63 :
タイミング:
4. 泉家物語
講義が終わり、教室を出ると、俺は友達に話しかけられた。
「今日このあと合コンあるんだけど行かない?」
久々の誘いに俺は喜んで乗った。
「マジで?!いくいく!!」
ブーン。
「ごめん。用事入ったみたい・・・。」
俺はディスプレイに表示される名前を見ながら泣く泣く友達の誘いを断り、
電話に出た。
「紺野、久々だね。何、今日は?」
「出来れば直接会ってお話したいんですが・・・。」
紺野は、俺に敬語で話す数少ない子の一人だった。
「分かった。すぐ帰るよ。」
最近このパターン多いなぁ、遊ぶ暇が全然ない。家賃と遊ぶための金を手に入れるためのバイトなのに、
後者の使い方を全く出来ていない・・・。逆に言えば、それだけ貴重な体験をしている。今はそれをありがたく思おう。
「紺野―。」
俺の部屋の前にいた紺野に手を振って話しかけると、紺野は笑顔で言った。
「おはようございます。」
芸能人の性?それほど気にせず家の中へ招き入れる。紅茶を入れ、話を聞く。
「傷心デート?」
紅茶を一口すすると、俺は続けた。
「傷心旅行みたいなもんってこと?」
「はい。旅行してる時間ないので・・・。」
でもあれって一人でするから意味があるんじゃ?ていうか傷の痛みがぶり返さない?
でもこんな楽でお得な仕事ないし、久しくデートなんかしてないし、楽しそうだし。
「OK、分かった。で、いつ?」
紺野は嬉しそうに答えた。
「今度の金曜日です。新しく出来たショッピングモールがあるんですけど、そこに行きたいなぁって。
ゲーセンとかもあるみたいですよ。そこに朝10時に集合したいんですけど。」
俺はとりあえずその場所を教えてもらった。
「分かった。じゃあ、木曜日ね。」
紺野に言うと、紺野は軽くお辞儀をして、俺の部屋から出て行った。
「今回当たりだな〜。」
俺は少し表情を緩めてしまった。
ブーン
「お、次は誰ですか〜?」
ディスプレイには『吉澤ひとみ』の5文字が写し出されていた。俺はすぐに電話に出た。
「よっすぃー久々、どしたの?」
「遊びに行こう〜!」
いきなりだったのでびっくりした。お、美味しい仕事が次々と?
「いつ?」
「今度の金曜っす〜!」
え?マジですか?
「いや、その日はちょっと・・・。」
「え〜?!吉澤もその日しか空いてないっすよ〜!!」
よく考えてみると当たり前の事だ。二人は同じグループで、同じスケジュールで働いているのだから、
休みも当然被る。そして俺には拒否権はない。つんくさん、このくらいの事態、予測してくださいよ・・。
とりあえず、やるしかない。
「分かった。じゃあ場所は決めさせて。」
「やった〜!」
電話の向こうから喜びの声が聞こえる。場所は当然あの場所に決定。
「新しいモールすかぁ!いいっすね〜!」
ゲーセンがあるのもポイントだろうか。吉澤はあっさりOKした。
「時間はどうしようか?」
「そうっすね〜・・・。朝10時くらいでどうすか?」
緊急事態発生。修正すべし。
「ちょっと早くしていい?」
「え、いいっすよ〜。」
とりあえず9時半に決定。吉澤は最後までいいテンションで話していた。
「さて、どうする・・・。」
白紙の紙を前に、俺はうなっていた。とりあえず行動予定ぐらいは立てないとどうしようもない。
とりあえず適当な理由をそれぞれに使いまわして右へ左へ移動して・・・。とりあえず俺は頭の中で思い描いた計画を紙にぶつけた。
「これでよし・・・・。」
でもこれをちゃんとしっかりこなせないと、今回の仕事は成功しない。
「やるしかないぞ・・・。」
「何を?」
「うわ!!!」
突然背後から話しかけられて紙を隠す。今日はドアの開いた音すら聞こえなかった。
しかし石川は確かに今俺の後ろにいる。
「今日はどっから入ってき・・・・何その格好。」
俺は振り向くと、石川の格好に驚いた。何故かサンタルック。
「季節外れの梨華サンタ〜。」
石川はくるりと一回転とした。可愛い。でも口から出た言葉は、
「へぇ。」
とりあえず今は、なぜだかよく分からないが紙を見られてはいけない気がした。
「ひどいなぁ〜。喜ばせてあげようと思ったのに。」石川は少しだけ切ない表情を浮かべた。
「ところでどこから入ってきた?」
俺が聞くと、石川は押入れの方へと歩き出した。掃除機を入れているほうではない、
もっと大きい・・・・え?まさか・・・。
「ここにずっと入ってたの。」
石川は押入れの中で体育座りした。
「嘘〜?!」
「嘘だけど、ここ。」
石川は壁に手をかざした。
パタン!!
「・・・・・・。」
壁は開き、そこからは見たことのある風景が。
「ドア?」
そう聞くと石川はうなずいた。
「埋めろ〜!!!!」
67 :
計画開始:04/02/14 00:09 ID:LeDR8IFe
AM9:25
俺は吉澤よりも先に待ち合わせ場所に着いた。さて、問題なのは吉澤の遅刻だ。それをされると俺が遅刻してしまう。
紺野はおそらく時間通りにちゃんと来るだろう。では吉澤は・・・。
「早いっすね〜!」
色々考えていると後ろから話しかけられた。遊びで来ているせいか、しっかり時間通りに吉澤は到着した。
「どこ行く?」
俺が聞くと吉澤は答えた。
「ここに来たからにはやっぱ服見ないと!」
予想通りの返答をありがとう。心でつぶやき、俺たちはとりあえず一番近くの店に足を踏み入れた。
「あ〜これもいいなぁ〜。う〜ん・・・・。」
吉澤は服選びに結構迷っていた。俺はすかさず言った。
「決まらないなら外で待ってようか?」
「うん、お願いするっす。」
「じゃあ決まったらメールして。」
俺はゆっくりと店内を出た。
AM10:00
「間に合った・・・。」
紺野が待ち合わせ時間より早く来てしまう可能性を考えて待ち合わせ場所をかなりずらしたのが仇となった。
俺が息を切らしながら待ち合わせ場所に到着すると、そこには既に紺野の姿があった。俺は息を整えると、話しかけた。
「待った?」
紺野は俺を見ると笑顔で、
「いえ全然。どこに行きましょうか?」
と言った。
「そうだな、買い物でも行く?」
「はい。」
俺はさっきの店の3店先の店をチョイスした。
「これなんかいいんじゃない?」
俺が紺野の身体にコートを重ねると、紺野の表情が変わった。あれ?
「これ、買ってもらって、『可愛いよ』なんて言ってもらったなぁ・・・。」
嘘!?
「じゃ、じゃあこれは?」
俺は手早く服を入れ替えた。
「これは・・・『うん、似合う。いや、何着ても似合うな』なんて・・・。」
うわ〜!!何やってんだ俺!!!
「俺選ばない方がいいかもね。」
俺は苦しい表情を浮かべながら言った。俺としてはただに合いそうな服を選んだだけなんだけどなぁ。
「いえ、でも嬉しいです。」
フォローしてくれるあたり出来た子だ。
ブーン
「ちょっとトイレ・・・。確か階の一番端だったよな。」
俺はそう言って店内を出た。そしてすぐにメールを開く。
『決まったっす〜☆』
「お、いいじゃん。」
「へへ。」
俺に誉められて笑う吉澤。店内を出ると、吉澤は言った。
「次はゲーセンっす!!」
吉澤の一言と共に、最上階のゲームセンターへと向かった。ゲーセンに到着すると、
俺に都合よく凄く広かった。到着すると早速吉澤はある物に目をつけた。
「これとるぞ〜!!」
UFOキャッチャーだ。吉澤はすぐに100円玉を取り出し、開始した。
「・・・・・・・よし・・・・・よし・・・・・あ〜!!!!もう1回!!!」
吉澤が何度もやっているので俺は言った。
「ちょっと他のところ見てくる。」
「うん。それまでの間にとってやるー!!」
珍しく「っす」がないところから結構気合が入っているようだ。俺は急いでエレベーターに乗った。
乗ったのは俺一人。
ウィーン・・・。
ガタン!!!
「あれ?」
どうやらエレベーターが止まってしまった。
「嘘!!マジかよ!!」
機械に計画を破られてしまうなんてなんてこった。俺はドアをガンガン叩いたが、
だからと言ってエレベーターが動き出す事はなかった。
俺結局10分のロスをしてしまった。
「大丈夫ですか?」
「え?」
「お腹。」
疑わね〜!!どうやら紺野は俺が腹を壊したと思っているらしい。あんまり心配させるのもなんなので俺は言った。
「お腹はもう全然大丈夫、むしろお腹が減ったぐらいだよ!!」
俺がそう言って笑うと紺野は真顔で言った。
「じゃあ食べに行きましょうか。」
「え?」
完全に墓穴を掘ってしまった。せめてもの救いはレストラン街がゲーセンの1階下という配置だという事。
でも飯食っている最中に吉澤から電話があったら・・・。
「(今かかってきたらやばい。)」
俺はラーメンをすすりながら、ひやひやしていた。
ブーン
「(!!!)」
極力紺野に焦りの表情を見せないように、俺はメールを見た。
友達からだった。
「(なんだよ・・・)」
俺は心の中でホッとした。とりあえず今俺にはこいつのメールの返信を打つ余裕はない。
悪いな友人A。
なんとか電話、メールが来る前にラーメンを食べ終えると、紺野は言った。
「ゲーセンに行きませんか?」
「うん。」
広いし、見つかりはしないだろう。俺は別に気にせず賛成した。
71 :
大ピンチ:04/02/14 00:35 ID:LeDR8IFe
紺野がゲームをしている間に、俺は吉澤の元へと急いだ。流石にもうUFOキャッチャーは終わっているだろう。
・・・・ん?
「とぁ〜!!!そりゃぁ〜!!やった〜!!!」
まだやっていた。近づくと、ぬいぐるみが5,6体、袋の中に押し込まれている。
「すごいな。」
びっくりして俺は呟いた。
「イェーイ!!あ、まだやるからまたどっか行ってていいっすよ?」
なんか、一緒に来た意味無くない?でもすごく都合がよかったので俺は紺野を探しに歩いた。
「あ、トイレ行きたい。」
本当に行きたくなったので、トイレまで行き、用を済ませた。トイレから戻ると、紺野に会った。
「紺野。」
紺野はこっちを向くと、笑顔で言った。
「あ、さっき吉澤さんと会いました。」
!!
やばい?
やばい?
やばい!
「なんかUFOキャッチャーですごいとってましたよ!一個貰いました。」
笑顔一杯なのは何?素?嫌味?
「偶然ってすごいですね。」
心の底からの笑顔?完全な作り笑い?俺が何も言わないでいると紺野は、
「どうしました?」
と心配そうに表情を覗き込んできた。どうやら本当に偶然会ったと思っているようだ。
よかった〜、なんか抜けてて。そんで二人が特に会話をしてなかったみたいだから助かった。
72 :
大ピンチ2:04/02/14 00:43 ID:LeDR8IFe
再び紺野に適当な理由をつけ、吉澤の様子を見に行くと、吉澤は満足そうな顔でぬいぐるみを見ていた。
「あ、もう満足したっす。次は〜・・・、ここのすぐ近くにあるカラオケにいくっす!」
え?このモール出ちゃうの?でもとりあえず拒否権がない俺。ついて行く事にした。
「久々っすねぇ、カラオケ。」
「そうだね、かなり前に1回行ったっきりじゃなかったっけ?」
確かそのときはストレス発散週間とか名づけてカラオケに毎日いろんな子と言った記憶がある。
そのせいで喉がガラガラで大変だったが、楽しかったのは覚えている。
カラオケに入ると、俺は吉澤に言った。
「先行ってて、トイレ行ってくる。」
部屋番号を確認すると、俺は一旦カラオケから飛び出した。
「やばい、走れ!!」
あんまり時間がない。とりあえず出来るだけ速くゲーセンにつき、紺野をカラオケへと誘導しなくては。
俺は全力疾走でショッピングモールのエレベーターに飛び込んだ。今回は止まらず最上階へ。
「ふう・・・。」
ウィーン。
「!!」
目の前に紺野が立っていた。この光景に対して、紺野はどう思うだろう?
「・・・・トイレはこの階にもありましたよ?」
俺は一瞬こけそうになった。まだ俺のお腹の心配をしていてくれたとは。
「大丈夫。てかさ、カラオケ行かない?歌って発散しよ!」
俺は紺野の手を引くと再びエレベーターで下り始めた。
カラオケに再び入ってきて違う女の子と受付。店員からの視線が物凄く痛かったが、
我慢して受付を済ました。とりあえず吉澤との部屋と階が同じようだ。
紺野は部屋に入ると早速何曲か曲を入れだした。俺がそのあとに1曲入れる。
そこで俺は携帯を取り出して、相手のいない電話で話した。
「ごめん、仕事の話だから、ちょっと外出るね?」
俺はそう言って誰からもかかってきてない電話を抱えて部屋を出た。そのまま吉澤の部屋へ。
なんかめちゃくちゃ急がしいな・・・。
吉澤部屋に着くと、既に歌いだしていた。ストレスたまってるのかな?窓の外から手を振ると、
吉澤は笑顔で手を振り替えした。俺は室内に入ると、さっきとは別の曲を入れた。
ブーン
「あ。」
今度は本当に仕事の電話のようだった。
「ごめん、仕事だ。とりあえず話してくる。」
俺はそう言って部屋を出た。紺野の部屋へ移動しながら電話の主と話しだす。
74 :
大ピンチ3:04/02/14 01:02 ID:LeDR8IFe
「もしもしごっちん?今仕事中。」
「誰の?」
後藤はすぐに聞き返した。なんだかかかってくると面倒なタイプに当たったな・・・。
なんて説明しよう。下手にごまかすのもバレそうだし・・・。俺は一瞬考え、
正直に答えることにした。
「よっすぃーと紺野。」
後藤と吉澤が仲いいのを考慮して吉澤の名を先に出す。
「あれ、よっすぃーは二人で行くって言ってたと思うんだけど?」
!!まずい!!まずい!!
「大人には色々あるの。」
オイちょっとそれ意味わかんねぇよ俺!!
「2歳くらいしか違わないじゃん。」
「まあそうだけどさ、で、相談?」
とりあえずはぐらかして本件を聞く。
「うん、でも明日でいいよ。めっちゃ忙しそうだから。」
ありがたい。電話を切ると、俺は紺野との部屋に入った。
ちょうど俺が入れた曲が始まるところだった。
ダン!ダン!
ドラムの音とともに俺は軽くシャウトした。イントロを経て、俺は歌いだした。
「there goes my old girlfriend♪」
「英語ですか?」
「え?」
紺野に言われて画面を見る。あ!!間違えた!!こっちに入れたのはB‘zの『憂いのGypsy』だ!!
エアロの『What it takes』じゃない!!イントロ似過ぎ!!俺は慌てて日本語で歌いだした。
曲が終わると、紺野は言った。
「すごいですね、いきなり英語で歌っちゃって!!」
紺野に尊敬のまなざしを受け、罪悪感を感じる。俺はその場にいられなくなり、
「ドリンクお代わり行って来る。」
と言って部屋を出た。
吉澤との部屋に戻ると、ちょうどまた曲が始まるところだった。
「ギリギリっすよ〜。」
今度こそ「What it takes」を歌う。歌い終えると、英語で歌った事からか、
再び尊敬のまなざしを受けた。
吉澤が1曲歌うのを聞いたあと、俺はドリンク、と言って部屋を出た。
今度は本当にドリンクをとり、紺野との部屋へ。
「遅かったですね、混んでたんですか?」
紺野が聞いてきたので俺はうんとだけ答えた。
紺野が歌を歌いだそうと言うときに、ドアは突然開いた。
「!!!」
俺は、自分の顔が青ざめてゆくのがよく分かった。
吉澤は俺をすごい目で見ている。そんな吉澤を見て、紺野は言った。
「吉澤さん、また会いましたね!!」
無邪気な笑顔に二人はこけた。
76 :
種明かし:04/02/14 01:14 ID:LeDR8IFe
俺は全部洗いざらい、最初から全部説明した。それにしてもなんだろう、この二股がバレたみたいな感覚は。
でも、二人の反応は、そういう激しいものとは程遠かった。
「それで最初ダメって言ってたんすか〜。」
俺に拒否権がないのをよく知っているので、吉澤は普通に許してくれた。
「でも・・・。」
吉澤は続けた。
「今回は仕事じゃなくて、ただ単に遊びに誘っただけっすよ?」
「え?!」
俺バカみたいじゃん・・・。いつもいつも仕事でしかこういう関係持たなかったから、
区別がついていなかったけれど、吉澤はもはや立派な友達のようだった。
「うわぁ〜・・・。俺何やってんだろ〜・・・。」
頭を抱えていると、紺野は言った。
「じゃあ、このあとは3人で楽しみましょうか。」
「そうっすね!」
「そうだね。」
全会一致で可決。片方の部屋は退室し、一つの部屋でカラオケを楽しむ事にした。
77 :
チョコっと:04/02/14 01:21 ID:LeDR8IFe
「喉ガラガラ〜。」
家に帰ってきて一言つぶやいた。そう言えば、後藤の相談ってなんだったんだろう。
俺は気になったので後藤の部屋に行く事にした。
ピンポーン・・・。
ガチャッ。
「あ、いいよ、上がって。」
俺は言われるがままあがると、後藤は言った。
「明日バレンタインじゃない?チョコ作ったから味見してくれない?」
にしても料理の毒見系が多いなこの子は。でも別に美味しいから問題ない。
後藤が俺に差出たチョコレートは、結構凝った作りで模様が付けられていた。
パクッ。
「うん、甘くて美味しい!」
それ以外特に表現が思いつかなかった。
「よし、ありがとう。もういいよ。」
え、もう終わり?早!!俺はなんか拍子抜けした感じが否めない。
でも終わりって言われたんだからいいか。
このとき俺はまだ、これが次の日への伏線だなんて、夢にも思わなかった。
続く