もろたーー!!

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56313話
 13.「out of data」

 『おお!』

 それが合流した飯田班矢口班全員の最初のリアクション。角で丁度対面したから、
 驚きにも似た声をあげた。ただ、それには安堵感もかなり含まれている。
 仲間との再会、そして人数が増えたという事でホッとした6人は、思わずその場で
 座り込んで休憩し、話し込んでしまった。
 
 「圭ちゃんは残念だったね。」
 
 そんな事を口にする人は誰もいない。もちろん後藤、安倍や小川について
 触れる人もいない。加護、高橋を気遣ってか、飯田班が積極的に話題作りをした。
 
 「皆!トイレは気をつけて!トラップがあってキマイラ出てくるから!」
 『はいはい。』
 石川の言葉を、いつものように全員聞き流す。
 「あれ、梨華ちゃんトイレはいかへんのとちゃう?」
 「し・・・しないよ!」
 「じゃあ何しにトイレ行ったんだよ。」
 矢口はもう完全に笑っている。
 「まあまあ、ケースバイケース♪」
 吉澤の一言で全員笑う。
 そろそろ落ち着いた、という頃、飯田を先頭に再び6人は歩き出した。
56413話:04/05/09 21:15 ID:uIQMOJ+c
 
 「よっすぃ〜。」

 最後尾を歩いている石川に、吉澤は呼び止められる。吉澤は振り向くと、
 石川は首にかけていたペンダントを外し、吉澤に渡した。
 
 「これは?」
 「あたしの魔力たっぷり込めた、お守り。」
 吉澤はそう言われると、昨日夜遅くまで起きていた石川を思い出した。
 あれは、そのために・・・。
 吉澤はペンダントを受け取ると、すぐに首にかけ、笑顔を見せた。
 
 「ありがと。」
 その言葉を聞くが否や、石川は吉澤の腕を取り、腕を組む。
 「ちょ、ちょっと梨華ちゃん?!」
 「いいじゃ〜ん♪」
 
 満面の笑みの石川を見ていると、嫌と言えない吉澤だった。
56513話:04/05/09 21:17 ID:uIQMOJ+c

 少し歩くと、王の間へと続く階段が見えた。
 
 「いよいよだね。」
 飯田が緊張した表情で呟く。
 「来た〜・・・。」
 矢口がギュッと拳を握り締めたそのとき、
 
 ズン!!
 
 「伊東四朗?」
 「ちゃうわ!」
 吉澤のボケに即座に対応する加護。『ズン!!』は決して声などではなく、
 騒音並みの足音だった。
 
 ズン!!ズン!!ズン!!ズン!!
 
 歩いてきたのは、人型のマネキンだった。真っ白いマネキンは6人の前まで
 歩いてくると、立ち止まり、機械的な声を発した。
 
 「ココハワタシノエリア。」
 マネキンはそういうと一瞬にして姿を変えてゆく。
 ・・・・
 『ごっちん?!』
 「後藤さん?!」
 マネキンはなんと、後藤と全く代わり映えしない姿へと変身を遂げてしまった。
 そして、
 
 「あたし、この城内で死んだ人の情報を全部コピーして、使う事が出来るの。」
 声色までもが、後藤そのもの。
56613話:04/05/09 21:19 ID:uIQMOJ+c
  後藤の姿をしたマネキンは、剣を取り出すと、剣はあっという間に光を
 帯びる。
 「やばい!皆逃げろ!!!」
 吉澤の叫び声と共に全員横へと飛ぶ。
 
 『Be in love!!』

 振り下ろされた後藤の剣から放たれる光。それは避けた6人の方へと方向を
 変えていた。
 
 「くっ!」
 飯田が結界を張る。結界に弾かれた光は斜めへと飛んでゆき、壁に直撃。
 壁は派手に弾け飛んでしまった。

 「うひょ〜、威力もコピーだよ。」
 矢口が呆れたように声を出す。それを聞く事無く、一人後藤へと飛び出した
 影があった。
 吉澤。
 吉澤はダッシュで後藤の目の前に到達、腕を思いきり前へと繰り出す。


 「・・・・くそ・・・・。」
 
 吉澤の拳は、後藤の顔面、僅か1センチにも満たないであろう位置で止まっていた。
 「うぅ・・・・・。」
 吉澤には、どうしても後藤の顔を砕く事は出来ない。マネキンも知った上で
 全く動きもしなかった。
 
 「よっすぃ〜は甘いよ〜。」
 それは本物の後藤のようにさえ見えた。しかし、
56713話:04/05/09 21:20 ID:uIQMOJ+c

 『スクランブル』

 右手で魔法、左手で剣、そして足技。一瞬にして三つの攻撃が繰り出される。
 吉澤はその技をよく知っていた。だから精一杯かわしに行く。
 まず足技は下段の左回し蹴りだから飛び越えが利く。
 それは問題なく避ける事が出来た。
 さて、次は魔法だけ・・・と思ったら、このスクランブルは吉澤の知っている
 スクランブルとは違うものだった。

 後ろ回し蹴り?!

 もう既に魔法が放たれ、自分は空中で自由に動きが取れない。
 そう、下段の回しは誘い、飛び上がったのを見て左足を地面につき、 右足を
 支点に鋭く回転。魔法が直撃すると同時に、蹴りを吉澤はもろに食らった。
 ガードの意味がないのではないかと思えるほどの威力。
 更にもう一撃、剣が蹴りによって飛ばされた方向に構えられていた。
 
 斬られる!!
 
 吉澤が死を覚悟したそのとき、矢口が素早く走って吉澤を抱え、後方へと
 飛んだ。軽業師だから出来る芸当。二人は全員のいる所に戻ると、石川が
 吉澤にすぐ回復呪文をかけた。それを見て飯田が立ち上がった。
 
 「ここで手を出せないで苦しむのはこてこて過ぎるから、皆もっと割り切ろう?」
56813話:04/05/09 21:22 ID:uIQMOJ+c

  飯田さんまたよー分からんことを・・・。
 なんて加護が思っている中、飯田は既に攻撃を開始していた。
 
 『真夏の光線』
 真夏の灼熱の光が、一直線にマネキンへと伸びてゆく。後藤は避けない。
 それどころか、

 「カオリ、やめて!お願い・・・。」
 目に涙をため、情に訴えた。さっき割り切るって言ったばかりの人に効くわけ・・・。
 5人が期待した時、

 ヒュッ!
 ドン!!
 
 光は急に角度を変え、後藤の後ろの壁に直撃した。5人は白い目で飯田を見る。
 後藤はほっと胸を撫で下ろし、ふにゃっと笑うと、冷徹な目で言った。
 
 「ごとーのために、死んで?」
 剣を構え、猛スピードで6人の傍まで走る。速過ぎて逃げる時間はない。
 後藤を思い切り剣を振り下ろした。
 
 キン!!
 矢口が小手で剣を受け止めると、上へと振り上げ、自分の体勢を整える。
 そしてすぐに後藤へと飛び込んだ。
56913話:04/05/09 21:23 ID:uIQMOJ+c

 「いくで!」
 
 それを見て加護も動いた。革命軍の中でもスピードのある二人の同時攻撃に
 対して、後藤はどう出るのか。4人は固唾を呑んで見守った。
 
  矢口が足から短剣を引き抜き、細かい連続攻撃を繰り出す。しかし後藤は
 全て鮮やかにかわし、同時にダガーで攻撃をしようとしていた加護を蹴りで
 処理していた。加護はガードすると、ダガーで改めて攻撃、反対側からは
 矢口がどこから取り出したのかナックルを突き出す。
 両側からの攻撃。後藤はなんと、ダガーを指で挟みとめ、ナックルは直接
 手で受け止めて見せた。共に恐ろしいスピードで後藤に迫っていた攻撃だっただけに、
 2人は驚きを隠せない。
 後藤はニヤリと笑うと、ダガーを折り、ナックルを、つまり矢口を持ち上げてしまった。
 
 「!!」
 「どーん。」
 後藤は矢口を思いきり加護へと投げつけた。至近距離過ぎて避けられない。
 二人は派手に地面に叩きつけられ、“水切り”の石のように地面を跳ねる。
 
 「・・ごっちんってこんなに強かったの?」
 
 吉澤はそんな中、一人冷静に呟く。2人は何とか立ち上がり、再び後藤に
 攻撃を仕掛けた。
57013話:04/05/09 21:26 ID:uIQMOJ+c
 
  あのマネキンが言うには、奴の能力は情報を全てコピーし、使用する事。
 つまり今までの攻撃は全て後藤が持っていた技、能力。オリジナルを超える事も
 劣る事もないはず・・・。
 
 「困った顔しているよっすぃ〜のために解説〜。」
 後藤はそんな吉澤を見て、そう言うと、矢口と加護の攻撃を数ミリの見切りで
 かわし、両足を思い切り伸ばして2人を左右へと吹っ飛ばした。
 両サイドの壁へと激突する2人。
 
 「つ、強い・・・。」
 瓦礫の下で、矢口は呟いた。後藤はそんな矢口に目も暮れず、吉澤の目を
 見て話す。
 
 「確かにこれは後藤真希のコピー。でもね、人間っておろかだよね。
 知らず知らずのうちに力をセーブしちゃうの。それはあんた達も皆一緒。
 しかも後藤真希は、それに加えて潜在能力がたっぷりあった。ガックンが
 負けてたら、完全に覚醒しちゃってたんだろうね。危ない危ない。あはっ。」
 
 最後の笑い方が嫌に耳障りでウザかった。つまりスクランブルは、後藤が
 既に持っていたもの・・・。
 後藤が話し終わると、何故か石川が前へと歩を進め、後藤へと少し近づく。
57113話:04/05/09 21:27 ID:uIQMOJ+c
 
 「他の人にもなってみてよ。」
 「ちょっ、石川何言ってんの?!」

 飯田が石川を見て声を上げる。後藤は答えた。
 「えーやだ。だって。」
 後藤はここでため、一度だけ笑った。
 
 「使えないもん。」

 その目は虫唾が走るほどに冷徹。
 「あはは・・・・。あ?!」
57213話:04/05/09 21:29 ID:uIQMOJ+c

 突然の閃光弾に、後藤は仰け反ってかわそうとするも吹き飛ばされた。
 驚異的な威力とスピード。
 後藤は成す術なく壁に激突した。壁はドミノのように崩れ、後藤を下敷きに
 してゆく。後藤が瓦礫の下から起き上がる前に、術者は次の攻撃に移っていた。
 
 『シャボン玉ぁ!!!』
 数百という数のシャボンが、後藤の全身を一瞬にして包む。そして一つの
 シャボンが後藤に触れると、シャボンは一斉に弾け、中の魔弾が後藤を襲った。
 
 「あああ!!!!」
 シャボンは次々と、絶え間なく破裂してゆく。

 [何もかもがデータ外。理解不能理解不能。データ、再入力の必要があります。行います。名前:]
 
 『HEAVEN’S DRIVE』
 「なんで?!」
 
 息もつかせぬ連続攻撃。車輪の威力もhydeと同等。再入力の暇すら、
 マネキンには与えられなかった。こいつ・・・何故この技を!?
 マネキンの脳内は必死に情報を整理し、取り出そうとするも、損傷が大きく、
 言う事を聞かない。そんな中、術者はマネキンの目の前に立った。
 
 「なんで?って顔しているけど、すごく簡単な事。」
 術者はそう言い放つ。
 ・・・!!なるほ。
 ここでマネキンのコンピューターは完全にシャットダウンし、バラバラの
 マネキンへと姿を変えた。崩れ落ちる音が、穴だらけの壁に跳ね返ってよく響く。
57313話:04/05/09 21:30 ID:uIQMOJ+c
 
 長い沈黙が、戦いの後の6人を襲う。そんな中、長い沈黙を破るべく、
 
 「(梨華ちゃん、なんか言ってよ。)」
 「(えぇ?!なんでよ!!う〜ん・・・。)」
 
 石川が一言。
 
 「え〜っと、・・・いい音でしたね!!」


 更に深い沈黙が、凍り付いてしまった5人を襲う。
 そんな中、長い沈黙を破るべく、

 飯田が一言。
 
 「よし!石川の氷魔法もキレが上がった所だし行こうか!!」
 
 飯田はめのまえの階段を駆け上ってゆく。
 「なんですかそれ!!」

 石川が叫ぶ中、5人は慌てて飯田を追いかけた。
57413話:04/05/09 21:31 ID:uIQMOJ+c

  階段を登り、6人は遂に王の間の目の前にまで辿り着いた。
 緊張した表情の6人。
 
 「開けるよ?」
 吉澤は全員に目線を合わせると、一気にドアを開いた。
 
 バン!
 
 確かにそれは、王の間だった。
 赤いじゅうたんが一直線に王座まで伸びていて、無駄に広い。
 吐き気がするほどありがちな風景。
 ただ一点を除いては・・・。
 
 「え?」
 
 入ってきた自分たちに対して、つんくはあまりにノーリアクションだった。
 完全シカトとかそんな生ぬるいものじゃない。微動だにしないその姿に、
 6人は逆に恐怖を覚えた。
 
 「なんとか言ったらどうなんだよ。」

 矢口が威嚇しても、表情一つ変えない。それどころか、瞬きさえしそうにない。
 なんだって言うのか。
57513話:04/05/09 21:32 ID:uIQMOJ+c




57613話:04/05/09 21:33 ID:uIQMOJ+c
 

 「行き止まり?!」

 藤本は思わず愚痴をこぼす。階段を登った先に、扉がなかったのだ。
 つんくが就任後失くされたらしく、今あるのは壁のみ。
 
 「時に回り道・・・。これが青春って奴ですかね?」
 「あさ美ちゃんそれ違うと思う。」
 「とりあえず壁がないのなら、ぶち壊すのれす!!」

 辻は斧に気を込める。先程だし損ねて消化不良なところもあったのか、
 辻は思い切りぶちかました。
 
 『NON STOP!!』
 
 ドン!!!

 壁は派手な音を立てて吹き飛んだ。それと同時に、

 「うわ!!!」
 
 中からは、流石に驚いたのか、悲鳴のような声が聞こえた。
 
 「UAいいですよね。」
 「それはちょっと無理やりなのれす。」

 後藤班安倍班は揃って王の間へと足を踏み入れた。
57713話:04/05/09 21:34 ID:uIQMOJ+c

  5人で部屋に入ると、よく分からない光景が視界に入った。
 皆驚き、怯え、困った表情をしている。それはいい。
 しかしその対象が問題だった。
 それは自分達に向けられているものではない。藤本はその視線を目で追った。
 
 ・・・・・!!

 「どうしたんですか飯田さん!!なんで困った顔してるんですか?!
 やったじゃないですか!」

 藤本の問いは、飯田が答える前に吉澤の問いによって中断される。
 
 「てかなんで真琴生きてんの?!」
 「ほぇ?」
 小川はなんでもない表情をしている。改めて驚く飯田班矢口班。

 「えっと・・・あの後死んだかと思ったら脈全然あって、寝てただけだったから
 亜弥ちゃんの回復魔法とこんちゃんの『MAGICIAN』の魔法を連発したら・・・・
 回復した。で、それは!!」
 藤本はすぐ聞き返す。飯田の表情は以前暗く曇っていた。

 「ちが・・・違うの・・・。あたし達じゃない・・・やったの。」
 「は!?じゃあ!」

 藤本は振り返り、指を指すと思いきり声を上げた。

 「じゃあこの転がっているつんくの首は、なんだっていうんですか!!」
 
 To be continued...