もろたーー!!

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4587話
7.「solitude battle」

  安倍班は順調に城内に入り、しばし休憩の時。小川が召喚した結界召喚獣によって
 4人は姿が隠れ、まったりと少しだけ休んでいた。そんなとき、小川は一人トイレを探しに出かけた。
 ずっと緊張感漂う場所を歩き続けていたため、トイレに行きたくなるのも無理もない。
 他の3人はこれをいい機会と、丁度いい休憩時間としていた。
 
  
  どうやらこの階のトイレはここだけらしい。反対側へ歩いて行ってしまったため、
 随分と探すのに時間がかかってしまった。“光のカーテン”を着込んでいなかったら
 間違いなく鬼神と遭遇して死んでいただろう。
 姿を消した小川は、なんとかトイレにたどり着いた。
 
 「・・・・・・・。そうだ!」
 We’re alive、じゃなくって。
 小川は男女両方の入り口部分に、あることをした。
 
 
 「あ、小川お帰り〜。」
 帰って来た小川に対し、まったりとした表情の安倍達。
 「・・・何笑ってるんれすか?」
 「え?いや??」
 小川は辻に指摘され、自分が笑っているという事に気がついた。
4597話:04/04/13 23:50 ID:EzrJmi++
 一方飯田班。


  こちらも安倍班同様、城内に入り、侵攻を続けていた。特に敵に出会う事も
 ないことから、とりあえず隣国への出兵自体は取り止めていないらしい。
 ただ鬼神だけは皆揃って残っている。出来れば当たらずに行きたいものだが・・・。
 飯田がずっといい緊張感を持ったまま、先頭を切って城内を進んでいると、
 石川が飯田を呼び止め、恥ずかしそうに言った。
 
 「あの〜、ト、トイレ行ってもいいですか?」
 思わずこける二人。吉澤に関してはこけながら地面を叩き割ってしまった。
 「分かった。早めにね。」
 飯田に言われ、石川は小走りでトイレを探しに駆けてゆく。その姿を見届けると、
 二人は壁に寄りかかり、座った。
 「いつもなら「しないよ!」とか言うんですけどねぇ。」
 「よほど我慢できなかったんでしょ。とりあえず、軽く結界張るね。」
 飯田は立ち上がると、一仕事始めた。
4607話:04/04/13 23:51 ID:EzrJmi++

 「あれ?」
 石川は気づくと見覚えのない入り口にまで来てしまった。つまりここは・・・・・・。
 南門?
 石川はどうやらトイレを見つけられないまま南の入り口まで来てしまったようだ。
 別にこの城は入り組んだ造りをしているわけではないが、とにかく広い。
 その広さが石川の頭を混乱させてしまったのかもしれない。
  
  そのままゆっくりと進む。左右に視線を移しつつ進んでいると、何かにぶつかった。
 「?」
 何かある。
 壁と自分との間に、透明でよく見えないけど、何かが。
 触れることは出来るけど、なんだかよく分からなかった。何かの罠だったら嫌だし、やめとこう。
 石川は方向転換すると、反対方向へと歩き出した。その透明な空間から発せられる寝息に気がつくことなく。
 
 
 「あったぁ〜・・・。」
 やっとトイレを見つけると、石川は嬉しくてすぐに中へと入った。
 なんか凄い金に物を言わせたような内装に、ちょっとひきながら、
 石川は個室へ入り、戸を閉めた。
4617話:04/04/13 23:52 ID:EzrJmi++
  石川は用を足し、戸を開けると、目の前に驚くべき光景が飛び込んできた。
 合成獣、通称『キマイラ』。名前の通り、動物と動物を“合成”する事により、
 全く新しい力を持った獣である。今石川の目の前にいるのは、ライオンと龍を
 掛け合わせたもの。さっきまではいなかったはずなのに、何故?石川は必死に考えた。
 そしてキマイラの足元に視線を移すと、疑問は解決した。

 「(トラップ!)」
 キマイラは魔方陣から召喚されていた。おそらく誰かが魔方陣に触れると数秒後に
 キマイラが発生する仕掛けだろう。しかもこのキマイラは大型種。出口を完全に
 阻まれている事から、倒すしかない。しかし、直接命を奪う力は石川にはなかった。
 だから、石川の選択肢は一つ。魔方陣を消し、キマイラの召喚を消す。
 「(でも、どうやって・・・。)」
 石川は考えた。魔方陣を消滅させる種類の呪文は、石川にはない。
 考えているうちにどんどんキマイラは近づいてきた。
 「(ど、どうしよ〜!!!)」
 もう、腹をくくるしかない。やるしかないのだ。一応いくつかの攻撃魔法の契約は
 交わしたが、放った事は一度もなかった。でも、打つしかない。
 
 「(いくよ!!!)」
 
 石川はキマイラに向かって、人差し指と中指を立ててみせた。
4627話:04/04/13 23:54 ID:EzrJmi++
 『ピース!!』
 
 シーン・・・。
 
 キマイラには、両指の隙間から石川の情けない顔が見えたかもしれない。
 「(出なぁ〜〜いぃぃ!!!まだレベル足りないよぉ!!どうしよどうしよ!!)」
 出ないならそれまで、次次!石川は手と手を合わせると、魔力を圧縮する。
 両手は七色に輝く。石川は思い切り両手を左右に広げると、手と手の間には、
 透明な膜が姿を見せた。
 『シャボン玉ぁ!!』
 十数個のシャボン状の魔弾が、キマイラに襲い掛かる。体の大きさ故、
 キマイラには逃げ場がなかった。
 
 ボンボンボンボン!!
 
 破裂する魔弾が、キマイラにジワジワとダメージを与える。
 「よしっ!」
 成功した事に、石川は思わず声を上げて喜んだ。でも飯田さんとか、
 あややだったら数百個は出るんだよなぁ、って、今はそんな事考えている 
 場合じゃないよね、こいつを倒さなきゃ。石川は更に呪文を試す。
 
 『チュッ!』
4637話:04/04/13 23:55 ID:EzrJmi++
  声がハートとなり、キマイラの方へとフワフワと飛んでゆく。
 これは本来誘惑系の呪文だが・・・。キマイラはハートが目前まで迫った所で、
 シッポを思い切り振りハートを弾き飛ばした。壁に激突し、ハートは弾けて消えた。 
 
 「あたしってそんなに魅力ないかな・・・・?」
 石川はその場に座り込むと、いじいじと落ち込んだ。
 嗚呼、神様、あたしを何故生んだのでしょうか・・・。
 そこまでは行かないにしても精神的に完全にノックアウト。しかし少しずつ
 近づいているキマイラに気がつくと、
 「こないでぇ〜!!!」
 そんな事すぐに忘れた。キマイラは聞いちゃくれない。どんどん近づいてくる。
 あ〜もう!!石川は再び覚悟を決めなおす。
 あやや、ごめん!!
 
 『ズバッと!!』
 炎の塊が放たれる。キマイラは大きな体をギリギリまで動かし、なんとか 
 避けると、塊は壁に大きな穴を開けた。
 「(打てた・・・。けど・・・。)」
 けど、当たらないよぉ!!
 どんどん近づいてくるキマイラ。もう場所がない。
 どうする?
 どうする?
 石川は少し上を見上げた。
 
 ・・・よしっ。
4647話:04/04/13 23:56 ID:EzrJmi++
 石川は心の中でもう一度だけ、松浦に謝ると、その呪文を唱えた。
 
 『ズバッと!!』

  今度はかなりの低弾道。キマイラは飛び上がり、天井スレスレあたりで宙に
 浮いた。通過する塊。塊はそのまま突き進み、魔方陣のあたりに到達した時、
 石川は右手の人差し指、中指をビュッと下に下げた。指に操られた塊は直角に
 魔方陣の上へと落下。地面は大きな音を立てて割れ、魔方陣が崩れる。
 するとキマイラはそのまま姿を消した。
  石川は少しだけ乱れた呼吸を整えると、思わずペタンとその場で座り込んでしまった。
 楽な姿勢で、甲高い間抜けな声を上げる。
 
 「助かったぁ・・・。」

 
4657話:04/04/13 23:58 ID:EzrJmi++
 
 
 「にしても遅い!」
  飯田が痺れを切らして声を上げる。例えトイレを探している最中に迷ったのだとしても
 (現に石川は迷ったわけだが)、この遅さは異常だ。1時間以上待たされている。
 飯田はいい加減待ちくたびれた。手に魔力を蓄積すると、呪文を唱える。
 
 『Memory』

 目の前の空間に、石川の映像が映し出される。映し出された石川は言った。
 「あの〜、ト、トイレ行ってもいいですか?」 
 「ここ見ても意味無いっすよ。進めましょ。」
 吉澤に言われるまでもなく、飯田は石川を『早送り』する。石川はどんどん歩いてゆく。
 そしてしばらくして立ち止まったので『再生』に切り替える。
 
 「あれ?」
 不思議そうな表情をする石川に、呆れる二人。
 「・・・。」
  飯田は無言で映像を消した。もう分かった。どれだけ迷ったか。こんだけ迷えば
 しょうがない。とことん待ってやろうじゃない。飯田はどかっと座り込み、
 どこか遠くを見るような目で何も言わなくなった。
 
 「・・・交信されるとこっちが困るんですけどね〜・・・。」

 吉澤は聞こえない事を分かっていながら呟いた。
4667話:04/04/13 23:58 ID:EzrJmi++
  石川がフラフラと帰って来たのはそれから30分後の事。
 飯田は立ち上がると、言った。
 
 「大分迷ったでしょ。時間たっちゃったから、行くよ。」
 「・・・・・・。」
 石川は疲れた顔でえ?と言っているように見えた。
 なんだかあまりにその表情がみじめだったから、吉澤は助けに出た。
 「飯田さん、あと20分だけ、ここで休みません?」
 「え〜・・・・分かった。20分だけね。」
 再びどかっと座る飯田。倒れこむように崩れ落ちる石川。
 吉澤はそんな二人を見て、ちょっとだけ微笑んだ。

4677話:04/04/14 00:01 ID:bO2C8lPs
  蝋燭の明かりのみが頼りの暗闇の中、もうすっかり紅く色を変えてしまった剣と剣。
 対峙し、しばらくの沈黙の後、再び動き出した。互いにぶつかり合い、少しでもその姿を
 紅く染めようと躍起になっているかのように、
 激しく、速く、強く・・・。
 やがて一方の剣。光を放っていた剣が、その生涯を終えた。二つに見事に分かれたその剣の先は、
 無残で、弱い。生き残った剣の持ち主の男は、静かに笑みを浮かべると、一気に襲い掛かる。
  なす術なく、体中から赤を吐き出してゆく死んだ剣の主である女。それでも女は倒れない。
 声にならない声をあげ、掌に魔力をため、自らの全てを放出する。そこから放たれた光が、
 男の体を焼き尽くすように照らす。掌から何も出なくなったとき、女は座り込み、
 男がいた方向から投げられてきた剣の刺さった腹を、懸命に、どうにかしようと剣を引っこ抜く。
 紅い液体が噴出し、顔を更に紅に変色させる。女は手をかざし、何やら口走ってみたものの、
 手からはもう何も出なかった。その代わり、目から静かに透明な、塩辛い液体が口内まで流れ込む。
  声にならない絶叫。
 果てしない闇が、女の体を貫いた。女は力なく地面にひれ伏す。闇を放出した男も、
 追う様に地面に倒れると、胸を十字に切る。
 手を地面に置くと、男は静かにその場から消え去った。
 To be continued
468:04/04/14 00:02 ID:bO2C8lPs
 0.「エース」
  二人の出会いは必然だったのか、はたまた偶然だったのか。
 それは定かではないが、後藤と市井は革命軍という枠の中で出会った。
 
 「また新しい仲間が増えたで。ほれ、自己紹介しいや。」
 中澤に少し荒っぽく押されながら、後藤は全員の(当時8人)前で名前を名乗った。
 それが終わると中澤から軽く後藤の能力について説明が入る。
 
  剣技を主とするが、本来なら違法とされる魔術所を父親が独自のルートで
 手に入れていたため、魔法を使いこなす。更に武術、槍術も全て学校でトップクラスの成績。
 何をさせても良かったため、
 「市井、お前が教育係やれ。剣技をもっと鍛えたれ。」
 
 後藤は余計なお世話だ、とこの時思った。自分の剣術は確かなものだし、
 人に教えられる程甘いものだとは思っていなかった。
 しかしそれはただの過信だったという事を、後藤は実戦ですぐに身をもって教えられることになる。
469:04/04/14 00:03 ID:bO2C8lPs
 
 「死ね!!」
  後藤は声がすると同時に後ろを振り返った。兵士が剣を自分へと振り下ろして
 きている。後藤はなんとか剣で受け止め、魔法で凍らせた。それを見た市井は、
 遠くから歩いてきて説教。
 
 「まだまだ甘い。敵はどこにいるか分からないんだから、五感をフルに活かさないと、
 生き残れないよ。」
 市井は厳しい目をして後藤に言った。言っている傍から市井の背後に兵士の影。
 「いちーちゃん危ない!!」
 しかし市井は敵を見ることすらなく、剣を後ろに振ると兵士の脳天を直撃。
 「だからそのいちーちゃんってのはやめ・・・ま、いっか。」
 兵士は無言のまま地面へと潰れた。後藤はその強さに惚れ惚れしたという。
 
  後藤はやはりまだ未熟であった。だが光るものを感じた市井は、教育係として
 責任を持って育てた。ある時は夜通し剣の特訓をしたり、ある時は真夜中の山に放置して
 自力で帰らせてみたり。幾分酷な試練も市井は与えたが、後藤も市井を信頼していたので、
 大した問題にはならなかった。
470:04/04/14 00:05 ID:bO2C8lPs

 「すごいなぁ、いちーちゃんは強くて。」
 
  ある時、戦いが終わり、兵士の死体の見えない丘の上まで登って、二人でなんとなく
 時をもてあましていた時の後藤の一言だ。
  市井はそれを聞くと、語りだす。
 
 「ごとー、強いってのは、どういうことだと思う?」
 「え?何いきなり・・・。」
 後藤はふにゃっと笑うと、少し悩み、
 「やっぱ強い奴を倒せる、いちーちゃんみたいな人じゃないかな。」
 「そいつぁ違うな。」
 「え?」
 
  あっさり否定されて後藤は驚いた。市井の目が真剣そのものだったので、
 後藤は反論することなく続きを聞いていた。
 
 「いいかごとー、自分より弱い奴を助ける事が出来て初めて、強いと言えるんだ。
 だからあたしなんかまだまだ。でもこれだけは言える。
 国みたいに、権力だけ振りかざして国民のために何も出来ないのは、
 強さなんかじゃない。だからごとー、強くなろう。
 皆を守ってあげられるくらいに、な。」
 市井は遠くの空を見上げるように視線を移す。

  真っ青な空は、まるで強さを純粋に求める市井の、心の透明さを表しているかのように、
 後藤には思えた。
471:04/04/14 00:06 ID:bO2C8lPs
 「飯飯飯〜!!」
 矢口が大声を上げて中澤家食堂に飛び込む。並べられた料理を見るが否や、
 眼にも留まらぬ速さでエビフライをがぶり。しかしその瞬間矢口は全身に
 微量の電気を感じた。
 「ひっ!!!」
 びっくりしてその場に硬直する矢口。後藤が放ったものだった。
 「だめだよやぐっつぁん。これは皆で食べるんだから。」
 後藤は料理を食堂に並べると、また台所へと歩いてゆく。
 
  この日は作戦会議を兼ねて中澤の家で全員食事をする事になっていた。
 新しく4人、革命軍に入ったばかりのため、親睦を深める意味合いもある。
 しばらく楽しい食事の後、中澤がいつものように話す。
 
 「明日、未納税の徴収に兵士が大量に町へと降りてくる。兵を一気に減らす
 チャンスや。ノルマ、一人10人や。」

 両手の指を広げる。全員の表情が真剣なものへと変わり、詳しい説明へと
 移った。
 
 「市井後藤はC5地点配置。」
 『はい!』
 当時エース格と言える市井と、まだまだ発展途上で荒削りながら、力を内に秘めている
 後藤のコンビはゴールデンコンビと称されていた。
 「二人はノルマ上げてもいいんじゃないべかな〜?」
 安倍がニコニコと二人を見ると、二人も笑顔で応えた。
472:04/04/14 00:08 ID:bO2C8lPs
  次の日、二人は順調に敵を料理していった。来る兵来る兵切り裂き、
 ノルマなんてものはとっくに達成。二人で競うように戦っていた。
 
  後藤は一種の興奮状態に陥っていた。自分の力が過信ではなく確信に変わった今、
 負ける気がまるでしない。とにかく目の前の敵を倒し続け、それでも足りないとばかりに
 敵を求めかなり前進していた。
 
 「ごとー!出過ぎだ!!」

 市井の声も届かない。後藤はどんどん進んでゆく。
 前線の方まで来ても、後藤の強さは光った。まるで歯が立たないと分かった敵は、
 なんと4人がかりで後藤に襲い掛かった。一振りで全て斬る後藤。
 しかし次の瞬間、
 
 「んぁ?!」

 後藤は身動きが取れなくなっていることに気がついた。斬り終わった瞬間、
 後藤に生まれた一瞬の隙を衝かれ、後ろから取り押さえられてしまった。
 「ちょっ、離してよ!!!」
 いくら後藤といえど男の力には勝てない。いや、本来なら勝てただろうが、
 ここまでで体力も魔力も、知らず知らずのうちに消耗してしまっていた。
 魔法も出ない。暴れていると、目の前に兵士が一人、現れた。剣を構えている。
 剣を横に構え、兵士はそのまま突っ込んでいた。
  こ、こいつ、仲間ごと刺そうとしている?!
 後藤は精一杯もがいた。しかし兵士も懸命にしがみつき、絶対に離れない。
 剣は少しずつ、少しずつ後藤に近づいてゆく。
 もう、避ける時間はない。
473:04/04/14 00:09 ID:bO2C8lPs
 
 ザクッ!!!!

 「!!!」

 後藤は信じられない光景を目の当たりにした。
 市井が間に割って入り、身を挺して剣の犠牲となったのだ。市井は胸から
 流れる大量の血に気がつくと、そのまま倒れた。

 「・・・あ・・・あ・・・・・・・・・・。」
 兵士は構え直している。後藤はまだ体を掴まれていた。
 「いち・・・いち・・・・い・・・・ちゃ・・・。」
 兵士は容赦なく、後藤の胸めがけて剣を進める。しかしその時、後藤の中の
 眠れる獅子が吠えた。
 
 「いちーちゃん!!!!」

  体を取り押さえる兵士の腕を引きちぎると、体を引き寄せ、突っ込んでくる兵士の
 剣先めがけて投げた。数秒後、兵士は見事に串刺しとなった。後藤はそのまま剣に光を集め、
 市井の体を貫いた罪深き兵士に、一撃、放った。
 
 『バカやろう!!!!』

 兵士は左右に完全に体が分担され、光のオーラはそのまま八方向へと伸びてゆき、
 周りの兵士、全てが餌食となった。
474:04/04/14 00:10 ID:bO2C8lPs
 「はぁっ・・・・はぁっ・・。!!いちーちゃん!!」
 後藤は思いだしたように市井の下に駆け寄る。市井は倒れたまま動かない。
 目も見えないらしく、声の聞こえる方に体を傾かせるものの焦点は定まっていない。
 
 「ご・・とぉ・・・。」
 「いちーちゃん!!」
 後藤は思い切り泣きじゃくった。止め処なく溢れ出す涙は、市井の頬を少しぬらすと、
 市井は頬を少し緩ませた。
 
 「少しは・・・強くなれた、かな?・・・」
 
 「何言ってんの!!いちーちゃんは・・・強いよ!!!
 ごとーを守ってくれて・・・だから!しっかりしてよ!!!」
 市井は『強いよ』まで聞くと、静かに目を閉じた。
  その表情は不思議と安らかで、それが後藤の涙腺を余計に刺激した。
 市井の真っ赤な体にしがみつき、必死にゆする。
 声を上げ、名前を呼び続ける。
  後藤のその一連の行動は、夜まで繰り返された。
475:04/04/14 00:12 ID:bO2C8lPs
  静かな部屋の中、全員何も言わず、ただ椅子に座ってそれぞれがそれぞれ、
 どこか見ている。誰も何も言い出さない。ただ後藤だけは、ずっと嘆き続けていた。
 
 「ごとーのせいだ・・・。ごとーが弱いから・・・。
 ごとーがもっと強ければ、いちーちゃんは・・・。」
 誰も後藤を責めたりはしない。そればかりか、誰も後藤の方を見たりもしなかった。
 後藤は立ち上がると、机に両手を置く。
 
 「なんで責めないの?」
 誰も何も言わない。一人一人に視線を移すが、誰一人として後藤と目の合う人はいなかった。
 「責めるなら責めてよ!!その方がまだ楽だよ!!!」
 机を思い切り叩く。
 後藤はとうとう堪えきれずに涙を流してしまった。そんな後藤を見て、
 飯田がすっと、立ち上がった。
 
 「じゃあ言うよ。」
 後藤の前に立つと、目をしっかりと見て、飯田は言った。
 
 「いつまでも自分を責めてないで、紗耶香の言った通り、強くなれるように努力しろ!
 それが、紗耶香の、ためじゃ、ないかな・・・・。」
 
 後藤はここでやっと気がついた。飯田が涙ぐんでいた事を。
 飯田だけではない。みんな、泣いている・・・。
 全員抑え切れなくなってしまった感情を、その場で必死に尚も抑えようとしている。
 
 そうだ・・・つらいのは自分だけじゃないんだ。強くならなきゃ、ううん、なるんだ。
 それがいちーちゃんが目指していた事、いちーちゃんが望んでいた事・・・。

「まだまだ甘い。敵はどこにいるか分からないんだから、五感をフルに活かさないと、生き残れないよ。」市井の台詞は受け継がれてゆく。完全にエースとなった、後藤によって。今、この言葉は、あの娘の胸に、確実に刻まれている。
0「エース」完 
To be continued
476えっと:04/04/14 00:14 ID:bO2C8lPs
最後改行しくじった(泣)
更新終了です。