――― 17話 KEI後日談 ―――
朝娘市警察病院。
以前、パパラッチ田代の遺体が司法解剖された病室に
保田圭の死体がベッドに横たわっていた。
ベッドの横には大型の機械が静かに動いていて、
機械から伸びる2本のチューブが保田の死体の左胸に収まり、
透明なチューブからは、赤い血液が流動しているのが見える。
機械は大型の血液ポンプだった。
微かに動く保田の胸は呼吸している。
つまり、保田は生きているのだ。
保田の傍(かたわ)らに立つのは田代の時と同様、
サイコメトラー平家みちよ…
飯田が吉澤に、保田を殺すのを譲る代わりに付けた条件…
----「出来る限り綺麗に殺せ」----
その理由が此処に有った。
「さてと、貴女の記憶を全て貰うよ…
終わったら、そのチューブを抜いて機械を止めてあげる」
意識の無い保田の額に手をのせる平家の手の平は
肌と融合するかのように溶けて沈む。
「掴んだわ」
脳味噌を掴んだ平家の脳内に保田の記憶が全て入り込み、
必要な情報だけを選別し、それを引き出す。
死んでいる人間から情報を取り出すのと違い、
生きている人間から記憶を引き出すのは容易で、
引き出される情報にも雲泥の差がある。
殺し屋の情報が欲しい飯田が、吉澤に頼んだ殺しの条件は
この事を見越してのことだったのだ。
「凄い…KEIは『人造舎』の人間だったのね」
今まで謎のベールに包まれていた『人造舎』の深部の情報が
引き出せた喜びに、滑(ぬめ)る唇をペロリと舐める
平家の表情は恍惚のソレだ。
「この情報が有れば一生遊んで暮らせるわね」
ポンプの電源を切って手術室を出ようとした平家は
ふと振り返り、完全に冥府に旅立った保田の顔を見た。
その死顔は、安らかなのか、それとも無念なのかは分からない。
だが、一瞥をくれただけで向き直る平家の顔には、
哀れみの表情が宿っている。
それは、今まで生きてきた保田の記憶を垣間見た
サイコメトラーとしての職業病なのかもしれない…
知らずに涙が頬を伝っていたのだ。
他人の人生の記憶ほど、悲しいものは無いのだから…
平家は手術室を出ると、待ち構えている飯田に向かってウィンクをした。
「おおきに飯田さん、凄い情報が手に入ったわ」
「ふーん」
「いい物が手に入った代わりに、ただで一つだけ情報を提供するわよ」
「おいおい、一つかよ…」
「フフ‥商売、商売、あとは買ってね」
「ハ‥ハハ…」
平家がチラリと飯田の隣に目を移す…
そこには吉澤、それと石川という少女が待っていた。
平家を連れて来た飯田が居るのは当たり前だ…
まぁ、吉澤が居るのも理解できる。
だが、何故、吉澤の知り合いというだけで
石川梨華と名乗る少女が着いて来ているのか?
平家にとっては、どうでも良い事だったが、少しだけ気になった。
石川は平家に対して、興味を持っているようだったからだ。
だから、聞いてみた。
「私に興味が有るみたいね?」
石川はウンウンと頷く。
「何故?」
「だって、魔人ハンターには情報屋っていう強力なパートナーが必要でしょ?
飯田さんが平家さんを必要としているように…」
「…貴女も情報屋になりたいの?」
ニッコリと笑って「ハイ」と返事をする石川の後ろで、
飯田と吉澤が拝むように手を合わせ、苦笑いで「ゴメン」と合図している。
どうやら、石川という少女は無理矢理 着いて来たらしい…
「平家さんの弟子にして下さい」
「…ハァ?」
石川の後ろに隠れるように身を縮めている2人をキッと睨み付けると、
飯田と吉澤の拝み手はハエのように擦り合わせている。
「……ハ ハ ハ…」
乾いた笑いが警察病院の廊下に木霊した…
帰り道、平家は(石川が情報屋になる事を諦めさせるために)
手相を見てあげると、石川の手を取った。
「手相なんて見れるんですか?」
「ハハハ、まぁね」
勿論、過去を見ることは出来るが、未来の出来事を見ることは出来ない、
だが、テレビに出てるような占い師よりは当たるほうだ。
朧気(おぼろげ)ながらだが、漠然とした予知は出来るのだ。
「…うん?」
おかしな感覚だった。
石川にサイコメトラーの要素は全くと言って無いし、
将来においても無さそうだ。
他の能力についても、その欠片(かけら)さえも見当たらない。
只単に普通の女子高生だ。
だが…しかし…
極近い未来、確実に この娘の何かが変わる…
手相を見て、こんな感覚になったのは初めてだった。
「どうかしました?」
「いや…」
不安気に聞く石川に首を振って見せ、
「貴女、少し間 私の手伝いをしてみる?」
と、聞いてみた。
「本当ですか!」
手を叩いて喜ぶ、石川に微笑みながら頷いて見せた平家は、
自分に関心を寄せる、この少女の近い未来に起こる筈の
出来事?に興味が沸いたのだ。
「おい、いいのか?」
本気なのか、と聞く飯田に「ええ」と答えて、
平家は石川に「行きましょ」と促し、
呆然と見送る飯田と吉澤にニーッと笑って見せた。
窓一つ無い真っ暗な室内で、車座になって座る3人の少女…
白い布を巻いて目隠しをした少女達の中心には、
頭蓋骨が置かれていて、そのドクロをロウ台に
一本の太いロウソクが立てられ、揺らめく小さな炎が
瞑想をする少女達を薄く照らしていた。
http://blanch-web.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/data/IMG_000050.jpg 「死んだ!保田が死んだよ!」
「殺された!相手は手強いよ!」
「私達の秘密も盗まれたよ!」
「盗んだのは記憶を読み取る情報屋だよ!」
「ここの場所も知られたよ!」
「大変だ!あっちには警察が付いてるよ!」
「殺されるよ!次は私達が殺されるよ!」
「殺される前に殺さないと駄目だよ!」
次々に喋りだした少女達に
「その情報屋は、警察に情報を流したの?」
と聞いたのは、『人造舎』の連絡係、
3人の少女達が陰で『マメ』と呼んでいる新垣里沙という少女だった。
保田の動向を追うように社長の北野から指示されて
保田が自宅マンションを出てから、『六鬼聖』と呼ばれる
少女達を使い、その少女3人が力を合わせる事で可能になる秘術、
『鬼術其の一、千里眼』を用(もち)いて保田を追っていたのだ。
(ちなみに鬼術は其の六まで有るので六鬼聖と呼ばれている)
「警察には、まだ話してないよ!」
「でも、バレるのは時間の問題だよ!」
「早く情報屋を殺さないと、殺されるのはこっちだよ!」
「…で、その情報屋って?」
「知らないよ!」
「保田が死んだから、探れないよ!」
「これ以上は無理だよ!」
「…ちぇ、使えない子達だねぇ」
「なんだって!」
「許さないよ!」
「謝りなよ!」
「…ウグッ!…い、痛でぇ!!」
ギュルギュルと腸が捻じれる感覚に、新垣が腹を押さえて のた打ち回る。
『鬼術其の四、超念転』で内臓を掻き回され、
涙ながらに謝って、新垣は解放された。
「と、とにかく、殿に連絡しないと…」
顔面蒼白になりながら『六鬼聖』を睨み付け、
新垣はポケットから携帯を取り出した。
吉澤の無期停学は解除され、藤本も登校する事になり、
久しぶりに3年B組にも活気が戻っていた。
昼休み、弁当を広げていると 遅い登校の藤本の高笑いが
廊下に響いて来る。
「ゲッ、あの笑い声は…」
「また、石川と喧嘩するな」
仲良く弁当を食べていた安倍と矢口が顔を見合す。
その石川は嫌がる吉澤にベタベタと くっ付き、
廊下に響く藤本の高笑いを聞きながら、立ち上がり 手を上げて
「重大発表よ!みんな、聞いて〜〜!!」
と、クラスの注目を引いた。
「実はぁ、私とよっすぃは近いうちに結婚する事になりました〜!
きゃー!パチパチパチ」
どよめく教室に、目が点になる吉澤。
矢口はオレンジジュースを噴き出し、
安倍はコロッケを喉に詰まらせて咽(むせ)た。
「ななな、何言ってんだ、アイツ」
「が、学生結婚だべ!高校生夫婦だべさ!」
「この前、よっすぃが約束してくれたんだよ!」
皆に向かって手を振る石川はハッピーの極致だ。
「有り得ませんわ!バカバカしい!」
教室に戻った藤本は開口一番、石川を指差し怒鳴りつけた。
「吉澤さんは、私を命懸けで助けてくれたのよ!」
「だから、何よ?」
「それ程、私の事を想ってくれてるって事だわ、
愛情の深さが違いますのよ!」
「単なる同級生を救っただけじゃん、
よっすぃはね、私と結婚の約束をしたのよ!」
さすがにムッとする藤本に向かって、ニーッと白い歯を見せた石川は、
目が点になってる吉澤にニコリと少女のように微笑んだ。
「ねぇ、よっすぃ?」
喜びいっぱいで聞いた石川に向かって出た、
吉澤の答えは「約束してない」と、そっけない。
一瞬「へ?」と顔が固まる石川。
「何言ってんのよ!あの時言ったじゃない!結婚しようって!」
「言ってない」
石川の言う『あの時』とは、保田との魔戦の時、
吉澤が石川を抱きしめて、耳元で囁いた時の言葉だ。
吉澤は確かに『あの時』、『結婚しよう』と、言った。
だがそれは、殺気を放つ保田の存在に気付いた吉澤が、
足手まといの石川を黙らせるために付いた方便、
つまり、嘘の言葉だったのだ。
それを吉澤は、石川が浮かれて発表した、今の今まで忘れていた。
「言いました!」
「言ってない」
それでもシラを切り通す吉澤。
「言ったもん!」
石川は涙目だ。
フウっと溜め息を付いて「やれやれ…」と肩を竦める吉澤に、
藤本が「ほらね」と鼻で笑った。
「そんな事より、私と貴女では、歴然とした差が出来ましたのよ」
「な、なによ?」
「…私も吉澤さんと同じ世界に棲む人間になったという事」
フフンと勝ち誇る藤本の言葉に、ピクリと反応する吉澤。
「どう言う事よ?」
詰め寄る石川に背を向けた藤本は
「ホ〜ホッホッホッホ」と何時もの高笑いで返した。
「逃げるの?」
クラス中に恥を晒した石川はプルプルと震えている。
少し振り向いた藤本の横顔は、ポツリと囁くように呟いた。
「いずれ分かる事よ…」
高笑いをしながら、クラスの取り巻き連中と
談笑する藤本の背中を見る、石川の唇はワナワナと振るえ、
それを見た吉澤は、コッソリと教室から逃げ出した。
「…逃げたべさ」
「いつもの事だろ」
事の成り行きを見守っていた、安倍と矢口も
いつものクラスに戻ったと、顔を見合わせてクスリと笑った…
お久しぶりです。今日はココまでです。
次回更新も未定って事で、スマソ。
>>462 次回はなっちと矢口の物語です。
…確かに、解かり辛くなってるかも。。。
後で、登場人物紹介を書いて貼っときます。 では。
ハナゲ乙
やっぱ登場人物把握しにくいねぇでもガンガレ
でもこの三人のやり取り好きよ俺
藤本はとりあえず、白百合つぼみの成長したバージョンだと勝手に脳内変換
『魔界街』登場人物紹介
安倍なつみ:私立ハロー女子高3年B組。
MAHO堂で修行する魔女見習い。
使い魔は白猫のメロン。矢口と仲が良い。
ハロー製薬部長の父を持つ恵まれた家庭に育つ。
(真夏の光線の時のイメージ)
矢口真里:私立ハロー女子高3年B組。
MAHO堂で修行する魔女見習い。
使い魔は猫のヤグ。安倍と仲が良い。
(ミニモニリーダーの時のイメージ)
辻希美:市立朝娘中学3年。MAHO堂で修行する魔女見習い。
家が貧乏で、同じ長屋に住む飯田圭織を慕う。使い魔はハムスターのマロン。
加護、紺野と仲良し。
(中三の時のイメージ)
加護亜依:市立朝娘中学3年。MAHO堂で修行する魔女見習い。
小料理屋を営む母親と二人暮し。使い魔はハムスターのボンボン。
辻、紺野と仲良し。
(中三の時のイメージ)
紺野あさみ:市立朝娘中学3年。MAHO堂で修行する魔女見習い。
どんな死の病に感染しても死なない特異体質の少女。
ハロー製薬の実験体だったが、辻達に救出されて、MAHO堂に住み込む。
(5期新人の時のイメージ)
飯田圭織:朝娘市警察の特殊刑事(デカ)。別名、魔人ハンター。
(今のイメージ)
吉澤ひとみ:私立ハロー女子高3年B組。
魔界街での影響なのか?男に変わった元女。
ただし満月の夜は女に体に戻る。
右手をテレポートさせる事が出来る。
魔人ハンター見習い。家庭は極普通。
(4期で入った頃のクールな美少女の時のイメージ)
石川梨華:私立ハロー女子高3年B組。
吉澤を慕う天然ハッピーな女子高生。
夜中に外出しても怒られる事の無い複雑な家庭環境に身を置く。
(ハッピーなイメージ)
藤本美貴:私立ハロー女子高3年B組。高慢チキな生徒会長。
ハロー製薬専務の一人娘。吉澤を慕う。
魔人KEIに心臓を盗まれた事によって特殊能力を身に着ける?
(美貴帝なイメージ)
平家みちよ:『スナックみちよ』を経営するサイコメトラー。
普段は17時から0時まで営業するスナックママ。
だが真の家業は午前3時から開業する情報屋。
(スナックママのイメージ)
中澤祐子:MAHO堂を経営する、齢200歳の魔女。
辻達に辛く当たるも、実は可愛くてしょうがない。
(200歳の婆のイメージ)
石黒彩:石黒音楽事務所社長。中澤の元弟子の魔女。
あややと高橋愛の2人のアイドルを抱える敏腕社長。
(若く見えるが実は80歳の魔女のイメージ)
松浦亜弥:私立ハロー女子高2年A組に通うスーパーアイドル。
通称あやや。彼女の出自については不明。
(ぁゃゃのイメージ)
高橋愛:市立朝娘中学3年。辻達の同級生。
新人アイドル。石黒を師事に仰ぐ魔女見習い。小悪魔的な存在である。
(現在の高橋のイメージ)
後藤真希:朝娘市警察の巡査。魔人ハンターを志す。
(今のイメージ)
殿:犯罪組織『人造舎』主催。盲目の白髪鬼。
新垣里沙:犯罪組織『人造舎』の連絡係。
(豆のイメージ)
6期生:犯罪組織『人造舎』に所属する六鬼聖と呼ばれる3人組。
(今のイメージ)
小川麻琴:小川姓発祥の寺、小川神社の末妹。巫女さん。鬼拳小川流拳法の使い手。
(今のイメージ)
小川直也:小川神社の長兄。全国に散らばる小川一門を手中に治めるべく
小川家当主、小川龍拳と対立。鬼のように強い。
(そのまんま)
なお、この物語は日本とは魔震で隔離した陸の孤島、朝娘市、通称 魔界街で
繰り広げられる娘達の青春奇譚である。