――― 24話 修学旅行3日目 ―――
3日目の朝食時間の30分前。
修学旅行中、紺野のオニギリ以外、ろくな物を食べてない浜口は我慢できず、
ホテルの従業員が大広間に朝食を運んでいるのを横目に、
オヒツから、ご飯を勝手によそって塩を振って食べていた。
そこを江頭に見付かった。
「浜口!キサマ!何してる!」
「あ…いや、まだ一杯も食べてへん…」
「ババババババッカモ〜〜ン!!オマエは今日も飯抜きだ!!」
「えっ!ウソやん!」
「ウソじゃない!」
「……」
こうして、浜口は修学旅行中、
一食も皆と卓を囲む事が出来ずに終わる事になった。
大坂に着いて、お好み焼きの昼食時間も
一人でバスの中で時間を潰す事になる。
すがるような、浜口の小さくつぶらな瞳も、
さすがに ここまで来ては同情を引く効果が薄れ、
皆呆れて、掛ける言葉も無くバスを降りた。
「あかん…さすがにポテチも飽きてきたわ」
飽きたと言いつつ、仕方なしにポテチをポリポリ食べながら、
紺野から貰った お守りを取り出して見る。
「全然、効かへんかったな…」
窓から見える、雲がお好み焼きに見えた…
そうは言っても、午後の3時から、
3時間の自由行動に期待しない筈が無い。
大坂御堂筋の道頓堀商店街。
その商店街の近くの『浪速旅館』に荷物を置いた朝娘市中学一行は、
江頭の注意事項を聞いた後、6時まで自由行動になった。
勿論、飯田と麻琴も、この旅館のスィートルームに宿泊する。
「さて、どこに行こうか?みんな決まってるの?」
旅館のロビーで、辻班に合流した飯田が、皆を見回す。
「別に決まってないけど…」
そう言いつつ、武田が麻琴に、着いて来いと合図を送る。
「う、うん」
じゃあね と、恥ずかしそうに皆に手を振りながら
街に出て行く武田と麻琴。
「やるなぁ、真治」
感心しながらも、ソワソワしだす 有野と加藤。
「アンタ等なにソワソワしてんねん?アホちゃう?」
呆れ顔の加護は、「ねぇ?」と紺野に同意を求めた。
「ハハ、そうですね」
はにかむ紺野をチラチラ見ていた浜口が
勇気を出して、ズイと紺野の前に出る。
「な、なに?優君?」
ちょっとビックリする紺野。
「あ、あのなぁ、紺野…お母ちゃんのお土産、一緒に探して欲しいんやけど…」
顔を真っ赤にしながら、紺野に手を差し出して頭を下げる浜口。
「なんです?その格好?」
「お願いします!」
深々と頭を下げて手を差し出す。
http://blanch-web.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/data/IMG_000057.jpg 「ね、ねるとん や…」
「告白タイムなのです」
「ハハ‥やるねぇ」
加護、辻、飯田がポカンと口を開ける。
「…あ、あの」
困惑の紺野も真っ赤になる。
「お願いします!」
手を差し伸べつつ、ジリジリと前に出る浜口は必死だ。
「…仕方ありませんねぇ」
そう言いながら、紺野は浜口の手を取った。
「よっしゃあ!やったでぇ!」
ようやく、お守りの効果が出てきて、会心のガッツポーズを取る浜口と、
その浜口を見てクスクス笑う紺野は、武田達に続き街に消える。
「あちゃー、成功したやん」
「ぐっちょんの恋が実ったのです」
「ちょっと、感動的だな」
唖然としながらも、感心する加護、辻、飯田。
「よし、有野、行け」
小声の加藤に、肘で突付かれた有野の番。
「お、お、お、お、お願いします!」
意を決した有野も、浜口に続き 加護の前に飛び出し手を差し出した。
「はぁ?ウチかい?」
ポカンと口を開ける加護。
「お願いします!」
有野も必死だ。
そこに…
「アホ、なにやってんねん」
有野と加護の間に入った、矢部が顎をしゃくって
「ちょっと、付き合えや」
と、加護を促す。
「え?あ、う、うん」
ポケットに手を突っ込んで玄関を出る矢部に
チョコチョコと着いて行く加護。
「やべっちが あいぼんを かっさらったのです!」
「…すごい」
何故か感動する、辻と飯田。
ガックリと膝を付いて、出て行く2人を見送る有野の頭を
ポンポンと叩いた加藤は「オマエじゃ無理だったんだ」と侮蔑の笑みだ。
「さてと…」
ウンウンと咳払いをして、学生服のカラーを直す加藤は飯田に向き直る。
「…じ、じゃあ、私は のんちゃんと甘い物食べに行くから」
不穏な空気を感じた飯田は、そう言って、辻の手を取り 走り出した。
「えっ?」
目が点になる加藤。
「バイバイなのです!みんな6時には帰るのです!
これは班長命令なのです!」
飯田に手を引かれた辻が、残った3人に手を振って出て行く。
「…そ、そんな…」
呆然と佇(たたず)む加藤は、
キョトンと立っている高橋愛に気付き、チラリと盗み見る。
「あ、あのぉ…愛ちゃん?」
「なに?」
「俺と‥いや、俺と有野の2人を愛ちゃんのお供に…」
「加藤君は飯田さん狙いじゃなかったの?」
「い、いや!めっそうもございません!」
「本当?」
「ほ、本当です!」
そう言いながら、土下座をする加藤。
「ほら、オマエも土下座するんだよ!」
加藤は、振られたばかりで呆然としている有野の頭を押さえて
一緒に土下座をさせる。
「お願いします!この通りです!」
床に頭をこすり付けて お願いする2人の間を通り抜けて、
高橋はキャップを深々と被り、サングラスをかけて、ニコリと笑った。
「あ、愛ちゃ〜ん…」
高橋の微笑みを「OK」と受け取った加藤は、涙を流さんばかりに喜ぶ。
考えてみれば、アイドルと街を歩けるなんて夢のようだ。
「ゴメンね」
「へ?」
出た言葉は加藤を固まらせる。
「私、一人のほうが気楽なの」
「…」
タタタと駆け出して、玄関から消える高橋を呆然を見送る『振られ2人組み』。
「ち、ちっくしょう!!」
無情の加藤の叫びと共に、
加藤のビンタを食らった有野の頬が、パーンとロビーに響いた…
>「大坂×」御堂筋の道頓堀商店街。
「大阪○」御堂筋の道頓堀商店街。
間違えちゃったぜ。