私はさっきの黒髪の女の人のことを考えながら、並木通りをとぼとぼと
歩いていた。私が抱えてるものを、私のすべてわかったような目、
あの人は一体誰なの?
私は何度も何度も考えた。
突然、ドンという音がしたかと思うと、私の目の前は真っ暗になった。
頬に冷たい感触があり、土の匂いが脳にまで漂ってきた。
「……ですか…?」
「………」
誰かの呼びかけとともに膝の痛みが私の意識をだんだんとはっきりさせていった。
「あの…?」
声の主はおどおどしている。
「はい…んっ…ん…」
私はすくっと立ち上がり顔についた土を払いながら、声の主を探した。
「あの…大丈夫ですか…?私、ちょ…あの…急いでて…
あっ!血!…」
私と目が合った声の主はすぐに駆け寄り、ポケットからだしたハンカチで
血の滲んだ私の膝を拭いてくれていた。
きりっとした切れ長の目、だけど、どこかあどけなさが残る人懐っこい女の子。
「私こそ、考え事してて、前向いてなかったんです。ごめんなさい。」
彼女の話によると、どうやら私は彼女とぶつかった拍子に地面で頭をうって
気を失ったらしい。こんなことはそうそうあることじゃない。
ひょっとしたら今が始めてのことかもしれない。幸いにも土だっかたらよかった。
「じゃ…私、失礼します。ハンカチありがとうございました。ほんとに…」
私は彼女に一礼して歩き出そうとした。
「ちょ…ちょっとまって、あなた、紺野さん?」
「はい、そうですけど…」
私は戸惑いながら返事した。