もろたーー!!

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4808話
 8.「悪魔の微笑」

 「・・・う・・・ん・・・・。」

  声が聞こえると、紺野はすぐに沈めていた顔を上げた。松浦は目をうっすら
 と開けて、でもまだ起き上がれない。陥没した脇腹は『HIGHPRIESTESS』で
 修復したものの、やはりダメージは大きいようだ。
 
 「松浦さん、よかった・・・。」
 紺野は松浦の手を握ると、ホッとした表情で微笑んだ。しかし松浦は状況を
 あまりよく飲み込めていない。
 「えっと、こんちゃん、ここは・・・どこ?あたし・・・痛!」
 傷の痛みと同時に、松浦の表情が苦痛以外の理由でもう一度歪む。
 全て思い出してしまった。 Gacktとの敗北について。
 一撃。
 たった一撃叩き込まれただけでKO。圧倒的な力の差。
 松浦は悔しくて仕方がなかった。拳を強く握ると、自然と目から涙も流れ出た。
 
 「・・・・・・あれ?後藤さんは?」
 松浦にとってみてすれば普通の質問だった。意識を失ってからの戦況を何も
 知らないのだから。紺野はそれを充分に分かっていた。
 分かっていたが・・・。
 紺野の返事は、その目から落ちる涙だった。
 「どうしたの?!」
 松浦は慌てて起き上がると、痛!と脇腹に手をやった。
4818話:04/04/16 22:21 ID:jH/5llz8
  自分が瀕死状態に陥ってから今まで、何が起こっていたのかを聞くと、
 松浦は表情を渋くして、でも言った。
 「後藤さんなら大丈夫だよ!強いから!・・・強いから・・・。
 ・・・エースだもん。」
  段々と声のトーンが落ちてゆく松浦。身をもって強さを体験しただけに、
 強がり以外に何者でもなかった。しかし後藤を信じていないわけでもない。
 あの強さは本物だ。後藤ならきっと、Gacktを倒してくれるはず。きっと
 『HERMIT』で隠れていたから見えなかっただけで、もう通過しているはず。
 今はそう信じるほかなかった。
 「はず」尽くしでいやになるが。      
 
 「そうですよね!じゃあ、あたし達もそろそろ行きましょう。どうにかして
 安倍さんの班と合流しましょう。」
 紺野は立ち上がると、両手をギュッと握り締めた。
 松浦もそれに追う様に立ち上がる。
 
 「痛いなんて言ってられないよ。行こう!」

4828話:04/04/16 22:23 ID:jH/5llz8
 「さっきと大分雰囲気違うね。」

  松浦は城内の雰囲気を見てそうコメントした。普通の城なのに、Gacktの
 趣味で造られていたらちょっとっていうかかなり退く。
 「残念です。」
 紺野は寂しそうな表情で相槌を打つ。やっぱり頭、大丈夫?
 松浦がそんな事を思っているなんて知らずに、紺野は辺りを見回していた。
 はっきり言って二人ともきょろきょろし過ぎで少し挙動不審だ。
 生まれて初めて城に入ったことで、それなりにテンションが上がってるのかもしれない。
 
 「それにしても広いよね〜。」
 当たり前の一言なのに、紺野は思わず納得してしまった。
 広い。
 その一言に尽きる。東西南北の門の位置から半端ない広さを予測していたが、
 予測値を遥かに上回る土地面積に度肝を抜かれた。
 「一坪いくらですかね〜?」
 またまた場違いな発言をしてしまう紺野。それを聞いた松浦は、少し呆れて、
 「そんな事言ってる場合じゃないよ。」
 「そうでしたね。」
 「で、どうする?」
 「どうしましょう。」
 「どうしましょうじゃないよ!迷ったんだから!」
4838話:04/04/16 22:25 ID:jH/5llz8
  そう、二人は見事に迷子。
 小川、石川と同じように、迷子。

 中澤の地図を全員ちゃんとメモしなかったのが災いした。もう全然どこに
 いるのか見当もつかない。でもとりあえずどんなに変な方向へ歩いても 
 東門方向にしか行かないだろうから、さほど問題ではない。
 それはそれで安倍班と合流できるチャンスだ。今この二人だと物理攻撃が
 少し、弱い。紺野の武道だけで太刀打ちできるほど、鬼神は甘いものじゃないのだ。
 安倍、藤本、辻と見事なまでに物理攻撃に長けたメンバーがいる班と合流出来たとしたら、
 かなり事を楽に進める事が出来るだろう。

 「安倍さん達との合流に都合がいいかもしれませんね。」
 「安倍さんの班って、誰がいたっけ?」
 「えっと、のんつぁん、真琴、ミキちゃんでしたね確か。」
 最後の一人の名前を聞くと松浦の目の色が変わった。

 「行こう!!」
 分かり易い人だなぁ、なんて思われていることも知らず、松浦はいきなり
 謎のやる気を出して前へと歩き出した。何を根拠にそっち?
 紺野はとりあえず着いて行く。なんとか横まで追いつくと、並走。
 その時だった。
4848話:04/04/16 22:27 ID:jH/5llz8
 「あれ?」
 角を曲がった所で突然二人は妙なオーラを浴びた気がした。
 よく見ると壁から発せられたものだった。松浦はフリを少し、踊ると、
 
 『ズバッと!!』
 
 シーン。
 「あれ?」
 松浦は自分の手を見て不思議そうに呟く。
 どういう事だ?松浦さんの魔法が、出ない。魔法が・・・・
 あ!ここで紺野はピンと来た。
 
 「これトラップですよ!魔封じ!!」
 魔封じとはその名の通り、魔導師の魔法を全く使えなくしてしまうトラップだ。
 しかしこれは確か賢者しか使えなかったような・・・。
 「賢者までいるの?!」
 松浦はやばいと直感し、すぐに体を方向転換、しようとしたら、
 
 「!!」
 突然足元がやわらかくなる。すぐに足が沈んだ。気持ちの悪い感触に、足が
 飲み込まれてゆく。なんと地面は沼と化していた。少しずつ、ほんの少しずつ
 地面へと足が下がってゆく。
 「二重トラップか・・・・。」
 松浦と紺野は二人で頭を抱えて唸った。こんなに簡単にひっかかるなんて。
 バカみたいだ。
 それはそうと、どうやって抜けよう。
 紺野は冷静に今時分絶ちの状況を分析し始めた。
4858話:04/04/16 22:27 ID:jH/5llz8
 1.松浦さんの魔法を使って吹き飛ばす

   ×魔封じ

 2・あたしのタロットで抜けだす
   ×魔封じ

 3.あたしの拳で切り開く
   ×沼

 じゃあどうしろと?他にここから抜け出す方法特に思いつかない。

 4.ヒーロー参上!

 いやいやそれは都合のいい話。紺野はまた頭を抱えた。
 そんな時、頭を抱える二人の前に、一人の少女が現れた。
 二人は少女の顔を見た途端、表情を若干ゆがめた。 
4868話:04/04/16 22:29 ID:jH/5llz8

 「里沙ちゃん!」
 
 紺野は声を上げた。新垣はそんな紺野に軽く会釈。
 「久しぶり。んで、さよなら。」
 新垣は、言わずと知れた寝返りっ娘。ある日突然手の平を返したかのように
 革命軍を抜け、国営軍へ。給料が良かったからだとかなんだか聞いた事があるが、
 これでスパイの話がなんとなく理解できた気が、松浦だけした。
 全部こいつがやった事なら・・・。
 若干の希望も混じっていたが、無理な推理というわけでもなかった。
 でも・・・・。松浦は少しずつ沈んでゆく中、疑問をぶつける。

 「誰?トラップし掛けたの。お豆はこんなの作れないはずだけど。」
 新垣はそんな質問されてもフッと1回だけ笑う以外は、リアクションを
 特にとらない。ちょっとした間の後、すました顔で答えた。
 「“松浦”は知らなくてもいいことだよ?」
 松浦は少しカチンと来た。紺野にもそれはよく分かった。その場にいたら
 誰でも分かるくらい、分かり易い顔を松浦はしていたのだ。
 
 「そう、じゃあ、言いたくなるようにしてあげる。」
 挑戦的な松浦の一言に、新垣は
 はぁっ?と一言わざとムカつく言い方で松浦に目を合わせると、

 「マジすか〜?この状況、分かってないんじゃないの?」
4878話:04/04/16 22:32 ID:jH/5llz8

 バシバシッ!!!

 「!!」
 松浦は突然往復ビンタをされた事にすごく驚いた。叩かれた後、頬を左手で
 摩る。
 「放っておいても死ぬから、せいぜいそれまでいじめてあげる。」
 今度は足が出た。松浦はそのまま脇腹に蹴りを受けてしまう。
 幸い反対側だったからよかったものの、少し響いたらしい。松浦の表情が
 再び曇る。

 「ここで!あたしが!あんたらを!倒したら!鬼神に!入れて!くれる!
 んだって!」
 蹴りのラッシュ。
 少しずつだがじわじわと松浦を痛めつけていた。身体的によりも、精神的に。
 紺野は二人の状況を傍観しながら、やばいな・・・。と一人頭をかいた。
 里沙ちゃん、何も分かってないよ?
 里沙ちゃんに鬼神になれる力なんてないし、絶対騙されてるって。
 だから、今ならまだ間に合うから、革命軍に戻ってこよう?
 口には出さなかったが、紺野は訴えかけるような目で、蹴りを続ける新垣を見ていた。
 少しして松浦へと視線を移し、顔の表情を見る。
 
 ・・・・やっぱりやばいな・・・。

 そう思っていると松浦は口を開ける。
4888話:04/04/16 22:33 ID:jH/5llz8
 
 「分かってないのはそっちの方。」
 
 「は?」
  相変わらず相手にしない新垣。おそらく新垣にはこの台詞は苦し紛れの
 捨て台詞にしか聞こえていない。しかし松浦の次の一言で、彼女は顔を
 こわばらせる事になる。
 「忘れないでほしいなぁ、あたしはそこら辺の魔法使いとはレベルが違うから。
 この魔方陣が対応してる、いわゆる『fifth elements』以外の。
 光と闇の魔法、どっちがいいかな?」
 新垣の体はすぐに震えだした。顔からは完全に血の気がひいている。
 逃げ出す前に、松浦は唱えた。
 
 「じゃあね、バイバイ。『涙色』」
 新垣の周りの地面が、新垣中心に半径5メートルほどの闇の円を描く。
 円はすぐに黒い沼と化し、黒い手が大量に湧き上がってくる。何十本も。
 手は新垣の足を力づくで掴み取る。
 
 「あ゛あ゛!!!」
 新垣は少しずつ、ずるすると引っ張り込まれてゆく。さっきと形勢が完全に
 逆転した。表情から覇気が全く感じられなくなった新垣に、
 松浦が最期通告をした。
 
4898話:04/04/16 22:34 ID:jH/5llz8

 「もう一度聞くけど、トラップ張った人は誰?言う気になったかな?」
 「あ゛!あ゛!言う!言うよ!!」
 しかし黒い手は新垣の肩まで掴むと、
 一気に永遠の闇へと引きずり込んでゆく。絶叫が、城内を響き、声の主は
 暗黒へ。松浦はケロッとした表情で笑った。
 
 「敬語、使わないとね♪それとちょっと遅かったかな?」
 
 強い・・・。
 やはり松浦は強かった。松浦は今度は光魔法を魔封じの描かれている壁まで
 放つと、壁は一瞬にしてピンポイントで消え、消滅した。
 そして沼を消し去り、
 
 「先行こうよ。」
 何事もなかったかのような顔で微笑んだ。
 「はい。」
 この人絶対的に回したくないタイプだ・・・。
 紺野は少しだけびくびくしながら、先を行く松浦にくっついていった。
4908.5話:04/04/16 22:36 ID:jH/5llz8
 8.5「meditate」
  城内の一室。決して鬼神以外は入る事が出来ない、『回復室』の中に、
 Gacktはいた。巨大な水槽のようなものの中に、特殊な液体が一杯に
 注がれている。Gacktは生まれたままの姿で、口に酸素マスクをつけた状態で、
 ただただ回復の時を待っている。

  傷は、予想以上に深かった。まさか後藤がこれだけのダメージを与える力を
 秘めているとは、全く想像していなかったせいか、傷は妙に痛む。
 本気を出さなければならなかった事に、Gacktは己を恥じた。
 たかだか18だかそこらの小娘に対して、手を抜けなかったのだから、
 鬼神のプライドを傷つける要素としては充分だ。
 
 そしてもう一つ、Gacktは気になっていることがあった。
4918.5話:04/04/16 22:37 ID:jH/5llz8
 「今の、ごとー達の、な.で、ごとー以外.、.んたとまともに、
 ・・・戦う力、ある.は、もう、よ...と、....しか、いな.・・・。」
4928.5話:04/04/16 22:38 ID:jH/5llz8
  小さな声だったが、自分にははっきりと聞き取れた。一人目はまだしも、
 二人目に挙がった名前は、Gacktにとってはかなり意外な人物といえる。
 スパイから全員の能力等の情報は貰っている。だから全員がどの程度の
 レベルにいるかも把握しているつもりだった。
 後藤は予想以上の強さであったにせよ、強いという事は情報として入っている。
 松浦があっけなさ過ぎて意外だったが、残りでスパイから強いと聞いていたのは、
 4人くらい。その中にその名前は入っていなかった。
 どう見てもあいつが強いとは思えない。
 Gacktは悩んだ。

 ただの苦し紛れのはったりか、それとも・・・。
 まあ、どちらにせよ、大きな問題ではない。
 例えそいつが後藤より強くても、何の問題にもならないのだ。
 何の問題にも・・・。
4938.5話:04/04/16 22:39 ID:jH/5llz8

 「Gackt・・・。」
 名前を呼ばれて目を開く。ガラス越しに現れた人影は、彼の親友。

 「hyde・・・。油断していると、痛い目にあうみたいだよ。」
 間もなく戦うであろう友に、革命軍の感想を告げる。Hydeはフッと笑うと、
 小さな体を軽く伸ばす。

 「油断も慢心も、ないよ。ただ全力で、計画通り進めるだけ。」
 その目を見るとGacktは安心したように頬にしわを作る。
 
 「そうだね。もうあれは方は済んだのか?」
 「うん、とっくに。」
 hydeは人差し指で首を切る様な仕草を見せ、舌を出す。
 そしてもう一度笑った。

 To be continued...