602 :
16話:
16.「Death crow’s wife」
キンキンキン!!
ガン!!
603 :
16話:04/05/23 21:44 ID:kVrMkGQc
もうかれこれ5分くらいだろうか。二人の戦いは想像を絶するレベル。
革命軍は誰一人として、その一挙一動を見逃さなかった。目を離すことをも
惜しむような、そんな戦い。
それほどまでに、二人の動きは信じがたいものだった。
「裕ちゃん・・・。」
矢口は固唾を呑んで見守る。手と手を握り合わせ、胸の前に出し、祈った。
でも、それにしても・・・。
矢口、いや全員頭の中に一つ疑問を抱えながら、この戦いを見ていた。
中澤裕子はこんなに強かったのか?
さっきの話からして今まで力を大分制限されていたらしいが、それにしても
凄過ぎる。きっと速過ぎてほとんど見えない、という娘もいるだろう。
いくら動きを抑制されていたとはいえ、これほど格差があっていいものか。
普段の戦いにおいて中澤のランクは藤本クラス。
決して弱くはなく、むしろ主戦力の部類に入るが、
後藤や吉澤、飯田ランクには敵わない。
しかし今のこの実力はおそらく、いや、間違いなく、後藤真希を超えている!
604 :
16話:04/05/23 21:45 ID:kVrMkGQc
しかしとりあえず今はそんな事どうでもいい。
とにかく今はただ、中澤がGacktを倒すよう、祈るだけ・・・。
矢口は決して目を離さないと、胸に誓った。
刀と剣の激しい攻防戦。人によっては金属と金属が交じり合う音しか
聞こえないに違いない。矢口自身、目で追うのがやっとだった。
刀と剣も何とか見えるくらい。避ける事なんてまず出来ないだろう。
次第に中澤が押し始めた。矢口は握る手の力を強める。Gacktが次第に
苦しそうな顔をしながら後退してゆく。そのときだった。
パキッ。
『!!!』
なんと中澤の刀が、真っ二つに折れてしまった。おそらく長年使ってきたために
たまった金属疲労から来たもの。Gacktは容赦なく剣を振り下ろす。
しかし中澤も負けない。
605 :
16話:04/05/23 21:48 ID:kVrMkGQc
『上海の風』
魔法?!
全員目を丸くする。
全員てっきり中澤は魔法を使えないものだと思っていたから、びっくりして
何も言えなくなってしまった。
おそらく本当に使えなかったのだろう、今までは。
となるといよいよ中澤の実力の底が見えなくなってきた。
気づくともう動いている戦況。魔法によって吹っ飛ばされたGacktを、
中澤は既に拳で攻撃を加えていた。Gacktは剣を落としている。
今度は肉弾戦が始まった。
中澤の連続して放たれ続けるパンチを、Gacktは物の見事に掌で受け止める。
その時中澤は背後に気配を感じた。
606 :
16話:04/05/23 21:49 ID:kVrMkGQc
「?」
後ろを振り向く。
!!
それはGacktの足だった。
Gacktの人並み外れた柔軟性が、無理な角度の足の返しを可能にしているようだ。
交わす時間がない!!全員目を思わず瞑った。
ビュッ!!
しかし聞こえてきたのは風を切る音だけ。なんと中澤はブリッジでかわし、
そのままバック転から両足でGacktの足を挟んだ。
「!!」
「うおりゃぁ!!!」
思い切り足を下へと下げると、Gacktの体は宙を浮く。
Gacktの脳天はそのまま地面へと・・・・。
607 :
16話:04/05/23 21:51 ID:kVrMkGQc
ドンッ。
「な!!」
なんとGacktは叩きつけられる前に自ら体を撓らせ、さっきの中澤のように
ブリッジの体勢をとった。地面についているのは足だけ。それに対し中澤は腕だけ。
どっちの方が踏ん張れるかは、言うまでもない。
「ふん!!!」
Gacktはなんとありえないこの体勢から、そのまま起き上がり、中澤を空中へと
吹き飛ばした。Gacktは休む間もなく空中へと飛ぶ。
無重力状態の中澤へ、今度こそとばかりに蹴りを。
しかし中澤はその時、詠唱を唱えていた。
608 :
16話:04/05/23 21:53 ID:kVrMkGQc
『DEATH CROW』
中澤の体が黒い光を帯びる。と思った時には中澤の姿は既にそこにあらず。
黒い光はGacktの体へとまっすぐ伸び、貫くと、その周りから起こる衝撃に
全員吹き飛んだ。
中澤は見事に着地し、Gacktの方を振り向く。
Gacktは片腕で着地すると、すぐに体勢を整えた。
二人とも、大したダメージはないようだ。
「武道も・・・よっすぃー並?」
飯田が本当に小さな声で呟く。全員ただただ驚くばかりだった。
パンチもキックも、威力、精度共に1級品。
さっき同様、目で追うのがやっとの攻防が続いてゆく。
「あれ・・・・。」
紺野はふと、二人を見て、
「笑ってませんか?二人とも。」
609 :
16話:04/05/23 21:54 ID:kVrMkGQc
「準備運動はこんなもんでエエやろ。」
「ああ。」
『え?』
その言葉の真意を聞けないままに、二人の姿は完全に消えてしまった。
でも確かに聞こえる、何かと何かがぶつかる音。
そしてその音が発生した辺りからは、常に強い衝撃が外側へと広がっている。
実力のある娘、そして動きに定評のある娘はなんとかその動きを目で追えているが、
他はただ音に合わせて1テンポ遅れて首を曲げるだけ。
全員首が痛くなるくらいに左右へと視線を動かす。
それでも中澤とGacktは全然疲れていないように、というより呼吸すら
乱していないように見えた。
ある時部屋の中央、空中に二人の姿がはっきりと現れた。お互い右手を引き、
気を蓄積している。
「うらぁ!!!!」
拳と拳が交わった瞬間、室内を閃光が走った。
そして一歩遅れて、物凄い衝撃が、二人から室内全体へと広がってゆく。
逃げ場すらない。抵抗する事すら出来ず、全員壁まで吹き飛ばされた。
610 :
16話:04/05/23 21:57 ID:kVrMkGQc
やがて、光で何も見えかった視界が開ける。二人ともお互いに瀬を向け、
その場に立ち尽くしている。
どうなったんだ?!
全員固唾を呑んで見守る中、とうとう耐え切れなくなった中澤が膝をついて倒れた。
「裕ちゃん!」
矢口が壁にぶつかり負傷した体も気にせずに駆け寄る。
「くっ!!」
Gacktも地面に手をつき崩れ落ちた。どうやらさっきの勝負は相打ちらしい。
二人とも何とか立ち上がると、すぐに向き合い、睨み合う。
「矢口!」
中澤が手を差し出す。矢口はすぐに理解し、その手をめがけて筒のような物を
投げた。筒はぴったり中澤の掌に納まり、中澤はそれを持つと剣のように構えた。
すると筒の頭からは闘気が飛び出す。
オーラブレード。
「オーラブースターか・・・。」
Gacktは若干嫌そうな顔をした。
オーラブースターとは、オーラブレードを放つ上で役に立つアイテム。
これはオーラを蓄積するだけで簡単に剣状に姿を変えてくれる。
しかも増幅装置が着いているため、使用者の実力以上のオーラブレードを
放てるというオプションもついている。別にオーラブレードは棒切れでも
何でも放とうと思えば何ででも放てるし、実力があれば素手からでも放てるが、
消耗が早く、威力もオーラブースターを用いた場合に遠く及ばない。
611 :
16話:04/05/23 21:59 ID:kVrMkGQc
「なら。」
Gacktは何もない所からいつもように剣を取り出し、剣に邪気を込めた。
こちらも負けずに恐ろしい量のエネルギーを剣先から放出している。
「・・・・・・・・・・・。」
両者8メートルほどの間隔を置いて睨み合い。
気を抜く事を許されない、二人の周りをやがて、風が舞い始めた。
風は二人以外を周りから排除するかのように激しくなってゆく。
「うわ!!!」
全員慌てて離れるも、当の本人達は完全に集中しきっていて、まるで外の様子を
気にすることはない。誰も近づけない空間に、二人だけの決戦。
全員直感した。
次の一撃で勝負が決まる!
612 :
16話:04/05/23 22:01 ID:kVrMkGQc
睨み合いは尚も続く。どちがら先に攻めるのか、お互い目を睨み付け合う中、
巧妙な駆け引きが行われているのだ。しかし同時に、二人の体は蝕まれてゆく。
二人は常に闘気、邪気を放出し続けているのだ。しかも半端ない量を。
もしこのままこの状態が続けば、いずれ両方ともエネルギーの放出で
干からびてしまうだろう。耐え切れなくなった方が、先に攻める。
しかし先に出たということは、相手に自分が苦しいという事を教えてしまう
ことになるのだ。二人の我慢対決は続いてゆく。
いつまで経っても二人のエネルギーは衰える様子がない。とうとう夜に
なってしまった。月の光が、室内へと流れ込んでくる。今日は満月らしい。
次第に二人は息を乱し始めた。しかしそれでも衰えることはない。
それどころか、更に増幅されているように、全員は感じた。永遠にこの画が
続くのではないか?そんな錯覚を覚えてしまうほどの静寂。
聞こえてくるのは、二人を取り囲む風の音だけ。
そしてとうとう、耐え切れなくなった一方が飛び出した。
613 :
16話:04/05/23 22:02 ID:kVrMkGQc
『!!』
全員驚いた。
先に飛び出したのはGacktの方だったのだ。
考えてみればオーラブースターと直接では分が悪かったのだろうが・・・。
全員握る手の力を更に強める。中澤はGacktが飛び出したのを確認すると、
闘気を一気に放出する。なんとまた一次元上へと行ったのだ。
「なんてスケールのでけぇ戦いだ。」
吉澤はひしひしと闘気を身に感じながら、少しだけ震えていた。
Gacktは手を思い切り振り上げる。それに対し中澤は小刻みにステップし、
どこからでも対処の効く様に動いている。死角はない。
Gacktが腕を一気に振り下ろすと、中澤は右へと移動し、剣を振り上げた。
「いけーーーー!!!!」
矢口は思い切り叫び声を上げた。
決めてくれ!!!
全員心からそう願う。
そしてその願いは、中澤が右へと移動した所で確信へと変わっていた。
614 :
16話:04/05/23 22:04 ID:kVrMkGQc
決まった!
誰もがそう思った時、まさに中澤が闘気を最大限に高め、Gacktへ全てを
叩き込もうとしていたその瞬間、Gacktの口元が、僅かに緩む。
『Vanilla』
Gacktがそう呟くと、Gacktの邪気は誰でも感じ取れるくらいに一気に膨張した。
左右へと闇の波動が、一気に伸びてゆく。
中澤は剣を振り下ろしているから、交わすことも受け止める事も出来ない。
どうしようもなく絶望的で無感情な闇が、中澤を貫いた。
615 :
16話:04/05/23 22:07 ID:kVrMkGQc
外傷がほとんどない。
だから逆に、全員が倒れている中澤を屍だと理解するのに時間がかかった。
見た目では、寝ている人にしか見えない。表情も安らかで、傷らしい傷は
擦り傷くらいしかない。でも、中澤は息絶えている。
全身を闇の波動が中澤を包み込み、今も尚体を蝕んでいる。
矢口はすぐに駆け寄ると、中澤に泣きついた。
「裕ちゃん!!!!裕ちゃん!!!」
全身がガタガタと震えている。
邪気に包まれた中澤の体は、触れるだけでダメージを与えるのだ。
本来なら誰かが身を挺して矢口を止めなければならない所だが、
矢口の気持ちを思うと、誰も止める事は出来なかった。Gacktは鼻で笑うと、
返事をすることのない中澤に話しかける。
「忘れたのか?僕は月の子だ。」
Gacktは中澤の横にしゃがみ、顔を見る。
「......。」
小声だったが、矢口には確かに何と言っているか聞こえた。
その一言は、矢口の脳内を混乱させ、蟠りを残させるものとなる。
Gacktは離れ、全員を視界に捕らえられる場所まで下がると、
「あとはお前達を殺せば、国は僕の物・・・か。
とりあえず、雑魚は消えろ。」
Gacktの右手に邪気がたまる。
616 :
16話:04/05/23 22:08 ID:kVrMkGQc
「やばい!!」
飯田は左手から魔弾を放ち止めに行く。しかしGacktの動きがそれを勝っていた。
『鶺鴒』
Gacktがその言葉を唱えると、部屋中全体を重苦しい空気が包んだ。
激しい重圧。やがて何人もの娘の体を黒い闇が包み込む。
『!!』
闇に包まれた娘達が、次々と地面に吸い込まれてゆく。次々に聞こえる悲鳴。
そして革命軍は、あっという間に僅か5人にまで人数を絞られてしまった。
「レベルの低い奴は消える、それだけの事だ。」
Gacktはなんでもないように言う。
「みんなをどこにやった!!!!」
飯田が鋭い目つきでGacktを睨む。
「下の独房の奴等の相手を、ちょっとね。」
わざと親指を下に向け、挑発的な態度をとる。
それを見た瞬間、頭に血が登った吉澤が飛び出しかけるも、藤本がそれを止めた。
矢口はまだ中澤の体の傍でしゃがんでいる。
Gacktは5人全員を見回すと、不思議そうに呟いた。
「それにしても・・・高橋は何故残った?」
To be continued...