83 :
寝ぼけすぎ:
5.ビタースイート
AM6:30
ピンポーン
「・・・ん?」
俺は不意に鳴ったチャイムで目が覚めた。誰だろ、こんな朝早くに・・。俺はベッドから飛び降りると、
眠い目を擦りながら玄関まで歩く。
ガチャッ。
ドアを開けると、そこには後藤が立っていた。
「おはよう・・・どうしたの?」
あくびを軽くしながら応対する俺。かなり醜態をさらしてしまっているな・・・。
「ほい。」
後藤は小さな箱を俺に渡してきた。俺は頭がボーっとしていたので何の事だかよく分からず、
「何これ?」
と言ってしまった。後藤ははぁーっ、とため息をつくと一言。
「チョコ。」
そういわれてやっと思い出す。
「あ!!そうだった!今日バレンタインか。どうもどうも。」
俺は笑顔で受け取った。
「義理だよ、一応言っとくけど。」
「分かってますって。」
「じゃあ、今日これから仕事だから。バレンタインに仕事なんていいことないよ、義理チョコたくさん配らなきゃいけないからさ。」
後藤は少しだけ愚痴ると去っていった。
AM7:30
ピンポーン
「お?」
後藤が来てから二度寝しようと思ったが、他の誰かも来るんじゃないかと
期待していたため寝なくて正解だった。
ガチャッ。
今度来たのは安倍松浦。たまたま仕事に行く時間が重なった、と言うところか。
「どぞ〜。松浦の手作りだから美味しい事間違いなし!ですよぉ〜。」
ああ、松浦は世渡り上手いタイプだよな〜、とつくづく思ってみたり。でもそれでいてナルシストなのがまたいい。
「今度また荷物持ちお願いするべさ。」
え、またですか?チョコを二つ、手に持ち、俺は言った。
「はーい。松浦もいつでもかけてこいよ、悩みがあるなら。」
「はいっ、でもあんまり無理しない方がいいですよ?」
目上への対応本当に上手いなこの子。イや〜この子は伸びますよ(誰
「ありがと。じゃあお二人さん、お仕事頑張って。」
俺はそう言ってドアを閉めた。これで3つ・・・。あと8つ、期待していいのかな?
85 :
10円?:04/02/15 00:47 ID:gseg6OOp
AM8:20
ピンポーン
お次は誰かな?段々楽しくなってきた。
ガチャッ
「お、姐さん、おはようございます。」
俺が期待のまなざしで見ているのに対し、中澤は言った。
「娘。の皆は仕事の後くるみたいやぞ。良かったなぁ、チョコ仰山もらえるで。」
中澤はそれだけ言うと俺から背を向けた。
「え?姐さん、チョコは?」
「裕ちゃんがここ来たんわただの報告や。」
「え〜!!」
贅沢言い過ぎかもなぁ。でもせっかく来たのだから欲しかった。
「せやったら・・・・ほれ!」
中澤はひゅっと俺に何かを投げつけた。慌ててキャッチする。
「・・・・・。」
中澤はチロルチョコを手に悲しげな表情を浮かべる俺を見て、笑いながら去っていった。
Ten minutes after・・・
ピンポーン
「あれ?なんで?」
あとはもう仕事後に来るはずだから、新聞の集金だろうか?それとも視聴料の徴収?
「はーい。」
とりあえず返事をして財布を持つと、俺は玄関まで小走りで行った。
ガチャッ
「あれ?」
ドアを開けると、そこには高橋が立っていた。俺の事をじっと見ている。その表情があまりにも真剣だったので俺は聞いた。
「どうしたの?なんか相談?」
高橋は何も言わずに、さっき後藤がくれたのと同じような箱を差し出した。
「?ありがとう。」
俺が受け取ると、高橋は俺の顔をじっと見た。心配そうな表情をしている。俺が微笑むと、高橋は安心したように笑みをこぼした。
俺が口を開くと、
「あ、何も言わないで。あとで、いいから・・・。」
意味深な発言を残し、高橋は逃げるように走り去っていった。
「???」
「さっきのなんだったんだろう?」
俺は高橋に貰った箱を見て悩んだ。とりあえず開けてみる。
「・・・・!」
それは、昨日後藤に試食を頼まれたチョコレート、しかしちょっとだけ不恰好で、昨日のよりも大きかった。もしかして、作るためにわざわざ後藤に習った?
俺は慌てて松浦と安倍のチョコを開封する。
「あ、形違う・・・。」
このチョコの大きさ、一人で後藤に習っていて、一人だけ仕事前に渡しに来た。ということはもしかして・・・・。
「・・・いやいやいや!!」
そんなはずはない。おれは20のオッサンだし。でも中澤の発言と明らかに矛盾している。
このチョコが本命だと考える方が自然・・・なはず。
「でもなぁ〜。」
部屋で一人つぶやく。最近はそうでもないが、昔は結構悩みを聞いたりはしていた。そのため結構仲がいいが、
高橋からそう言う視線で見られたことは一度もなかった。
「悩みを聞いてもらっているうちに、好きになっちゃって・・・。」
なんだかどっかの芸能人の結婚記者会見の映像が流れる。
「・・・・・・いやいやいや!!」
俺は慌ててにやける顔を叩いた。
ブーン
「ん。」
どうやら仕事のようだ。あれ?今むしろ向こうが仕事中じゃないの?なんだかよく分からないがとりあえず電話に出た。
「もしもし。どしたの矢口、仕事中じゃ?」
俺は何故か矢口は矢口と呼ぶ。同い年の女の子だと、どうしても高校を思い出してしまってこうなった。
「うん。仕事中だよ。今回の仕事は、番組のスタッフをやって欲しいんだけど。」
へ?スタッフ?
「とりあえず来て。そしたら説明するからさ。」
「お、おう。」
こういう仕事と直接接点のある仕事は珍しかったため、俺は少しだけうろたえた。
「局は?」
「テレ東。」
ハロモニか?俺はすぐに車の鍵を手に持ち、家を出た。
「で、何、スタッフをやってってどういうこと?」
俺は14人の控室に到着すると、質問した。飯田が集団から一歩出ると、答えた。
「実はスタッフの人が熱で倒れちゃって・・・。その代わりをやって欲しいんだ。」
え?なんで俺?一人ぐらいなら対応効くんじゃ?俺は思った事をそのまま口にした。
すると新メン以外は明らかにばつの悪そうな顔をした。
「いや、それが・・・。」
飯田は少しだけ気まずそうに、話し始めた。
それは、去年のバレンタインデーの事・・・。
90 :
悪質な手口:04/02/15 00:55 ID:gseg6OOp
「大道具さん〜!!」
辻に呼びかけられて大道具の男は立ち止まった。
「どうしたの辻ちゃん。」
「ちょっと来てくらさーい!!」
辻は男の手を引っ張ると男はそのままよく分からないうちに連れて行かれた。
「ちょっと、どうしたの?」
男は聞いた。辻は何も言わない。男はそのまま辻に控室へと連れて行かれた。
部屋に入ると娘。の全員が男を見て言った。
「ハッピーバレンタイン!!」
男は喜び、箱を全部貰う。そこで安倍が笑顔で言った。
「全部食べてくださいね!」
「うん!」
大変そうだったが、男は喜んで答えた。それを見て、矢口が言った。
「じゃあ今ここで食べてくださいね!!」
男は一瞬困ったが、
「うん!」
と答えるとラッピングをはがし、チョコレートを取り出した。
「・・・・。」
入っていたのはハーシーチョコレートうん十個入り。
よく見てみると全部同じサイズの箱なので一気に開封。
全部同じものだった。男の顔が青ざめたところで、矢口はもう一回言った。
「ね?」
この男、一度言った事は絶対にひかない男だった。それを分かって、メンバーがセレクトした、
いわばターゲット。
男は何とか全部食べたが、すぐに頭に血が登って倒れた。
「で、昨日からその人様子がおかしかったらしくて・・・。今日・・・熱だって言って・・・、
休んじゃったみたい。」
飯田の言い方がなんだか申し訳ない感じで切ない。
「だからおいらたちが責任持って代わりを探しますって言っちゃったの。」
いや、矢口さん?結局大変なの俺だけじゃないですか。
「お願い。」
高橋がさっき見せたような、心配そうな表情で言う。
「・・・分かりました。」
別に拒否出来ないけど、こんなに頼まれて嫌な気はしなかった。俺が引き受けると、
全員でいっせいに色々言ってきた。
「ウェイトリフティングのチャンピオン!!」
「高校時代短距離でインハイ!」
「昔6時間耐久『命』のポーズで100万円とった!!」
そんなようなことを残り11個。
言い終わると、石川が言った。
「って皆に言っちゃった。」
「嘘!?」
「おいおい昔の根性はどこへ行った?にしてもお前ウェイトリフティングのチャンプの癖に細いな〜。」
「すみません・・・・。」
俺は何も言えずにただ働く。大道具の仕事は意外に大変だった。とりあえず、重い。道具を運びながら
あっちへ行ったりこっちへ行ったり。そんなとき、たまたま高橋とすれ違った。目が合うと、高橋は笑顔になった。
どうしよう・・・。向こう本気かな?
一仕事終え、機材室の横の壁によっかかりながらボーっとしていると、話しかけられた。
「どしたん、しけた面して。」
加護だった。
「ああ、あいぼん。なんかさ。」
俺が話そうとすると、加護は言った。
「愛ちゃんの気持ち、裏切ったらあかんぞ?」
「え?」
「それだけや。ほな。」
加護はそう言うとそのまま去っていった。それにしても、こんなシリアスな場面にその衣装はないでしょ・・・。
コント前だから仕方ないか。OAお楽しみに!(何
93 :
葛藤:04/02/15 00:59 ID:gseg6OOp
俺はなんとか仕事を終えると、他に仕事がある娘。よりも先に家へ帰った。家に帰ると、俺は高橋から貰ったチョコを、
まず口に入れた。
「・・・ビタースイート。」
そんな歌を思い出させる味だった。苦いが甘い。それがこのチョコへ与えるには最も適切な表現だった。
チョコを食べながら、加護の言葉が頭の中でぐるぐる回った。
「裏切ったらあかんぞ?」
「俺はどうしたらいいんだろ・・・。」
いや、普通にOK出せばいいじゃん。と思う人もいるだろうが、これはそんな簡単な問題じゃない気がした。
自分では明らかに荷が重過ぎる。とても背負いきれるものではないのは明白だった。付き合えるならそれはすごい嬉しいけど、
俺はあくまで仕事で彼女と繋がっている、それだけの関係だから・・・。でも断るのは勿体無さ過ぎる・・・。
ピンポーン
俺が葛藤する中、チャイムは鳴った。
「はーい。」
俺は小走りで玄関へ。ドアを開けると、高橋が入ってきた。高橋の目は、今まで見た事のないような、
大人の目をしていた。俺達はしばらく、ただ見つめあった。
「いいよ、あがって。」
しばらくすると俺は口を開いてそう言った。高橋はこくりと頷いて中へ入ってきた。
二人でソファに座ると、高橋は言った。
「どう?」
高橋は聞いた。俺は回答に困った。
「えっと・・・その・・・・なんていうか・・・。」
高橋は突然目をつぶって俺に体重を乗せてきた。
「え?!」
高橋の両手が俺を軽く包むように伸びる。
「愛ちゃん?」
どうしよう・・・。
ピンポーン
高橋は目を開いた。そこで俺はそっと高橋の腕をどけると、
「はーい!」
と言って再び小走りで玄関へと向かった。
ガチャッ。
「ハッピーバレンタイン!!」
吉澤を先頭に矢口辻加護紺野の5人が部屋へと上がってきた。
「あ、愛ちゃんもう来てたの。」
吉澤が部屋の奥を見る。部屋の奥へと入ると、5人は改めて俺にチョコを渡してくれた。
渡し終えると、矢口が言った。
「皆の前で食べてよ。」
「え、大道具さんみたいなことはないよね?」
「そんな、同じネうぐっ!!」
吉澤が途中まで言ったところで加護が口を塞いだ。ネって何?不審に思いながら、俺は箱を開けた。
「・・・・・・・・・・。」
もう一つ、
もう一つ、
もう一つ、
あと一つ。
「・・・・・・・・・・。」
「いやぁ〜、高橋フライングはダメだよぉ。」
吉澤が高橋を見て言う。
「でも、美味しいかどうか自信がなかったんで、感想さっきも聞いたのに答えてくれないし・・・。」
え?さっき?
「せっかくごっちんに習って皆であげようっていう話だったのに、なんで先に行っちゃうの〜?」
辻が笑う。
「てことは・・・・・・・・。」
俺は静かに呟いた。俺がその続きを言う前に、紺野が止めを刺す一言。
「え、もしかして本命と勘違いしちゃってました?」
俺の表情を見て、矢口が言った。
「ドッキリ大成功〜!!!」
大笑いする矢口。その途端に6人は騒ぎ出した。俺はただ、全部全く形の同じチョコ5つを見ていた。
ボコッ!!
「いて。」
後ろから加護に叩かれた。
「アホ。」
加護はそう言うと大笑いした。俺もただ笑うしかなかった。騒いでいる中、高橋に聞く。
「じゃあ、さっき迫ってきたのは?」
高橋はあっさり答えて見せた。
「眠くなっただけ。」
96 :
意味深:04/02/15 01:05 ID:gseg6OOp
全員が帰ると、俺はチョコをむなしく食い始めた。一瞬でも期待した自分がバカみたいだ。冷静に考えたら、高橋が自分なんかを好きになるはずないのに、
あんな目で見られたら信じてしまうじゃないか。
「ふぅ〜。」
溜息をつく。
「はっぴ〜?」
甲高い声が押入れの方から聞こえた。俺は棒を取り出し、押入れの扉が開かないように仕掛けた。
「あれ?あれ〜?ちょっとぉ!!開けて〜!!!」
しばらく眺めて笑ったあと、開けてあげた。扉が開いた瞬間石川は一言。
「まあ元気出せよ。」
バタン!!!
「ちょっとぉ!!開けてよ〜!ごめん〜!!!」
口調がムカついたので思わずまた閉めてしまった。ドアを開けると石川は口を閉じたまま押入れから出てきた。
「はい。」
石川は俺に箱を渡してきた。
「何?これ。」
「チョコ。」
俺はチョコを急いで開けてみた。すると、そこにはさっき見た量産型とは全く異なった形をしたチョコが入っていた。
「じゃ〜ねぇ〜。」
石川はそのままドラえもんのように押入れに入って、戸を閉めた。
・・・これって?
続く