134 :
名無し:
女はヤグチと名乗った。ホクロのあるほうはヨッスィというらしい。変な名前だがおそらく
ロシア人なのだろう。
「そんでねー。大変なのよ刑事の仕事も。」
「まじで?そんなことすんの?」
私たちはすぐ打ち解けた。私は膝の上の市井ちゃんを起こさないようにしながら
楽しく雑談をした。
「プリクラ見せてよ。」
「これねえ。」
私は手帳を自慢げに見せびらかす。一ページ全部市井ちゃんと私のプリクラで
埋め尽くされた手帳をみながら矢口さんは「あはは・・・」と控えめに笑う。
そして、なぜかホクロは厳しい表情をしている。
「主任。」
ホクロはなにやらひそひそと感じ悪く耳打ちをする。
135 :
名無し:04/02/05 23:23 ID:mvOZAoMo
とたんに矢口さんの目つきが変わる。
「おい。あんた後藤だろ。後藤マキだな。」
「な。」
「とぼけてもムダだ。ここに書いてある。」
指差されたプリクラには確かに文字がくっきり書かれている。
『ごとー いちーちゃん (はぁと』
私は首を振った。
後藤だと何がいけないのだろう。というか何故マキまでばれている?
136 :
名無し:04/02/05 23:33 ID:mvOZAoMo
「あれ?知り合いだったっけ。どちらさま?」
「どちらさまじゃない。お前昨日の夕方金属バットで人を襲っただろう。」
「逮捕する。」
二人はがばっと立ち上がってじりじりと間合いを詰めてくる。
逮捕ということは、この二人は刑事らしい。そう言えば刑事っぽいスーツにも
見えないことはない。なんてことだ、逃亡者なのに刑事と雑談してたなんて。
私は混乱しながら言う。
「えっと、もしかして二人は刑事?」
「何回言えばわかるんだ。」
「お前記憶喪失か?」
二人は呆れたように、同時につっこみを入れるような口調で言う。
私はぶんぶんと頭を振る。言われてみれば、10分くらい前から記憶がない。
駅のベンチで市井ちゃんを抱きしめた。そこからぽっかりと記憶が飛んでいる。
137 :
名無し:04/02/05 23:44 ID:mvOZAoMo
「矢口主任、こいつ本気で忘れてるみたいですよ。」
「そうみたいだな・・・なんかあの映画みたいだな。」
二人はなんだか珍しそうにこっちを見ている。
「もしかしてあたし、十分前の記憶がなくなってる?」
と私は頭をかかえた。なんてことだ。聞いたことのない奇病じゃないか。聞いたことの
ない奇病。重い病気。不治の病。ヒロイン。病弱。
私はうふふと笑う。
「聞いたことないっていうか、それってパクリじゃん。」
と矢口という刑事が言った。
よく聞こえなかったが、どうせ十分経てば忘れるし。
ちょっと違うし。