37 :
名無し:
「もしかしてモーニング娘。のひとじゃないっすか、俺ファンなんすよ」
警官はニヤニヤしながらそう言った。私は軽くしたうちをする。面倒なことになりそう
だったからだ。
「お、ほんとだゴマキじゃん、それに・・・イチイサヤカ」
もうひとり降りてきてやっぱりニヤニヤしながら、二人で頷きあうようにして何やら
目配せをしあう。
「どうすんの市井ちゃん面倒だよ」
警官に聞こえるのはまずい。私はほんとうに微かな小声でささやいた。
そしたら全然聞こえてなかったらしく市井ちゃんは微動だにしなかった。
38 :
名無し:03/12/27 03:47 ID:3vSlO7ty
「とりあえず・・・じゃあ。」
「あ、そうか。じゃすいませんけど免許証出して。まあ、芸能人とは言え、ね・・・」
市井ちゃんは懐に手を入れた。ああついに市井ちゃんが人を殺す瞬間が来たんだ、と
私は背筋のあたりに何かが走りぬけるのを感じた。今までにないこの感じ。
「あれっ」
懐をごそごそしながらとつぜん、市井ちゃんは素っ頓狂な声をあげる。
「どうしました。」
警官は訝しげに顔を近づけてくる。もう死ぬともしらずに。
39 :
名無し:03/12/27 03:52 ID:3vSlO7ty
ヒリヒリする空気。私は耳をふさごうか目を閉じようか迷う。いや見届けなくてはいけない
気持ちはもちろんあったんだけど。
警官は二人とも間抜けな顔をさらしたままだ。まるで1秒が1時間にも思えるような気が
するこの緊張感のなか、市井ちゃんはやがてゆっくりと顔をあげる。
そして泣きそうな声で言う。
「免許がないっ」
40 :
名無し:03/12/27 03:56 ID:3vSlO7ty
「えっ」と思った。
「免許がないってのは・・・ちょっと困ったことになりますね。」
「不携帯ですか。」
警官の態度が微妙に変わったのがわかった。たぶんさっきまでのが芸能人に対しての
ソレならば今は獲物を狙うライオン・・・ライオンってことはないけど。まあそんな目つきに
なった。
「はい。どうしようガムとレシートしかないよ。どうなっちゃうんですかアタシ」
「定員外乗車に・・・スピードもずいぶん出てたし。これで不携帯ってことになるとね。
免許取り消しってことになっちゃうね。」
警官はわざとつめたい口調でそう言う。
「罰金もかなりの額になるかな。」
同僚も調子を合わせてそっけない態度だ。
41 :
名無し:03/12/27 04:02 ID:3vSlO7ty
なんだかむかついてきた。いつまでもネコかぶってないで、早く撃ってよ市井ちゃん。
私は心からそう思った。市井ちゃんはと言えば頭を振りながら「うぅん・・・」とか言って
いる。そうしてやっと顔をあげて、言う。
「すいませんフェラチオするんで許して下さい。」
「なっ。」
「フェッ?」
「はっ?」
ちなみに最後のはっ?が私だ。
42 :
名無し:03/12/27 04:10 ID:3vSlO7ty
一瞬聞き違いかとも思ったがしかし、振り向いた市井ちゃんは自信ありげに、私に何やら
目配せをする。なるほど油断させるための作戦らしい。とすればさすが市井ちゃんとしか
言い様がない。警官は二人とも互いに目を見合わせながら「どうするよ」「おい」みたいな
感じでもう半笑いだったからだ。
やがて二人はこちらを向く。「オホン」とか言ってから、喋り出す。
「君、自分が何を言ってるのかわかっているのかね。」
「そ、そうだ。冗談はやめたまえ。ただじゃすまんぞ。」
「冗談じゃないし・・・もちろんタダですますつもりもないですよ。」
と言う市井ちゃんの声は今までに聞いたことのない声でものすごい妖艶な響きがあって、
何故か私までどきどきしたくらい。警官に至っては尚更だろう。
「たっぷりサービスしますって・・・こいつが。」
と言って市井ちゃんは私を指差す。
43 :
名無し:03/12/27 04:18 ID:3vSlO7ty
「えっ」と思った。
「お、俺ぁもう我慢できねーぞ先だ」
「ちょ、きたねーぞお前。こないだ金貸しただろ、俺に譲れよ」
二人は血走った目で私の腕をつかみ、ものすごい力で歩道へと引きずる。
また丁度良く路地があったりして。
私は今にもそこに連れ込まれようとしている。もうあちこち触られたりして、なんか
ファスナーの降りる音まで聞こえる。
助けを求めるように視線を揺らすと、目に入った市井ちゃんは何故かこっちを見ても
いない。
「かっこいいなこのパトカー。」
とか言いながらひとり離れて、助けにくる素振りも見えない。私はここではじめて
「やばい私ピンチなんじゃないの?」と思った。
「ジャンケン、ポン、あいこで。」
私は観念して目を閉じる。ああこのジャンケンが終わったら犯されるんだ、色々
されちゃうんだ。嫌だ。あたしほんとはまだ。