632 :
0−3:
0−3「Secret...」
「以上で報告終わりがし。」
「ご苦労やった。」
これは、ようやくつんくが高橋の言葉を聞き取れるようになって来た頃の話。
高橋はつんくへの報告を終え、家へと帰ろうとしたとき。
「愛ちゃん。」
「はい、何か用ですか?hydeさん。」
hydeは高橋を呼び止める。
高橋は早く家に帰りたくて、かなりウザったく感じていたが。
「教育係って言っても大して何もしてないから、一つ呪文を教えようかな、って。」
高橋はすぐに食いつく。Hydeのあの強力な呪文を一つでも吸収出来れば、
少しは役に立てる、そう思ったからだ。ただ高橋は不安もあった。
果たして自分がhydeの呪文を果たして、使いこなせるだろうか?
「で、何教えようかな・・・。」
hydeが迷っている間にも、高橋は不安と期待の中渦の中で悩んでいる。
Hydeはそれに気がつくと、言った。
「君は自分が思っているよりも、強いよ。」
633 :
0−3:04/05/31 22:10 ID:hKoREKMW
hydeが高橋に教えたのは『HEAVEN’S DRIVE』。
一見、紺野の『WHEEL OF FORTUNE』と全く同じ技に見えるが、威力はそれを
はるかに凌ぐ。それは紺野とhydeの単純な実力差では説明出来ないほど、
差のあるものだ。
「仮にお前が紺野と同じ魔力だとしても、『HEAVEN’S DRIVE』は
『WHEEL OF FORTUNE』の1.5倍車輪が大きく、数が多く、スピードも速い。
ただし、マスター出来なければかなり中途半端なものとなり兼ねないから、
しっかりやるぞ。」
hydeは特に何も考えていなかった、と言うのが正解かもしれない。
今はスパイだが、新垣が何かで死に次第、完全に革命軍に戻られる可能性が
あるというのに、hydeは呪文を教えた。
新垣が死ぬと言う可能性が頭に無かったのか、
高橋を繋ぎとめる自信があったのか。
hydeが死んだ今はもう分からないが、少なくともこの時点では、高橋は上で
書いたようなことは全く考えてなく、与えられた責務をこなす事に必死だった。
634 :
0−3:04/05/31 22:13 ID:hKoREKMW
「・・・完璧。」
hydeの言葉に、高橋は今日初めて笑顔を見せる。Hydeはその笑顔を見て、
「元に戻っちゃったか。」
とだけ呟いた。
「あたし帰ります。」
高橋はすぐに窓から飛び出す。落下しながら魔力を調節し再浮上、そのまま
夜空を舞う様に帰ってゆく。
635 :
0−3:04/05/31 22:14 ID:hKoREKMW
「今日の会議はここらへんで終わりやな。じゃあ、また明日な。」
中澤の声と共に、会議は今日も終わりを告げる。
高橋はみんなで家に帰ろうと、紺野と小川がいる方へと向かった。その時、
ガシッ。
「!!」
急に肩を掴まれ、高橋は飛び上がるほどびっくりする。
目を大きく開け、後ろを振り向くと、肩を掴んでいたのは後藤だった。
後藤の表情は、完全に曇りきっている。
「ちょっと来てくれない?」
「は、はい・・・・。」
あたしなんか悪い事したやろか〜?
恐喝される小学生みたいにびくびくしながら高橋は後藤についてゆく。
中澤の家を出ると、後藤は空を飛び、後ろを振り向いた。
遅れて飛び上がる高橋。ゆっくりとした飛行が続く。
それが逆に高橋に恐怖を感じさせた。そして二人は何もない、開けた広場まで飛ぶと、着地した。
636 :
0−3:04/05/31 22:15 ID:hKoREKMW
「高橋・・・。」
「はい・・・。」
何をされるのだろう。高橋はかなりびくびくしていた。
「昨日さ・・・・。」
後藤はかなり溜めを作りながら話す。
「お、お金ならないです!!」
「違うよ!!!」
「ごめんなさい!!!」
高橋はびびりっぱなしで、後藤は申し訳なさそうな顔を一瞬だけするも、
すぐに表情を引き締めた。
「昨日、城から飛び出すところ見たんだけど、どういうこと?」
「!!!」
後藤の口から飛び出した言葉は、あまりに予想外だった。高橋は考えた。
どうする?しらばっくれるべきなのか?
「ねぇ。答えて。」
637 :
0−3:04/05/31 22:17 ID:hKoREKMW
638 :
0−3:04/05/31 22:18 ID:hKoREKMW
高橋がちょうど城で報告をしていた時、偶然後藤は市井の墓に一人、
祈りに行っていた。週1回は必ず祈りを捧げに行く。
それが後藤の日課だった。
「もうすぐ、きっともうすぐ終わるから・・・。」
ついで、と言っては失礼だが、後藤は亡くなっていった他の仲間達にも、
黙祷を捧げる。目を瞑れば、そこは闇。静かな霊園の中、後藤は一人、涙した。
「もうそろそろ行くね・・・。」
後藤は市井の墓を撫でると、ゆっくりと、歩き出す。
墓は城の南門付近にあったため、かなり慎重に進まなければならない。
そのため安全な空のルートを使う事が多かったが、この日は気まぐれで
歩いていた。不意に視線を空へと上げれば、星空が綺麗に輝いている。
それは革命軍と国との争いでさえ、簡単に全て飲み込んでしまいそうなほど
壮大なものを感じさせた。一つ一つの輝きから、海のように広がる光たちに
暫くうっとりとする後藤。しかし目の前を通過した物体によって、あっさりと
現実世界に戻される事になる。
城の窓から、高橋が飛び出した。落ちる。持ち直す。
舞うように空を飛んでゆく。その一連の動作は、後藤に物凄い衝撃を与えた。
639 :
0−3:04/05/31 22:20 ID:hKoREKMW
「どういう・・・・こと?」
640 :
0−3:04/05/31 22:22 ID:hKoREKMW
「どういうこと?」
後藤にせがまれ、高橋は更に目を大きく開ける。高橋の脳内はフル回転していた。
どうすればいいのか、とても脳内で情報を処理し、判断しきれないくらいに、
高橋は焦っていた。そのため言葉が出ず、
「言えないってことは・・・。」
後藤はそこまで言うと、猛スピードで高橋の目の前に突っ込む。
その右腕は思い切り引いている。それはまるで放たれる前の拳銃のように。
「ちょっ、待ってくださ」
ピタッ。
後藤の腕は、高橋の目前で正確にストップした。
「少しは言う気になった?」
後藤の笑顔は、その恐ろしさを引き立てるオプションとしては充分過ぎる。
とりあえず否定しなければ。高橋の脳内で結論が出された。
「な、なんにもないですよ。変ですよ、後藤さん。」
後藤は高橋の目をじっと見る。高橋も目を見つめ返す。
二人の視線が、しばしの間絡みあった。
「じゃ、次は止めない。」
後藤は3歩引くと、さっきよりもスピードを上げ、突っ込んできた。
今度は拳を止める様子も無い。止むを得なかった。
641 :
0−3:04/05/31 22:23 ID:hKoREKMW
ピュッ!!!
高橋は何とか後藤の拳をかわした。
そしてかわした瞬間、高橋の目が明らかに変化する。後藤はすぐにそれに気づく。
「?」
高橋はすぐに行動に出た。
『HEAVEN’S DRIVE』
「え?!」
高橋の周りに現れた車輪が、後藤へと襲い掛かる。後藤は知っている。
それがhydeの技だと言う事を。
そして紺野の『WHEEL OF FORTUNE』も。
だから、後藤は思わずひるんだ。地面に落ちていた枝を拾い、後藤は
オーラブレードを形成、なんとか弾くも一つの車輪に吹き飛ばされる。
「うっ!!!」
予想以上の威力に、後藤は更に驚かされた。一体どういう事だ?
高橋の魔力が普段と明らかに異なっていた事に、焦らずにはいられない。
『シャボン玉ぁ!!』
1000単位のシャボンが、後藤に降り注ぐ。
一つでも割れば魔力の波紋が広がり、大ダメージを食らうことになるだろう。
なら!
後藤は瞬時に判断し、動いた。
642 :
0−3:04/05/31 22:24 ID:hKoREKMW
「うおぉぉぉ!!!」
後藤は何と、シャボン玉へと突っ込んだのだ。
尚も高橋の手からはシャボンが放たれ、後藤の方へと伸びている。
シャボンと後藤との距離がどんどん狭まる。
1メートル、50センチ、20センチ、5センチ。
「とぅ。」
フェイント!!
高橋が気づいた時にはもう遅い。後藤は空中を舞い、そこに枝を落とした。
天才だからこそ瞬時になせる業。所詮シャボン、枝だけでも割れる。
パンッ!!
パンパンパンパンパンパン・・・・・・・。
破裂したシャボンが周りのシャボンを破裂させ、その連鎖は高橋自身を襲うものとなる。
一気に打ち寄せる波紋を、高橋はかわせない、後藤は空中で思った。
なんせ、かわす距離がないのだ。もうあと1秒もしないうちに高橋は自らの
技で地面にひれ伏す・・・。
しかし後藤が考えている以上に、高橋の実力は底なしだった。
643 :
0−3:04/05/31 22:25 ID:hKoREKMW
高橋は避けるそぶりを全く見せない。その代わり、高橋は手を迫り来る
魔力の波に向けて翳してみせる。すると魔力はどんどん高橋の手の中へと
吸い込まれていった。
「!!!」
吸収。
これはかなり実力のある魔導師でないとまず成功することなく自滅する技。
しかし高橋は全魔力を己の中へと戻してしまった。
そして高橋はすぐに動き出す。空中に飛び、後藤に襲い掛かったのだ。
「くっ!!」
後藤は瞬時に両拳に闘気を蓄積、一気に放出する。
『Do it!』
拳の形そのままに大きくなった闘気が、まるでロケットパンチのように
高橋へと突っ込んでゆく。二つとも凄まじいスピード。かわせるはずがない。
しかしまたも後藤の期待は裏切られ、絶望感に駆られる事になる。
644 :
0−3:04/05/31 22:26 ID:hKoREKMW
バン!!!
なんと、高橋は両方の闘気を左手一振りで払い飛ばしてしまった。
後藤の方へとそのまま飛んでくる。
更に、高橋は両腕に闘気を蓄積し、さっき後藤がして見せたように、放った。
『Do it!』
合計4つ。後藤は腹をくくる事にした。
「うぉぉぉぉ!!」
後藤はそのまま突っ込む。高橋の目は、どうせまたフェイントだろ?と言った目。
しかし今回は違った。なんと後藤はそのまま突っ込んだのだ!
ドンドンドンドン!!!
かなりのダメージを受けつつも、後藤のスピードは全く衰えない。
そしてこの裏の裏をかく行動によって、後藤は高橋の目の前に、あっさり
到達した。
「!!!」
高橋の目が、一瞬恐怖に怯える。瞬時の判断力、実行力、やはり後藤真希は天才。
『Baby!Knock out!!-type gun-』
拳から、さっきとは比べものにならない闘気が、弾丸の如く飛び出した。
645 :
0−3:04/05/31 22:27 ID:hKoREKMW
ドサッ。
「あ・・・あ・・・・。」
高橋は、放心状態のままカオナシのように唸っている。
わざと顔面真横を通過した弾丸で、高橋のトランスは完全に解けてしまった。
トランスの解けた高橋は、もはやいつもの高橋。物凄くびっくりした顔のまま、
高橋は地面へと落ちた。
後藤はゆっくりと、その後を追って着地する。
「ご、ごめんなさい!!!」
後藤が着地した瞬間に、高橋は絶叫した。
後藤はそんな高橋を見ると少し口ごもり、
「・・・なんか調子狂うなぁ。」
646 :
0−3:04/05/31 22:29 ID:hKoREKMW
高橋は全部話した。自分がスパイをやっていると言う事、その理由、いきさつ全て。
全てを告白した高橋は、涙を流して、
「もう革命軍にいられません。
まこっちゃんとあさ美ちゃんによろしく言っておいてください。」
「いや、いて。スパイも続けていいから。」
後藤の口から飛び出した言葉は、また高橋の顔をびっくり顔へと変貌させる。
後藤はそれを見て笑うと、
「ただし。」
こう付け加えた。
「ガキさん倒したら、スパイごっこはおしまい。OK?」
ごっこ、と付いていたのが高橋には不服で仕方がなかったが、
「はい。」
高橋にはこう答えるしか、道が無かった。
その後二人はそれまでと全く変わらない関係を保ったまま、革命の計画も
着々と進んでゆく。ただ一つ、後藤の心に高橋愛の強さを残して。
To be continued...
647 :
えっと:04/05/31 22:30 ID:hKoREKMW
>>631 保全ありがとうございます。
駄目ですね、最近更新遅くて。なるべく早く次回を書けるよう頑張ります。
648 :
18話:04/06/02 21:29 ID:vAXGYoFV
18.「最初の扉」
「・・・・・・・ん・・・・。」
目が覚めるとそこは薄暗い牢獄だった。
加護は辺りを見回すと、目の前に倒れている辻の存在に気がつく。
立ち上がると少し立ちくらみがしたが、なんとか辻の前に辿り着き、
「おい・・・・のの・・・。」
ゆっくりと肩を摩る。辻は少しだけうなされているような声を上げたあと、
静かに目を開いた。
「あい・・・・ぼん?」
むくっと起き上がると、痛みを感じた瞳はかすかに歪む。
痛みを感じた左肩に目をやると、肩口から血が流れていた。それを見ると
同時に、二人は思いだす。自分達の身に何が起こったのかを。
二人はすぐに視線を真上へ、自分達が落ちてきた天上を見上げた。
649 :
18話:04/06/02 21:30 ID:vAXGYoFV
650 :
18話:04/06/02 21:32 ID:vAXGYoFV
『鶺鴒』
その声が聞こえた瞬間、全身に強い重圧を感じたのを、今でもはっきりと
二人は覚えている。そして、地獄へと引きずり込まれていく様な、あの
忌わしい感覚。横をふと見ると、紺野が物凄い悲鳴を上げていた。
何か、昔のトラウマを思い出しているような顔をして。
紺野の悲鳴が最高潮に達した瞬間、視界から紺野が消える。
正確には、二人が消えた。目の前の景色が、完全に変わってしまい、
足元に何もないことに気がつく。
「・・・・・・え?」
刹那、自由落下が始まる。二人とも、落ちてゆく。
二人はすぐにお互いの存在に気づき、同時に他のメンバーは誰一人いないと言う事も知った。
「のの!」
「あいぼん!」
手を思い切り、伸ばす。
しかし、無情にも二人は近づく事無く、ただただ落ちてゆく。下を向くと、
もうそこは地面だった。二人とも目を瞑る。
651 :
18話:04/06/02 21:33 ID:vAXGYoFV
「・・・の割には怪我、少ないなぁ。」
加護は自分の体を見て、コメントする。
その理由を、辻はなんとなくではあるが気づいた。
「天上、近すぎやしねぇれすか?」
辻は地面に落ちている小さな石ころを拾い、天上めがけて思い切り投げる。
スルッ
『!!!』
なんと石は天上とぶつかるどころか、すり抜けて消えてしまった。
「決まりやな、ここがあの噂の地下牢や。」
加護の言う噂とは、つんくの城の遥か地下には、城下町の地下にまで地下牢が
続いていて、出口が街の何処かにあるが、街から入ることは出来ず、
城からもどうやって入るのか、知っている者も僅かに限られる、と言うもの。
あくまで噂だとばかり思っていたが・・・。
ここでは犯罪者ではなく、敵国の主戦力を突っ込んでしまうと言うのが基本らしく、
つまり強敵がこの先待ち構えている可能性がある。
「とりあえず、進むしかないみたいれすね。」
辻がグッと拳を握ると、
ガン!!!
「痛!」
突然、加護の頭に何かが落ちてくる。すぐにそれは地面に落ち、跳ねた。
さっき辻が投げた石だった。
652 :
18話:04/06/02 21:34 ID:vAXGYoFV
地下牢、というのはやはりあくまで噂で、どちらかというと個室、
しかもかなりワンルームワンルーム大きい様子だった。
両側にドアがあるから、ばれない様に進むのも一苦労。
いちいち無駄な戦いをしていてもしょうがないから、二人はなるべく慎重に進んだ。
とりあえず、道は一本しかないから、それが出口へと続く道だと信じて二人は進んでゆく。
ガチャッ。
不意に、後ろのドアが開く。二人は慌てて後ろを振り向いた。
「はぁ〜・・・・・。」
大あくびをして出てきたのは・・・・・。
「ば、ば、ば・・・。」
『化け物〜!!!!!』
二人は扉から姿を見せた大悪魔に、二人は絶叫せずにいられなかった。
全速力で逃げ出す。“化け物”と呼ばれた女は、しばらく意味がよく分からなかったが、
「待て〜!!!!!」
すぐに二人を追いかけた。
653 :
18話:04/06/02 21:35 ID:vAXGYoFV
「はぁっ・・・はぁっ・・・。」
二人は息も整わないうちに、さっき見たこの世のものとは思えない“化け物”に
ついて熱く語っていた。
「なんやねんあの白塗り!口紅はみ出とったし!!」
「それより何より大きすぎれす!横に!」
「黒髪とあのけったいな格好はありえへんわ!!」
「悪かったわね。」
『ひゃぁ!!!』
なんとあの体格に追いつかれるなんて、二人はびっくりして後ろを振り返ると、
息一つ乱さずに立っている“化け物”。
「化け物じゃなくて、私は犬神凶子。ハッハッハッハッハッ。」
笑い声とともに、二人は突然激しい邪気を感じて後方へと軽く吹き飛ぶ。
どうやらこの犬神凶子と名乗る化け物の能力は、中居正広と同じく魔声のようだ。
しかも中居と違い、その肺活量から繰り出される声は物凄い威力を放っている。
これはどうやらかなりの強敵のようだ、が・・・。
654 :
18話:04/06/02 21:40 ID:vAXGYoFV
「化け物って言ってすんまへんでした。ほな、さいなら。」
「さいなら。」
下手な関西弁の復唱の後、二人はそーっとその場から立ち去ろうとした。
「待ちなさい。」
ビクッ!
二人はその場で立ち止まる。
「な、なんやろか?」
「なんやろか?」
関西弁にちょっとした上達が見える中、犬神は世にも恐ろしい顔で、
「Gacktさんからちゃんと伝わってんのよ。あんた達を始末するようにってね。
ハハッ、ハッハッハッハッ!!」
655 :
18話:04/06/02 21:42 ID:vAXGYoFV
またも凄まじい邪気に二人は吹っ飛ばされる。
「あ、このまま飛ばされて逃げればエエやん。」
「エエやん!!!」
二人はそのまま身を任せて進んでゆく。
「バカめ・・・。更に勢い増やしてあげるわよ。」
深く息をついた後、
『フレッシュ♪フレッシュ♪フレーッシュ♪』
「うはっ。」
二人の飛ばされるスピードが更に上がる。
そのまま逃げれる、二人がそう思った瞬間。
『壁?!』
目の前に迫り来る壁。いや、正確には自分達が歩み寄っているのだが。
避ける暇はなさそうだ。
656 :
18話:04/06/02 21:44 ID:vAXGYoFV
「ちぃ!」
加護は背中に装着していた盾に短刀を刺し、短刀を壁にめがけて投げた。
そして辻を引っ張り寄せ、その盾に足を伸ばす。
ドン!!!!
盾は一瞬にして弾け、二人は地面に叩きつけられた。
しかし大分ダメージも軽減できたのも事実。二人は擦り傷を気にする事無く、
今度は犬神へと向かってゆく。素早い動きの加護と、単純に足の速い辻。
直線と曲線のスピードスターが、明らかに動きの遅そうな犬神へと突っ込む。
そういえばさっきはなんであんな一瞬で目の前に現れたのだろうか?
加護は一瞬気になったが、そのまま攻撃へ。しかし、犬神の無茶苦茶さは、度を超えていた。
「ハァ!!!」
なんと、激しいメイクが施されている目から、謎の光線が発射される。
「?!」
慌てて避けるも、光線は壁に当たると跳ね返り加速。両目から放たれた、
二本の謎の光線が二人を常に襲う。
「うわ!!わ!!あ!!」
必死に避け続けるも、だんだんと疲れてくる。こいつはやばい、二人は一気に
攻撃する事にした。しかし、犬神から第二の飛び道具が発動する。
657 :
18話:04/06/02 21:46 ID:vAXGYoFV
ギュン!!!
『うそ!?』
なんと、今度は爪が一気に伸び、二人を襲った。爪2本と2本の光線。
同時に4つのものを避けなければならない。
「ちぃ!!!」
加護はダガーを思い切り爪へと投げつけた。しかし、ダガーはいとも簡単に
跳ね返され手元に戻ってくる。そして犬神は、更に滅茶苦茶な技を魅せる。
後ろを振り向き、
『ハァァァ!!!!』
なんと魔声を利用して、体ごと突っ込んできた!!
「化け物〜!!!」
辻は一気に決めるべく、今日一番の気を斧に集約。4本を掻い潜りながら、
突っ込んでくる犬神を待った。
『NON STOP!!!』
ドン!!!
「グハ!!!!」
『グハ』の声により、二人は『NON STOP』で飛ばされた犬神とは反対方向へと、
勢いよく吹き飛ばされた。
658 :
18話:04/06/02 21:47 ID:vAXGYoFV
「痛たたた・・・・・。」
崩れ落ちた壁の瓦礫から辻は起き上がると、口から煙を吐いた。
加護も一歩遅れて顔を出す。
「このままじゃ埒があかないのれす。」
「せやな。どないする?戦っても倒せるかわからんで。」
辻は少し悩んだ表情を見せた後、テヘヘと笑い、
「倒せないのなら・・・。」
耳元で囁かれた加護は、思わず爆笑した。
「それごっつキモいやん!まあええ、行くで。」
「へい。」
二人は起き上がると、走り出す。『NON STOP』の現状の破壊力から考えて、
犬神は相当派手に吹き飛んだはず。
しばしのランニング経て、二人は気を失いのびている犬神を発見。
二人はニヤリと笑った。
659 :
18話:04/06/02 21:48 ID:vAXGYoFV
「ん・・・・・。」
気を失っていた巨漢は、無駄にいい声を響かせながら、体を重そうに起こした。
すると途端に爆笑が聞こえ、犬神は思わず目を大きく見開く。
しかし、それが余計に爆笑を増大させる事となった。
辻加護は二人で指を指して笑いこけている。なんだかよく分からないが、
犬神はムカついた。昔から笑われるのが一番嫌いなのだ。
「なんなのよ!!!」
魔声ではなく、普通に叫ぶ。すると二人はびびる所か、更に爆笑。
「もう!!!」
立ち上がって、犬神は気がついた。自分がどうやら、とんでもない格好を
しているということに。まず、さっきまで威圧感を放っていた服が、
完全なテニススタイルに。しかも無駄に爽やか。顔を触って更に気づく。
化粧も見事に取られ、髪型も・・・・。
「予想以上にキモなったなぁ。」
「これはこれでええやん。」
「よくないわ!」
二人で爆笑。・・・・・犬神凶子はすぐに理解した。こいつらか・・・。
660 :
18話:04/06/02 21:49 ID:vAXGYoFV
「もう決めた!あんた達殺す!!」
こんな台詞をも笑いを誘ってしまうのは、手に持たされているラケットのせいだろうか。
よく見ると足元にはテニスボールのオブジェ。・・・。
耐え難い屈辱の中、犬神は何を思ったのか、ボールを鷲掴みすると、
『?』
グシャッ!!
『!!』
粉みじんに潰してしまった。目を丸くする二人。
「死ね!!!」
ボールに魔力を込め、犬神は思い切りストロークした。スイートスポットを
直撃した音がする。そして次の瞬間、
ヒュン!!!
「!!・・・・・。」
加護の頬をかすめ、加護の頬からは血が流れ落ちた。二人は思った。
もしかして、作戦ミス?
どこら辺が作戦なのか凡人にはとても分からないが、とりあえず二人は焦り、
強攻策に出ることに決めた。
661 :
18話:04/06/02 21:50 ID:vAXGYoFV
「死ね〜!!!」
5発くらいいっぺんに球が飛んでくる。
「行くで!!!」
「うん!!!」
二人は手を繋ぎ、気を溜めた。そして、
『W type3 VACANCES』
二人の合体奥義、『W(ダブルユー)』のうちの一つ。この奥義は相手から
来る物理攻撃全てを跳ね返す。
テニスボールは全て二人の前で一時停止すると、凄い勢いで犬神の方へと戻ってゆく。
速度アップのおまけもついて。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
ドンドンドンドンドン!!!
犬神は勢いよく後方へと吹き飛んだ。しかし今度は手を緩めない。
二人は更に追い討ちをかけるべく、それを追った。
662 :
18話:04/06/02 21:52 ID:vAXGYoFV
『W type2 Sindbad』
そう叫んだ瞬間、犬神には二人が姿を消したように見えた。
が、すぐに加護が視界に入る。
ただし、4人くらい。
「?!!」
加護がスピードを限界まで上げ、超高速による残像を生む事で相手を混乱させる、
それがSindbad。そしてその間に、
「たぁぁ!!!!」
後ろから辻が決めに入る。犬神の背中を、辻は斧で切り裂いた。
「あ゛あ゛あ゛!!!」
しかしこの技はあくまで締めの伏線にしか過ぎない。二人は最後の奥義を開放した。
『W type1 Rhapsody』
加護は超スピードそのままに、辻も負けず劣らぬスピードで、様々な角度から敵を、
二人の体力が尽きるまで切裂き続けると言う恐ろしい技。
犬神凶子はわずか10秒で断末魔の叫び声を上げ、二人はその魔声に吹き飛ばされた。
663 :
18話:04/06/02 21:53 ID:vAXGYoFV
「痛てててて・・・。」
二人は起き上がると、犬神だったものを振り返りもせずに、先へと進んだ。
「とりあえず、先進むで。」
To be continued...