430 :
えっと :
04/04/04 00:17 ID:r2pyzeC+ 5.「狂乱の貴公子」 南班(後藤班)のエリアは北班、東班と、かなり違っていた。二つのエリアの 特徴としては、城に入るまでどこまでも広い、自然の景色が広がっていた。 (片方はセットのように見えたとしても)しかし南門は、何の障害もなく、 あっさりと入り口までたどり着いてしまった。あっけない、と言ってしまえば それまでだが、なるべく傷を作らずに王の間までたどり着きたい彼女達にとっては、 それは好都合な事だった。 コンコンッ。 「誰かいますか〜?」 「ちょっ、何こんちゃんノックしてんの?!」 松浦は睡眠学習中(自称)の後藤をおんぶした状態で必死にツッコミを入れる。 どうも二人のせいで自分のキャラが潰されているような・・・、って、今は 革命を遂行する事が先決、キャラは二の次。あたしがいないとこの班は成り 立たないんだから。松浦がそう自分に言い聞かせている間に、紺野はさっさと 入っていく。松浦は慌てて追いかけた。
431 :
えっと :04/04/04 00:19 ID:r2pyzeC+
ドアを開けると、2人は一面に広がる異様な光景に、目を奪われた。視線の 先の“建築物”の一つの発する、大音量で後藤は目が覚めたらしく、呟いた。 「んあ〜?暗いね。」 明かりと言ったら蝋燭しかなく、何故か壁からは滝が流れ落ち、天井からは 薔薇が下がっている。誰がどう見ても異常、と言うだろう、そんな光景を見て、 紺野が一言。 「素敵です!」 「紺野(頭)大丈夫?」 紺野は後藤の言葉も聞かずに、流れている滝に近づいた。 「マイナスイオン、たっぷりです〜。」 「分かるのかよ。」 松浦はフッと呟くと、いけない!と言った表情をして手で口を覆った。 とりあえずいつまでもここにいてもしょうがないので、奥に進もう、 と言うことで話がまとまり(松浦がまとめ)、一直線に伸びている道へ 体を向けると、人の気配に気がついた。 「!!!」 後藤がさっきまでの表情から一変する。気がつくと目の前には、男が椅子に 足を組んで座っている。松浦には速過ぎて、一体どうやって男が現れたのか、 見えなかった。
432 :
5話 :04/04/04 00:20 ID:r2pyzeC+
「お前は・・・・Gackt・・・。」 Gackt。後藤がそう呼ぶ男は、茶色い髪に青い目を持つ、少女漫画にでも出てきそうな 顔をした美男子だった。彼は鬼神の中の一人で、hydeと二人で「月の子」と呼ばれていた。 後藤が前に出そうになる足を、必死に理性で止めているように震えている。 Gacktはボソボソと何か言っているようだが、声が小さすぎてよく聞こえない。 「ごめん、そんなに人は殺したくないんだけどね。仕方がないかな・・・。」 ポキポキと手の関節を鳴らすと、Gacktは立ち上がった。立ち上がってみて 分かったが、180くらいあるだろうか、結構な高身長で、足も長い。 Gacktは軽く手首足首を捻り、屈伸すると、眼が変わった。 途端にすさまじい程の重圧を、松浦は全身に感じた。横を見ると、 後藤も紺野も体を震わせている。まずい、あたしも震えてる・・・。 松浦は止められない手の震えに、一瞬絶望感を感じた。でもやるしかない。 あの速さだ、逃げる事も許されないだろう。 Gacktは少しずつ、でも確実に3人に近づいてくる。後藤も紺野も動かない。 紺野はおそらくあまりの重圧に動けないだろう。あたしが・・・あたしが行くしかない! 「あああ!!!!」 松浦は似合わない雄たけびを上げると、唱えた。 『ヒヤシンス』
433 :
5話 :04/04/04 00:22 ID:r2pyzeC+
松浦は呪文を唱えた瞬間、その場から消えてしまった。少なくとも紺野には そう見えた。しかしそうではない。松浦は瞬時にGacktの背後にまで移動していた。 Gacktはすぐに振り返ったが、その時にはもう、松浦が攻撃を仕掛けていた。 『Good bye boy』 真っ暗闇の室内が、一瞬光に包まれる。松浦の掌から放たれた光の矢は、 Gacktの背を捉え、その衝撃で辺り一面を破壊した。蝋燭が消え、完全な闇。 紺野はタロットカードを何とか選ぶと、 『SUN』 暗黒の世界に光をもたらした。そこで紺野は驚くべき光景を目にする。Gacktの 拳が、松浦の脇腹に深々とめり込んでいたのである。松浦は完全に意識を失っている ようで、少しピクピクと震えている。いくら普段ボケボケの紺野でも、この状況に 怯えずにはいられない。Gacktは腕を上げたまま、つまり松浦を宙に浮かせた常態で ボソッと一言、言った。 「惜しかったね。ちょっと効いたかな・・・。」 Gacktは別に松浦の呪文を避けたわけではない。耐えた。そしてカウンターを 一撃。これほど口にするのは簡単で、実際に実行不可能なことはない、そんな風に 紺野は思った。松浦の呪文の破壊力は折り紙付き。現にGacktの周りは派手に 吹き飛んでいるし、さっきまでGacktが座っていた椅子なんてもう椅子であった 事すら忘れてしまうような形になっていた。そして松浦を拳で、たった一撃で ノックアウト。まさかこんなに強いとは・・・。 紺野はどうしようもにない絶望感に教われ、逃げる事すら出来ないほど足が すくんでいた。
434 :
5話 :04/04/04 00:23 ID:r2pyzeC+
後藤に視線を移してみると、さほど驚いているように見えない。むしろ 予想していたかのような表情で、Gacktの姿をじっと睨みつけている。 「ほら。」 Gacktは拳をぶんっと振ると、松浦が二人の目の前まで飛び、地面に落ちた。 紺野は急いで松浦の元へと走り、しゃがんで松浦の胸に耳を当てた。 ・・・・かなり弱っているが、まだ息がある。どうやら致命傷には至っていないようだ。 ただ瀕死で、もう戦えないのは明らか。どうする?この鬼神の前に、どうする事も 出来ずひれ伏すのか?また手が少し震えてきた。同時に視界が少し曇る。 ・・・涙? 震える手に宿った雫を、舐めてみる。しょっぱい、絶望ってこんな味だろうか? 「紺野。」 不意に後藤に声をかけられ、紺野は慌てて涙を拭くと答えた。 「なんですか?」 「あややを連れて先行って。」 「!!」 後藤の提案に、紺野は驚いた。一体どういう意味か、理解できずに、すぐ 質問する。 「どういうことですか?」 後藤は少し肩を震わせている。覚悟したような眼、 左手で既に鞘をしっかり握り締めていた。 「ごとーが食い止める。」
435 :
5話 :04/04/04 00:24 ID:r2pyzeC+
後藤から発せられた一言は、紺野の気を動転させるには充分すぎるほどの 衝撃だった。さっきあれ程までに圧倒的な力を見せ付けられた相手を、一人で 食い止める?紺野には全く理解できなかった。 「む、無茶です!!!」 しかし後藤から帰って来た言葉は、冷静で、悲しかった。 「じゃあこのまま全滅する?」 「・・・・。」 何も言い返せなかった。 「分かったら、行って。」 「・・・『strength』」 紺野はタロットを取り出し、唱えた。後藤の攻撃力が上がるよう、後藤に 差し出すと、後藤はほのかな光に包まれた。紺野が松浦を背負うと、 「・・・帰ったら、また笑おうぜぃ。」 後藤は笑っていた。紺野はそんな後藤の様子に返事する事が出来ず、一礼すると、 走り出した。Gacktの横を。一瞬襲われるかと思ったが、興味がないのか、 紺野は全く危害を受けなかった。そのまま走り抜ける。 「後藤さん・・・・死なないで・・・。」 言えなかった一言を、紺野は口にした。
436 :
5話 :04/04/04 00:26 ID:r2pyzeC+
後藤は剣を抜いた。剣はすぐさま光に包まれる。オーラブレードと言われるもので、 己の闘気を剣に込め、攻撃力をアップさせ、闇属性の敵には更なる効果を発揮する。 「それにしても心外だな・・・。一人で僕を倒そうだなんて。」 Gacktも壁にかけられていた剣を取り出すと、こちらは黒い光に包まれた。 Gacktはオーラブレードだと分かっていながら、敢えて闇属性で勝負を仕掛けてきた。 後藤へのハンデのつもりだろう。その油断、後悔させてやる、後藤は己の気を 全て開放した。 「!!」 Gacktはひるみ、一歩下がる。予想外の気に驚いたようだ。 「へへっ。これでもまだそう言うの?」 Gacktは何も言わずに、自らの気を開放した。今度は後藤が一歩退く格好になる。 「『月の子』を、なめないほうがいいよ。」 後藤はそれを聞くと口元を軽く緩ませ、Gacktへ向け己を走らせた。
437 :
5話 :04/04/04 00:27 ID:r2pyzeC+
「・・・!!」 吉澤は突然立ち止まった。 「どうしたの?」 石川と飯田は不思議そうな顔をして、真剣な顔つきの吉澤を覗き込んだ。 吉澤は遠くで物凄い気と気のぶつかり合いを感じたのだ。そして、その片方が 後藤だとすぐに理解した。もう一方、闇の気でとんでもない気を発しているのは 誰だか分からないが・・・。 「あのバカ・・・。」 後藤の気を遥かに凌駕している事は、気を読み取れるなら赤子でも分かる事だった。 このまま勝負を続けても無駄なのは分かりきっている。なのに何故? 「え?何が?」 飯田に呼ばれ自分の世界から連れ戻される。 「よっすぃ〜も交信しちゃったらあたし話し相手いなくなっちゃうよぉ。」 「ああ、ごめん。先、行きましょう。」
438 :
5話 :04/04/04 00:28 ID:r2pyzeC+
紺野は必死に走り続けていた。彼女の周りにまとわりつく『SUN』より 明かりは確保されていたため、かなりすんなりと進む事が出来た。そして やっと、本物の城の入り口へ。城に入ると、とりあえず地図の写しを広げ 直した。とりあえず階段を目指して歩くわけだが、その前に行き止まり部分に、 敵に見つからないようにこっそりと移動した。そして松浦を降ろすと、 タロットを取り出す。 『JUDGEMENT』 カードから放たれた一筋の雫が、松浦の額に零れ落ちる。 雫は水面に落ちたかのように松浦の全身を波紋の様に広がってゆく。 このカードの効果はつまり、瀕死者の復活。 「・・ん・・・・・。」 松浦なんとかある程度傷が癒えた。が、まだ意識は戻ってくれない。 こんなに早くこの手のカード達を使う事になるとは・・・。 紺野は一瞬迷ったが、 何迷ってんの!松浦さんの命が今は大事でしょ!と思い直し、 『HERMIT』 紺野が唱えた瞬間、二人は透明なカーテンに包まれた。そして周りからは 完全に姿を消した。これで30分しのげる。紺野は落ち着くと、寝息を立てる 松浦の横に体育座りすると、顔を膝に沈めた。
439 :
5話 :04/04/04 00:29 ID:r2pyzeC+
剣と剣のぶつかり合う、渇いた音が聞こえる。直後に、今度は爆音、風を切る音。 後藤は壁に叩き付けられたが、剣を地面に刺し、なんとか立ち上がった。 「何故だ・・・何故倒れない。」 Gacktは後藤に少しずつ、恐怖さえ覚え始めていた。さっきから一体何回決定打級の ダメージを与えただろう。何度斬っても、何度殴っても後藤は倒れなかった。 もはや話すことさえきつそうな様子だと言うのに! 「今の、ごとー達の、な.で、ごとー以外.、.んたとまともに、・・・戦う力、 ある.は、もう、よ...と、....しか、いな.・・・。」 もはや言葉にならない部分も出始めていたが、自分自身、声が小さかった Gacktは、なんとかそれを聞き取る事が出来た。 「意外な名前が出たな・・・。昔はもっといたとでも、言うのか?」 Gacktはありえない問いをした。いるはずがない、自分とまともに戦う力が ある奴なんて。そう信じきっていたからある意味これは後藤への勝利宣言だった。 しかし、 「いた。いち....なら、...を倒せた・・・。」 「・・・?!」 Gacktはこの言葉に過敏に反応した。俺を倒せた?ふざけるんじゃない。 Gacktは少しだけ頭に血が登った。そして決めた。こいつを、すぐにでも 地獄に突き落とす、と。 「でも、..―ちゃんは、...から、ごとーも、・・・行くよ?」 後藤は左足を何とか一歩、踏み出すと、構え直した。 To be continued…
440 :
5話 :04/04/04 00:31 ID:r2pyzeC+
更新終わりです。若干短めですが。