445 :
6話:
6.「Music channel」
西班(保田班)の侵攻状況は、いたって順風満帆といえる。まさか宅配便の
ふりをしてあんなにあっさりと通れるとは思わなかったが、そのあとを特に
敵に逢う事もなく、門まで到達。4人は談笑しながら進む余裕さえ見せている。
「宅配便でーす。」
「もうええわ。」
加護がタメ口でツッコもうが、矢口は気にしない。非常にリラックスしていて、
気楽なムード。その一方では後藤とGacktが死闘を繰り広げている事を思うと、
いささか不謹慎にも見えるが、彼女達は全くその事実を知らないから、
仕方のないことだった。
4人で笑っていると、門はひとりでに開いた。
「・・・宅配便に反応しちゃった?」
保田はどこかから自分達の会話を聞いているのでは?と思い門の上に
視線を移す。
「入れっちゅうとんねんから、入りましょ。」
そんな保田の苦労むなしく、加護を先頭に3人ともずんずんと奥の方へと
行ってしまった。
「え?ちょっ・・・・待ちなさいよ!!」
保田は慌てて3人を追って中へ。
バタン
『!!』
4人が中へ入るのを確認したかのように、門は音を立てて閉まった。
446 :
6話:04/04/08 23:46 ID:uC4gEkQr
「・・・何ここ。」
なんで門から中へ入ったはずなのに、小部屋?4人は訳も分からず、とりあえず
ちょうど4つある椅子に腰掛けた。そこで4人には気がついた。この部屋の壁は
全て透明で、向こう側に何かが見える。
・・・・男が二人、長い机で4つの空席を挟んで座り、トークをしている。
片一方は40くらいの背の高そうな男、もう一方は30くらいで、帽子を被り、
背の小さそうな男。そしてその男達を、たくさんのレンズが捉えている。
・・・ビデオカメラ?よく見るとカメラは無人で、勝手に移動したりして二人を
映している。魔法仕掛けだろうか。
[巨人開幕3連敗ですよ。]
大きい方の男の声がいきなり聞こえてきた。
[でも3連敗した年、3度!日本一になってますから。まだまだ行けます。]
「なんやあのあさ美ちゃんトーク。」
高橋が呟く。
[さあ、そろそろ参りましょう、本日の目玉はこの方々ですどうぞ!!]
若い方の男の声がした途端、目の前の戸は開き、まるで自分たちへ入って来い、
と言わんばかりの空気になった。なんだか拍手が凄い聞こえてくる。
「・・・行く?」
矢口が入り口?の方を指差すと、3人は静かに頷いた。とりあえず、
道はココしかないようだから、これが罠だろうがなんだろうが行くしかない。
4人の意思は一つだった。4人は吹き荒れる煙の中、鮮やかにスタジオ?
に入室。2人の間の椅子に座った。
447 :
6話:04/04/08 23:48 ID:uC4gEkQr
「はい、というわけで今週の目玉は・・・えっと・・・。」
中居は4人に視線を移した。4人は訳が分からず、とりあえず視線を合わせている。
「矢口・・・保田・・・高橋・・・加護・・・じゃあ『やや高』の皆さんです!」
中居が手を振りに紹介すると、またどこからか拍手の音。とりあえず言える事は、
『やや高』と言う言葉は4人のプライドを傷つけるには充分だった、ということだ。
ここからはしばらく、中澤が怒り出しそうなトークを。
「最近どうよ?ごっつぁんが卒業した時点でやばいなって思ってたけど今度は
なっちで辻加護もいなくなるんだよ?」
「貴さん、一人忘れてます!!」
矢口が必死に『忘れられた人』を指差す。石橋はそこに視線を移すと、
「・・・お前なんでここにいるんだよ!」
保田一蹴。
「えぇっと、ホダさんでしたっけ?」
更に仲居が追い討ち。
「保田ですよ!!!昔なら良かったけど今更そんな弄り方しないでください!!」
半ば呆れ気味に見ている若手二名。白い目、白い目。
「テッテケテーはどうなの。訛りは取れた?」
「だから、これは訛ってないんですよ。」
ブルータス、じゃなかった。
高橋、お前もか。
448 :
6話:04/04/08 23:50 ID:uC4gEkQr
加護は本来なら真っ先に乗ってしまいたかったが、流石に不謹慎だから黙ってみていた。
今、みんながどこで戦っているかも分からないというのに。辻の心配をしながら、加護は
じーっとやり取りを傍観していた。
「仲居さん、加護が白い目で見てます。」
矢口は喋ろう喋ろうと必死。仲居はすかさず、
「いや加護お前白目ないべ?」
誰もいないはずの空間から笑い声が聞こえる。
「じゃあそろそろ曲紹介の方へいって頂いて。」
仲居がジェスチャーをすると、4人はせーの、と小さく声を出して、言った。
『それでは聞いてください。『やや高』でって違―う!!!』
「見事にハモったなぁ。」
石橋は感心したように4人を見る。息の荒い4人に、中居は、
「ではトータライザーの方を用意させて頂きまして・・・。」
と立ち上がると歩き出した。
ノリツッコミが流され、されるがままの4人。スイッチを持たされると、
中居が台本をそのまま読み上げる。
「正直この人は苦手だという人がいる。」
おなじみの音楽がドコからか流れ、
『2』
という数字が機械に写る。着いた瞬間石橋の口が開く。
「おい保田!後輩がビビってんぞぉ。」
「なんでですか!!分からないじゃないですか!」
「おばちゃん怖い。」
加護が呟くと、どこからかまた笑い声が聞こえる。
449 :
6話:04/04/08 23:51 ID:uC4gEkQr
「では次の質問行ってみましょうかね。」
なんかいつまでも続きそうな気もするが、とりあえず傍観。
『正直保田が苦手だ。』
『2』
爆笑の渦。矢口さんとか、わざと押してるやろ?と心の中で思いつつも傍観。
保田は一人慌てて弁解?を繰り広げてゆく。焦れば焦るほど笑いが巻き起こってゆく。
「保田それでやめたんだろ?」
矢口は助けるそぶりすら見せず、ただただ笑うばかり。高橋がここで立ち上がる。
「そんなことないですよ!」
「え?じゃあ保田のいい所言ってみてよ。」
石橋の問いに、
「a32q593utg,cnmzlkgajdkd@ewpitewa65u」
「もういい。」
石橋がジェスチャーをすると、モールス信号を送る機械が本当に目の前に
現れてきた。驚く4人。石橋はなんでもない表情でそれを消すと、笑ってみせた。
「じゃあ次は、お菓子の方を、ご用意させていただいております。」
中居が声を出すと、誰が運んでいるわけでもないのにケーキを乗せた台が
飛んできた。加護の目の色が変わる。
「どうぞ、ご自由にお食べください。」
450 :
6話:04/04/08 23:54 ID:uC4gEkQr
「いらねぇよ!!」
矢口が突然立ち上がると、びしっと中居を指指す。あ〜、せめて食った後に
してくれへんかなぁ、なんて落ち込む加護の気持ちも知らずに。
「おいら達あんたらと遊んでる暇はないの!!鬼神なんだか知らないけど、
とにかく今すぐどけー!!!」
き、決まった・・・。矢口が一人満足そうな笑みを浮かべていると、
石橋の口が開いた。
「じゃあしょうがないな。死ね。」
すごく冷たい目をしている、人間かどうか疑ってしまうほどに。
加護にはそう見えた。やはり鬼神は違う。ふざけた奴等ばっかりでも、
戦う時の殺気は、そこらの兵士とは明らかに一線を画する。
石橋はどこからかバットを取り出すと、もう片方の手に出したマイクを、
中居に渡した。
「させるか!!」
矢口が肩袖からナックルを取り出し、二人へと接近する。しかしその前に、
仲居から必殺の一声が放たれた。
「エ゛ン゛ダ゛ァァァァァァァ!!!!」
強烈なダミ声とぶれる音程。それだけでも充分過ぎるほどきつい声なのに、
中居の声はただの声ではない。『魔声』と呼ばれる術で、声を攻撃に帰ることが
出来る、近世では珍しい術。しかし本来は歌のもっと上手い術師が補助のために
使っていたのだが、
ってそんな解説している場合じゃない。
加護は自分が壁まで魔声の衝撃で飛んでいることに気づいた。
気づくと同時に、体に痛み。
451 :
6話:04/04/08 23:55 ID:uC4gEkQr
「くそ!!」
加護はすぐに立ち上がると、ダガーを両手に持って駆け出す。マイクを握る
中居の手に力が入るのが見えた。
シュッ!!
「花屋の〜・・痛!!!」
魔声完全発動の前に、加護はダガーを投げ中居の手に見事命中。中居は
マイクを落としてしまった。腰からもう一本取り出し、石橋の方へと
突っ込む。
「うわ!!!」
石橋は怯みながら片手を前へかざした。加護は構わず斬りつける。しかし
次の瞬間、石橋の手の目の前に、突然『コナキジジイ』像が姿を現し、
加護の攻撃はそれへと直撃した。コナキジジイ像が真っ二つに割れると、
加護はなんだか像にウィンクされたような気がして、
悪寒で動き鈍ってしまう。すかさず石橋がバットをフルスイング。
しかしここは加護。最近は太り全盛期の速さはないものの、まだまだ
革命軍内ではトップクラスの速さを持つ。飛び上がるとそのままバク中。
着地するとその反動で前へと飛んだ。
「決まりや!!!」
フルスイングから石橋はまだ体勢を立て直せていない。
決まった、そう思った瞬間、
「ア゛〜ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛〜〜〜〜〜〜!!!!!
果゛てしない゛ぃ゛ぃ゛〜〜〜」
防御という防御体制を全く取れないまま、加護は再び壁まで吹き飛んだ。
452 :
6話:04/04/08 23:57 ID:uC4gEkQr
「ホンマ、ムカつく声やわ〜。」
加護は服の汚れを軽くはらい、立ち上がると3人の元へと駆けた。
矢口は直で食らったから大分聞いているのかと思いきや、瞬時に
背中から盾を取り出し衝撃を抑えたらしい。ピンピンしていた。
矢口は軽業師だが、その身体には数々の武器が秘められていて、
一体いくつ武器や道具があるのか、矢口以外は誰も知らない。
「どないします?ここは2対2が妥当やと思うんですけど。」
「そうだね、おいらもそれがいいと思『う!!』」
矢口が突然子途切れたように倒れる。加護は倒れた矢口の方へと振り返った。
「?・・・変な冗談してる場合ちゃいまっせ。・・!!」
突然、延髄辺りを強い衝撃が走った。すぐに痛みは薄れる意識で気に
ならなくなる。加護は膝を落すとそのまま倒れた。なんとか最後の力を
振り絞り、振り返る。
・・・・!!
「おばちゃ・・・・・・。」
加護の頭を、中澤の言葉がフラッシュバックする。
『うちらの中にスパイがおる可能性がある。』
間もなく加護の意識は途絶え、高橋もそれを追う様に倒れた。
453 :
6話:04/04/08 23:58 ID:uC4gEkQr
中澤は早くも出始めた班の異変に対し、必死に冷静さを保とうとしていた。
後藤班が完全に分裂、後藤だけが残り、残り二人が進んでいる。それだけでも
心配になるのに、松浦の体力が一瞬にして0に近い所まで落ち込んだ事、後藤の
体力がどんどん落ちてゆく事、そして、3人とも連絡がつかない事。
この3つが、中澤を更に不安にさせていた。
『HERMIT』の効果で通信の電波が上手い具合に届かないのだ。しかし中澤は
そんな事を知る由もなく、とりあえず後藤と連絡をつけようと必死に呼びかける。
「ごっつぁん!!ごっつぁん!!」
いくらその名を呼んでも、返事は全く聞こえてこない。後藤は無視して
一定のスペース内を動き続けている。
「くそ!!!!」
机を思い切り叩くと、下唇を噛む。
あいつ、何やってんねん・・・。
体力メーターなんて、つけるんじゃなかった。
どんどん死への階段を昇り続ける後藤なんか、見たくない。
部屋を退室していて、聞き逃すんじゃなかった。
皮肉な事に、ちょうど中澤が退室していたときに、後藤達はGacktと遭遇していた。
中澤が見たのは、松浦の体力が瞬時に減少した所から。
自分は・・・何をすれば・・・。
454 :
6話:04/04/09 00:00 ID:uIQMOJ+c
「ん?」
後藤にすっかり気をとられて、他の班をまったくチェックしていなかった事に気がつく。
なんと一人別行動を取っている輩がいるではないか。中澤は話しかけた。
「おい!!」
『え?!?!』
いきなり話しかけられたせいか、物凄く驚いている。そんなに驚かれると、
お化けにでもなった気分で中澤は少しムカついた。
「どうしたんや?そんな所でちょろちょろと。」
中澤は核心に迫った。あまり考えたくはないが・・・。
スパイの可能性も否定出来ない。
『トイレを探しに。』
「ああ、せやな、城内入ったんやからトイレもあるか・・・。」
やれやれ・・・。自分の記憶によると、大分豪華なトイレが・・・。
今はもっと凄い事になってるかもしれないが。
「・・・・?」
またトイレかい。今度はこいつかい・・・。
ったくどいつもこいつも緊張感っちゅうもんが足りない。
・・・・?あれ、トイレって、こんなに多かったっけ?まあええか。
中澤は立ち上がると、鬼神の資料を取りに別室へと移っていった。
その間、探知機によってモニターに映し出されている“点”は、
静かに王の間へと、確実に向かっていた。
To be continued…