もろたーー!!

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3601話
 15人は解散後、それぞれの家に帰り、そのまま眠りについた・・・・はずがなかった。
逆に寝ている娘など一人もいなかった。それぞれの想いが、夜空とともに彩られてゆく。
3611話:04/03/21 22:15 ID:TTQpsKU6
 「いよいよやな。」
 加護はダガーを研ぎながら、辻は斧を磨きながら話していた。
 「明日で、この苦しい生活ともおさらばできるのれす。」
 彼女達を始め、国民は皆、つんくが王に就任後から始まった重税に苦しめられ続けていた。
 これはあくまで噂だが、つんくが王になった途端に兵力などが強化された事から、
 税は軍部とつんく自身の私利私欲の為に使われていると言われていた。おそらく事実だろう。
 そのため加護が盗みを働き、罪に罪を重ねる日々を送っていた。そんなある時、幼なじみの辻に、
 革命軍への入軍を、誘われた。
 「皆の力で国を変えるのれす!!」
 最初はバカバカしい、と思って加護は相手にしなかった。そんな事をしている暇があったら、
 食料を盗みに出ないととてもじゃないが生きてはゆけない。第一、強大化した国の軍隊に、
 適うはずがないだろう。加護は盗みを続けた。
3621話:04/03/21 22:16 ID:TTQpsKU6
  そんなある日、いつものように街へスリに出ようと言うとき、街がやけに騒がしい事に気がついた。
 人が多ければ財布もたくさんある。加護は急いでそこへと向かった。しかし、そこで見た光景に気をとられ、
 加護は誰の財布も奪えなかった。革命軍が・・・国営軍の第六部隊と戦って、押している?あの人数で?!
 何より目に付いたのは魔法。背の高い不思議な雰囲気を持った女性から放たれる、炎、風、氷、雷・・・。 
 見たこともないものばかりだった。この国には、魔法は存在しない。時代の流れに押され、自然消滅していた。
 しかし隣の国では、“契約”をまだ続けている。一方この国では毛嫌いされ、つんくも軍隊以外は禁止していた。
 つんくが魔法に対して恐怖心を覚えているのが理由だという。その魔法を、使いこなしている人がいる。
 最初はバカバカしいと思っていた革命軍も、こりゃ本当に革命を起こせるんじゃないか?と加護は思った。
3631話:04/03/21 22:17 ID:TTQpsKU6
 「のの、うち、革命軍入るわ。」
 「え?!本当れすか!?」
 辻は喜んで加護を中澤の家へと連れて行った。
 「うちがリーダーの中澤裕子や。よろしゅうな。」
 リーダーは30前後の若い女性。こんな若くして革命を行おうとしているのか。
 加護は革命軍の勢いのよさの理由が分かった気がした。
 加護は盗みを働いていたその素早さを生かすため、短刀を二本手に持ち、疾風のごとく相手を切裂く、
 というスタイルを中澤に見出された。辻は対照的に斧を持って相手を攻撃するパワータイプ。
 タイプは違えど同じ志。そして幼なじみだった二人は名コンビとして、
 時には迷コンビとして革命軍での地位を築いていった。
 「不安やけど・・・・。それよりも。」
 加護がそう呟くと、二人は目を見合って言った。
 『ワクワク!』
 明日の戦い、そしてその後の事に対しての、二人の率直な気持ちだった。
3641話:04/03/21 22:18 ID:TTQpsKU6
  後藤は一人、自分の部屋で目をつぶり、精神統一をしていた。・・・いよいよ明日だ。
 敵はおそらく手薄の状態だから、案外あっけないかもしれないが、それでも油断は禁物。
 何より自分の班は3人班。自分のかかる負担も大きいものとなるだろう。
 だから自分はしっかりと2人をリードし、助けていかなければならない。
 後藤はゆっくりと目を開けると、
 「いちーちゃん・・・。」
 尊敬すべきその名前を呟く。市井沙耶香のためにも、後藤は絶対に負けられなかった。
 そして、彼女の意思を継いで、明日の戦いに望む。
 「明日で、全部終わるから・・・。」
 後藤は部屋に飾ってある写真に向かって手を合わせ、祈った。全てが終わると、
 後藤は小さな声で、独り言を呟いた。
 「あ、もう眠い・・・。」 
 後藤はそのままベッドへと落ちた。
3651話:04/03/21 22:19 ID:TTQpsKU6
 「どうしたの?そんな所で。」
 矢口は眠れずに外へ出て、よく考え事をしたり、リラックスしたりしている丘へと向かうと、
 先客がいた。安倍だった。
 「矢口こそ、どうしたんだべ?」
 安倍は愛くるしい笑みを浮かべた。
 「眠れなくてね。やっぱ明日だと思うとキンチョーしちゃって。」
 「なっちもだべ。ここまで長かったからね。」
 「そうだね。」
 安倍は革命軍結成の一員、矢口はそれに食いついてすぐに入ったから、
 二人とも革命軍での歴史は深い。もう6年くらいが建つだろうか。
 「最初入ったときはおいら14,5だもんなぁ〜。」
 「あのときは驚いたよ〜。若いな〜って。」
 安倍はそう笑うと、星を見上げた。
 「綺麗・・・。」
 「ホントだね・・・。」
 二人でしばらく夜空に浮かぶ、満天の星空を眺めていた。美しく輝く無数の星達。
 一つ一つ違って輝いて見えた。
 「明日、全部終わったら、裕ちゃん女王だべ?」
 安倍が言うと、二人は大笑いした。
 「裕ちゃんが女王!!!キャハハ!!」
3661話:04/03/21 22:20 ID:TTQpsKU6
 「なんや文句あるかい!」
 後ろから声がして、二人はビクっと体を震わした。恐る恐る後ろを振り向くと、
 中澤が仁王立ちしていた。
 「ひ!!裕ちゃん!!いやぁ、女王になっても王子様は迎えに来ないかな〜って。」
 「(それ状況悪くしてるべ!!)」
 「まあええわ。今日の所は許しといたる。」
 中澤は二人の横に腰掛けた。
 「ホンマ、明日で決めるで。明日しかないんや。もうこれ以上死人も出したぁないし、
 明日以上に敵が手薄になることもないやろ。」
 死人を出したぁない、これが明日で終わりにしたい一番の理由かもしれなかった。
 もう全員、死に行く仲間なんて見たくなかった。
 「そうだね、よぉしぃ!気合入れてこー!」
 矢口が丘から叫ぶ。
 「今日みたいに遅刻するんやないで?なっち。」
 「何それー。ののだって紺野だって石川だって高橋だって遅刻したのに〜!」
 「そう言って自分の罪を軽くしようとしない。」
 矢口に言われ、
 「はーい。」
 返事はしたものの安倍はまだ不満げな顔をしていた。
 「あ、やっぱり皆もいるの?」
 保田がその声に反応して丘に上がってきた。
 「圭ちゃん。」
 安倍が笑顔で出迎える。
 「どう?明日?」
 矢口が聞くと、保田は答えた。
 「敵なんかあたしの大剣で蹴散らしちゃうわよ!」
 「普段圭ちゃんが男にやられてるアレね。」
 「ちょっと矢口!何それ!!」
 4人はそのまましばらく、夜空中を彩る星の雨に、祈りを込めて、眺めていた。
3671話:04/03/21 22:21 ID:TTQpsKU6
 チーン・・・・。線香を炊き、黙祷。紺野、小川の日課だった。
 二人の両親は、国営軍による革命軍への奇襲攻撃のため死亡していた。
 そのため二人と一人暮らしをする高橋の家で3人暮らしていた。
 2人は復讐のため革命軍に入ったのだ。
 「明日で、この国は変わるよ。」
 小川は写真に話しかけるように呟く。
 「あたし達の苦しかった生活も、終わるんだ。」
 そんな横で、紺野は、
 「もう食べれません・・・。」
 バシッ!
 「!!?まこっちゃんあたし目覚まし時計じゃないよぉ〜!!」
 「黙祷しながら寝ちゃお父さんとお母さんに失礼でしょ!」
 ぶすっとした表情のまま、紺野はタロットを取り出した。
 「もう全部1種類ずつしか残ってないや。でも高いからなかなか買えないしな〜、
 明日最後になりそうでよかったよ。」
 よかったって・・・。小川はなんか妙な気持ちになりつつも何も言わなかった。
 「そろそろなんか食べよっか。」
 小川はそう言うと、地面に魔方陣を書いた。どこかの国の言葉を唱えると、
 その中心から異世界の生物が浮かび上がる。
 「じゃあ、お願いね。」
 小川はその生物に告げると生物は無言のままキッチンへと空中移動した。
3681話:04/03/21 22:22 ID:TTQpsKU6
 ガチャッ。
 「あ、愛ちゃん。何してたの?」
 少し遅れて帰って来た高橋に、紺野は聞いた。それに対して高橋は笑って答えた。
 「ん、星を見てたんや、ニヒヒ。」
 高橋は紺野を見ると、言った。
 「あさ美ちゃん、頭ちょっと腫れとるやん。ほれ。」
 回復魔法を唱える。紺野の頭の上のたんこぶはすぐにひいた。高橋は賢者である。
 元々隣の国に住んでいたため、他の魔法使い、僧侶と違い最初から魔力を持っていた。
 「ありがと〜。まこっちゃんが馬鹿力でさ〜。」
 頭をさする紺野。
 「あさ美ちゃんに言われたくないよ〜。タロット師か武道家かはっきりしてよ。」
 そう言われると紺野は『殺陣』を始めた。
 「あさ美ちゃんはタロットの魔法と格闘で最強目指してるんやね〜。」
 繰り出される紺野の腕からは空気を切裂く音。これでいてタロットで数々の魔法を
 使いこなすのだから恐ろしい。尤も、タロットの方は全種類使いこなせるわけではないが・・・。
 「食べようか。」
 小川が言ったので二人は食卓に視線を移すと、もう料理は出来ていた。
 「相変わらずその召喚獣凄いよね〜。織田哲郎ぐらいすごいよ。」
 「だからあさ美ちゃんそう言う例えはしないの!!」
3691話:04/03/21 22:23 ID:TTQpsKU6
 吉澤は家で一人、入念にナックルをセレクト中。
 「う〜ん・・・・。」
 どれにしよう。単純に打撃力の高いものを選ぶのか、それとも魔力のこもったものを
 選んで物理攻撃に強い敵に備えるか・・・。吉澤は悩んでいた。やはり敵陣に突っ込むの
 だから入念に選ばなければならない。
 ガチャッ。
 「よっすぃ〜、来たよぉ〜。」
 入ってきたのは石川だった。吉澤が難しい顔をしているのを見て、吉澤に言った。
 「どうしたの?」
 「どっちにしようかな〜って。」
 2種類には絞ったが、そこから先に進まなかった。石川はすぐに答えた。
 「片方ずつつけたら?」
 あ、それ面白い。僧侶の石川、いわば素人だからこその答えに、
 吉澤は言われるがままにその案を頂くことにした。試しにはめてみる。
 「なんかかっけーかも。」
 軽く腕を何度か突き出す。
 「よっすぃ〜かっけー!!」
 暫く騒ぐと、石川は吉澤に体を近づけた。吉澤は何も言わない。石川が抱きつくと、
 吉澤は言った。
 「この戦いが終わったら、この関係も終わりにしようね?ちゃんと彼作ってさ。」
 「・・・・・うん。」
3701話:04/03/21 22:26 ID:TTQpsKU6
  交信中、交信中。飯田はぼーっと窓から外を見つめていた。明日はいよいよ決戦だ。
 革命軍副総長として総長の中澤を支えてきた飯田にとって、感慨深いものがあった。
 革命軍結成から苦節うん年。遂にここまでこぎつけた。思えば色々な事があった。
 結成時はわずか5人、一時は最高で30人近くまで増えた事もあったが、やはり国営軍は強い。
 そして圧倒的に人数が多い。でも自分たち15人が、国営軍の何百の戦力に劣るとは思えなかった。
 それぞれの質の高さは、向こうをはるかに凌駕している。明日も国営軍の一部分の実力者達が
 いなければ問題なく事は運ばれるだろう。彼ら以外の国営軍は、たいしたことはなかった。
 だからこそ、奇襲に意味を成すのだ。さて問題は・・・。いかにしてそいつらを降伏させるかだ。
 つんくを殺してしまうとまずい。軍内にも王座を付け狙う輩がいると聞く。
 そいつらにとって好都合になってしまう。
 まあそこら辺は、中澤がしっかり考えているだろう。自分は今は、明日の戦いに備えるだけ・・・。
3711話:04/03/21 22:28 ID:TTQpsKU6
 「泡泡泡〜♪」
 松浦がそう口ずさむと、藤本は聞いた。
 「何それ?」
 「え〜、なんだろ?泡泡泡〜♪」
 手で風呂の泡をすくい、ふぅ〜っと吹く。泡は桃色に輝いた。
 「いや、あやや、それなんか、気味悪いからやめよう?」
 「え〜?桃色で可愛いじゃん♪」
 松浦の放つ魔法は、自由自在だ。回復系の魔法は使えないが、攻撃系の魔法は大魔導師を
 自称する飯田の凌駕する威力を持つ。しかもこういう風に悪戯な使い方も出来る。
 松浦がその気になれば、今二人が入っている風呂の色を桃色に変えたり、
 風呂の大きさを倍にしたりも出来るのだ。
 「明日だね。」
 松浦の背中をゴシゴシと洗いながら、藤本は言った。
 「うん、終わったら国のみんなの為の国にしようね!」
 二人が革命軍に入軍した理由は、
 他の例にも漏れずそれだった。重税を強いられ苦しむ生活を、どうにか改善出来ないか?
 そう思っていた時に中澤に誘われて入ったのだ。
3721話:04/03/21 22:29 ID:TTQpsKU6
 「藤本、お前学校で剣術の成績トップやろ。その力、国を変えるために使う気、あらへんか?」
 即決。このまま学校を卒業したら、そのまま国営軍へと入れられる所だったから、ちょうどよかった。
 それに松浦がくっついていく形となった。最初は何も出来なかった松浦も、飯田に魔法の才能を見出され、
 一流の魔法使いとして開花した。藤本も魔法を覚える事で、魔法剣士へと成長した。
 二人とも革命軍の中で重要な戦力だ。
  水で背中を洗い流すと、二人は交代した。
 「今日はちゃんと洗うよ!」
 松浦は珍しく自力で藤本の背中を洗い始めた。
 「いつも手で洗ってくれると嬉しいんだけどね〜。」
 藤本の嘆き声にも対して反応しない松浦。
 二人の風呂場トークはそのまま2時間に渡り繰り広げられた。
3731話:04/03/21 22:30 ID:TTQpsKU6
  満天の星空。今にも零れ落ちそうな輝きの中、一筋の雫が流れ落ちる。
 雫は輝きを失うことなく、線を残しながら消えた。この夜の、
 たった一度きりの出来事でも、見落とす人はいなかった。それぞれが、
 それぞれの願いを込めて・・・。しかしこの瞬間、15人は確かに、
 一つの願いを星に込めていた。