狼から来ました

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826ハナゲ ◆hANagEBvfs
――― 26話 夏のソナタ ―――


7月の、日差しが眩しい午後のカフェテラス。
白いサマーセーターに、サラサラとした茶髪、メガネを掛けた
甘いマスクの男の眼差しは涼しげだ。
うつむきながら紅茶に口を付ける女性は、男とは対照的に影が薄い。
いや、薄いどころか無惨にさえ見える。
目には隈ができ、肌はカサつき、顔色は血が通っていないかのように青黒い。
だが、男を見る瞳だけは情熱的に輝いていた。

「残念だが、君とはもう会わない事にしました」

「そう…」

「今でも、君を想う気持ちは変わりません…」

「本当?」

「ええ、でも今日でサヨナラです」

「…分かったわ。でも、最後にもう一度だけ抱いてください」

女の懇願に、一瞥をくれただけで椅子から立ち上がった男は首を振る。

「それは、お断りします。貴女の体は汚(けが)れ過ぎてしまった」

「それは、貴方の生活費を稼ぐ為に…!」

「僕は汚れた女性は嫌いです。特に貴女のように体を売る女性には触りたくも無い」

「そんな!…あ、貴方がしろって…!」
827ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/26 23:59 ID:Aee/f3Ao

「サヨナラです」

立ち去る男の背中に ぶつかる女の絶叫。

「ヨン様ぁぁああ!!」

叫ぶ女は近い将来自ら命を落とすだろう…

そのように暗示を掛けているからだ。

男は自ら蛇眼と名付けた、人を操る術、『邪眼』の持ち主だった。

蛇眼に魅入られた女は、全てをこの男にささげる。
唇から発する『言霊』を蛇眼に乗せて女を虜にし、
体がボロボロになるまで、自分に尽くさせる。
体を売り、クスリに手を付け、寝る事も惜しみ男の為に働き捨てられる。
この男に食い物にされた女は数え切れない。

そして男は、警視庁から指名手配を受けた。
さすがに裏社会からも目が付けられ、東京に居られなくなり、
逃亡しながら辿り着いたのが魔界街だったのだ。
この街なら、日本の法律もヤクザも手が出せない。

そして、魔界街最初の餌食は、今捨てた女だ。

唇の端だけを吊り上げて笑う、ヨン様と呼ばれた男は
次の獲物を物色する事に決めた。



828ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/27 00:01 ID:rbS3qT4k

『スナック梨華』の前に一台の高級リムジンが止まっている。
藤本美貴は何故か毎晩のように通う常連客になっていた。
バーテンダーの吉澤と楽しい一時を過ごすのが目的だが、
ママの石川を からかうのも楽しかった。

「オマエ、変わったな…」
吉澤がグラスを拭きながら藤本に話しかける。

「そうかしら?」

「…ああ」

確かに藤本は変わった。
何が変わったと聞かれれば、雰囲気が変わったとしか言いようがない。
以前のようにトゲトゲしさが無くなり、高笑いもしなくなった。
見た感じはそれだけなのだが、何かが違う。
身にまとうオーラが違っているのか、
それとも、ただ単に大人になっただけなのか…

「ふふ、それは貴方にとって嬉しい事なのかしら?」

「…そうかもしれん」

目を閉じてフッと笑う吉澤に、薄く微笑み返す藤本。

「オマエには白い薔薇が良く似合う」
吉澤が藤本のセーラー服の胸のポケットに挿してある
一輪の白い薔薇を差して、藤本を見詰めた。

「まぁ、お上手ねぇ」
藤本の頬が薄ピンク色に染まる…
829ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/27 00:03 ID:rbS3qT4k


そんな雰囲気の2人を歯噛みしながら睨み付け、
テーブルで他の客を接客する石川。


カランカランと音を立ててドアが開き、一人の男が入ってきた。

「いらっしゃいませ」

カウンターに座る男に、吉澤が注文を取る。

「あの女性と同じ物を…」
椅子を2つ空けて座る藤本のカクテルを見て、同じ物を注文する男。

「かしこまりました」

出されたカクテルに口を付け、
「素敵な味です」と吉澤に話しかける男は、
勿論 間接的に藤本に話しかけているつもりだ。


店の前に横付けしてある、リムジンを見て入店したのだが、
その車の持ち主が、お嬢様風の女子高生だと一目で分かった。
店の中で、只一人、違ったオーラを醸し出していたのだ。
それは、高貴な薔薇のオーラだった。

次の獲物を探していた、蛇眼の持ち主は歓喜に震えた。
こういう お高くとまった女を自分の奴隷にするのが唯一の楽しみなのだ。

830ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/27 00:05 ID:rbS3qT4k

蛇眼の威力を発揮するには、視線を合わせて言霊を発せばよい。
男が話しかけようとした所に、接客が終わった石川が入ってきた。
藤本と男の間に座り、藤本に向かって
「いつまで居るつもりよ!」と毒づく石川は男に向かって
「いらっしゃいませ〜」と営業スマイルを見せた。

「ほう…」
男は石川の美貌に気付き、ニヤリと微笑む。

「素敵な方だ」
そう言いながら石川の瞳を見詰める。
藤本を落とせなかった場合の保険にと、石川に蛇眼を仕掛けたのだ。

「僕はペィ・ヨンジュンと言う者です」
ポーッと頬を染める石川の肩越し、藤本にも名乗ったつもりだ。

「まぁ、じゃあヨン様とお呼びしてよろしいのかしら。私はママのリカと言います」
天使の微笑みと自賛する、マダムキラーの微笑みは
蛇眼の威力を持って石川を呆気なく落とした。

「で、そちらの方は?」
藤本に話を向けるが、石川はプイッと藤本の事は無視する。
男の下心に気付き、嫉妬したのだ。

「おやおや、どうしたんです?」
「もう、意地悪な人」
石川は男にしなだれ掛かり、二の腕をキュッと捻った。
831ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/27 00:06 ID:rbS3qT4k

その光景に、ハァ?と、吉澤が咥えていたタバコをポトリと落とし、
それを拾い上げた藤本が、また吉澤に咥え直させた。

「あちらの邪魔をしてはイケなくてよ…」
藤本が店のマッチを擦って、吉澤のタバコに火を点ける。

「私にタバコの火を点けさせる事が出来るのは、貴方だけなんだから」
フッと甘い吐息でマッチの火を消す藤本は、魅惑的な瞳で吉澤を見詰めた。

「…ハハ」
「ウフフ…」
何故か顔を赤くする吉澤に、カクテルを傾ける藤本…

絵になる大人の関係と言った所か…
藤本のセーラー服を除けば…


「僕達も お仲間に入れてください」
石川に しなだれ掛かられたままの優男は、
カクテルグラスを軽く上げて、藤本と吉澤の間に割り込もうとする。

「……」
無視する藤本。

「お願いします」
男はカウンターに身を乗り出して、藤本に笑いかけた。

こんな高貴な雰囲気を持つ女は出会ったことがない。
男は、どうしても藤本を手中に収めたかった。
832ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/27 00:08 ID:rbS3qT4k

だが…

「私に話し掛けないでくださる?無粋ですわ、見て分からないの?」
吉澤との雰囲気を壊されたくない藤本は、視線も合わさず見下すような物言いだ。

「そのような悲しい事を言わないでください。薔薇のごとく美しき人よ」

余りにも臭い台詞に吉澤が下を向いてプッと噴き出し、藤本が目を閉じて軽く首を振る。

「お願いします、せめてお名前だけでも…」
内心ムッとしながらも、微笑みを絶やさない男は
立ち上がり、藤本のもとに歩もうとする。


その後頭部に銃が突きつけられた。

「下衆め、お嬢様に近付くな」
リムジンの運転手が何時の間にか現れ、近付き、男に銃口を当てていたのだ。

「岡村、お止めなさい」
岡村と呼ばれた、猿みたいな顔の小柄な運転手兼ボディガードは、
藤本に一礼をして引き下がる。

「今日は帰ったらどうだい?」
ヤレヤレと溜め息を付く吉澤が、男に帰るように促した。

「分かりました、今日のところは退散します。
でも、僕は諦めませんよ。貴女みたいに美しい人は初めてだから」

肩を竦(すく)めながらも自信有り気な笑みを絶やさない優男(やさおとこ)は
ペコリとお辞儀をして、店を出た。
833ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/27 00:09 ID:rbS3qT4k




「何だったんだ?…変な男だったな」
いくらなんでも あの男は自分に酔いすぎだろ、と、少し呆れ気味の吉澤。

「変?それどころじゃないわよ。見てみなさい、石川さんを」
冷ややかに石川を見る藤本。

石川は頬を染めながら、男が出て行ったドアを見詰めている。
その表情はどこか悲しげだ。

「あぁ、ヨン様…」
「ハァ?」
妙に艶かしく体を捻る石川に、唖然とする吉澤。

「おい、大丈夫か?」
カウンター越しに肩を揺する吉澤の言葉にハッとした石川は、
キョトンとしながら、夢から醒めたように少しの間 呆けていた。

「おいおい、しっかりしろよ」
「あ〜ん、もう、よっすぃ」
吉澤にペチペチとホッペを叩かれた石川が、その手を取って頬擦りをする。

どうやら元に戻ったようだ。
吉澤が、長い溜め息をついた。



834ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/27 00:10 ID:rbS3qT4k

「岡村、いますか?」
少し考えてから、藤本は岡村を呼ぶ。

「ハッ、ここに」
外に出た筈の岡村は、藤本の言葉に何時の間にか姿を現し、頭を垂れた。

「今の男、着けなさい」

「かしこまりました」
一礼をして、踵を返す岡村。


心臓を抜かれた事件以来、藤本に付けられた岡村は
元々藤本の父親のボディガードの中で一番優秀な男だ。
もう、二度と娘を危険な目に遭わせたくない藤本専務が
親バカ振りを発揮したのだが、岡村というボディガードに
守られた藤本は、親の気持ちも知らずに危険に飛び込む。

「オマエの運転手も変わってるな」

「ふふふ、優秀な運転手よ」

携帯で代わりの運転手を呼ぶ藤本は、吉澤にウィンクして見せた。







835ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/27 00:11 ID:rbS3qT4k

「あっちぃ!」

元朝娘市駅のバスターミナル跡に造られた、
噴水公園のベンチに腰を下ろした矢口真里は、夏の太陽によって
熱を持った腰掛け部分の熱さに驚き腰を上げた。

「ハハハ、そんなに熱いの?」

ソフトクリームを買ってきた安倍なつみが、笑いながら矢口の分を渡した。

「サンキュ」

今日の学校は午前中に終わり、MAHO堂に直行するのも
詰まらない2人は、今は公園となっている元朝娘市駅で
時間を潰していたのだ。

ペチャクチャと、取りとめもない話しをしていると、
2人の前にサマーセーターを着た男が立って、
優しそうに微笑んでいる。

「地元の高校生ですか?」

「…はい」
訝しげな矢口と安倍。

「いや、旅行で来たんだけど、やっぱり魔界街は不安で…」

「一人で旅行ですか?」

「はい、できれば案内してくれたらなと思いまして。
あ、勿論 お礼はしますよ」
836ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/27 00:12 ID:rbS3qT4k

どうしようか、と、顔を見合わせる矢口と安倍。

「僕はペィ・ヨンジュンといいます」

「外国の人ですか?」

「はい、朝鮮半島から来ました」

『スナック梨華』が開店するまでの暇つぶしにブラブラしてたら、
藤本と同じ制服の女子高生が目に付いた。
時間は、まだ有る。
日本の女は全て、穴の開いてる糞袋だ。
陵辱しまくって何が悪い。

この男の信念だ。

優しく微笑む男の蛇眼は矢口を見詰めた…





837ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/27 00:14 ID:rbS3qT4k

男が魔界街の危険な所も見てみたいと言う事で、
連れて来たビルの廃墟で事件は起きた。

危険と言っても、矢口、安倍のレベルだから、
そんなに危険な所ではない。

せいぜい、夜に人影が歩き出すとか、妖物の類が徘徊するといった
低レベルの危険建物だ。

男は「危険だからダメだよ」と注意する矢口と安倍を無視して
廃墟の中に入っていった。

「君達も来なさい」
男の言霊が矢口の脳に響き、蛇眼が体を束縛する。

男は奇異に思った。
矢口は蛇眼で呪縛できたが、安倍は掛かってはいないようだ。
だが、術に掛かりにくい女も今までに何人かは居た。
安倍もその類だろうと思った。
現に矢口と共に建物の中に入ってきたからだ。


「何故、君達をココに案内させたか分かりますか?」

微笑を絶やさない男は、机等が散乱するコンクリートに囲まれた
部屋ともいえない部屋に2人を連れ込み、振り向いた。

メガネの奥から覘く涼しげな瞳は、よく見ると不気味だ。
と言うより、粘っこくて嫌らしい、邪淫が透けて見える。

唇の両端を吊り上げると益々、淫らな笑みが鼻につく。
838ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/27 00:15 ID:rbS3qT4k

「僕は君達のような、女の子を食い物にする お化けなんだよ」

「ハァ?ど、どういう事だべ?」
嫌悪感を剥き出しにした安倍が、矢口の袖を取って後ずさりをする。

「僕のために、君達の全てを捧げて欲しいって言ってるんだよ」

「な、何言ってるべさ!矢口、帰ろう!」
矢口の腕を取る安倍の手を振り払う矢口。

「…ごめん、なっち」

「矢口…?」

「おいら、この人、好きになったかも…」

そう言いいながら、矢口は男にトコトコと近付いていく。


「それで、いいんだよ真里」

男が矢口をそっと抱きしめる…

甘い匂いが辺りに充満しだす…

男の武器は蛇眼と言霊だけでは無かった。

体から発する、女性を淫らに狂わす淫靡フェロモンが最終武器なのだ。
この『ヨン様フェロモン』を嗅げば、蛇眼が効き辛い安倍も落ちるだろう。
男は取り合えず、矢口の淫らな恥態を安倍に見せ付けて、
安倍を落とす事にした。
839ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/27 00:17 ID:rbS3qT4k

「わぁぁあああ!」
ギュッと抱きしめると、矢口が叫んだ。

今まで感じた事も無い快感が、股間と脳髄を痺れさせたのだ。

「その机に両手をつきなさい」
男の言葉に従う矢口は、自分でも訳が分からず、
机に手をついて尻を突き出した。

「君は、まだ処女かい?」
言いながらセーラーのスカートを捲り上げ、白い下着を足首まで下ろした。

「や、矢口…」
愕然と矢口を見る、安倍の膝はガクガクと震えている。

「ほう、もう濡れてるのかい?」

ニヤつく男は、矢口の尻に右手を持っていき、股間を中指で撫でた。

「わ!わぁぁあ!!」
ビクンと体を振るわせた矢口の内股は、自分の体液で濡れ光っている。
濡れた中指をベロリと舐める男は、安倍に向かいイヤらしく笑いかけた。

「真里が終わったら、君の番だよ。それまでに自分で慰めていなさい」

男が再び矢口の尻の割れ目に指を持っていく。

「わぁ!わぁあ!わわわぁぁあああ!!」
安倍に喘ぎ声を聞かれたくない矢口は、必死にビックリしたような叫びをあげた。
840ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/27 00:18 ID:rbS3qT4k

「や、矢口!」

「わぁあ!なっちぃ!見るな!おいらを見るなぁあ!!」

必死になって頭(かぶり)を振る矢口の体がブルブルと振るえ、
股間からは湯気が立ち上り、ピチャピチャと聞きたくない水音が室内に響く。


「も、もう止めてぇええ!!」

安倍は、膝が震えて立っているのがやっとで、
矢口を助け出そうにも、歩ける状態ではなかった。
安倍自信も、男の淫靡フェロモンによって、濡れていたのだ。

「では、一回目のフィニッシュとまいりましょうか…」
充血した目をギラつかせる男は、股間から指を抜き、
改めて突き入れようと五指を淫らに動かした。


841ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/27 00:19 ID:rbS3qT4k

そこに…

「いいかげんに止めたらいかが?」

3人目の女性の声が室内に響く。

凛として美しい声は、誰のものかを 男に直ぐに分からせた。

「ほう、貴女は…」

室内の入り口に立つ藤本美貴は、男を蔑むように見詰める。

男は、本性剥き出しの下卑た笑いに顔が歪む。
この部屋には自分の淫靡フェロモンが充満し、自分を直視する藤本に
蛇眼を仕掛けるには充分だ。
と言うより、もう蛇眼は送っていた。

「貴方には、その薄汚い笑いがお似合いよ」
蛇眼を送り続ける男の視線を真っ直ぐに受け止める藤本の瞳は、
冷徹でいて、限りなく透明な光を放っている。

「高貴な貴女の微笑みには敵いませんが…」
矢口を離し、藤本に向き直る男は、自慢の天使の笑顔を作る。


「や、矢口!」
「…な、なっちぃ」
バタバタと這いながら矢口に近付く安倍は、ハァハァと息を付く矢口を抱きしめた。

抱き合いながら泣きじゃくる安倍と矢口を冷ややかに見下し、
藤本は静かに男に近付いていった。
842ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/27 00:21 ID:rbS3qT4k

「藤本…気を付けるべさ。アイツは…」

「アイツは…何?」

「あぅ…」

言いよどむ安倍は、何故こんな事になったのか分からないし、
自分の体を襲った恥感が恥ずかしくて言葉に詰まった。

「もう少し、遅れてくれば良かったかしら?」

その言葉の意味を知り、顔が真っ赤になる安倍と矢口。
冷たい視線でクスッと笑う藤本は、矢口の痴態を
呆れながら黙って見ていたのだ。


「ほう、君達は知り合いでしたか…」

藤本と安倍の会話を黙って聞いていた男は、
藤本の肩に手を掛けようとして、スッと体を避けられ 空かされた。


「つれない人だ、こんなにも美しいのに…」
すでに淫靡フェロモンと蛇眼と言霊を使っている。
男には余裕があった。
藤本は確実に術に掛かっている筈なのだ。

843ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/27 00:22 ID:rbS3qT4k

男は藤本と同様に安倍と矢口を見下す。
こんなションベン臭い貧乏娘とは明らかに違う
藤本から漂う高貴な佇まいは、男の欲を掻き立てる。
藤本を性奴隷にして、財産を食い尽くす。
下衆な欲望は、男を饒舌にする。

「この娘達が、草むらに佇む名も無き花なら、
ただ風に そよいでいればいいだけの事…
だが、貴女は違う」

「どういう事?」

「貴女は白き薔薇の定めに生まれた…
華やかに、そして、激しく生きる為に生まれたのです…
僕という存在を得て」

藤本の胸ポケットに差してある一輪の白い薔薇…

藤本は そっとその薔薇を取り、男のサマーセーターの胸に挿した。

「光栄です。貴女のような気高き薔薇は美しく咲くために存在している…」

男は、ここぞとばかりに超天使の微笑みだ。

844ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/27 00:23 ID:rbS3qT4k

「私…白い薔薇が赤く染まる瞬間が好きですの…」

藤本が初めて男に微笑み返す…


「そして、その薔薇が美しく散る瞬間も…」

微笑み返した理由は、死出の はなむけ…


「素敵な言葉です…」
藤本の言葉の意味を知らない男は、藤本に口付けしようとして
足を踏み出そうとするが、自分の意思が無いように体が動かなかった。


「貴方の事ですのよ」

薄く笑う藤本は、男の胸に咲いた薔薇を見詰めていた。


「…?」

自分の胸に咲いた薔薇を見る、男の顔が愕然と固まる。


白い薔薇は赤く染まっていた…

体内に根を張り、全ての血を吸い尽くす藤本の白い薔薇…

吸い尽くした血で赤く染まった薔薇は、文字通り美しく散った…
845ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/27 00:30 ID:rbS3qT4k

「…俺の術…効かないのか…?」

うつ伏せに倒れ、白蝋のような顔になった男の最後の言葉…


「術?…なんの事ですの?」

男を見下ろす藤本の顔はピンクに染まり上気している…


だが、その火照った顔を見る事は出来ない…


男は顔を上げる事も無く、絶命したのだ…




「岡村」
藤本の呼びに影のように現れる、猿(ましら)のような従者。

「体が、火照ってます…家でプールの用意を…」

「ハッ」

「その前に…」
藤本は、泣きじゃくる同級生をチラリと見る。

「この二人を家に送って差し上げなさい」

藤本は今日初めて同情の念を持って、優しく微笑んだ…
846ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/27 00:32 ID:rbS3qT4k
今日はココまでです。ちょっぴりエロですまん。
次回更新も未定って事で・・・      では。