もろたーー!!

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54011話
 11.「浸食」

 「ああああああ!!!!!!」

 辻の悲愴の叫びは、その空間で切なく響き渡る。その変わり果ててしまった
 カラダ、肌の色、形。辻は安倍を見ては目をそらし泣き、向き合おうとして
 安倍を見てはまた目をそらし、泣きの繰り返しだった。
 
 「なち・・・・なちみ!!・・・・・あああ・・・・・。」
 辻の体が、高熱の患者のように激しく震える。小川は辻を後ろから抱きしめ、
 なんとか震えを止めようと抑えつけた。しかし辻の震えは収まるどころか
 強くなるばかりだった。
 「い・・・一緒に・・・・お店・・・あ・・・・あああ!!!」
 いつまでも流れ落ちる涙。あまりに大きい辻の泣き声に、安倍の目は開いた。
 
 「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
 安倍はほとんど身動きすら取れないほど浸食が進んでいる。それでも辻の
 泣き声に、安倍はなんとか答えようと、まだなんとか形を保っている口元を、
 なんとか動かした。
 
 「は・・・・い・・・ど・・。しん・・・・しょ・・く・・・。」

 3人は身を激しく震わせた。目の前にいる瀕死の状態の安倍に加え、
 hyde、浸食という、彼女達にとって耳障りの決してよくない言葉を、
 二つも同時に聞いてしまったから、ショックは大きい。
 動揺しないはずがなかった。そして今、安倍は「花葬」されている・・・。
 花びらの雪が舞い終わりし時、それは安倍の生命の終わりを意味するのだ。
54111話:04/05/02 22:33 ID:ixDn4ibS
  浸食とは恐ろしい呪文だ。放つまでに詠唱を唱えなければならないから、
 間近にいなければかわすのはそう難しい事ではない。呪文を唱えた瞬間、
 hydeの全身から黒い光が放たれ、僅かにでもその技が体に触れれば、
 かすっただけだとしても、その体の部分はすぐに変色し、腐食。しかも
 それは伝染し、少しずつ広がってゆく。最悪の場合、自分の脳が腐食して
 行くのを感じながら、無残な死を遂げる。
 安倍はまさにその、最悪の場合に近い状態だった。
 今までも、何人もの仲間達が浸食によってこの世を去っている、
 革命軍にとっては一番注意しなければならない呪文の一つである。
 
 それなのに、防げなかった。


  花葬はいわば、死の宣告。カウントダウンのようなものだ。紅いの雫と
 ともに呪文にかけられた者の体を少しずつ埋めて行き、ばらばらに散らばる
 花びらが全て舞い降りる頃、花葬を受けている敵の命は止まる。
54211話:04/05/02 22:35 ID:ixDn4ibS
 
 「悪い事は言わないから、降伏したほうがいいよ。」

 後ろから声がして、3人はすぐに後ろを振り返る。そこには小柄なビジュアル系が、
 突っ立ってこっちを見ていた。Hydeだ。

 「花葬が終わるまであとざっと10分。それまでに俺を倒し、瀕死の彼女を
 助けられる術者まで連れて行けるか?退けば、俺は別に今は手を出さない。」
 確かにhydeの言う通りに動くのが、賢い選択といえる。
 「月の子」の片割れを、実質6分で倒す?
 考えが甘過ぎる。
 しかしそんな風に冷静に考えられる状態ではなかった。少なくとも、辻には。
 
 「あああ!!!!!!」

 斧を振り上げ、hydeに飛び掛る。hydeは仕方ない、と目で笑うと、術を唱えた。
 
 『HONEY』
 hydeの手からドロドロの蜜が放たれる。蜜は辻の全身に降りかかった。
 「うわ!・・・・甘ぁ〜い。」
 辻は一度着地すると、ぽわんとした表情。なはずがなかった。
 こんな時までそんな辻ではない。辻は再び飛び掛った。いや、正確には
 飛び掛ろうとした。しかし辻は、蜜によってほとんど身動きを取れなくなっていた。
 
 「くぅ・・・・うぅ!!」
 辻は泳ぐように斧を持ってもがいたが、蜜は剥がれない。hydeは辻を見ながら、
 ゆっくりと詠唱に入る。
 
 「Good morning Mr.」
 ボン!!!
54311話:04/05/02 22:37 ID:ixDn4ibS
  閃光弾が、hydeを捉える。hydeが横を打たれてきた方向を振り向くと、
 そこには剣を構えた藤本が立っていた。
 
 「悪いけど、こっちはそんなに頭のいい判断なんて、出来やしないみたいだよ。」
 「それがお前らの答えか・・・。なら。」
 hydeは何もない所に手をかざし、握り、それを降ろすと、何もない所から
 剣が現れる。剣をゆっくりと顔の前に立てると、呟いた。
 
 『READY STEADY GO』

 hydeはその言葉だけを残して、忽然と姿を消す。気配すら感じ取れない。
 
 「え?」
 藤本の構えに隙が出る。その瞬間、
 「後ろ!!!」
 藤本は小川の叫び声で、慌てて剣を後ろに構える。Hydeは瞬時に藤本の真後ろに
 まで到達していたのだ。
 
 キン!!
 藤本は勢いよく180度回転すると、hydeが既に第二撃放っていた。
 「(速い!!)」
 藤本は受け止めることしか出来ない。
 
 キン!!キン!!キン!!
 
 激しい剣と剣のぶつかり合い。お互い一歩も退かない激しい攻防が、
 しばらく続いた。
 上段から中段、下段、また上段、横。Hydeの剣は身軽に色々な方向を駆けてゆく。
 その度に藤本は合わせるように剣を構えると、隙を見ては突きを繰り出し、
 突破口を見出そうとする。しかし下から跳ね上げられ、またもhyde優勢。
 しかし藤本はそれを華麗にかわす。
54411話:04/05/02 22:38 ID:ixDn4ibS
  次第に、hydeが少しずつ前へと出始める。ここは男女の差か、体力に分が
 あるhydeが押し始めたのだ。hydeは笑うと、スピードを速めた。そのとき、
 けたたましい音を立てて怪物が二人の勝負に割って入る。
 小川の召喚獣だった。
 hydeはそれをかわすと、召喚獣はそのまま辻へと突っ込み、蜜を全て消し去った。

 「まこっちゃんありがとう!」
 辻はぶんぶん腕を降ると、斧を構える。すぐに動き出すと、小川の新たな
 召喚獣を放った。ケンタウルス。2人と1体でhydeを囲む。
 それでもhydeの顔は涼しかった。
 
 「観念するのれす!!」
 「何笑ってんだよ。」
 「そこ、どいてもらえない?」
 
 何を言われてもhydeの表情を変わらなかった。それどころか、
 「警告を、無視した時点でお前らの死は決定済みだ。Good morning」
 hydeの両手に邪気が迸る。
 
 「させるか!!」
 藤本を皮切りに一斉に飛び掛った。しかし、3人の動きは僅かに遅かった。
 「Mr.fear...。 浸食。」
54511話:04/05/02 22:40 ID:ixDn4ibS
  hydeの体から8方向に、黒い光線が飛び立つ。全ての物を貫くように、
 光は高速で広がった。空中にいる2人と1体に避ける術はない。
  
  ドサッ!
 藤本は勢いよく地面を転がる。
 「ハァッ・・・ハァッ。」
 剣を地面に突き刺すと、それを支えに立ち上がる。しかし立ち上がった
 ところで、剣は音を立てて崩れた。
 「・・・くっ!!」

 藤本は剣で光を弾くことで、体に触れる事をなんとか防いだ。しかし藤本の
 代わりに、剣はその役目を終えてしまった。藤本は背中にかけていたもう1本の
 剣を取り出し、構える。そして他の二人を見た。
  小川は直前に術を解き、召喚獣自体を消してしまったため、全くダメージが
 ないようだが・・・・。
 
 「あ・・・・・あ・・。」
 辻は自分の腕をまじまじと見つめている。どうやら腕で光をガードしてしまったようだ。
 左腕の表面は、すぐに蒼紫色に変色した。
 「あ・・・・ああ!!!いや!!いやれす!!」

 少しずつではあるが、確実に広がってゆく蒼紫の染み。その中心から
 じわじわと腐食が始まる。それはまるで迫り来る死の恐怖を味あわせるため、
 わざわざ遅く進んでいるようにも見えた。

 「辻!切れ!!!体全部腐っちまうぞ!!!」
 藤本は辻に向かって絶叫する。辻は広がってゆく染みに視線を移し、覚悟を
 決めると蒼紫色の部分をえぐる様に斧で切り取る。
 
 「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
 痛みを必死にこらえながら、辻は全てを引きちぎった。
54611話:04/05/02 22:42 ID:ixDn4ibS
 
 「はぁっ・・・はぁっ・・。」

 辻はズボンを軽くちぎると、欠落した腕に巻きつける。斧を持つと、再び
 hydeに向かって構えた。Hydeは3人を見て、言った。
 
 「あと7分だけど、どうする?」
 そう、hydeは急いで3人を殺す理由はない。むしろ花葬が終わるまで待って、
 絶望感を味合わせてから殺した方が、hyde的に“面白い”のだろう。
 藤本は正直、反吐が出る程ムカついた。
 絶対に、倒す。絶対に助ける。
 Hydeは相変わらず涼しい表情で、3人に一通り視線を移す。
 
 「どちらにしろ、君達の物語の結末は同じだけど、戦うというのなら、来な。」
 
 3人は構えた。
 無言の返事。
 hydeはそれを聞くと、両手を大きく広げた。
 
 『winter fall』
 hydeの後ろから激しい吹雪が吹き荒れる。しかし、小川の反応はhydeの
 予想以上に速い。小川の掌から飛び出した、雪のように白く、無表情な
 美女が甘い吐息を口から吐くと、吹雪は全てhydeの方へと跳ね返っていった。
 
 「くっ!!」
 hydeは両手を前に出し、吹雪を避けるようにガードの構え。その瞬間に
 出た隙を、藤本は見逃さなかった。戻ってゆく吹雪の流れに乗って、
 スピードを得た藤本がhydeへと剣を向ける。剣はこの吹雪の中、赤い炎で
 燃えていた。

 「やあ!!!」
54711話:04/05/02 22:43 ID:ixDn4ibS
 斬った瞬間、藤本は決まったと確信した。
 現にhydeは倒れたのだ。
 吹雪も止み、雪まみれになっているhydeを気にも留めず、3人は安倍を
 助けられる人材と連絡を取ろうと通信機を取り出した。
 
 「亜弥ちゃんか、あさ美ちゃんのタロットだ!」

 とりあえず、自分たちと同じサイドから王の間を目指す後藤班と合流しよう、
 ということになり、その通路を逆送することで話がまとまる。
 そのときだった。
 
 ―――――――――  

 七色の光が、小川の体を貫いた。
 
 「・・・え?」
 
 ドサッ。
 小川は受身も取れずに倒れた。藤本と辻は、慌てて後ろを振り向く。
 hydeが立っていた。かなりのダメージを受けながら、何故か。
 
 「もう、お遊びはお終いだ。」
 
 To be continued...