414 :
4話:
4.「Chmeistry」
―中澤が全員に連絡を入れる少し前―
北班(飯田班)は門をくぐり、しばらく進むと、妙な事に気がついた。
いつまで経っても城にたどり着かない。いくら道進めど、そこにあるのは
森ばかり。でも天井もしっかりある。3人は城の広さに呆れ始めていた。
「よっすぃ〜疲れたよぉ〜。おぶってぇ〜。」
吉澤の背中へと抱きつく石川。吉澤はしょうがない、と言った表情で石川を
おぶった。
「おぶらないの!!石川!そうやって甘えているといざ一人になったときロクな事がないよ!」
あ、やばい。二人がそう思った時には時既に遅し。飯田は得意の説教へ向け頭を
働かせていた。
「いい?毛利元就がね?息子達3人に1本ずつ矢を渡したの。」
それって有名な例え話だけど、この場合の説教には全く関係ないじゃん!!
二人は分かりつつも、聞き入れるしかなかった。(ていうかまず毛利元就
なんて名前だしちゃ駄目でしょ、中澤さんに叱られるっす!と吉澤は心の中で
思ったが胸にしまい込む。)
415 :
4話:04/04/01 02:04 ID:38sXqhVs
いくら進んでも森森森。そして飯田はさっきの失敗(たとえ話のチョイスミス)
から一人でたとえ話のネタを捜して交信中。吉澤はいい加減だれて来ていた。
そんな時、
「・・・・?なんか気配感じませんか?」
吉澤がそう呟いたときには、もう敵は姿を現していた。国営軍中最強を誇る
“化学”部隊の外人兵、通称『三択隊』。吉澤は石川を降ろし、身構える。
飯田は交信中で全く敵に気づいていない。自分が戦うしかないようだ。
「梨華ちゃん、飯田さんの交信解いて。」
吉澤はそれだけ言うと駆け出した。
「分かった。」
しかしその返事は吉澤に届いていないだろう。吉澤は既に三択隊(大量人数)
を一人で相手していた。鮮やかな技の数々で、次々と敵をねじ伏せてゆく。
1人辺りほぼ一撃で勝負をつけている。一般人が見たら、触れもしないのに
敵が勝手に倒れてゆくように見えるだろう。それ程吉澤は、速い。
「飯田さん!」
石川は見惚れている自分に気がつき、急いで飯田をこっちの世界に呼び戻す。
「え?・・・三択隊!!!なんでいるの?!」
「あ。」
そういえばそうだ、石川は飯田に言われて気がつく。何でここにいるの?
丁度タイミングよく中澤が連絡を入れる。
『うちらの中にスパイがおる可能性がある。』
416 :
4話:04/04/01 02:06 ID:38sXqhVs
「え?!」
二人は驚きの声をあげた。それしか出来なかった。それ以外にどういうリアクションを
とれと言うのだろう。でもそれならば今の状況も合点が行く。スパイが自分達の出撃日を
教えた事で、国営軍の主力はほとんど城内に残っている。だから化学部隊もいる。
でも・・・撤退する気なんか、サラサラないだろう、全員。今は、目の前の敵を倒す、
それだけ!飯田は魔力を右手に蓄える。そして標的に手をかざすと、炎を放った。
火の玉が疾風のごときスピードで三択隊達を襲う。
「!?」
三択隊は何か言う暇すら与えてもらえずに、燃えた。
「やった!」
ここの班はやっぱり強い!石川が影ながら喜んでいると、後ろから何か音が
聞こえ、振り返った。
「・・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」
石川は絶叫すると、眼中に写った悪夢を消し去るべく、体を90度横に向け、
一心不乱に駆け出した。しかし悪夢はスピードを上げ、追いかけてくる。
スパイ、本当にいるかも・・・石川がそう感じずにいられないのは、自分の
弱点が上手く敵に利用されていたからだろう。とりあえず、石川は追いかけてくる、
巨大な鶏(と思われる魔獣)から逃れようと走り続けた。
417 :
4話:04/04/01 02:07 ID:38sXqhVs
「石川待って!!」
飯田は走り出した石川に気がつくと、声を出して止めようとした。しかし
石川はこっちの声に反応すら見せず、必死に腕を振って、遠くへと行って
しまう。飯田が石川の名前を4度叫び、5回目に、今までの中で一番大きな
声を出そうとした時、
「あれ?!」
遠くからそんな甲高い声が聞こえた。その一瞬後、石川は忽然と姿を消して
しまった。
「石川?」
返事がない。飯田はとりあえず瞬間移動で、石川がいたはずの所まで移動した。
見てみると、石川は見事に落とし穴にはまっている。なんか泣いている様にも
見えるが・・・。とりあえず飯田は鶏を焼いてしまおうと振り返った。
・・・・いない?
「飯田さん!!!」
石川の叫び声に、飯田はすぐ反応し振り返る。穴が少しずつ、少しずつ塞がってゆく。
ただ中が潰されるわけではなくて助ける手段を失うだけのようだ。飯田は冷静に分析した。
「分析してないで出してください!!!」
石川が叫んだ瞬間、穴は完全に塞がってしまった。
「出れない〜!!」
すぐに危機感のない声が穴からフィルターがかった状態で聞こえてきた。
418 :
4話:04/04/01 02:08 ID:38sXqhVs
「え?何これ?!」
尚も穴からは石川の声だけが聞こえる。飯田は耳を済まして聞いてみた。
なんだか下手くそな一人寸劇な感じなのは気にしてはいけない。
「え?『どこでもドア』?!」
!!?
「嘘!!いやぁぁ!!来ないで〜!!!」
石川の声と同時に必死に呼吸しているような声も一緒に聞こえる。
「いやぁぁぁ!!!だめだめだめだめだ」
ここで声が忽然と途切れてしまった。飯田は一瞬だけ考えると、穴の表面を
爆破させた。そして覗き込んでみたが、誰もいない。どうやら化学軍が作った
『どこでもドア』で、石川はどこかへさらわれてしまった、と考えるのが妥当か。
おそらく今、石川をさらったのは・・・。化学軍総長、通称『化学くん』あの
嫌がり方からしておそらく間違いないだろう。二人の出会い(?)は何年前かに
さかのぼる。飯田の記憶では確か雨の日、魔力が尽き、傷つき倒れていた石川を、
化学くんが見つけた。敵だと分かっていながら惚れてしまった化学くんは、
殺したと偽ってさらって家へとお持ち帰りして洗脳装置を使用しようとしたらしいが、
直前に吉澤が助け、現在まで幾度となくさらわれかけてきた。その都度その都度、
吉澤が化学くんをボコって解決してきたが、今回は吉澤から離れている所を
狙われてしまった・・・。飯田は吉澤に伝えるべく、瞬間移動をした。
419 :
4話:04/04/01 02:10 ID:38sXqhVs
「来ないで〜!!」
石川は必死にもがく。
「とか言っておいて離れないじゃないですか。」
ローテンションな声を放つオタク顔は、石川の眼を深く傷つけてゆく。
「だって狭いんだもん!!」
石川が連れて来られた空間は、凄く狭く、円形の形をしていて逃げ道がない。
離れようにも化学くんから離れられないのだ。しかも化学くんが作った道具の
作用か知らないが、魔法が全く出せない。手のうちようがないのだ。
「これ、飲んでください。」
化学くんが差し出した飲み物は、もう色からして妖しくて、石川は離れられるだけ離れた。
壁際に思いきり体を引っ付ける。
「ほら。」
「イヤ!!!よっすぃ〜助けて〜!!!ここは、え〜っとなんか丸くて狭いのよぉ!!
え〜とそんでもって化学くんが襲ってくるぅ〜!!!」
「何説明してるんですか?聞こえやしませんよ、防音ですから。」
石川は構わず声を出し続けた。
「なんか特殊な加工してるみたいだけど間違いなくこのエリア内にある〜!!!」
石川は最後の希望に賭けて一通り説明を終え、今度は化学くんから出来るだけ
離れようと右往左往。でも化学くんはジリジリと詰めて来る。果たして石川は
無傷(いろんな意味含む)でこのエリアを突破できるだろうか?
420 :
4話:04/04/01 02:11 ID:38sXqhVs
三択隊が来ては倒し、来ては倒しの繰り返し。さっきからずっとその繰り返しに、
吉澤と飯田は体力が蝕まれてきていた。
「何人いるんだよ〜!!!」
吉澤はいい加減ウンザリした表情で、でもひたすら寿司やらテンプラやら
口走っている外国人軍団を料理し続ける。石川が人質に取られていなかったら
間違いなく通過だっただろう。目の前にいる外人をアッパーで吹っ飛ばすと、
後ろから襲い掛かってきた外人を振り返りざまハイキックで一蹴した。
「多分どこかで大量生産してる。」
飯田が言うと、吉澤は少し気持ちの悪そうな顔をし、辺りを見渡した。
「気持ち悪くないっすか〜?やっぱ化学軍は。」
とりあえずこの広い森の中で探さなきゃいけないものは二つ。三択隊の生産地と、
石川と化学くんがいる場所。とりあえず中澤経由で石川の場所に関しては
ヒントはあった。漠然としているが。吉澤は走り出した。走りながら、
振り返って飯田に叫ぶ。
「じゃあ、梨華ちゃんはあたしが探すんで、飯田さん、発信源叩いてください!」
421 :
4話:04/04/01 02:12 ID:38sXqhVs
飯田はそう言われたはいいものの、全く手がかりがない上仮説が正しい保証もなく、
明らかに“美味しくない”方の役回りを押し付けられた事に、少し不満があった。
「まあ二人の仲に免じて許しますか。」
飯田はそう独り言をつぶやくと、前を向く。三択隊が、滝の様に止め処なく
溢れ返っている。そう言って大袈裟でないほど、どんどん増えていた。
飯田は詠唱を唱えると、手を前にかざし、呪文を唱えた。
『真夏の光線』
夏の灼熱の光が、三択隊を次々と焼き尽くしてゆく。たった1回の魔法で、
辺り一帯の三択隊は全滅してしまった。
「大魔導師を、甘く見ないでね?」
大魔導師・・・飯田は自らをそう自称する。本来、飯田レベルの魔法使いで、
回復魔法も使える場合、周りから賢者と呼ばれる。しかし彼女はそれを嫌い、
自らそう名乗った。
「賢者ってなんか合わないの。能ある鷹は爪を隠すって言うでしょ?だから
賢者なんてあからさまな名前じゃなくて、カオはonly oneで行くの。」
なんか勘違いな発言だったから、周りは流した。しかしここではその頭脳が
遺憾なく発揮される事になる。
422 :
4話:04/04/01 02:14 ID:38sXqhVs
「もし仮に、仮説が正しいとしたならば・・・。」
発生源を叩くのは容易い事だ、それに気がついた飯田は、飛んでいった。
発生源と思われる場所へ。別に正確な場所が分かっているわけではない。
というより、分かる必要はない。それは凄く簡単な事だった。飯田は飛んで
いると、やはり三択隊の姿が見えた。さっきのように思い切り魔法を放つ
必要はない。手刀に魔力を込め、通過しながら次々と切裂いてゆく。
飯田は何も考えずにどんどん進んでいけた。もう道は見えている。
「!!」
見つけた!飯田は静かに着地すると、少しだけ驚いた。いかにも怪しい洞穴から、
三択隊は次々と生産されていた。こんなあからさまな場所だったとは・・・。
飯田は三択隊が同じ方向からどんどんこっちへと来ているのを見て、
逆に道を辿ったのだ。もしかしたら、複数の場所に仕掛ければ、こちらに
勝ち目はなかったが、おそらく機械をそんなに作る時間がなかったのだろう。
「バイバイ。『ねえ笑って』」
飯田は唱えた。彼女の持つ、最も破壊力の優れた魔法を。口から言葉が離れた瞬間、
洞穴は内から大爆発をもって崩壊していった。そしてその破片たちが、
次々と三択隊へと襲い掛かって行く。
「テッカドーン!!!」
そんな断末魔の叫びも、飯田は気にならなかった。
「よし・・・と。」
飯田は再び宙に浮くと、吉澤を探しに飛び立った。
423 :
4話:04/04/01 02:15 ID:38sXqhVs
三択隊の数が急激に減ったのが“気”で分かる。飯田の方は成功したようだ。
しかしこっちは全く手がかりをつかめずにいた。気を感じ取って探そうとしてみた。
しかし石川と化学くんの気はいかんせん弱過ぎて、三択隊の気に邪魔され、
感じ取る事が出来ない。しかしこれでまだ探しやすくなった。例え完璧な隠れ家
であろうが、その人間の発する気は、一部の、トップクラスのほんの一握り
にしか調節し、隠す事は出来ない。化学くんが鬼神と違う所はそこにあった。
ただ、弱すぎる・・・。
「どこにいるんだよ!!!」
荒れながら、自分の周りにいる残りの三択隊を一掃すべく、技を放った。
『Baby!Knock out!!』
息もつかせぬ連続攻撃が、周りにいる三択隊を次々と地面にひれ伏させてゆく。
三択隊は倒れると間もなく発火、そのまま灰となった。
「飯田さん。」
吉澤は上を見上げる。飯田は目が合うとゆっくりと地面に足をつけた。
「三択隊、全部消せば分かりそう?」
飯田は既に吉澤の思惑をきっちりと読んでいた様だ。
「はい。」
「なら・・・。」
飯田は左手を空に向け、掌を大きく開くと、そこから無数の星屑達が、
飛び立った。一瞬の空白のあと、あちこちで悲鳴が聞こえる。どれもかしくも
「食べたいなぁ〜」だかなんだか言っているが、二人は無視。
424 :
4話:04/04/01 02:17 ID:38sXqhVs
「・・・・・・・・・・・。」
吉澤は目を瞑り、神経を研ぎ澄ます。しばらくして、僅かな気の動きを感じ取ると、
一心不乱に駆け出した。飯田は慌てて追いかける。吉澤は目を瞑ったまま、
気の元へ駆けて行く。
ガン!!!
「・・・・・・・・・・・。」
眼を瞑っていたせいか、木と激突する。木は音を立てて崩れ落ちた。道が
開けると、吉澤はまた走り出す。飯田は怯えながら追いかける。しばらく
走り続けて、吉澤は立ち止まり、目を開いた。
「ここから、二つの気を感じます。」
吉澤が指を刺したものは、かなり大きな大木だった。これなら中身が円形でも
頷ける。飯田はすぐに炎の矢を、木へと放った。
「!!」
なんと炎は弾かれ、そのままこっちへと戻ってきた。吉澤は飯田の後ろに
隠れる。飯田は落ち着いた表情で、すぐにバリアーを出し防いだ。
「魔法は効かないみたいね。」
吉澤はバリアーからはみ出て燃えた左腕を摩りながら、全身に気を蓄積していく。
「行きます。」
吉澤は前傾で駆けて行く。右手を軽く後ろへ引き、雄叫びをあげる。やがて
大木の前へとたどり着くと、吉澤は蓄積されたエネルギー全てを放出した。
『Moon light blast!』
ビルが崩れるくらいの騒音と共に、辺り一面、閃光が走った。閃光は大木を貫き、
後ろの全ての木々の生命をも奪い取る。今度は閃光の代わりに、砂煙が二人の
視界を遮ってゆく。その中から吉澤は、確実に二人を見つけると、飛び出した。
425 :
4話:04/04/01 02:18 ID:38sXqhVs
「いやぁぁぁ!!!やめてぇぇ!!!」
気を感じ取るまでもなく、石川の絶叫ですぐに見分けがついた。石川は吉澤が
技名を唱えたため避けれたが、化学くんは直撃を食らったらしい。化学の実験を
失敗して黒焦げになったような顔をして、恐ろしさに更に磨きがかかっていた。
「来ないでぇぇ!!」
割れた眼鏡を押し上げると、化学くんは再び石川を追いかけ始めた。髪の毛
なんてもう無いに等しい。ただ眼だけは相変わらず死んだ後藤ま、もとい、
魚の目をしていた。(m(_ _)m)
それにしてもいつもより激しく石川を追っているように、飯田には見えた。
「抱きしめてチューしたあ゛あ゛〜?!」
なんだか口走っている化学くんを、吉澤は黒焦げの襟元を掴んで思い切り
持ち上げた。吉澤は化学くんと目を合わせると、笑った。
「A潰すB燃やすC凍らすD粉々にする。梨華ちゃん、どれにする?」
「ひぃ!!ごめんなさい!!」
「え〜、あたしそんなの怖くて選べなぁ〜い。」
そんなこと言いながらも、石川の目はしっかり笑っている。吉澤はフッと
笑うと、一旦化学くんを降ろしかけた。
「もうしません!!」
化学くんは少しだけ安心した表情で言った。しかし次の瞬間、吉澤は化学くん
から手を離すと、そのまま重力に従い地面へと向かった化学くんの体を思い切り
蹴り上げた。もちろん、スイートスポット直撃。
「!!!!」
声にならない叫びを上げながら化学くんは天高く舞った。
飯田には泣いているようにも見えたという。そして数秒後、
天井から破片が降ってきた。それを吉澤は満足そうに確認すると、
ゆっくりと歩き出した。
426 :
4話:04/04/01 02:20 ID:38sXqhVs
「すご〜い!!」
石川は興奮して叫んだ。その矛先は吉澤によって破壊された森。道は一直線に
城への入り口まで伸びていた。
「裕ちゃん?」
飯田は思い出したように通信機を取り出し、言った。
『なんや?』
「やっぱりスパイいるみたい。じゃないとただでっかいだけの鶏の魔獣なんか
作るはず無いもん。」
信じたくは無いけど。もしかしたら吉澤かもしれないし、石川の自作自演かも
しれない。まあ石川がそこまで体を張れるのかと言ったら分からないが・・・。
『まあ、怪しい動きがあったら発信機ですぐ分かるからな。大丈夫やろ。』
中澤との通信はここで途絶えた。直後、吉澤は言った。
「化学くんには何もされなかったの?」
「なんか変な薬飲まされそうになったけど・・・。」
「けど?」
飯田が聞くと、石川は少しだけ言いにくそうな顔をして、答えた。
「木が壊れたとき、化学くんが全身に浴びてた・・・。なんかあれ、
惚れ薬っぽくて・・・。そのせいで、激しくなった。」
吉澤は思い当たる節があったが、口を閉じたまま笑っていた。
To be continued…