498 :
9話 :
04/04/21 00:06 ID:TTQpsKU6 9「すれ違い」 「ん・・・・・・。」 加護が目を開けると、目の前に倒れている石橋と中居が眼に入り、少しだけ 吐き気がした。どうやら死んでいるようだ。加護はすぐに視線を別の方向へと移す。 すると、保田が高橋を問いつめている光景が、加護の眼に入る。 加護はまだ意識がはっきりしていない。しかし保田が高橋の方に掴み掛かった所で、 加護は自分が意識を失う直前の出来事を思い出した。 「(スパイはおばちゃんやったんや!)」 加護はそう直感すると、ダガーをすぐに両手に持ち、立ち上がった。 少々足元がふらつくが、そんな事は言ってられない。高橋が危ない! 「愛ちゃん危ない!」 二人は声が聞こえるとすぐに振り向いた。その表情からは戸惑いが見える。 加護は構わずダガーを保田の体へと突き刺す。 「!!」 高橋はすごくびっくりした目で、保田と加護を交互に見る。 「か・・・、な・・ん・・で・・・。」 保田はそう言い残すと、力なく地面に倒れる。少しだけ痙攣を繰り返すと、 保田は絶命した。 「大丈夫か?まさかおばちゃんがスパイやったとはなぁ・・・。」 加護のそんな言葉に対して、高橋は未だぶるぶると体を震わせている。 「かーちゃん、ちゃう、ちゃうねん・・・。」 高橋は涙を流すと、必死に声を絞り出した。 「スパイはあたしや・・・。」
499 :
9話 :04/04/21 00:07 ID:TTQpsKU6
「スパイはあたしや・・・。」 その言葉は加護に、頭に隕石が降って来たかのような衝撃を与えた。 加護はすぐにはその意味を理解する事が出来ず、え?とだけ何度も何度も ただ繰り返した。加護はやがて自らの震えに気がつく。 「保田さんは、あたしをスパイと見抜いて・・・泳がせるために、わざと、 あたしだけ軽く気絶させて・・・・、あたしが、つんくに報告に行っている 間に・・・・。」 もう声にならなくなってしまった高橋は、ただただ子供のように泣きじゃくる。 加護も目の前がくもって何も見えなくなっていた。
500 :
9話 :04/04/21 00:08 ID:TTQpsKU6
・・・・・・・。
501 :
9話 :04/04/21 00:09 ID:TTQpsKU6
「何?寝返り?でも保田の入る枠はないなぁ。」 「ですよねぇ。」 「違う。ちょっと事情が変わったのよ。だからあたし一人で倒す事にしたの。」 もう敬語を使う気はサラサラない。保田は大剣を持ち、改めて構え直した。 そんな保田を見ても、石橋は余裕の表情。 「無理無理。だって保田魔法使えないじゃん。肉弾で二人を相手するなんて 出来っこないもん。」 石橋が言っていることは尤もだった。確かに、よりによって大剣の保田が、 なんでも実体化させてしまう石橋と魔声を操る中居を相手するのは、 戦いの素人から見ても無謀だと一目で分かる構図。それでも保田は、 「そうよ?」 そう呟くと、保田は二人の視界から完全に消えてしまった。 「「あれ?」」 きょろきょろと辺りを見回す二人。 「遅い。」 保田は既に石橋の後ろ。石橋はかわす暇がない。大剣が石橋の背中を切裂く。 「痛!!!」 石橋はすぐにバットを取り出し、保田へとフルスイング。しかし保田は剣で それを受け止めると、今度は流れるような連続攻撃。 バットで何とか受け止めてゆく石橋。その攻防は暫く続いた。
502 :
9話 :04/04/21 00:11 ID:TTQpsKU6
「起きろ。」 高橋は肩を叩かれて目を覚ました。叩いたのは中居。 中居はまだ意識のはっきりしない高橋に、伝令を申し付けた。 「つんく王に報告だ。革命軍の進撃状況について。早く行け!」 保田はその二人のやり取りを見逃さない。しかし敢えて見てみぬふりをした。 保田の考えた計画では、ここで高橋が戻ってくるまでの間に二人とも倒し、 帰って来た高橋に尋問する、というもの。そのためにも、すぐに二人とも 倒さなくてはならない。 とりあえず、中居が高橋と話している間に・・・。 「貴さん、そろそろ終わりにしよう。」 保田はそう言うと自らの体内から大剣へ、気を流す。剣は気の力でまばゆい輝きを発し、 石橋には大剣が更に大きくなったように錯覚した。 『Baby!Knock out!!-type sword-』 吉澤のとは異なる、大剣ヴァージョンの『Baby!Knock out!!』 他にも後藤ヴァージョンも存在する。 剣の大きさからは考えられない連続攻撃が、石橋の全身を掻き毟ってゆく。 鼻にかかった独特の声が悲痛に響き続ける。
503 :
9話 :04/04/21 00:12 ID:TTQpsKU6
「やべぇじゃんやべぇじゃん!!」 石橋の瀕死に気がつくと、中居はマイクを握り締める力を一層強めた。 倒れている石橋へ、救いの手を。 一発逆転! 中居は思い切り声を張り上げた。 『あ゛〜あ〜〜〜〜〜果゛でじな゛い゛ぃぃぃぃぃ!!!!』 その声と共に、石橋の時が止まった。 「えぇぇぇぇ〜〜?!」 だみ声が、驚きのあまりいつもより3割増に汚い。何故か保田には全く効果がなく、 石橋はフェータルな打撃を受け死亡。 理解できなかった。保田はそんな中居を見て、自分の耳の穴に、 指を指してみせる。 「!!」 石橋の耳に、ついさっきまで入っていたはずの耳栓が、保田の耳に装着されていた。 そう、魔声は聞こえなければ、なんの衝撃もダメージも受ける事がないのだ。 「ふふっ。」 保田は軽く笑い、ウィンクをすると再び大剣を構える。
504 :
9話 :04/04/21 00:14 ID:TTQpsKU6
「ぐは!!!」 しかし中居には、そのウィンクだけでも充分強力な攻撃だった。 一瞬にして逝去。 「なんでよ!!!失礼しちゃうわ!」 保田はくるっと体を180度回転させると、言った。 「高橋、どこ行ってたのかな?」 ビクッ! と寝ている高橋の体が、一瞬震える。保田は大剣を地面に突き刺すと、 高橋の傍まで歩いた。 「ほら!」 無理やり起こされた高橋は、保田から完全に目をそらし、冷たい目をしている。 「質問には答えるのが礼儀ってものよ。」 高橋は何も言わず、保田の顔を全く見る気配もない。 保田は高橋の両肩に手を乗せ、掴んだ。
505 :
9話 :04/04/21 00:16 ID:TTQpsKU6
「スパイでしょ?」 高橋は顔を相変わらず背けた状態で、罰の悪そうな顔をしている。 「事情説明してよ、あたし達、仲間じゃない!」 その時だった。 「愛ちゃん危ない!」 加護がダガーをもって、保田に突っ込んできた。 え? 訳が分からないうちに、保田は体に鋭い痛みを感じた。 ・・・熱い・・・。 「か・・・、な・・ん・・で・・・。」 それしか言えなかった。保田は倒れると、事態をなんとか飲み込む。そうか、 あたしがスパイだと勘違いして・・・。 まずったな、こりゃ裕ちゃんに叱られちゃうや。 ・・・・?体が、小刻みに震えてる。なんか心地よい揺れだな、眠くなってきた。 矢口、あとは、任せたよ・・・。保田の時は途切れた。
506 :
9話 :04/04/21 00:18 ID:TTQpsKU6
「・・・圭ちゃん?」 矢口は保田の声が聞こえた気がして、目が覚めた。なんとか小さな体を 起こすと、横では信じられない光景。 保田が・・・死んでいる。 「・・・・なんで・・・。」 横にいる二人を見る。加護のダガーについた血を見た矢口は、すぐに今何が 起こったのかを理解した。頭に血が登ってくる。矢口は体を制御できなくなった。 「加護お前!!」 矢口は加護の方へと突っ込んだが、至近距離まで近づいた所で、攻撃が出来なくなった。 泣いている・・・二人共。 矢口は地面に着地すると、震えを抑えきれなくなった右手で、目から流れる涙を拭った。 「蘇生・・・・。」 なんとか涙をグッと堪えると、矢口は呟いた。無駄だと分かっていても、 聞いてしまった。 「・・・え?」 「蘇生早く!!!」 聞き返されて思わず語調を強めてしまう矢口。こうでもしないと涙が すぐにでも流れてしまう。 「無理です・・・・蘇生の効果があるのは・・・。」 高橋の言葉をさえぎるように、矢口は叫ぶ。 「うるさい!とにかくやれ!!」 「瀕死まで・・・・。」 「いいから!!!!」
507 :
9話 :04/04/21 00:19 ID:TTQpsKU6
3人とも、泣いていた。ただただ保田の死体の前で、静かに涙を流す。 落ち着くのにはしばらく時間が必要だった。ようやく落ち着いた頃、 「でも高橋、なんでスパイなんてしたの?」 もうスパイだということを明かしてしまった高橋に、隠す理由はない。 そう読んだ矢口は思い切って聞いてみた。高橋はそれでも少し答えにくそうに、 「・・・・・里沙ちゃんに脅されました。」 「お豆?」 意外な名前が出てきたことに、二人は驚いた。 でもよくよく考えれば、自然な流れなのかもしれない。 元々金だかで寝返った新垣。なら出世して更なる給料アップを望みたい。 そこで前いた革命軍の一人を脅迫する事で情報を右から左へ流し、 手柄を立ててゆく・・・。 ずる賢くも確実な方法だった。 「裏切ったあと、いきなりひょっこりと目の前に現れたと思ったら、 昔の事持ち出されて、脅されて・・・。それで今日突入する事 教えちゃったりして・・・。」 すごく申し訳なさそうな顔をする高橋。二人はそんな高橋を責めるような事は しなかった。 いや、出来なかった。
508 :
9話 :04/04/21 00:21 ID:TTQpsKU6
『お〜い皆、新垣撃破!それと・・・後藤と保田の死亡が確認された・・・。』 中澤の声が聞こえてきた。3人は声が聞こえると、全身に強い衝撃を覚えた。 そんな・・・。 「もし、もう少しだけ・・・。」 加護が呟く。 「言うな!!!」 矢口が止めに入る。しかし加護はそのまま全部言ってしまった。 「ガキさんの撃破の連絡が、早く入ってたら・・・。」 この一言がとどめだった。3人の涙腺は耐えることを忘れ、何故こんなにと 思ってしまうほどの涙が目から溢れ出る。 もし、あそこでああしていたら。こんな言葉は戦場において、いかに 無意味であるか、3人ともよく知っていた。生きるか死ぬかの戦いに、 そんなくだらない言葉は意味を成さない。充分過ぎるほどそれを理解したうえで、 それでも、そう思わざるをえなかった。 3人は涙が枯れ果てた後、ゆっくりと立ち上がると、ゆっくりと歩を進めた。 胸を指で十字に切り、祈りを捧げながら。 To be continued...
509 :
えっと :04/04/21 00:22 ID:TTQpsKU6
更新終了です。なんてーか、最近1話1話が短くてすみません。 次の話もグロい部分を含んだりするのでご注意を。(グロくなる描写力ないかも)