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東京での暮らしは私に馴染んでいた。
東京という街が持っている、独特の雰囲気は私を酔わせていた。
狭い土地にひしめき合う建物、その間を縫うように走る自動車。
賑やかな中にも、どこかよそよそしい感じがする街だ。
12月最初の土曜日、私は転入の手続きのため新しい学校を訪れていた。
昼過ぎになると、強い日差しが差し掛かり、空は雲ひとつない快晴、
まるで春のような天気であった。
電車で3駅目、駅を降りるとすぐに赤レンガ作りの校門が目に入った。
蔦の葉が塀づたいに絡まり、ところどことから見えるレンガはしっかりと
積み重ねてあるようだった。
校門を抜けるとサイドにはイチョウ並木がずっと続いていた。
どこまでも続く並木は私をどこか遠くの街に連れて行ってくれるようだった。
並木のすぐ横のテニスコートでは威勢のいい掛け声が飛び交い
ボールの弾む音と調和していた。
「そこ、なにやってるのよ!!しっかりしなさい!」
「はい、先輩。すいません…」
黒い長髪の女の人が怒鳴っている。
「ちょっと〜、もう試合近いんだから、みんな集中してよ〜」
私は歩くのをやめて、ふとテニスコートに目をやった。
すると、金網越しにさっきの女の人と目があってしまった。
(すごく整った顔…美人だ)
私はとっさにペコリと会釈すると、
その彼女はしたたる汗を拭きながら、こちらに目を向け、
不思議そうな様子で見ていた。
急に恥ずかしくなり、私は駆け出した。
なにか見透かされる目であった。大きく透明で真っ直ぐな…
「どうしたの?梨華?」
「ん?さっきさ〜、むこうのほうで私を見ていた子がいたんだ…」
「へ〜…この学校の子?」
「いや、なんだろ…違った。なんか不思議な子…」
「不思議な子?」
「そう…うまくは言えないけど…何か抱えてる感じ。
なんかあの人みたいな感じ…あの人が持ってる感じがする…」
「あの人?…あれ〜?梨華って彼氏いなかったんじゃないの〜?」
あの人って誰よ?ねぇ…」
「違うんだって、そんなんじゃないよ…
さ、練習、練習…」
「あ〜、もういつもはぐらかすしぃ〜…」
梨華はもう一度、不思議な子がいたところに目をやり、練習にもどった。