152 :
名無し:
そう言えばあたし逃亡者だったっけ。10分経ったら忘れる病気ってところで
ナニ?などと、私は考えていたワケです。もっとも10分経つとともにそれらの
考えは消えていくのでおんなじところをループしてばっかりで、まともな思考には
とてもならなかった。
その時の私の思考ルーチンを文字で表すとこんな感じになります。
外に出るのは厳禁ですって書いてあるそう言えば私は逃亡者なのだ。ということは
ここは隠れ家か。すこしワクワクする。十分経ったら忘れる病気。なんのことだろう。
十分しか記憶をもたないということなのかもしれない。だとしたらなんて素敵な
病気じゃないか。続き。電車でふたり刑事が死んでたから逃げた。ここはチバ県の
奥地。とするとやはりここは隠れ家なのだろう。死んでたから逃げた、というのはワケが
わからない。ていうかこれを書いたのは誰よ。
ケイちゃんが来た時だけドアを開けるように。他の人が来たらドアを開けないように。
12時までには帰ってくる。右腕にはそう書いてある。ケイちゃん、とは誰なの。
帰ってくる、のは誰なの。もしかすると市井ちゃんがこれを書いたのかもしれ
ない。でも市井ちゃんはケラケラ病なのに。というか私はいつここに来たのだろう、
電車を待っていたはずが、気づいたらここに居るのだ。わからないことだらけだ。
とりあえず外に出よう。市井ちゃんを探さないと。あれ、外に出るのは厳禁ですって
書いてある。そう言えば。私は。
153 :
名無し:04/02/16 04:42 ID:42pJIQuF
いつの間にかドアが開いていて、目の前に女の人が立っていて、それでネコのような
ギョロっとした目を私に向けている。
私は反射的に金属バットを取り出す。振り上げながら言う。
「ちょっとあんた誰よ。出てってよ今考えごとしてんだから、出てかないと。」
「誰って。」
女は変な服を着ていた。ダサいファーストフードの制服みたいな感じの。
154 :
名無し:04/02/16 04:45 ID:42pJIQuF
「さっきはびっくりしたわよ。サヤカがいきなりアンタ連れて来て『かくまってくれ』って
言うんだもの。なんかドラマの感じ?サスペンスみたいな匂いがプンプンしてさ。
でもほらアタシ、そういうの嫌いじゃないから。」
と女はいきなり舞台みたいな口調でしゃべりだした。
「どういうこと?」
「・・・あ、そうか、アンタ忘れちゃうんだよね。コイツ十分経ったら忘れちゃう病なんだよ、って
サヤカは、言ってたっけ。どんな病気だよソレって、思ったけど、アンタ見てるとねえ、ああ
ほんとなんだなあ、って思うよ。」
155 :
名無し:04/02/16 04:47 ID:42pJIQuF
私の頭を今仕入れたばかりの情報ぐるぐる回る。やがて一つの質問にたどりつく。
「市井ちゃん・・・市井ちゃんはドコにいるの。」
「サヤカはアタシがバイト行くときに一緒に出て、なんかシラベモノするからってどっか
出てっちゃったよ。くれぐれもアンタをよろしくって。大事にされてんねえ。」
私は金属バットをしまった。
話は全然見えないけれど、市井ちゃんは無事みたいだし、この人はどうやら
いい人のようだった。
156 :
名無し:04/02/16 04:57 ID:42pJIQuF
それからも女は色んな話をしてくれた。私はそれを片っ端から全部忘れた。
女はたびたび苦笑しながら「私はね、ケイちゃんよ。」と言った。言いながら
「自分でちゃん付けって。」と、おかしそうに笑った。
「なんでそんなカッコしてんのさ。」
と私はたずねる。
「だってバイト中だから。アンタの様子みるために抜け出してきたんだ。」
まあアタシクラスになるとそんくらいの融通は効くから。と圭ちゃんは笑って、
それから「どうよ?」という目で私を見る。
私は笑ってうなずいた。
圭ちゃんも笑って、「ちなみにその質問四回目ね。あんたが笑って頷くのも。」と言った。
157 :
名無し:04/02/16 04:59 ID:42pJIQuF
どうやらお喋り好きらしい圭ちゃんは、やがて不意に慌てたように立ち上がると
「やばい長居しすぎた。」と短く叫んで、とっととどこかに消えてしまった。
くれぐれも大人しくしててね、と言っても忘れちゃうんだろうケド。
そんなことを笑いながら言っていた。
その言葉を忘れないうちに私はベッドに横たわって目を閉じる。
158 :
名無し:04/02/16 05:24 ID:42pJIQuF
そして目を覚ますと目の前に市井ちゃんが居た。
「悪い起こしちゃったな」と市井ちゃんは私の肩を思いっきり揺さぶりながら
言う。
「市井ちゃん。ここはドコなの。」
とたずねたその瞬間、私は不意に全てを思い出す。
ヒザの上には可愛い猫が寝ていました。
市井ちゃんは、居ない。