もろたーー!!

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51410話
 10.「Sacrifice」

  安倍班は、4班中最も順調に進撃を繰り広げている、といえるだろう。
 飯田班のように一人トイレから帰ってこなかったり、後藤班、矢口班の
 ような状況には、今の所逢っていない。鬼神との対決においても、一番の
 当たりくじを引いた形。そのため4人は余裕を持った表情をして歩いていた。
  そう、ついさっき矢口班が見せていたような、あの表情をして。

 「お〜ついた〜。」
 藤本は声を上げた。王の間の外周にたどり着いたのだ。あとは階段を探し、
 登れば王の間はすぐそこ。
 「遂に来たのれす。」
 無言で頷く小川。そろそろ笑っているばかりではいられない。緊張感を
 持っていかなければ。しかしそんな小川の気持ちなぞ、辻は気づかない。

 「休憩するのれす。まこっちゃん、ケーキ!ケーキ!」
 「じゃあちょっと休憩入れるべ。まこっちゃん、コック召喚!」
 「そうですね、まこっちゃん、お願い。」
 「・・・・・・。」
 
 気分をぶち壊されつつも、仕事はきちんとこなす小川だった。
51510話:04/04/26 23:38 ID:vs0Yh38J
 
 「おお、すごい包丁さばき。」
 
 安倍が妙な事に感心する。コック召喚獣が次々と料理を仕上げる中、4人は
 地面にシートを敷いて座っていた。
 
 「お弁当作ってきたのれす。」
 辻はどこからかバスケットを取り出した。中からは溢れんばかりのサンドイッチ。
 「・・・・・何しに来てんだよ!!!」
 流石に藤本もツッコミを入れたが、既に辻は3個平らげた後。しかも無言で
 サンドイッチを差し出してくる。
 
 「・・・・・・。」
 藤本は無言のまま受け取ると、勢いよくがっつく。もうやけだ。
  
  辻と安倍はなんだかすごくまったりした感じだが、藤本と小川はどうも
 そんな気分にはなれなかった。2人も仲間が死んでいるのに、この和やかな
 雰囲気はいかがなものか。
 藤本は、ここまで順調に来すぎていることに問題があるのではないかと
 推測している。
  思えば鬼神中、ノリダーは最も安全牌。もしGacktかhydeに当たっていたら、
 後藤のように、ひとたまりもなかっただろう。中居、石橋でさえ苦戦を
 強いられた可能性は充分にありうる。
 
 とりあえず、このまま誰とも当たらずに王の間にいけるのが理想だが・・・。
 Hydeの姿が未だ見えないのが、不気味な感じがした。
51610話:04/04/26 23:39 ID:vs0Yh38J
  安倍ももちろん分かっている。こんな風に和やかな空気でいていいはずが
 ないということを。辻もそれを充分分かっているのではないだろうか。
 
 敢えて和やかに、敢えて明るく。
 
 ただでさえ暗い報告が多すぎる。
 後藤、保田の死。
  嫌な報告が多いだけに、暗くなってしまうムードを、明るくさせようと
 いう、安倍なりの心遣いだった。
 
 「ほらのの、そんな食べ過ぎてお腹痛くなっても知らないべよ!」
 
 精一杯の笑顔は、果たして3人にはどう映っているのであろうか。

51710話:04/04/26 23:40 ID:vs0Yh38J
 
 「どこが入り口なの・・・?」
 
  小川は遂に愚痴った。さっきから王の間へと続く階段を探し、円状の通路を
 ぐるぐると回っているのだが、まるで流れるプールのようにいつも戻ってきてしまう。
 「魔法がかかってる、ってのが有力か。」
 
  藤本は冷静に分析する。さっきから何週も何週をして、全く階段が見つからない
 という事は、何らかの方法で隠されている、と考えるのが妥当。
 物理的に隠してあるとしたなら、少しばかりの跡が残っているだろうし、
 何週も回っているのだから流石に少しは目がつく。全くそう言う点がないと
 いうことは、よほどうまい具合に通路に壁を作ったか、あるいは魔法で幻覚を
 見せているか。
  壁の確率は低かった。何故なら自分達が突撃日を決めたのは昨日で、今の
 今までに壁を作る労力は無駄といえる。魔法の方が明らかに楽だ。
 
 「解いちゃうね。」
 藤本は、魔力を両手に込める。魔法剣士の、両方使いこなす事が出来る特権的部分を、
 ここで活かさない手はない。
 藤本は口にする、呪文の名を。
 
 『銀色の永遠』

 部屋中のモヤモヤした空気が、一気に晴れてゆくように、空間そのものの
 空気が一変した。視界に階段はない。反対側にあるようだ。
 
 「行こっか。」
51810話:04/04/26 23:41 ID:vs0Yh38J
 
  あとは階段を上るだけと言うこともあってか、妙に4人は和やかな空気を
 保っていた。階段を探すため、ゆっくりと歩いてゆく。
 そんな中、一人だけ若干表情が浮かない。
 安倍だった。
 
 「あ、なっち最後尾着くから、のの、先頭お願いね?」
 「はーい!」

 変に思うよりも、先頭を任された喜びから辻は大きな声で返事をした。
 藤本と小川も別に特にどうする訳でもなく普通に歩く。
 先頭と最後尾は危険が隣り合わせ、2,3番目の二人は安心なのだ。
 
 
  さっきより、強く感じる。
 
 安倍は後ろにずっと気配を感じていた。そのため最後尾に回ったのだ。
 なんだ?この、圧倒的な邪気は。安倍は考えた。あらゆる可能性を。
 そして一番可能性が高い可能性は・・・出来れば一番避けたい可能性だった。
  東西南北の4つも門が存在し、王の間への行き方がたくさんあるということは、
 いわば「外部」の革命軍が、知識において「内部」の国営軍に、適うはずがない。
 自分達の場所にノリタケを張ったのは満を持してではないだろう。革命軍中そこまで
 協力とはいえないあのコンビを、駒として置いたのだから・・・。
51910話:04/04/26 23:42 ID:vs0Yh38J
 
  安倍はその場で立ち止まった。3人はそのまま気づかず前へと進んでゆく。
 ゆっくりとした足取りで、少しずつ小さくなってゆく3人を見て、
 安倍は思い切って振り返った。
 あのコンビをあの場所に置き、道が繋がっている北門に化学軍を置いたのだから、
 答えは一つ。安倍の考えが正しければ、振り返れば、そこにいるのは

  ・・・hyde!

 やはりhydeはそこにいた。Hydeは少しだけ意外そうに首を傾げると、
 静かにサングラスを外した。そして、口ずさむように呟いた。
 
 「Good morning Mr. Fear.....。」

 やばい!あの詠唱は!!!
 hydeの手には邪気がもう溜まっている。妨害して放てなくする時間はない。
 槍を構える暇もない。しかもこの呪文は・・・・!
 
 「皆!早く!!早く行って!!!」

 安倍は前の3人へ、力いっぱい叫んだ。
52010話:04/04/26 23:44 ID:vs0Yh38J
 
 「え?」

 3人は突然後方から聞こえた安倍の叫び声に、訳も分からず振り返った。
 一体どうしたというのだろう、そんな風に楽観的に振り返ったのは、
 辻一人だったが。
 
 「え?」

 そこには誰の姿もなかった。安倍の姿でさえも。
 
 「なちみ〜?」

 辻の間の抜けた声が、狭い空間の天井を反射し響き渡る。返事は、
 やはり返ってこなかった。3人はとりあえずキョロキョロと辺りを
 見回してみたが、安倍の姿は、どこにもなかった。だんだん嫌な予感が
 3人を襲い始める。しかし3人はその可能性を否定して安倍を探し回った。
 
 「なちみ!!!」
 「安倍さん!!」
 「安倍さん!!」

 必死にその名を叫ぶ。しかし声を出せば出すほど、その声はそっくりそのまま
 跳ね返ってくる。帰ってきて欲しい声はどこからも聞こえてこなかった。
 どんどん上がってゆく声のトーン。
 震える体を抑えて、3人は走り回った。その狭い空間を。
52110話:04/04/26 23:45 ID:vs0Yh38J

 
 
 「ねぇのの、戦いが終わったらさぁ。」


52210話:04/04/26 23:46 ID:vs0Yh38J
 
 「なちみ!!!なちみ!!!」
 
  ひたすらに声をあげ、外周を走り続ける辻。疲れ果てても尚走る事をやめない。
 辻にとって、安倍はそれ程重要で、大きな存在だった。
 
 「あ!!!」

 何かに躓いて、辻は転んでしまった。しかし擦り傷の痛みなんてどうでもいい、
 辻は立ち上がると、また走り始める。必死に、名前を叫び続ける。
 
 「はぁっ・・・はぁっ・・・。」
 
 呼吸がどんどん激しくなってゆく。動悸が自分でもよく聞こえるほどに、
 激しく響く。やがて辻は、思いのみで動かし続けた体を止める。
 もう走れない。
 でも走らなきゃ。
 でも足が動かない。
 でも探さなきゃ。
 でも苦しい。
 でもなちみを・・・。
 でもでもでも・・・・。
52310話:04/04/26 23:47 ID:vs0Yh38J



 「何するか決めた?なっち、夢があるんだべ。」


52410話:04/04/26 23:48 ID:vs0Yh38J

 「?」

  なんとか呼吸を整えようと、必死に息を吸っては吐いていた辻は、不意に
 天井から降ってきた、何かに目を奪われた。
 振ってきたのは、白い花びらだった。花びらが、少しずつ、上から降ってきて、
 地面一面を花びらで埋め尽くす。 それはまるで雪のようだった。
 降り積もってゆく花びらは、やがて辻の肩にもかかる。
 それは少し場違いな、幻想的な風景だった。

  辻が手を差し出すと、花びらは掌に乗っかる。それを指で掬い取ってやると、
 辻は息を吹きかけ飛ばした。
  これは一体・・・?
 呼吸が少しずつ落ち着いてきた頃、花びらも止む。気がつくと周りの地面は
 ほとんど白い花びらに埋め尽くされて、雪景色にも似た儚さを見た気がした。

  ドサッ。
 
 突然、白い花びらの上に、蒼紫色の物体が、落下した。
 
 「・・・・・え?」
52510話:04/04/26 23:49 ID:vs0Yh38J



 「ののも甘いもの大好きでしょ?だからさぁ。」


52610話:04/04/26 23:53 ID:vs0Yh38J
 
  辻は自らの目を疑った。
 疑って、疑って、それでも足りないくらいに、ひたすら疑った。
 信じる事が出来ない。いや、信じたくない光景が、視界を支配する。
 辻の体の震えが、いよいよ激しさを増してゆく。すぐに手を差し伸べたいのに、
 体が震えて動かない。
 
 「あ・・・・あ・・・・。」

 辻は声を出す事以外、何も出来なかった。膝を着くと、呼吸が再びあれ始める。
 すぐに目から涙がこぼれてきた。
 蒼紫色の物体がピクッ、と微動し、黒ずんだ指が剥がれ落ちると、
 涙は加速した。
 
 「ああああああ!!!!!!」

 泣き声に驚いた二人が慌てて駆けてくる。到着すると、
 二人はすぐにその悲愴な光景に、胸を痛めた。
  
  花びらが再び振り出す。真っ白の花びらは、蒼紫色の、ミキサーで
 ぐちゃぐちゃにされたように、変わり果ててしまった安倍の体に、
 静かに降り注いだ。
52710話:04/04/26 23:54 ID:vs0Yh38J



 「一緒にお店開こうよ!ののとなら楽しいと思うべ〜。」


52810話:04/04/26 23:55 ID:vs0Yh38J

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