8. ピンポン玉
ボディーガードの一件から、大学にいると妙な視線を感じるようになった。気がつくと変な男達に囲まれている。
それでも単位が危ないから出続けなければならない。変な男達を頑張って撒きながら、俺は授業に出続け、
なんとか進級までこぎつけた。
家でほっとしていると、押入れの方から声が聞こえてきた。
「ちゃ〜おぉ〜。」
俺が押入れの扉を開けると、這う様にして石川は出てきた。
「よいしょっと。」
なんとか身体を全部通し、部屋に入りきると、石川は言った。
「旅行行かない?」
「旅行?」
突然だったので俺は驚いた。てかそんなに暇あるの?石川は話を続けた。
「温泉旅行なの。中澤さんが行けなくなっちゃって、一人分キャンセルするのも癪だから、どうかな、
って思ったんだけど、どうかな?」
俺はすぐに答えた。
「いくいく!」
「自腹だけど。」
「おい!!」
143 :
低血圧:04/02/22 22:15 ID:Cj801PTk
明日と聞いたので俺は慌てて支度を始めた。1泊だからたいした荷物はいらない。
適当に服類をスポーツバックに詰め込み、すぐに支度は終わった。
メンバーは石川、後藤、吉澤、矢口、安倍。どうやらある程度年齢の行ったメンバーにして
騒がしいのを排除したようだ。確かにその方が疲れないから温泉に行く意図を的確に捉えている。
ただ一つ俺に問題があった。
「朝早いんだよな〜・・・。」
朝に弱い俺にとって、5時集合は地獄だった。でもまあ集合がC棟なだけマシだった。
それに間違いなく彼女は遅刻するだろう・・・。
AM5:00
「眠い・・・。」
俺はあくびをすると、目を軽く擦った。とりあえずほとんど揃っていた。
「やっぱり来ませんね。」
石川が矢口に言う。
「いつものことだよ。」
矢口はいつものように笑っている。後藤は今にも眠りそうな顔でフラフラ。吉澤が支えている。
「ごめんごめん!寝坊したべさ〜!!」
A棟の方からドタバタと音が聞こえてくる。5分遅れ、今日は90点でしょうか。
「いいよ、上出来。」
俺が言うと、
「え、でも、35分も遅刻しちゃった!!」
矢口が後ろで噴出す。俺は何を言っているのかよくわからなかった。矢口は笑い終わると、言った。
「なっちにはね、30分早く時間教えておいたから、大丈夫だよ?」
「・・・・ひどぉ〜い!!」
安倍は口を膨らませた。
「え、電車?」
俺は駅に着くと、呟いた。
「そだよ、それが?」
後藤が答えた。
「大丈夫?」
「大丈夫。」
後藤はそれだけ言うとさっさと行ってしまった。
俺達は電車で新幹線のある駅までの間、特に視線を感じることもなく普通に行くことが出来た。
無理もない。平日、早朝。そこまで人がいるわけでもないし、大体が眠そうな表情をしている。
そこまで目が行かないのだろう。
駅に着くと、眠る後藤を吉澤と二人で担ぎながら電車から降りた。そしてそのまま新幹線のホームへ。
「グリーン車?」
「そゆこと。」
確かに指定席ならある程度は・・・。でも自腹なんだっけ、なんか俺だけ痛くない?他は年収うん千万なのに。
まあ旅行を共にさせてもらうだけ、姐さんに感謝だ。
今回仕事じゃないし。
「爺・・・・婆・・・・爺・・・・婆・・・・爺・・・・婆・・・・。」
どこを見てもご老人ばかり。辺りを見回すと『老人ホーム温泉旅行ツアーご一行』の旗が見えた。なるほど。
席は二人ずつということで俺は石川と一緒になった。他はそれぞれ後藤吉澤、安倍矢口の組み合わせ。いつも通りな感じがするが、
俺はバレンタインのときから未だに石川を意識してしまっていた。真意を聞かないことには、いつまでも気持ちのモヤモヤは消えない。
いわゆる、好きでない子でもチョコを貰うと急に好きになってしまう、あの現象なワケだが・・・。石川をじっと見た。
やっぱなんだかんだ可愛い。なんで俺ここにいるんだろ。
「?どうかしたぁ?」
石川は俺の視線に気がついたのかそう言った。
「いや、別に・・・。」
「ふぅ〜ん。じゃあいいや。」
石川はそう言うと窓に視線を移し、なにやら鼻歌を歌い出した。・・・聞けない、なんていうか、恐くて。
びびってしまう自分が情けなく、弱く感じた。
147 :
仁義ない:04/02/22 22:22 ID:Cj801PTk
電車の中で駅弁を朝飯代わりにほおばる。石川と違うのを買ったのでお互いに少しずつ分け合いながら食べていると、
車両間を繋ぐドアが開いた。
「ん?」
誰かが入ってきた。おかしいな、この車両ほぼ老人ホームで貸切なのに・・・。
「・・・。」
その姿を見て、6人は絶句した。や○ざ?やく○なのか?真っ白いスーツ、サングラス、
オールバック、顔に傷。男は俺達の目の前まで来ると、胸ポケットに手を突っ込んだ。
「!!」
拳銃?!男はすぐさま手を取り出した。
「サインしていただけませんか?子供がファンなもので・・・。」
全員座っていながらこけそうになる。
「(びっくりしたぁ〜)」
「(でも絶対○くざっす!)」
「(怖いからこれ以上近づかないで!いやほんとに!)」
「(眠い・・・。)」
「(ファンなら安心だね)」
「(マジびびった〜。でもや○ざかな?)」
どれが誰かはご想像にお任せします。男はサインをしてもらうと、ポケットから何かを取り出した。
シャキーン!
ナイフ?!
今度こそやばい?!男はナイフを振り上げた。
「いや、しゃれにならないっすよ、マジで。」
俺が言うと男は申し訳なさそうに言った。
「すみません、自分、顔恐いんで。」
恐いだけですか?俺はりんごでウサギを次々と仕上げてゆく男を見ながら、
冷や汗をふき取っていた。
「上手〜。」
石川は感心している。俺にはりんごの皮が血にしか見えないんですが?
「できました。どうぞ。」
全員にうさぎを一つずつ配る。
「あぁ、そうだ。」
またポケットに手を突っ込み、なにやら小さな筒を出してきた。
・・・薬?
「爪楊枝です。」
全員再びこけそうになった。
旅館に到着すると、まず矢口が声を上げた。
「おぉ!!ごっちんやる〜!!」
「いいでしょ、探すの苦労してさ〜。いろんな人に穴場ないか聞いたんだ。」
後藤は満足そうな笑顔で答えた。冬なのに意外と客がいない。しかし寂れている訳ではなく、
まさしく穴場と言えるような風貌だった。
奥へ入ると、本当にホテルと言うよりは旅館だった。温泉、卓球、和室。まさに「和」である。
「わび」「さび」を感じつづ部屋に入ると、やはりそこも「和」な造りだった。俺は中澤の代わりだったから安倍、
矢口と同じ部屋だった。残り3人が隣の部屋。
「着いたぁ〜。」
安倍はそう言うと、畳の上で転がった。俺は座布団を3つ取り出し、座った。置いてある和菓子を口にする。
「お茶入れるね。」
矢口が部屋にあるコップを置き、入れてくれた。
「ありがと。」
矢口は自分、安倍の分も用意すると、自分も座布団の上に座り、お茶を飲んだ。
「はぁ〜、辻加護とか連れて来なくてよかったわ〜。」
同意。
150 :
売れそう:04/02/22 22:26 ID:Cj801PTk
しばらくまったりしていると、安倍が言い出した。
「温泉行くべ。」
隣部屋の3人も誘うと、浴衣を着ることになり、俺はトイレに隔離された。
「ちぇっ。」
当たり前なのに何故か悔しがりながら俺は俺でトイレで着替え。
5分後・・・。
「お〜、あんたも意外に似合うじゃん。」
矢口に言われて俺は少しだけ照れた。お二人さんにはかないません。
全員出揃うと、俺はノリで一言、言ってみた。
「シャッフルユニット?!」
全員お互いを見ると、笑顔で「せ〜の」の後に言った。
「温泉6〜!」
いいなぁ、こんなメンバーがシャッフルで揃う事ないし。
(まあ元は同じグループだけど、今となってはね)
151 :
ス:04/02/22 22:27 ID:Cj801PTk
男湯女湯に残念ながら別れていて(贅沢言い過ぎ)、俺は一人男湯に入った。でも、温泉と言う事は、定番ですよね。
身体を洗い、露天風呂につかると、女湯の方から声が聞こえてきた。こういう場合大体興奮させてくれるような話のはず・・・。
ごくり(おっさん)
「あ!ごっちんまたおっぱ」
キター!
「待って!!」
おい!!吉澤がせっかくその手の話をしだしたのに矢口が遮った。
「向こう側、いるよ?」
流石娘。一のエロ(略)俺の考えを完全に読みやがった。
「・・・・・・なっちさん最近どうですか?」
石川が一瞬の静寂の後突然言った。おそらく何を言おうか考えたのだろう。チッ。俺は脳内で舌打ちした。
しかし向こう側は何故か完全に沈黙してしまった。
女湯・・・。
安倍は遠い目で、陽が少しずつ沈み始めている空を見ていた。
「(梨華ちゃんのバカ!!だめだよ!!)」
吉澤は小声で石川に言った。
「(だ、だって急に言われても思いつかなかったんだもん!!)」
「いいの。」
どうやら聞こえていたらしい。安倍に4人の視線が集まる。
「だって今日はそれで来てるんだべ?楽しもう!」
「・・・そうっすね!じゃあごっちん、ミュージカルはどうすか?」
男湯・・・。
「『今日はそれで来てる』?どういうことだ?」
どうやらこの旅行は、ただの単純な旅行ではないらしい。何か裏に、事情が絡んでいる・・・。
別に考えたところでそれの推測すら出来ないと判断した俺は、一足先に露天風呂を後にした。
夕食は部屋で和食。たまにはこういうのもいいな。俺こういうの作れないし。ここで再び矢口が、
「辻加護連れて来なくてよかった〜。」
同意。特に辻。宇宙の胃袋の手にかかったら、俺は食べるものを失ってしまう。
食べ終わると、俺達はすぐに卓球台へ移動した。人数が多いので3点先取の勝ち残りというルールで行われた。
「ほい!」
元テニス部の石川。
「えい!」
運動神経抜群の後藤。
「たぁ!」
同じく抜群の吉澤。
その3人を核にチャンピオンは形成されていった。それに翻弄される成人3人。全然勝てない。
石川とかもっとトロそうな気がするんだけどなぁ。ちなみに石川相手にはほとんど3−0だった。
やっぱり知らず知らずのうちに意識してしまっている。
卓球台は1時間だけ借りていたので、使い終わると部屋に戻った。そしてトランプ。
なんだか修学旅行のような感覚なんですけど。やはり定番は大貧民。いざやろうというとき、
「あ、なっちはやらないや。」
安倍は外へ行ってしまった。気になるなぁ。
3ゲーム終わったところで俺はジュースを買いに外へ出た。確か自販機は旅館の外だったよな・・・。
浴衣のせいか、外は寒かった。2つ並んだ自販機で、俺は適当にジュースを買った。
ガタンッ。
ジュースを取り出すと、なんとなく、外の方を見た。あれ?自販機の左側に安倍が座っていた。
しかし様子がおかしい。目から涙が流れているようだ。
「・・・!!」
俺が見ているのに気がついたのか、安倍は驚いた顔で俺見た。
「どうしたの?」
俺は聞いたが、安倍の口から出た言葉は意外な物だった。
「えっと、目がかゆくてかいてたら、かきすぎて、涙が出ちゃった。」
「あ。そう・・・。」
とりあえず言いたくないなら無理に言わせる必要もない。俺は適当に合わせると、
「じゃあ、なっちも大貧民入ろうかな?」
なんだか必死に明るくいようとしているように見えて痛々しかった。
俺と石川は二人、罰ゲームでジュースに買いに行かされていた。まあつまり貧民、大貧民だ。
「あそこで8で流しておけば〜。」
石川が悔やんでいる。今更悔やんでもしょうがないだろ。俺だってあのとき・・・。そのとき不意に俺は安倍のことを思い出した。
「そういえば、なっち、どうかしたの?」
石川はすぐに過剰反応した。
「え、え?な、何もないよ?!」
挙動不審になりながらごまかす石川。これなら落せる。
「りかっちは嘘つくとき、眉毛がよく動く。」
俺が指差してやると、
「え!?」
石川はすぐに慌てて眉毛を触った。
「嘘だけど。」
「えぇ?!」
石川はそれを聞くと余計に焦りだした。
「で、何があったの?」
石川は観念すると、話し始めた。
「なっちさん、彼に振られたの。誤解で。」
「誤解?」
「うん、詳しくは言えないけどね。それで、それを忘れさせよう、って矢口さんが言い出して、
旅行に行くことになったの。でも・・・あたしが思い出させちゃった・・・。」
石川は落ち込んだ表情を浮かべた。俺は石川の肩をポンと叩くと言った。
「そうやって落ち込むなんて、らしくないよ?ポジティブポジティブ!」
「・・・うん!はっぴぃ〜!」
いや、はっぴぃ〜はどうかと・・・。とりあえず持ち直しただけいいか。
156 :
短!:04/02/22 22:32 ID:Cj801PTk
部屋に戻ると、
「遅〜い。」
とすぐ矢口に突っ込まれた。
「ごめん!」
俺が謝ると、安倍が立ち上がって言った。
「よし揃ったしカラオケだべ!」
吉澤がそれに反応して、俺に言った。
「あ、またあれ歌ってよ、英語の奴。」
俺は思い出し笑いをして噴出した。
ん?このイントロは・・・。安倍はマイクを持つと歌いだした。
「wow〜wow〜wow〜♪」
Time goes by・・・。全員若干気まずい表情を浮かべた。それに気がついたのか、間奏の時、
「やだなぁ、いつも歌ってるべ?」
と笑ってみせた。1周後、安倍の続いての曲は、
「想い出は〜い〜つも〜キレイだけど〜♪
それだけじゃ おなかがすくの♪
本当は〜せ〜つない夜なのに〜♪
どうしてかぁしら? あの人の涙もお〜もいだせないの〜♪」
歌い終わって安倍は一言、
「ね?」
全員ホッとした。
その後、石川がカントリー娘。でブーイングを食らったと思えば、吉澤後藤安倍がMr. Moon lightを格好よく決めたり。
俺何歌おうかな〜、矢口と安倍が二人でふるさと(矢口が言い出し全員一瞬ドキッ。)を歌う間に考えた。
「It’s my life〜♪」
う〜む、結局洋楽の有名どころなんだよなぁ、俺。
カラオケが終わると、部屋に戻って就寝となった。
「いいじゃん別に〜」
「開けたら殺す!」
矢口のその一言を最後に襖で完全に仕切られてしまった。ブーブー。別に何もしないってんだ。
・・・保障はしないけど。
実は窓で部屋間繋がってることに気がつき、ちょっとイケない考えが頭をよぎる。窓からいけるかも?
カーテンはないし、見るくらい、ええやん。
窓をそっと開けると、向こうの窓際に安倍が座っていた。こっちには気がついていない。
月明かりがその美しさをより一層引き立てている。しかし、その瞳から一筋の雫が流れ落ちた。
なんだか必死に泣かない様に耐えているような顔だった。
ファサッ。
「?」
俺に毛布をかけられた安倍は、少しびっくりした顔で俺を見た。俺はその横に座ると、言った。
「風邪ひくよ?」
安倍はそんな言葉よりも、涙の弁解を再び始めた。
「いや、これは・・・そ、そうそう!コンタクトが痛くて!」
「無理しなくていいよ。」
俺は本心をそのまま口にした。
「む、無理なんかしてないべさ!」
「俺の仕事、覚えてる?こういう時にこそ、相談してくれないと。」
安倍は何も言わずに俺を見ていた。
「辛い時は、思い切り泣いた方がいいときもあるんだよ?」
俺が優しく微笑みかけると、安倍は満杯のコップから水が溢れた様に泣き出した。
ずっと必死にこらえていたのだろう。
俺は肩を回し、ゆっくりさすりながら何も言わずに泣き止むのを待った。
安倍は泣き止むと、詳しいいきさつを話してくれた。
安倍は大西優さん(素人)という人と付き合っていた。その大西さんと言う人は浮気超反対派な人で、安倍もそれを分かった上で滅多な事がない限り
男性との食事の誘いを断っていた。彼が大好きだったのだ。でもあるとき凄く仲のいい仕事仲間(男)と仕事の合間に昼食を食べに行ったら、
それだけで週刊誌に撮られてしまった。
『なっち 共演中の俳優とお昼の一時』
仕事仲間とご飯を食べに行くという、普通の行為に対してひど過ぎる言いがかりだった。当然その週刊誌以外はそれが分かっていて、
取り上げはしなかったが、彼はそれだけでもうだめだった。そして破局。大西さんは話すら聞いてくれず、
「やっぱりなっちはアイドルだし、そんな事もあるんじゃないかって、思ってた。でも、信じてたんだ!それなのに!」
とそれだけ言うとその場から立ち去り、番号拒否され、メアドも変えられてしまった。
俺は話を聞き終わると、話ながら泣いてしまった安倍の涙をハンカチで拭い、頭を撫でた。
「!・・・・。」
安倍は驚くも拒否はしなかった。俺は言った。
「ごめん、でも今俺に出来る事なんて、こうやって慰めることしか出来ない。」
俺は更に、安倍の目を見ながら言った。
「ごめんね、力になれなくて・・・。」
「そんな・・・そんなこと、ない・・・・べ・・・。」
また目を潤ませる安倍。安倍はその顔を俺の胸にうずめた。
「うわ?!」
安倍は毛布を俺にも分けるようにかけてくれた。俺はその上から安倍の肩に再び腕を回した。
「話を聞いてくれるだけで、うれしい・・・。」
泣きながら途切れ途切れに、安倍の声が聞こえた。俺の胸が涙に濡れてゆく。
「なっち・・・・。」
俺は呟きながら、肩をまた、ゆっくりとさすった。
ガラガラ!!
「二人で何やってんのー!!!」
矢口の突然の叫び声に俺達は飛び上がるくらい身体を震わせた。
二人で一つの毛布、俺の胸に顔をうずめる安倍、肩には腕が回っている。こりゃ変に疑われても仕方がないだろう。
「なっち〜?もう切り替えて見つけちゃったのかな〜?」
男を見つけちゃった、という意味か。
「うん。」
『え?!』
俺と矢口は同時に声をあげた。
「嘘だべ、あはは。」
笑い出す安倍。俺達もつられて頬を緩めた。
今日初めて、安倍の笑顔を見た気がした。
帰りの電車の席は、石川と吉澤が入れ代わる形になった。(だってごっちん寝てばっかりなんだも〜ん、とのこと)
しかし蓋を開けてみれば俺と後藤以外全員寝てしまった。珍しいなと思ったのと、席が隣なのもあって、
俺は後藤に昨日の話をする事にした。その話を聞き終わると、後藤は言った。
「なっちはね、なんていうのかな。ピンポン玉みたいなんだよ。」
「ピンポン玉?」
「そう、ちょっとの衝撃でも吹っ飛んじゃって、壊れやすい。」
壊れやすい・・・。確かに安倍はそう言うところがあるかもしれない。昔、全く同じような形で彼と別れている安倍は、
そのときは実家に帰って泣いた、と『ふるさと』のような話を聞いた事がある。切り替えが効かず、尾を引いてしまうのだ。
俺の正直同じようにちょっと引きずるところがあるから、気持ちがよく分かる。昨日はそんな想いでおせっかいをしてしまった。
そのときの安倍の姿を見て、安倍の「脆さ」を感じた気がした。離したら壊れてしまいそうな、そんな感覚だった。
「俺はどうすればいいんだろう。」
俺はふと、つぶやいた。後藤は答えた。
「何もしなくていいんじゃない?」
「え?」
「だって言われてから動くのが仕事じゃん?」
あ、そうだった。言われてもいないのに動いたらまたおせっかいだ。
「なっちが自分から何か言ってくるまで、待とう。」
後藤はなんだか遠い目で、呟いた。
マンションに着き、解散して部屋へと戻った。なんだか、短かったような、長かったような・・・。
とにかく色々考えさせられる旅行だったと思う。これから、安倍は立ち直っていけるのか・・・。
誤解で安倍に何の非もないのに別れたのだから、しばらくはきついかもしれない。
少しすると、矢口が部屋にやって来た。中に招き入れると、聞いた。
「仕事?」
「うん。」
矢口は真剣な表情で言った。
「なっちと大西さんのよりを戻して!!」
「はい?!」
さっき後藤と出した結論を吹き飛ばすような声に、俺も吹き飛んだ。
続く
165 :
えっと:04/02/22 23:18 ID:Cj801PTk
8話終わりです。すんませんこんなところで終わって。
しかも改行で1回マジで致命的なミスを・・・。(他にもあるかも?)
とりあえずこの先の展開を考えつつ期末に臨みたいと思います。(考えてないのかよ)