらこんな所で切られたら発狂
しちゃいます。
取り合えず保全 最終話期待してるよん
236 :
えっと :04/03/11 00:10 ID:v2MUtlg7
11話(前半)更新します。
11. Eternal… 「好き・・・・。」 その目は、確かに俺の目をじっと捉えている。俺はどうしていいのか分からず、 口ごもってしまった。やばい、ドキドキしている。でも・・・。俺が明らかに 困った顔をしているのに気がついたのか、石川は言った。 「・・・や〜だぁ〜冗談だよぉ〜。」 そこまで言うと、石川は再び全体重を俺に預けてきた。 「・・・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・りかっち?」 「・・・・・・・・・・・。」 「なんで泣いてるの?」 俺は湿った肩に気づいて呟いた。 「・・・・なんでも、ない、よ?」 途切れながら必死に声を出しているのが分かってしまった。石川は少しして落ち着くと、 千鳥足で押入れの中へと入っていった。
238 :
寒い夜 :04/03/11 00:13 ID:v2MUtlg7
なんだったんだろう。 俺は頭を冷やすために玄関から外へ出て、手すりに腕を乗せてよっかかると、軽く溜息をついた。 そしてそこから見える月を、なんとなく見ていた。ベランダだとダメだ。石川がいるかもしれない。 それでなくても最近思わせぶりな態度をとってきた石川なだけに、凄くドキドキして、同時に凄く焦った。 もしかしたら大西さんの存在が俺の頭を更に混乱させているのかもしれない。 「・・・あ〜もう!!」 自分の中に芽生えた感情を消し去るかのように、必死に頭を掻き毟る。別に消す理由なんてないはずなのに。 ガチャッ。 石川の部屋のドアが開く音がした。俺は慌てて部屋に戻ろうと、ドアに手をかけたが、間に合わなかった。
「よっすぃー?」 出てきたのは石川ではなく吉澤だった。じゃあさっきの事も全部知っている?俺が吉澤の顔を見ていると、 吉澤は一瞬だけ表情を曇らせた後、笑顔で言った。 「何してんの?」 「ちょっと頭冷やしてるだけ。」 俺がそう言ってさっきの体勢に戻り、月を眺めていると、 「その姿、かっけーっすよぉ〜。」 吉澤は俺の横で同じ体勢をとった。 「よっすぃーには負けるよ。」 俺は吉澤を見て軽く微笑んだ。するとその顔を見た吉澤の口から、びっくりするような言葉が飛び出した。 「その笑顔、罪深いっすよ。皆言ってる。」 「はい?」 俺はえ?と思ってそのまま顔に出し、声に出した。 「そんな優しい顔で微笑んじゃって・・・。何も感じない女の子はいないっすよ。」 「・・・・そうなの?」 俺としてはなるべく相談しやすい環境作りのためにやっている、ただの営業スマイルみたいなものなのだが・・・。 どうやら成功しているらしいが。 「そうっすよ。だから、責任取らないと、ダメだよ?」 ダメっすよ、ではなく、だめだよ、と言ったのが印象的だった。吉澤が自分の部屋へ向け歩き出した時、俺は呼び止めた。 「ドッキリじゃないよね?!」 俺はドッキリであって欲しいのか、そうではなくて欲しいのか、自分の気持ちに整理がつかなかったが、聞いた。 吉澤は振り返り、意味深な笑顔で言った。 「判断は任せるっす。」
翌日早朝。俺はチャイムによって浅い眠りから覚まされた。あまりよく、寝れなかったため、 俺はすぐに応対する事が出来た。中澤だった。どうやら仕事があるからこんな時間に来たらしい。 「こんな事お前に言う事ちゃうかも分からへんけど・・・。」 「なんでも言ってよ。」 俺は吉澤の言う「罪深い」笑顔で微笑んだ。中澤は話し始めた。 「うち、お見合いさせられて。」 「はいっ?」 誰が何を? 「せやから、お見合い。」 「誰が?」 「うちが。」 「なんで?」 「それを今から説明するんやないか!!!」 あ、そうなのか。中澤は気を取り直して話し始めた。 「あれは2ヶ月前やったかな・・・。おかんが突然家に来たんや。」
「あれ、おかんどないしたん?」 突然の来客に、中澤は驚きながらも出迎えた。 「裕子に見せたいものがあるんや。」 母はバックから長く薄っぺらい、本のようなものを取り出した。 「なんやそれ。」 「見てみい。」 中澤は渡されると、写真を開いた。するとそこにはスーツを着たなかなかのイケメンが、 緊張した表情で写っていた。これってもしかして・・・。 「お見合いセッティングしたで。」 「はぁ!?」 中澤は大声を上げて叫んだ。意味が分からない!意味が分からない! 「裕子もええ年やし、最近苦しゅうなっとるし、そろそろ、ええんちゃうか?」 何がええのか、説明は不要だった。だから、その言葉はダイレクトに中澤の胸に突き刺さる。 「あ、相手くらい自分で探すわ!!!」 この広い芸能界、誰かが拾ってくれてもおかしくはないはず。 「そう言うだけ言って一体何年待たせるんや。全然気配ないやんけ。」 うっ。それを言われると痛かった。
「『会うだけや。』そう言われて結局うちはお見合いした。」 中澤は一息つくと、続けた。 「ええ人やった。うちの事も好きみたいやし、何もケチ付ける所が見当たらんかった。 会社を経営しているから年収もがっちりやし、性格もええし、顔もええ。」 俺は黙って話を聞いていた。 「気がついたら結婚を申し込まれてな、ああ、別にこの人でええんちゃうかな? とその時は思ってOKした。もう結婚式の日取りも済んでるんやで?事務所には まだ言うてへんけど。」 なんか俺の知らないところで凄いことになってるな、口には出さなかったがそう思った。 「でも、やっぱなんか違うん。うちはあの人を、恋愛対象として見れてへん。きっと、 これからもずっと・・・。そう思いながらも今更断れん思うて過ごしてたら最近、 好きな人が出来てな?うち、どないしたらええかな?もうよう分からんのやわ。」
他人に流されない、自分の道をしっかり自分で決めて進んでゆく人。俺は中澤裕子という 人物をそう認識していたから、この告白は意外でならなかった。しかし、逆に考えれば、 中澤が初めて自分に本当に弱い一面を見せてくれた、ということなのだろう。 俺は暫く考えた末、言った。 「どっちがいいかとか、そういう回答を求めているのだとしたら、俺には決められない。」 中澤は少し驚いた顔をした。 「これは姐さんの人生において大事なターニングポイントに成りえる。だから、これは姐さんが 自分でゆっくり、よく考えて決めるべきだと思う。俺の無責任な発言で姐さんの人生が決まって 欲しくない。」 中澤は真剣な顔で俺を見ている。 「恋愛は結婚とは違うと考えるのか、それとも延長線上にあると思うのか、俺はまだ判断できるほど、 大人じゃないよ。ただ一つ、俺が言える事としたら、自分に嘘をつかないで、後悔しないと思える道を選んで。」 俺が話を終えると、中澤は難しい顔をしたまま、しばらく何も言わずにどこか下の方を見ていた。
長い静寂の後、中澤の重い口がようやく開いた。 「せやな・・・。あんたに相談して正解やった。これからじっくり、考えさせてもらうわ。」 中澤は玄関の方へと歩き出した。俺は何も言わずにその背中を見た。なんだろう、この感じ。 中澤はドアに手をかけ、部屋を出る前に振り返った。 「ありがとな。」 バタンッ。 「はあ〜。」 朝からハードな相談だった。もっとこう、他愛もない相談こないかな?というより、 「誰か俺の悩み聞いて〜・・・・。」 誰も聞いてくれるはずがないが。一番話しやすい奴が悩みの種だし、矢口も週刊誌のことがある。 中澤も相談し返しずらいし、安倍は話してるうちに大西さんの話に摩り替わるだろう。じゃあ・・・・ 後藤?いや、ダメだ。そんな悩みを聞いてくれるタイプではない・・・。安倍のときはたまたま気分が 乗っただけだろうし。
ブーン。 「噂をすれば?」 他愛もない相談を期待、もしくは相談を受けてくれる事を期待。 「もしもし。相談?」 高橋だった。 「うん。今仕事してて、石川さんの元気がないんやけど、どったらいいかな?」 !!えっと・・・。それは俺が聞きたい。 「どんな風に、元気ないの?」 「足腰弱くて。」 ! 「作り笑顔出来てなくて。」 !! 「声軽く枯れてて。」 !!! 「なんか目が腫れてて。」 !!!! 「あんたならなんかしっとるかな、と思ったんだけど、思い当たる節ない?」 ありますとも、ありえないくらいに・・・。でも言えたもんじゃないわな・・・。
ここで一瞬、俺の耳に悪魔が囁いた。逃げる方法を思いついてしまったのだ。 「いや、分からないけどよっすぃー昨日りかっちの部屋から出て行くの見たから、 何か知ってるかもよ。」 俺は携帯を口から思い切り離して言っていた。吉澤の言葉を思い出した。 「責任取らないと、ダメだよ?」 「え、今なんか言った?」 高橋に聞かれて俺は言った。 「おや、別に。とりあえず、今はそっとしておいてあげて。相談待つから。」 内心来ないで欲しい、と思いつつ。この回答が、今の俺には精一杯の答えだった。 「そっか・・・。だそうですよ石川さん。」 「えっ?!!!」 「嘘や。」 またやられた。電話越しで笑う顔が頭に浮かんだ。 「とりあえず知ってるみたいやけど、聞かないでおいた方がいいみたいやね?」 「・・・・はい。」 と、年下に遊ばれてる・・・。
「じゃあもう一ついい?」 「いいよ。」 もうなんでもこいや〜! 「いいって。」 高橋は誰かに言ったような声で言った。少しの間を置いて、高橋ではない声がした。 「どもども久しぶり〜。」 「!!・・・・ひ、久しぶり・・・。」 そ、その声はまさか・・・。 「あれ?元気ないな〜。あたしの相談なんか聞いてる場合じゃなさそう〜。」 間違いない、 「美貴ちゃん・・・今回は何の相談?」 精一杯親しく呼んで、”美貴ちゃん”。俺の唯一管轄外の相談相手にして、 一番苦手な娘・・・。 「えっとぉ。」 「あ、待って!この間みたいな事だったら、聞きたくない・・・。」 この間、とは・・。
俺が藤本の相談を聞いたのは、ひょんな事からだった。それは俺がこのバイトを 始めて間もない頃・・・。 「うん、ありがとうございます!」 ちょうど松浦との相談が終わった時、 ピンポ〜ン 「?誰だろう?」 松浦が入り口へと小走りで走ってゆく。 ガチャッ。 「あ、ミキたん♪」 お。新顔。確かここには住んでなかったな? 「あれ?あんた誰?」 あんたって・・・一応年上ですけど。まあわかんねぇか。 「この人が悩み相談の人。」 「あ〜、あれかぁ。じゃあたしも聞いてもらいたい事あるんだけど。」 俺の管轄はマンションだけだったが、一人でも多く知り合っておいておこうと 思っていた俺はあっさりOKした。 「じゃあちょっと、来て。」 藤本に連れられて部屋を出る。あれ、なんで?もしかして・・・変な期待をする。 屋上に着くと、藤本は言った。 「ストレスが溜まってて・・・。」 藤本は上着を脱いだ。え?マジで?いいの?
249 :
結果。 :04/03/11 00:30 ID:v2MUtlg7
ピンポ〜ン ガチャッ。 「お帰り〜。どうだった?ミキたん。」 「うん、すごく良かったよ〜♪」 俺はフラフラになりながら、松浦の部屋には戻らず、自分の部屋へと戻っていた。 するとそこで石川とばったり会った。 「あれ?!どうしたのっ?!顔血まみれだよ!!」 「ちょっと・・・・ね・・・・。」 俺は力尽きてその場で倒れた。
俺の拒否権がないのを上手く利用した、実に残忍な犯行だった(言いすぎ?)。 松浦といい藤本といい、なんなんだこの恐ろしい戦闘能力は・・・。 二人の仲がいい理由が分かった気がした瞬間だった。 「流石にあれはもう大丈夫だよ〜。ストレスはたまってるけど。」 ビクッと俺の体は震えた。 「で、何?」 やっぱやだよこの人・・・。絶対ヤ○キーだったって・・・。かなりびびりながらも一応仕事をする。 「辻加護がウザい。」 ダークな話題だー!!!!こういう話聞きたくねーー!!!!てか高橋止めろ〜!!!! 確かに辻に一度、相談を受けた事があった。 『藤本さんに無視される』 そのときはあたりさわりのない事言って励ましたっけな・・・。ここは・・・、 「確かにガキくさいし、無駄にテンション高いし、美貴ちゃんみたいな性格の娘には ウザいと感じられても仕方がないと思うけど、向こうだって、仲良くしたくてやってるんだよ?」
251 :
絶対王政 :04/03/11 00:33 ID:v2MUtlg7
「仲良くなんか出来な〜い。」 いや、そう言われましても・・・。 「でももうすぐいなくなるんだから、最後ぐらいは仲良くしてあげても、ね?」 これで決まらなかったらどうしよう。 「え〜、あのキャラ辞めたらいいけど。」 いや、あれ辞めたらもはや辻加護じゃない・・・。 「辞めるまでの辛抱、演技、作り笑顔、得意技でしょ?ね?」 あ、やばい、結構暴言吐きまくった。電話越しから悪魔の笑顔が垣間見える。 「じゃあそれでストレス溜まったらまたよろしく♪」 ひ、いやーーーー!!!!俺にとってはホラー映画なんかより全然恐い、一言だった。 電話は高橋に戻る。 「ありがとね〜。」 そのまま電話は切れた。・・・・俺、心も体もボロボロになりそう・・・。 ブーン 「また?!」 すぐに電話に出る。 「もしもし矢口?」 「今から事務所まで来て。」 「え?なんで?」 「来れば分かるから。」 もしかして、週刊誌の件ですか?しかも事務所に呼び出し?え?もしかしてやばい? とりあえず行くしかない。俺はマンションの車庫へと向かった。
事務所の駐車場を降り、室内に入る。そしてそのままつんくがいるはずの場所へと。 近づいてくると、なんだか凄い言い争いをしているようだ。めちゃめちゃ聞こえる。 「せやから付きおうとる事怒ってるちゃうねん!!」 「だから付き合ってないです!!」 「じゃあなんであんな遅い時間二人でいるんだよ!!!」 矢口、つんく、マネージャー。凄い激しい論争、1対2の状況。矢口だから相手が出来るのだろう。 「あの〜、来ましたけど。」 矢口に助け舟を出した。俺の声を聞いた途端口論はぴたりと止み、つんくさんはこっちを振り向いていった。 「来たか。で、どうなんや?」 うわ〜、かなり端折ってる〜。意味分かるから問題ないけど。 「あの時は依頼された仕事の近況報告です。飯食いに行ったのは友達としてですよ。」 「ね?」 矢口が二人を見て言った。 「ほんまみたいやな。」 「ですね。」
「助かったぁ〜。ごめんねいきなり呼び出して。」 「うん。」 矢口は体を思い切り伸ばすと、愚痴るように言った。 「にしてもおいらがいくら言っても信用しないのになんであんなにすぐ納得するんだよ〜!」 俺はとりあえずなだめ、聞いた。 「でもあれって何?俺と付き合ってると思って怒ったの?」 「ううん。あんな夜中に撮られた事。つんくさんも別に付き合っても仕方がないと 思ったうえでこの仕事やってもらってるみたいだから。」 「大西さんの事もあるし?」 俺は核心に迫る一言を言った。 「そう・・・・え?」 矢口の表情が一変した。 「知ってたの?・・・大西さんが、悩み相談やってた事・・・。」 「ああ、本人が教えてくれたよ。」 矢口はそれを聞くと、真剣な目つきになって、言った。 「じゃあ言っちゃうけど、正社員じゃなくて、バイトに相談室をやらせることにしたのは、 そう言う理由なんだ。」
254 :
ともだち :04/03/11 00:36 ID:v2MUtlg7
「そう言う理由?」 「大西さんとなっちが別れた後、なっちがかなりダメダメになっちゃった訳でしょ? だってあの旅行だって別れて半年たってるのに、簡単にぶり返してあれだったんだよ?」 それだけ親身になって相談を受けるような立場だから、別れちゃうと引きずるに違いない。 しかも事務所で顔を合わせる度に苦しまれたら困る。ならバイトにあのポストをやらせれば、 大西さんのような事態になったとき楽だ。クビにするだけだし。」 俺は一瞬、ゾクッと体が震えたような気がした。 「ってつんくさん考えたみたい。」 「・・・・・。」 言葉が見つからなかった。俺がこのバイトにつくまでに、そんな色々な思い、 考えが交差していたのか・・・。俺黙っていると、矢口は言った。 「でもさっきうれしかったよ?」 「え?」 「『飯食いに行ったのは友達としてですよ』って。おいらの事、仕事の対象としてじゃなくて、 友達として見てくれてるんだなぁって思ったよ。」 俺はそれを聞くとニコッと笑った。 「当たり前じゃん。」 それを聞くと、矢口も微笑み返した。
255 :
えっと :04/03/11 00:38 ID:v2MUtlg7
11話前半終了です。あんな風に引っ張ったのにあんなんですみません(汗) 多少現実無視してるのは気にしないでください(ぉ
イイヨーイイヨーガンカッテ
いい感じですよ! 待ってますよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
258 :
えっと :04/03/11 23:35 ID:U6aw8Olp
>>256-257 どうもです。頑張ります!
今書いている途中なのですがどうやら11話だけで住人全員
出そうです。あと6人もいますけどw
まってますりー まってますよ! がんばってください!
おう、どうなるどうなる? 楽しみにしてます!
ミキティー…。
262 :
えっと :04/03/12 23:04 ID:XEARmyWl
>>259 今日中には終わらないっぽいですがなるべく早く仕上げれるように
頑張ります。
>>260 期待に添えられるようにしたいですね。ラストだし、いい終わりを
かけるように・・・。
>>261 ごめんなさいw(汗)
ミキティーの戦闘能力はいったいいくらあるのか? スカウターが欲しくなりました
264 :
えっと :04/03/13 23:15 ID:EzrJmi++
>>263 俺も欲しいかもしれませんw
いよいよ最後の更新となりました。上手く書けたかどうかは分かりませんが、
精一杯書きました。
家に帰ってくるともう昼になっていた。とりあえず俺は昼飯を作り始めた。 当然仕事中の石川の姿はそこに、ない。当たり前の事なのに、今日は凄い違和感を覚えた。 「・・・・・・まず。」 食べれたものじゃない。なんだこれ。俺は調味料を確認すると、原因に気がついた。やばい、 動揺している。どうしても石川のことが頭から離れない。それ程昨日の石川の姿は衝撃的だったし、 吉澤や高橋、藤本、矢口の一言一言が合わさって複雑に交錯し、俺の心に影響を与えていた。 「(これ食べれねぇな・・・・。どうしよ・・・。)」 コンビニか?いや、ここはむしろ・・・。 「いてくれよ〜。」俺は呟き、部屋を出た。
「上手い!」 「当たり前じゃん。」 後藤は誇らしげに言った。今日後藤がオフなのは知っていたので、いるかどうかの問題だったが、 いてくれて助かった。 「でも料理ミスするなんて珍しいね。どうかしたの?」 後藤は俺に聞いた。 「・・・色々、あってね・・・。」 どうする?相談すべきなのか?後藤は俺が難しい顔をしているのを見て、言った。 「難しいことよく分からないけど、悩み聞いてばっかりで自分の悩み吐き出すところないなら、 聞くよ?」 俺は凄く胸を打たれた。こういう意外な優しさほど嬉しいものはない。 「ありがとう。」 俺はそれだけ言ったが結局話せなかった。後藤の気持ちはありがたい。ありがたいけど・・・ 自分で解決したい気持ちもあった。
その後数日間、石川は俺の前には現れなかった。会いに行こうと思ってみたりしたが、 どうしてもチャイムが押せない。結局この日もチャイムを押せず、部屋に戻ろうとしたら、 声をかけられた。 「テスト出来た〜!!!」 ん?振り返ると、辻加護がセットでご登場。 「今日テストだったの?」 『うん!』 「どうだった?」 『出来た!』 「何点くらいだともう?」 『50点!!』 俺はそれを聞くとこけそうになる。出来た!と言って50点・・・。でも前と比べたら全然マシか。 それが二人のレベルな訳だし。まあ自信満々なのが逆に危なさを感じるが、 テストの結果を楽しみに待つことにしよう。 そしてさらに数日後。 「やっぱ50点行ってたで〜!!!数学なんか61点や!!!」 加護が超ハイテンション。いいのか?それで・・・。辻も似たような点数で大喜びしていた。 二人が嬉しそうに部屋へと帰ってゆくと、反対側から紺野が、沈んだ表情で歩いてきた。 同じ階に住んでいるから珍しい光景ではなかったが、その顔を見て俺は話しかけた。 「紺野どうしたの?浮かない顔して。」 「はい・・・・。テストが悪くて・・・。」 あ、同じテストか。 「どんくらい?」 「一番低いのが71・・・。」 紺野最低点>加護最高点・・・。そりゃそうなんだろうけどさ・・・。
「そういえば石川さん元気なかったんですけど、何かあったんですか?」 「え?!」 な、何?その聞き方。 「うん、ちょっと、な。」 俺は目線を逸らしてしまったことに気がつく。すぐに紺野の眼をよく見て、優しく微笑む。 「お互い、がんばろう。」 「はい!」 紺野も笑い返してくれた。こうやって見てみると本当に効いてるな、この顔。責任・・・・か。 やっぱり石川に会って、話をした方がいいのだろうか?でも今の俺はそんなに強くなかった。 人には背中押すアドバイスを言えるくせに、自分は動けない。説得力ない男だな、俺って奴は。 「でもいつも相談受けてばっかりで疲れませんか?私でよかったらいつでも言ってください。」 あれ、もしかして皆そんな風に俺見てる? 「それ、ごっちんにも言われた。」 俺は笑った。紺野はそれを聞くと微笑み、 「じゃあ、私はこれで。」 さっきとは違った顔をして自分の部屋へと歩き出した。俺も強くならないとな・・・。 そんなことを思いつつ部屋のドアに手をかけた。
次の日、俺は用事で事務所へ行った。つんくさんへの定例報告というものがあり、 3ヶ月に1回、事務所に来る事になっていた。つまり今回が2回目。まあ簡単に言うと、 誰が病んでいるか、誰が精神状態がいいか等の話から今後の曲に反映させる、というもの。 「石川か。」 つんくさんは困ったような顔で呟いた。煙草を吹かすと、続けた。 「で、後藤はええみたいやな。」 「はい。彼女は料理の味で分かりやすく出ますからね。昨日食べたけど、かなりいいみたいです。」 逆に体力がギリギリだとこの間みたいな事になるわけだが・・・。 「他は〜・・・。辻加護。テストがよかったと。」 「いやそんなによくはないですけど。」 俺が言うと二人で笑った。 「留年はかっこつかへんからな〜。」 「ですよねぇ〜。」 つんくさんは煙草を灰皿に押し付けると、聞いてきた。 「石川は、どんな風にあかん?」 「・・仕事でも結構ひどい状態みたいです。」 俺はなるべく平静を装って答えた。 「ん〜・・・。お前のせい・・・ちゃう?」 ビク!!俺は全身の毛が逆立ったような気がした。 「そんな、ことはないです、よ、ハハハ・・・。」 「そうか・・・。」 なんとか動揺しているのはバレなかったらしい。
270 :
柔術? :04/03/13 23:23 ID:EzrJmi++
俺は事務所を出た瞬間、誰かと衝突した。と思ったときには俺は宙に浮いていた。 ドン!!! 「うへ!!」思い切り地面に叩きつけられる。そのままマウントポジションを取られた。 誰だ?顔を見てみると・・・。 「あれ?!すみません!つい条件反射で!!」 じょ・・・条件反射って・・・。そいつは思いきり俺に謝ってきた。松浦だ。 何処で覚えたんだそんな技。 「あ、そういえばさっき後藤さんが探してましたよ。」 「ごっちんが?電話してみるか、とその前に・・・。」 「はい?」 「降りてくんない?」 「あ。」 松浦は慌てて降りると、俺は携帯を取り出した。 「もしもし?俺を探してたって聞いたんだけど。」 後藤はすぐに反応した。 「うん。ちょっと渋谷まで来てくれない?」 「分かった。渋谷の何処?」 俺は場所を聞くと、電車の方が都合がいいと思い、駅へ向かって歩き出した。
指定された場所に着くと、そこには何故か安倍もいた。なんか後藤がうんざりした表情なのが気になる。 「あれ?」 不思議に思っていると安倍はすぐに近づいてきた。 「ねーねー、どっちがいいと思う?」 安倍はかなり嬉しそうな表情で、2本のネクタイを目の前に出してきた。 「優の誕生日、どっちがいいかな〜?って思って。でも優ならどっちも似合うべ。」 大西さんか。ここで俺は呼ばれた意味を理解した。貧乏くじじゃん。 「ちょっとご」 言い切る前に既に後藤は抜け殻となっているのに気づいた。 「速!!」 「ねぇどっちがいいべか〜?」 安倍はしつこく聞いてくる。 「う〜ん・・・・・こっち!!」 あたかも真剣に考えたかのように答えると、安倍は満足そうな笑顔を見せた。 「じゃあ買ってくるから、これ持ってて!!」 俺は買い物袋を渡された。安倍は嬉しそうにレジへと歩いていった。
買い物を済ませ、とりあえずファストフードの店に寄った。あまり何処かで長居すると また撮られる、という俺の判断だった。 「この前は、ありがとうございました。」 安倍は俺にお礼を言ってくれた。 「ううん、あんななっち見てられなかったんだもん。お節介かとは思ってたけど、 気づいたら動いてた。」 よくもまあ無い事無い事言うなこの口。 「あ。」 安倍がつぶやいた。 「どうしたの?」 安倍の視線の先を覗いてみると、中澤と若い男が、店内に入ってきた。 「あの人、お見合いの?」 「うん。気になるべ。」 二人はなんと隣の席に座った。この店は一席一席仕切られていて、硝子は霧がかっていたため、 向こうは気がつかなかった。俺達は二人とも近い側に座って耳をすました。
中澤は暫くすると話し始めた。 「あのな、うち色々考えたん。」 「何を?」 「田中さん、あんたはええ人や。でも・・・でもちゃうねん。なんかうち、 ここまで流されてきてもうたけど、あんたの事を愛す事は出来へん。」 「!!」 安倍が声を出しそうになったので俺は彼女の口を手で塞いだ。 「だから、この結婚の話、なかったことに、出来へんか?」 間。俺達は硝子からぼんやりと見える二人をじっと見つめていた。旗から見たら、 かなり妖しい光景だったに違いない。やがて田中さんと呼ばれた男は口を開いた。 「いつか、そう言うんじゃないかって思ってました。確かに僕らの関係は、 恋とはいえない。中澤さんのように素敵な人なら、きっと僕よりいい人が見つかりますよ。」 田中さんの表情が眼に浮かんだ。 「(いい人〜)」安倍は小さな声で呟いた。
「そんで、好きな人がでけて、今から告白しに行こう思うてます。」 『え?!』 二人は同時声を上げ、お互いの手で口を塞ぎあった。店内が騒がしかったため、 なんとか気がつかれなかったようだ。 「そうですか・・・。頑張ってください。応援してますよ。」 二人はいつの間に食べ終わったのか席を立ち、店を出る準備を始めた。 そして二人が去った後、安倍が言った。 「見に行くべ!裕ちゃんの告白!!」 俺は安倍に強引に引っ張られながら店を後にした。 中澤の後ろを尾行すると、中澤はモヤイ像の辺りで立ち止まった。え?こんな場所で? 勢いに身を任せちゃうのか?俺達は声の聞き取れ、尚且つ気がつかれない絶妙なポジションを探し、 ギリギリまで近づいた。やがて中澤の前に一人の男が現れた。 「何ですか?話って。」
見覚えのある顔だった。でも芸能人だっけ?スタッフ?あれ?まあいいか。 「(姐さんってああいうのが好きなの?)」 俺は聞いた。 「(うん。好みはデビュー当時から変わってないべ。)」 安倍は笑いながら答えた。そんな話をしているうちに中澤は既に思いの丈をぶつけていた。 あとへ返事を待つだけ。 「いいですよ。」 その声が聞こえた途端俺達は顔を見合わせて笑った。中澤は彼に言った。 「せや、さっそく紹介したい友達がおるんやけど、出てきいやそこの二人。」 ビクッ!! 俺達は身を震わすもまだ隠れていた。 「気づいとるっちゅうねん!」 俺達は仕方なくモヤイ像の裏から出てきた。 「あ・・・・あはは、どうも・・・。」 安倍は必死に作り笑顔。俺も慌てて笑顔を作る。 「姐さん・・・いつから気づいてた?」 「それは言えへんな。」 中澤はにやりと笑って見せた。
その日の夜、中澤は俺の部屋に訪れた。部屋に迎え入れ、飲み物を一杯出した。 「酒の方がいい?」 「いや、これでええよ。」 「今日は、どうしたの?」 俺が聞くと、中澤は笑って答えた。 「分かっとるくせに。」 中澤がそう言うと、二人で笑った。 「なっちはどのくらい広めた?」 「全員。全員うちの結婚話しっとったから驚いてたで〜。お前が背中押したとか込みで。」 「マジで?相談増えたりして。」 俺はまた笑った。一杯飲むと、中澤は言った。 「ホンマ、ありがとな?お前のお陰や。」 「いやそんなことはないよ。」 「あるがな。」 「俺は背中押しただけだから。自分の道へ足を踏み出したのは姐さん自身。」 「カッコええこと言うな〜ホンマに。」 「言えないとこんな仕事できません。」 俺がそう言うと、また二人で笑った。
「じゃあうちそろそろ行くわ。洗濯物直してへんねん。」 中澤はそう笑うと玄関の方へと歩き出した。ドアをあける音がした後、中澤の声が聞こえてきた。 「ん、どないしたんそんなしけた面して。」 ?誰か来たって事か。誰だろ? バタン! 入ってきたのは石川だった。『しけた面』中澤が形容した通りの顔だった。いつもの明るい笑顔を 微塵も感じさせない、切ない表情。会ったのはこの間以来・・・。それだけで変に意識してしまうのに、 わざわざ玄関から、しかもあんな表情で入ってこられると・・・。 「珍しいね。わざわざ玄関から来て。」 俺は平常心を保とうと必死だ。石川は何も言わずに、表情も変えずに俺に近づいていた。 俺は高まる胸の鼓動をごまかそうと、必死に言葉を探した。 「な、なんか悩みあるの?」 「うん。」 石川はようやく返事をした。石川はそのまま更に近づいてきて、俺の肩におでこを当て、 もたれかかってきた。 「胸が、痛いの・・・。」 心拍数がどんどん上がってゆく。やばい、ドキドキが止まらない。俺は気を落ち着けるべく口を開いた。
「酔ってないよ、ドッキリでもない。」 俺が声を出す前に、石川は俺の言おうとしていた事を予測し、道を塞いだ。 「今言わないと、ずっと言えないと思うし、今にも胸が張り裂けそうだから・・・・。」 俺は、俺の肩辺りが濡れ始めているのに気がつくと同時に、鼓動が更にスピードアップしてゆくのを感じた。 石川は顔を上げると、俺の目を見て言った。 「あたしは・・・・・。」 そこまで言うと目から大粒の涙。俺にはこの涙の意味がよく分からなかった。 「あたしは・・・・・。」 仕切り直すも、石川はどうしてもその先が言えなかった。俺はそんな石川をそっと抱き寄せた。 もう、言いたい事は分かったから、いいんだよ? 「あ・・・うっ・・・ぅわぁ〜ん!」 石川は声を上げて泣き出した。俺は抱きしめる腕の力を強める。
石川が泣き止むと、俺の胸がびしょ濡れなのを見て、申し訳なさそうな表情で顔を上げると、 この間の話から話してくれた。 「矢口さんとの記事、ショックだったの。矢口さん、意地悪するし・・・。」 『おいら達ラブラブです〜』の件か。 「それで、冗談だって聞いて、ほっとしたんだけど・・・。もしかしたら早く言わないと、 本当に誰かとああいうことに、なるんじゃないかって。よっすぃーに相談したら、行け!って 言われたんだけど、あたし勇気がなくて・・・。そしたらよっすぃーったら、 『このジュース飲めば言える』 って、明らかにお酒なのに渡してきたんだよ?でもその気持ちが嬉しくて、飲んだらなんとなく 気持ちが伝えられる気がして。行って、言えたし、キスまでしちゃったけど、あなたの反応見たら・・・。 答えが返って来るのが恐くなっちゃって、冗談、って言っちゃった。そしたらなんか、あたし、 だめだな・・・って。そう思った途端に、泣いちゃった・・・。」
俺はただ静かに、石川の事を見つめていた。体はまだ抱きしめたまま。 「最低だよね?お酒のチカラ借りて、一方的に告るだけ告って、勝手に泣いて・・・。 このまま終わりかなって、思ってたら、中澤さんの話が耳に飛び込んできて。・・・ 凄いなって思った。きちんと自分の気持ちに答えて。だからあたしはそれに、 背中を押してもらおうと思ったの。」 「背中を?」 「うん。だから、今しかない。今このときを逃したら、きっともう言えないから・・・。」 石川はじっと俺の目を見つめると、その唇を開いた。 「あたしは・・・・・。」 再び目から涙が漏れる。
「だめだあたし・・・泣き虫で、弱虫だ・・・。」 俺は石川をそんなに弱い娘だと思っていなかったためこの情景を半ば信じられずにいた。 自分へと想いを伝えようとしているその姿に何も言えない自分にも苛立ちを覚えた。 「ごめんね・・・・さっきから泣いてばっかりで・・・。なんか、 ネガティブな自分が帰ってきちゃったのかな・・・?」 俺は石川をぎゅっと抱きしめた。 「・・・?!」 「もういいよ・・・何も言わなくていい・・・。もう、りかっちの気持ちは、 俺に伝わってるよ?」 石川は俺の胸の中から顔を上げると、枯れそうな声で言った。 「だめ・・・これはあたしの、けじめだから・・・。言うって決めたの・・・。」 「じゃあ、背中押してあげる。」 「・・・え?」 俺は何も言わずに、顔を近づけた。石川の目は少しおびえているようにも映ったが、 俺は一気に唇を奪ってしまった。 「・・・・・・・・・・。」 暫くして唇を離すと、俺は一言だけ、言った。 「俺はいつまでも待つから。」
石川は涙を流し、軽く頷くと、まだ温もりが残る唇から言葉を放った。 「あたしは・・・・・・・・あなたが・・・・好き・・・。」 「俺も・・・・りかっちの事が好き。いや、梨華の事が好き。」 俺がそう言うと、石川の目から再び雫が零れ落ちた。 「あれ?なんで伝えられて、あなたも好きって、言ってくれたのに・・・。 涙が止まらないよぉ・・・・。」 俺はそんな石川の姿を見てたまらなくなり、優しく微笑みかけた。 「止まるまで、ずっと抱きしめててあげる。」 「・・・・その笑顔、反則だよ・・・・。」 この笑顔の責任、ちゃんと取れたかな?
「あのね、恐くて言えなかった理由、もう一つ、あったの。」 石川は泣き止むと、言った。 「何?」 「もし付き合って、そのうち別れたとしたら、あなた、クビになっちゃうから・・・。」 俺の事を考えて、言えなかったというのか? 「馬鹿だな・・・。別れるのって嫌いになったからだろ?付き合う前からそんなこと 考えなくていいのに。」 「あなたなら、別れても好きかな・・・って。」 俺はドキッとした。物凄く恥ずかしい台詞を言ってくれた石川に、俺もお返しを。 「俺がクビにならなくても済む方法、あるよ。」 「なぁに?」 「ずっと、一緒にいればいいんだよ。」 俺は照れくさくて少し笑った。 「・・・これ以上、泣かせないで。」 石川は微笑みながら、でも涙を浮かべながら俺の胸に顔を埋めた。 俺はそんな石川の髪を撫でた。 「付き合い始めはいつだって、永遠を信じるものだよ。だから、俺達も信じてみようよ。」 この世に「運命」なんてものが存在するなら、ね。
「今日はタンポポか〜。」 石川はいつも通り、オフはうちで食事。辻も当然のようにパスタを口にしている。悲しいかな、 付き合い出しても俺たちの関係に変化は、ほとんど感じられなかった。変わったと言えば、 呼び名がりかっちから梨華になったくらいか。それだけ二人はそばにいながら、お互いの気持ちを 胸にしまい込んでいた、もしくは気がつかなかったのかもしれない。だから、 「え?もう付き合ってると思いました!!」 なんて言う娘もいた。 辻が去った後、俺のどこが好きなのか、聞いてみた。 「う〜ん・・・。そう言われると困るなぁ。」 「困らないでよ!!」 あんな涙涙で告白されたのに、ないの? 「美味しい所?」 「え?」 「料理ね。」 「あ、なんだ。」 「何考えてたの。そっちはどうなのよぉ〜。」 「俺?う〜ん、好きに理由なんていらなくねぇ?」 「あ!ずる〜い!」 「いや、梨華だって答えになってないし。」
かくして俺はいつ爆発するか分からない爆弾を抱えた。 いつまでこの仕事を続けられるか分からない。 二人がいつまで一緒にいられるか分からない。 でもこの不思議なご近所さん達との物語は、まだ始まったばかりだ。 俺達が出会ったのが、運命だったら、の話だけど。 『ねえ どうしてすごく愛してる人に 愛してる と言うだけで ルルルルル 涙が出ちゃうんだろう 』 おわり