狼から来ました

このエントリーをはてなブックマークに追加
724ハナゲ ◆hANagEBvfs

――― 23話 修学旅行2日目 ―――


「おい、浜口、朝食はどないすんねん?」
「…朝は、ええわ」
布団を被ったままの浜口が、心配して聞く矢部に、気だるそうに答える。

「なんや、まだ腹痛いんか?」
「…すまん」
昨日、鹿センベイを調子に乗って食べた
浜口の体調は戻らず、朝食を取らずに京都観光に向かう。


そして、事件は清水寺で起きた。

「おお、これが清水の舞台か!」
「あんま大した事あらへんな」
「ほんまや、落ちても大丈夫やろ」
「アホ。落ちたら死ぬわ!」

高さ13メートルの清水の舞台でワイワイ騒ぐ、ハンサム軍団。

「優君、危ないですよ」
「大丈夫や」
心配する紺野を余所(よそ)に、
またしても調子に乗った浜口が手すりから身を乗り出して、
手をかざして風景を眺めた。

昼近くになって腹痛が治った浜口は、
昨日の夜から何も食べてない事を忘れてしまって、
自分の体力が落ちている事に気付いていない。
725ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/04/07 18:26 ID:eM4/ld91

「危ないから、はしゃがないで下さい」
「大丈夫やって、紺野」

身を乗り出しすぎた所で、クラッときた。

「わぁあ!」
バランスを崩した浜口は、清水の舞台から落ちた。

「わっ!優君!」
「バカ!浜口!」
「ぐっちょん!」
「はまぐちぇ!」

身を乗り出して、転落する浜口を見る辻班。
その、辻班を飛び越えて清水の舞台から飛び込む、もう一人の影。

「なんや!」
「あれは!」
「鳥だ!」
「弾丸や!」
「いや、飯田さんや!」

高さ13メートルの懸崖に縦横に柱を組んで張り出した
通称『地獄止め』 を蹴って、落下する浜口に追い着いた飯田は、
浜口を抱きしめて、身を捩(よじ)って自分の背中を地面に向けた。

ドンと落ちた地面から1メートル程バウンドして、バタリと大の字になる飯田。

「…ぁゎゎゎゎ」
飯田をクッションにして助かった浜口は、
ピクリとも動かない飯田を呆然と見ている。
726ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/04/07 18:27 ID:eM4/ld91

「わっ!」

その飯田の指がピクッと動いた。

「わわわわ!」

パチリと目を開け、ムクリと起きる飯田。

「大丈夫だった?」
平然と立ち上がった飯田は、土埃を落としながら浜口に聞く。

「そ…それは、こっちが聞きたいがな…」
浜口の腰がヘナヘナと抜け落ちた。


「ありゃ?」
飯田が見上げると、江頭をはじめとする朝娘中学の教師達と生徒達が
舞台の手摺りから身を乗り出して、こちらを見ている。
その顔は全員、顔面蒼白になっていて、アングリと口を開けていた。

飯田は照れ笑いで「大丈夫だよ」と、手を振ったが、
江頭は、そのまま泡を吹いて ぶっ倒れた。





727ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/04/07 18:31 ID:eM4/ld91
「ババババババッカモ〜〜〜ン!!迷惑ばかりかけやがって!!」
昼飯を取るために移動するバスの車内で、江頭のカミナリがバリバリと落ちる。

「浜口!オマエは今日の昼食と夕食は抜きだ!!」
落ちたカミナリは浜口の空きっ腹に響いた。

「こ、紺野ぉ…」
紺野をすがる様に見た浜口は、プイッとソッポを向かれて、ガックリと肩を落とした。

「ぷっ、ありゃ完全に振られたな」
「最初っから見込みなんて、あらへんとちゃうの」
「さすが、HAMAGUCHEの異名を取るだけあるぜ」
クスクス笑うハンサム軍団。

「オマエ達も連帯責任で、今日の昼飯は抜きだ!」
江頭はハンサム軍団をギロリと睨み付ける。

「げっ!」
「ウソやん!」

それを見て、クスクス笑う辻、加護、高橋。

「何笑ってる!辻班全員だ!」
江頭は腕組みをして辻達を睨んだ。

「えっ!」
「ウソ!」
「…」
目が点になる辻達。

「…す、すまん…」
消え入りそうに謝る浜口を、辻班全員が睨み付けた…
728ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/04/07 18:32 ID:eM4/ld91






「のんちゃん達、来てないね」
昼飯処のレストハウスで極上ステーキ定食を食べながら、
朝娘中学の団体を横目で見る飯田は、辻達を探した。

「さっきの件で怒られたんじゃないですか?」
麻琴がモリモリとステーキを口に運びながら、
キョロキョロと探す振り。

小川麻琴は、昨日と今日で、すっかりと元気を取り戻していた。

「まぁ何処かで食べてるんだろう、こっちはこっちで楽しもうぜ」
「はい」

ニッと笑う飯田は、更に松坂牛ステーキを追加注文した。






729ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/04/07 18:34 ID:eM4/ld91

昼食を終えてバスに乗り込む朝娘中学の生徒達。
辻達のバスの後ろに付いて発進する飯田のコルベット。
後部座席に陣取るハンサム軍団が窓をドンドン叩いた。

「うん?なんだアイツ等。泣いてるんじゃないか?」

前を走るバスの後ろの窓を叩く加藤と矢部と有野は
涙目で何かを訴えているように見える。

「きっと、飯田さんを見て嬉し泣きしてるんでしょう」

辻と加護も加藤達の間に割り込んで、
窓を叩いて何かを訴えている。

「あぁそうか。浜口って生徒を助けたから、
ありがとうって言ってるんだな」

昼食時間、罰としてバスに閉じ込められた辻班が、
昼飯抜きになったと、必死に訴えている事を知らない飯田と麻琴は、
「おーい!」と笑顔で手を振って答えた。





結局、浜口のせいで、その日の辻班の行動は教師達の監視付きになり、
二日目の班行動は自由も無く、重苦しい物となってしまい、
浜口の辻班での立場は、益々惨めな物となってしまった。


730ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/04/07 18:38 ID:eM4/ld91

宿に帰り、夕食時間を一人、部屋で反省する浜口。

コンコンとノック。

「…誰や?」

黙って部屋に入ってきた紺野の手には、
皿に乗ったオニギリが2ヶとタクワンが3切れ。
浜口を不憫に思った紺野は、皆に内緒で、
オニギリを握って持ってきたのだ。

「こ、紺野…」

「みんな には内緒ですよ」

浜口は、修学旅行の前日に家で食べた夕食から今の時間まで、
鹿センベイとポテチ以外何も食べていなかった。

約二日ぶりに食べた、米は腹にしみる。

「美味い…美味すぎるで…」

何故か涙が出てきた。


「あまり心配させないで下さい」

微笑み交じりに溜め息をつく紺野の顔。

ウンウンと噛み締めるように頷く浜口は、
自分の顔が真っ赤になっている事に気付いていない。
731ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/04/07 18:39 ID:eM4/ld91

「…じゃあ」

皿を持って部屋を出る紺野を見送った
浜口は「うしっ!」と小さくガッツポーズを作った。








「浜口、オマエ何ニヤついてんねん。腹立つわ!」

夕食を終えて、ゾロゾロと帰ってきたハンサム軍団は
妙にニヤニヤしている浜口に気付いた。

「な、なんでもあらへんがな。さ、風呂行こうや」

バンバンと矢部の肩を叩いて、
「ハッハッハ」と高笑いで部屋を出て行く浜口。

「なんや?アイツ?」

矢部が加藤と顔を見合わせて、「解からん」と首を振った。





732ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/04/07 18:40 ID:eM4/ld91

夜…ハンサム軍団は、何もする事が無く、そそくさと布団を敷き
ゴロリと横になってダベっている。

監視対象になった矢部達の部屋の前には、
江頭が椅子を持ってきて陣取り、見張っているのだ。


「ちっ、ついてねえなぁ!」
ブツブツ文句を垂れる加藤。

「…お、俺、明日の自由行動に掛けるわ」
横になった有野が、天井を見ながら呟いた。

三日目の大坂は、午後の3時から3時間の自由行動が有る。

「何を掛けるんや?」と矢部。

「か、加護を誘ってみようと思う…」

「は?」

「…ちょ、ちょっと ええなぁと思うてんねん…」
有野は真っ赤になっている。

「オマエ…ハハ‥まぁ、頑張れや。
…そうかぁ、じゃあ俺はスーパーアイドル愛ちゃんでも誘ってみようかな」
そう言って、矢部はタバコを取り出して立ち上がり、
火を点けて紫煙を窓から外に吐き出す。
733ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/04/07 18:41 ID:eM4/ld91

「よしっ、ほなら俺は紺野を誘うで!」
自信有り気な浜口。

「オマエは無理ちゃう?」
突っ込む有野も、何故か自信有り気だ。

「ほっとけ」
先程の紺野との出来事は、浜口に余裕を持たせた。


「待て待て待て…って事はよ、有野は加護だろ。浜口は紺野。
真治は麻琴って娘で、矢部は愛ちゃん…」
指折り、人数を数える加藤は、
「よっしゃ!」と笑顔でガッツポーズ。

「なんやねん?」
矢部がタバコを吸い終わり、戻ってきた。

「俺は飯田さんって事だよな?な?」
ニヤニヤと一人で納得する。

「イヤッホウ!なんか楽しくなってきたぜ!」
加藤は嬉しくて、布団の中で手足をバタつかせた。

「辻は どないすんねん?」と呆れ顔の矢部。
「あんなガキみたいなのは、ほっとけって!」

加藤の笑い声がゲラゲラと響く京都の夜…

修学旅行最終日は、波乱を含んだ旅になりそうだった…