9. Dramatic story
矢口の一番最近の相談は別れさせることだった。そして今度はよりを戻すこと。
なんだってんだ一体。それに、
「ごっちんとさ、なっちが自分から相談してくるまで待ったほうがいいんじゃないか?
ってことになったんだよね。」
「それだとなっちが壊れちゃうと思う。」
壊れる?後藤との話でその単語に敏感になっていた俺はちょっと反応してしまった。
「なっちは、相談する勇気がないよ。大体あんた自分で相談するなって言っちゃったじゃん。」
確かに。俺は昨晩の自分の台詞が頭をよぎった。
「ごめん、でも今俺に出来る事なんて、こうやって慰めることしか出来ない。」
この言葉で安倍はこれ以上相談する気を失くしていたとしたら・・・。
「よし、やる!」
でも、どうやって?難しい問題だった。大体大西さんと会った事もないし。それにしても・・・。
「なんで矢口、そんなに詳しく昨日の俺たちの会話知ってるの?」
矢口はやばっ、といった表情で沈黙した。
「・・・・・・・・じゃあ任せたから!!」
そして矢口はそのまま去っていった。
結局おせっかいを焼く形になってしまったようだ。しかし・・・。
「俺大西さん知らないし・・・。」
独り言を呟く。
「お困りのようだね〜。」
例の如く押入れから声が聞こえたので、俺は押入れを開いた。
「りかっち知ってるの?大西さんの事。」
「もちろん!ライブとかにもよく差し入れしてくれたもん!」
ライブで・・・差し入れ?
「えっと、大西さんって、何やってる人?」
「A.事務所の人 B.テレ東スタッフ C.ビックカメラ店頭社員 D.コンビニ店員。」
なんか全部出逢い方想像つくなぁ。
「てなんで4択なんだよ!!」
しかし俺のツッコミなんて石川は聞いてくれない。
「大西さんが仕事していた順に並び替えください。」
「嘘ぉ?!」
「早くしないと!みのさんとバトれない!!」
「えっと・・・DCBA!!」
俺は出来るだけ早く答えた。
「一番早く正解したのは・・・・・・・・・石川梨華!!
『え?やったぁ〜!!!』」
「おい!何下手な一人芝居してんだよ!!」
「嘘だけど。」
「え?!ここまでやって?!てかどこからどこまで嘘なの?!」
「正解はC。別れる前はA。」
「てことは別れて仕事やめちゃったってことか。」
「うん。大西さんが新しくやりたいことが見つかった、ってのが表向き。
実際は大西さんが芸能人不信になって辞めたがっていたのと、
なっちさんの仕事に悪影響を出さない為に辞めさせたがっていた会社側
双方の思惑が合致したって所。」
石川が難しい言葉使って話しているの初めて聞いたかも・・・。俺は驚いた。
「でもなんでその事知ってるの?」
俺が聞くと、石川は説明してくれた。
「たまたまそのビックカメラに行っちゃったの。そしたら大西さんがいて。
最初は目を逸らしたりしてきてちょっと寂しかったなぁ〜。なんとか話したら、
『この仕事をやってることは誰にも言うな』って釘刺されちゃったの。
今大西さんが何やってるのか知ってるのあたしだけじゃないかな?」
なるほど・・・。とりあえず今の話を聞いている間に、俺が今後すべき行動を脳内で整理した。
そして聞いた。
「どこのビックカメラに勤めてるの?」
石川に教えてもらうと、俺は言った。
「バイトに行ってくる。」
とりあえず俺は次の日、面接をすることになった。
「よし行くか。」
俺はビックカメラの面接へ行く準備を済ませ、家を出ようとした。すると、
「ちゃ〜お〜・・・・。」
なんだか死にそうに元気のない声が聞こえてきた。押入れを開けてやると、
エクソシストのように這って入ってくる石川。
「どした?」
顔色が明らかに悪い。石川は答えた。
「熱〜・・・・・。助けて〜・・・。」
知恵ね(以下略)
バイトはあっさり採用となった。明日から、「仕事」のために仕事。
しかしその前にやらなきゃならない事がある。こっちも「仕事」だ。
「お雑炊だ〜。」
今回はそれに加えちゃんとした卵酒も作ってみた。何気ない嫌味に石川は気づく気配はない。
食べ終わり、石川を横にすると(何故か俺のベッド)、
「熱下がったな。」
「そこおでこじゃなくて顎!!」
顎をしゃくる俺に怒りの一言。
「ああ、ごめんごめん。」
わざとらしく笑って見せると改めて額に手を当てる。
「大分下がったな。今日仕事休んじゃった分、頑張れよ。」
「うん!」
石川はニコニコと笑顔で答えた。この子、テレビで画面の隅とかにいると
暗い表情のこと多いのになぁ、そんなことを思いながら俺は微笑み返した。
ドキドキを少しごまかすように。それに石川は対してもう一度笑うと、言った。
「じゃあ看病してくれたお礼に大西さんの性格教えてあげる!!」
それは願ってもないことだった。人の心を動かすには、
その人の心を知らなければならない。
「マジで?サンキュ。」
俺が言うと、石川は歌い出した。
「何もい〜わ〜ず〜に♪付き合ってくれ〜てサンキュ♪」
カーン。
鍋を叩くと石川は凄く不機嫌そうな顔でこっちを見た。俺は言った。
「7点。」
「何点満点?」
「100。」
「え〜ちょっとは増やしてよ〜。あたし一応歌手〜。」
え?初耳ですぅ。(ひどい)
「じゃあ√7。」
「やったぁ〜。」
石川はそれを聞くと喜んだ。バカ・・・・。石川は喜びながら、言った。
「じゃあ『king of大西』にしてあげる!」
「いやそんなに知りたくないから。」
俺は大西さんのパーソナリティーを叩き込まれ、明日に備えた。
189 :
助演男優:04/03/06 00:26 ID:qgxcExkc
次の日から、俺のビックカメラでのバイトは始まった。そういえば、仕事中に相談受けたら
どうするんだろ?電話相談に切り替えか?そんなことを思いながら、俺は大西さんとはじめて会った。
思ったよりは普通の人で、でも凄く雰囲気のある人だった。大西さんは言った。
「分からない事があったら何でも聞けよ!」
「はい!」
「まあ俺も入ったばっかりだけどね。」
大西さんはそう言って笑った。これはチャンスだとばかりに俺は聞いた。
「前は何やってたんですか?」
俺が聞くと、大西さんは笑いながら答えた。
「そいつは言えねぇ。」
「え〜、いいじゃないすか〜!」
「だめ。」
でも、石川の話によると・・・。
「お願いします!」
「う〜ん、分かった。」
石川の言った通り、大西さんは3回目で答えた。分かりやすい人だな。
「芸能事務所で仕事しててな。」
「え?!マジすか!?どんな人いました?」
あ〜、演技力必要だな〜、俺の仕事段々拡大されてないか?
「モー娘。」
大西さん、もしかしてもう割り切っちゃってる?大西さんがあまりにも
あっさり答えたので驚いた。ならば深く突っ込んで核心に迫るしかない。
「話したこととかありますか?」
「ああ、仲良かったぞ〜。『娘。悩み相談室』なるものをやっててな。」
・・・え?俺は全身に何かが走るような衝撃を覚えた。
この仕事は、俺が初めてではなく、前に大西さんがやっていた・・・?
俺はなるべくこの衝撃を「驚き」の表情に変えるように努め、話を続けた。
「そんで相談してるうちに付き合っちゃったりしてたんじゃないんすか?」
「うん・・・まぁ、な。」
認めたから割り切っていると考えるのか、それともこの「ため」をどう読むのか・・・。
やりすぎると今後聞きずらいと判断した俺は、適当に話を変えてその場の空気を軽くした。
とりあえず、石川から聞いた大西さんの趣味に合わせて。
191 :
心の病:04/03/06 00:29 ID:qgxcExkc
「・・・・・・・。」
俺は家に帰ってくると、ソファに座り、ぼーっと色々考えた。大西さんから聞いた事を。
「俺は・・・・・・。」
俺は、ただの後釜なのだろうか?今までこのポストを、自分だけの特別なものだと思って
一人喜んだりしていた自分が馬鹿みたいに思えた。
石川のこのバイトを薦められたときのことを思い出した。
「いいバイトないかって言ってたよねぇ?」
「うん。あったの?」
「うん。明日連れてってあげる。」
別に、俺がこの仕事をやる初めての人だとか、そんなことを何一つ言ってない。でも石川は、
つんくに頼まれて適当な人を探していただけなのだろうか?所詮代理、所詮バイト。例えば
俺がそのうち辞めたら、また新しい人雇って・・・・。その流れがずっと、続いてゆくのだろう。
別に当たり前の事なのに、何故か嫌な気持ちになった。なんでだろう。説明が出来ないおかしいな感情に、
俺は悩んだ。
192 :
名言:04/03/06 00:31 ID:qgxcExkc
数回のバイトを経て、俺は大西さんと飲みに行く事になった。俺の気持ちのモヤモヤは
未だ消えていなかったが、仕事はちゃんとしないといけない。俺は切り替えて仕事に望んだ。
石川のマニュアルによると、酔うと口がべらぼうに軽くなるらしい。なんでそんなに詳しいのか聞いてみたら、
「なっちさんのノロケ話。」
なんでもマニュアルはそれで手に入れたデータで9割近くを占めているんだとか。
適当に大西さんが酔っ払ったところで、俺は話を始めた。
「そういえば、前の仕事のとき付き合ってた娘とはまだ続いてるんですか?」
「いや、もう別れた。」
表情に曇りがあまり見えない。平然としている。
「えー勿体無いっすよ!!どうして別れたんですか?」
酒を飲んでいるせいか、ためらうことなく大西さんは言った。
「向こうの浮気。」
「ちなみに誰ですか?」
「安倍なつみ。」
あ、なっちとは言わない。
「え゛――!!?浮気とかしなさそうですけどねぇ?」
とりあえずフォローをしつつ話を繋げた。
「俺もそう思ってた!!!」
突然キレ気味になる大西さん。やばい!やりすぎたか?!
「でも・・・雑誌に載りゃ・・・。」
大西さんは泣きそうな顔で、ちょっと上を向き、言った。
「見えないものは、見えないままの方がいいのかもな・・・。」
193 :
2次会?:04/03/06 00:32 ID:qgxcExkc
大西さんと別れた後、俺は矢口と落ち合った。とりあえず近況報告を兼ねてだが、
飲みに行くのがメイン。俺は大西さんとの食事では話すのに必死でほとんど酒を
口にしていなかったから、一気に行った。
「行くねぇ〜。」
笑う矢口。矢口も酒を飲むと、聞いてきた。
「どう?今の所。」
「誤解は全く解消されてないみたいだね。でもまだチャンスはあると思う。
大西さんもまだなっちのこと好きなんだ。」
「手はあるの?」
「ないけど・・・やるしかないだろ。そっちの方は?」
「相変わらず、コントでもNG連発するし。」
あまり余裕持ってやるもんじゃないみたいだな・・・。
「にしても大西さんも雑誌じゃなくて彼女の事信じればいいじゃねぇかよ。」
酒の回ってきた俺の口からは本音が飛び出した。
「あ〜それおいらも思った!!」
「だよね?!そこで信じてやれないのはだめだよな。でもまあ素人と違うから
そう簡単なもんじゃないんだろうけど。」
そう、簡単じゃない。日に日に石川の事が気になってゆく自分がいたが、
そう思っていつも頭の中からかき消していた。
そんな俺がこんな事言うもんじゃないんだろうけど。
信じてあげれなかった大西さん。
信じてもらえなかった安倍。
この二人の関係と心の修復は、難題だった。
「そういえば聞きたいんだけどさ。」
俺は酒の追加注文をしてから言った。
「なっちと大西さん、別れてどのくらいになる?結構経ってない?」
「うん、半年ぐらい前?」
やはり俺と入れ替わっている。タイミングもぴったり。でもそこで俺は一つ、
新たな疑問が生まれた。
「え、じゃあ半年も引きずっちゃってるって事?!」
俺はちょっと大きめの声で言うと、矢口は何故か焦りだした。
「あ・・・なんていうか・・・・。」
「どうしたの?」
「その・・・・本人が忘れかけてるときに旅行提案しちゃったらしくて・・・。
その趣旨を分かられちゃって・・・・ぶり返しちゃっ・・・た。」
騒がしい居酒屋の中で、この空間だけは、確かに今静けさが走った。
「・・・その後始末を俺がやると?」
「後始末なんて聞こえ悪いなぁ!!!なっちのためだよ!!」
そうだけど・・・。どうなのよこれ?
195 :
Aの憂鬱:04/03/06 00:39 ID:qgxcExkc
次の日、俺は安倍の部屋に足を運んだ。
「(いるかな?)」
チャイムを押して数秒後、ドアが開いた。
「あ、どうしたの?」
安倍はいつも通り笑顔で迎えてくれた。しかし、今日はなんだか
その笑顔が作ったようなものにしか見えない。
「元気かな・・・・って思って。」
安倍はすぐにその言葉の意味を理解した。
「うん、全然大丈夫!えっと、中入る?」
いつもより声を張り上げる安倍。強がっているのも表情で読み取れてしまう。
「うん。」
家の中に入ると、安倍はキッチンで何か飲み物を出そうとしている。
安倍は聞いてもいないのに、話し出した。
「仕事の調子も凄くいいし、あ!!」
ガシャン!!
安倍はコップを落として割ってしまった。
「大丈夫!?」
俺はただ怪我はないかとか、そう言う意味で言ったのに、
安倍はこれを別の意味として捕らえてしまった。
「うん!全然・・・・全然大丈夫だから、心配しなくてもいいんだべ?」
安倍の目は潤んでいた。声も震えている。
「ほんと・・・・ほんと・・・大丈夫だから・・・。ごめん、ちょっとトイレ。」
安倍は小走りでトイレに駆け込んだ。中からはすすり泣く声が。これじゃ俺も矢口と同じだな・・・。
凄く罪悪感を感じた。
「ごめん、俺帰るわ。」
「え?!い、いいの!!いいべさ!!別に大丈夫!!」
精一杯、平然を装うように努めている声が聞こえた。
「ありがとう、別に用事が出来ただけだから、気にしないで。」
俺はそう言うと安倍の部屋を出た。
その後、しばらく動きのないまま、俺は二つのバイトを続けていた。ただし相談室のほうは
電話相談に切り替わり、事前にメールを打つ、という事になった。ビックでのバイトを終えると
俺は急いで電話をかけなければならなかった。時には数件。このままだと俺の身も持たないし、
安倍が与える仕事への悪影響も凄いらしいので(現にそれを相談内容にしてきた娘もいた)
俺は一気に勝負に出る事にした。
「え・・・・・ここ?」
大西さんは俺のマンションに着くと、少し表情に陰りを見せた。ゲームで適当に釣って
仕事帰りの夕方家に誘ったのだ。来たら今更帰るとは言いにくいだろう。
「どうしました?こっちですよ?」
A棟の方をじっと見ている大西さんを呼んだ。
「お、おう・・・。」
ここで俺が少しでも表情に出てしまったら負けだ。ボロを出してもだめ。
絶対にそんなこと思いつかないだろうが気づかれたら終わりなのだ。
「ここです。」
大西さんは未だに動揺した顔つきをしていた。そりゃそうだろう。
なんせここは石川の隣の部屋。大西さんだって、知っているのだろう。
ガチャッ。
バタン。
「すみません、ちょっと待っててもらえますか?」
「ああ。」
俺は部屋に入り、ドアを閉めると言った。
「なんでいるの?」
石川がソファに座っていた。なんか雑誌を片手に持って。
「これ。」
石川はそれを俺に渡してきた。
「・・・・・え?!」
これって・・・まさか。
「やるじゃ〜ん。」
石川は俺に笑ってみせた。
「いや、違うって!」
「じゃ〜ねぇ〜。」
石川はそのまま押入れに入っていった。・・・・・。
ガチャッ。
「すみません、汚かったんで。」
「おう、上がるぞ。」
とりあえず俺が先にリビングの方へと行くと、
「よ!ほ!!」
辻加護がゲームをしていた。思わずこける俺。
「どうした?」
「あ〜待って待って来ないで!!」
俺はこけた体勢から大西さんの目の前に飛んだ。
「お前器用な事するなぁ。」
「ちょっと待っててください!!ごめんなさい何度も。」
大西さんを俺の部屋に入れようとドアをそっと開けて覗き込むと、
・・・よかった。誰もいない。大西さんを中にいれ、リビングに行く。
「ちょっとさ、仕事中だから、帰ってくんない?」
もうどうやって入ったかなんてどうでもよかった。なるべく小声で話す。
「え〜、ケチくさいこと言うなや〜。」
「そうれす〜。ゲームぐらいしたっていいじゃん!」
「マジちょっと勘弁・・・・じゃあ明日!明日な!!」
「え〜もうお開き〜?」
後ろから高橋の声がしてまたしてもこける俺。
「どっから湧いて出てきた。」
「トイレ借りてたでけや。なんでお開きなん?ケチやね〜。」
「仕事、大西さんとなっちの件。」
それだけ言うと3人の顔つきが変わった。
「・・・しゃーないな。」
加護がそう言うと、3人はそのままテレビ側の壁を触った。
「ここ回転扉になってるんやで。」
加護が突然言った。
「え?!」
「嘘や。」
高橋が笑う。3人はそのまま入り口からちゃんと退室していった。
「マジすみません。色々汚くて。」
「もうゲームのセットしてあったんだ。」
「え?あ、はい!」
俺達はしばらくゲームをした。俺はまだ二十歳だし、いいけれど・・・。
大西さん、いくつですか?そんなことを思いながら、とりあえず「来客」を待った。
「おい弱いな〜。」
しかも強!というより自分の力を測る物差しが辻加護とかしかいなかったから、
自分の力を過信していただけかもしれない。
ピンポーン
「?」
大西さんは玄関の方に視線を移した。俺は無言で立ち上がり、玄関へと小走りで向かった。
ガチャッ。
「上がって。」
俺は彼女にそう言うと、そのまま奥へと連れて行った。
200 :
修羅場:04/03/06 00:45 ID:qgxcExkc
『!!』
二人はびっくりした顔をして、お互いの顔を見あっていた。安倍は俺に聞いた。
「どういうこと?」
俺が答える前に、大西さんが俺を見て言った。
「お前、まさか・・・。」
「そうです。俺が二代目『娘。悩み相談』です。なっちに大体の事は聞きました。」
「・・・帰る。」
大西さんは俺と安倍から背を向け、歩き出した。
「待ってください!!」
俺の声に、大西さんは立ち止まり、こっちを振り返った。悲しげな表情を浮かべていた。
「話を、聞いてあげてください。別れるときだって一方的で、何も聞いてあげられなかったでしょう?」
「・・・・。」
大西さんは何も言わない。それを見て安倍は今にも泣きそうな顔で、言った。
「あれは、ドラマの撮影の合間のお昼ご飯を、たまたま同じ時間休みだった人と言っただけだべ・・・。」
言い終わると、目から涙が零れ落ちた。たったこれだけの事を伝えられずに、安倍はどれほど苦しんだのだろう。
その潤んだ瞳が物語っているような気がした。
201 :
復縁:04/03/06 00:46 ID:qgxcExkc
「・・・証拠は?」
大西さんは呟いた。
「・・・え?」
安倍は声を振り絞って反応した。
「証拠を見せてみろよ!」
「もういいじゃないですか!!!」
二人の視線が俺に一気に集まる。その目から、俺は思わず叫んでしまった事に気がついた。
語調を若干弱め、俺は話を続けた。
「彼女のこの涙こそが、何より確かな証拠じゃないんですか?なっちの涙につまった気持ちを、
あなたが受け止めないで、誰が受け止めてあげるっていうんですか!誰が抱きしめてあげられるっていうんですか!!」
部屋中を沈黙が襲った。おそらく数秒の事だったのだろう。しかし俺には何時間にも感じた。
大西さんは静かに安倍の横に近づくと、涙を流す安倍の顔をそっと自分の胸に連れ込んだ。
「・・・・!!」
その途端、安倍は声をあげて泣き出した。俺は何も言わずに、静かに別の部屋へと入った。
202 :
Aの食卓:04/03/06 00:47 ID:qgxcExkc
少しして部屋に戻ると、二人はもうすっかり仲直りしていた。
「(い・・・居づらい・・・。ここ、俺の部屋なのに・・・)」
ラブラブですな。俺はそっとキッチンに入り、夕飯の準備を始めようとしたら、安倍がそれに気がついた。
「なっちがやるべ。」
いやだから、ここうち・・・。
「肉あるべか?ジャガイモ、にんじん、たまねぎ・・・・。」
肉じゃがか。たまたま揃っていたので全て安倍に渡した。
安倍の肉じゃがはなかなかのものだった。料理自慢の俺には及ばないにしても(何様)、
見るからに美味しそうで、俺と大西さんは思わずうなってしまった。3人で食卓を並べ、
3人で仲良く食事を、
「あーん。」
出来るかボケ(怒)若干ハブられ感ありながら、3人で仲良く食事をした。
「じゃ、気をつけて帰って。」
俺が玄関で二人を送る。
「送っていくよ。」
大西さんが安倍を見て言う。いや、送っていくってあんた・・・。
二人が去ると、俺はさっき石川に渡された雑誌を手に取る。
「なんだってんだこれ・・・。」
俺は記事のタイトルだけ見ると、ベッドに投げ捨てた。
『モー娘。矢口 男漁り』
続く