RISE UP
「はーい、オッケーでーす、おつかれさまでした!」
スタジオにフロアディレクターの声が響いた。
長かったメインコーナーの収録が終わって、メンバーはしゃべりながら
ざわざわと楽屋に引き上げる。
「はあ、今日も目立てんかったわ・・」
わたしはとなりを歩くあさみちゃんにそう話しかけた。
「どうしたのアイちゃん、最近元気ないね、なんかあった?」
あさみちゃんは努めて明るく振る舞うとわたしに微笑んだ。
わたしは沈んだ表情であさみちゃんを見ながら聞いた。
「今日これからなにかある?」
「うん、なにもないよ、帰るだけ」
「あの、ちょっとお茶でもしていかん?」
「えっ?」
あさみちゃんはめずらしくわたしのほうから誘ったことに驚いたようだった。
「もちろんいいよ、このあいだ中澤さんが教えてくれたカフェにいってみようか?」
「そこええなあ、あさみちゃん最近中澤さんと仲ええんやな」
「収録でよく会うからね、でもいまだに緊張するよ〜」
そのとき藤本さんと歩きながら話してた由佳子さんが振り返った。
「あっ高橋、これからつんくさんのところに行ってね」
わたしはびくっと震え立ち止まった。
「え?これからすぐですか?」
「うん、収録中に電話があって直接向かってくれって」
「は、はい・・・」
「アイちゃん忙しいみたいね、残念だけど今夜は無理かな?」
「うん・・・」
あさみちゃんはわたしの顔ををのぞき込むと
「そんなに落ち込まなくったって、また今度行こうよ、ね?」
と、わたしを気遣って明るく言った。
「・・・ごめんね、あさみちゃん」
あさみちゃんはわたしの背中をポンとたたいて「さあいこう」と歩き始めた。
わたしはとっさにあさみちゃんの手首をつかんで引き留めた。
「ど、どうしたの」
「わたし・・・いきたくない・・・」
あさみちゃんが驚いてその場に立ち止まった。
「いきたくないって、きっとデュエットのことなんじゃない?
アイちゃんよろこんでたじゃない」
わたしは下を向いたまま口を固く結んだ。あさみちゃんはわたしの異変に
気がついたようで、正面にまわってわたしの両肩に手を置いて言った。
「アイちゃん顔色悪いよ、大丈夫?それにいきたくないってどういうこと?」
しばらくその場に立ちすくんだ後、わたしはまわりを見渡した。
メンバーは全員楽屋に戻ったらしく、薄暗い連絡路には二人だけだった。
わたしは顔を上げあさみちゃんのやさしい瞳を見つめると思い口を開いた。
「つんくさん、変なの、もう行くのいやや」