70 :
トミー・ボンバー:
後藤は、足首を捕らえている腕を引いた。
獣はバランスを失い、背が地を叩く。
「ぎゃんっ!」
そのまま、無防備の獣に拳を振り下ろした。
それはまっすぐに額へと打ちこまれる。
拳を引いてみると、獣は既に沈黙していた。ピクリともしない。
(…終わったのか?)
その疑惑の念を掻き消すかのように、彼女は再び両眼を開け放った。
(くっ…ダメか!もう一度!)
拳に力を込め直し、また同じように振り下ろそうとした。
「…あれれ?」
(!)
その様子が後藤の動きを止めさせた。
「亀井?」
「はい?」
「…」
手早く拳を引く。
「後藤さぁん?」
「…何でもない、よ。いつもの亀井だよね?」
「?」
後藤は変身をとき、ゆっくりと立ち上がった。
「後藤さぁ〜ん?どうして変身してるんですかぁ〜?」
唐突に、舌っ足らずな質問が飛び出してきた。
「えっとぉ〜。…もしかして、何も覚えてないんだ?」
「ん〜?覚えてません。」
彼女は、少し困ったような表情をみせた後、
いつもの惚けた笑顔でそう答えた。
「…そ、そうなんだ〜。ふぅ〜ん。」
平静を装った口調とは裏腹に、彼女の顔は強張っていった。
71 :
トミー・ボンバー:04/02/16 16:38 ID:fy571kiO
−ヴィー!ヴィー!ヴィー!−
突然、激しいサイレン音がグラウンド中に響き渡る。
後藤を含むその場にいた全員が、グラウンド中央にそびえ立つ
サイレン塔に釘付けになった。
「来たか。」
その塔を睨みつけながら、彼女は強く下唇を噛みしめた。
「こんなことしてる場合じゃないね。集合!」
輪になっていた訓練生達は、一斉に後藤のもとへ集まる。
「いい?今日の「Morning。」入隊試験は中止!
来週の月曜に続きやるから。
あと分かってると思うけど、これから奴らを迎え撃つ。
αチームは5分後ここに集合!
βチームはなっちの指示に従って!以上、解散!」
その言葉が終わるやいなや、全員が慌ただしく動き出した。
何故、訓練生達までが戦場に赴かなければならないのか。
それは、既に戦える者がほとんどいない為である。
いくら訓練生といえど、彼女らも数少ない兵士には違いない。
その兵士が戦場に駆り出されることなど、ごく自然なことである。
もちろん、ただの一兵士にすぎない亀井も例外ではない。
彼女は装備を調える為、更衣室に走り出していた。
「絵里〜!待ってよ〜!」
背後から、か弱い声が耳に届く。
そのままペースを落とさずに後ろに目を向ける。
「さゆ!早くぅ!」