狼から来ました

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463ハナゲ ◆hANagEBvfs

――― 17話 KEI後日談 ―――


朝娘市警察病院。
以前、パパラッチ田代の遺体が司法解剖された病室に
保田圭の死体がベッドに横たわっていた。

ベッドの横には大型の機械が静かに動いていて、
機械から伸びる2本のチューブが保田の死体の左胸に収まり、
透明なチューブからは、赤い血液が流動しているのが見える。

機械は大型の血液ポンプだった。

微かに動く保田の胸は呼吸している。

つまり、保田は生きているのだ。


保田の傍(かたわ)らに立つのは田代の時と同様、
サイコメトラー平家みちよ…


飯田が吉澤に、保田を殺すのを譲る代わりに付けた条件…
----「出来る限り綺麗に殺せ」----
その理由が此処に有った。


「さてと、貴女の記憶を全て貰うよ…
終わったら、そのチューブを抜いて機械を止めてあげる」
464ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/02/08 18:28 ID:uOGB0jui


意識の無い保田の額に手をのせる平家の手の平は
肌と融合するかのように溶けて沈む。

「掴んだわ」

脳味噌を掴んだ平家の脳内に保田の記憶が全て入り込み、
必要な情報だけを選別し、それを引き出す。

死んでいる人間から情報を取り出すのと違い、
生きている人間から記憶を引き出すのは容易で、
引き出される情報にも雲泥の差がある。

殺し屋の情報が欲しい飯田が、吉澤に頼んだ殺しの条件は
この事を見越してのことだったのだ。


「凄い…KEIは『人造舎』の人間だったのね」

今まで謎のベールに包まれていた『人造舎』の深部の情報が
引き出せた喜びに、滑(ぬめ)る唇をペロリと舐める
平家の表情は恍惚のソレだ。

「この情報が有れば一生遊んで暮らせるわね」


465ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/02/08 18:28 ID:uOGB0jui

ポンプの電源を切って手術室を出ようとした平家は
ふと振り返り、完全に冥府に旅立った保田の顔を見た。

その死顔は、安らかなのか、それとも無念なのかは分からない。

だが、一瞥をくれただけで向き直る平家の顔には、
哀れみの表情が宿っている。

それは、今まで生きてきた保田の記憶を垣間見た
サイコメトラーとしての職業病なのかもしれない…

知らずに涙が頬を伝っていたのだ。

他人の人生の記憶ほど、悲しいものは無いのだから…






466ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/02/08 18:30 ID:uOGB0jui

平家は手術室を出ると、待ち構えている飯田に向かってウィンクをした。

「おおきに飯田さん、凄い情報が手に入ったわ」
「ふーん」

「いい物が手に入った代わりに、ただで一つだけ情報を提供するわよ」
「おいおい、一つかよ…」

「フフ‥商売、商売、あとは買ってね」
「ハ‥ハハ…」

平家がチラリと飯田の隣に目を移す…
そこには吉澤、それと石川という少女が待っていた。

平家を連れて来た飯田が居るのは当たり前だ…
まぁ、吉澤が居るのも理解できる。
だが、何故、吉澤の知り合いというだけで
石川梨華と名乗る少女が着いて来ているのか?

平家にとっては、どうでも良い事だったが、少しだけ気になった。
石川は平家に対して、興味を持っているようだったからだ。

だから、聞いてみた。

「私に興味が有るみたいね?」

石川はウンウンと頷く。
467ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/02/08 18:31 ID:uOGB0jui

「何故?」

「だって、魔人ハンターには情報屋っていう強力なパートナーが必要でしょ?
飯田さんが平家さんを必要としているように…」

「…貴女も情報屋になりたいの?」

ニッコリと笑って「ハイ」と返事をする石川の後ろで、
飯田と吉澤が拝むように手を合わせ、苦笑いで「ゴメン」と合図している。

どうやら、石川という少女は無理矢理 着いて来たらしい…

「平家さんの弟子にして下さい」

「…ハァ?」

石川の後ろに隠れるように身を縮めている2人をキッと睨み付けると、
飯田と吉澤の拝み手はハエのように擦り合わせている。

「……ハ ハ ハ…」

乾いた笑いが警察病院の廊下に木霊した…




468ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/02/08 18:32 ID:uOGB0jui




帰り道、平家は(石川が情報屋になる事を諦めさせるために)
手相を見てあげると、石川の手を取った。

「手相なんて見れるんですか?」

「ハハハ、まぁね」

勿論、過去を見ることは出来るが、未来の出来事を見ることは出来ない、
だが、テレビに出てるような占い師よりは当たるほうだ。
朧気(おぼろげ)ながらだが、漠然とした予知は出来るのだ。

「…うん?」

おかしな感覚だった。
石川にサイコメトラーの要素は全くと言って無いし、
将来においても無さそうだ。
他の能力についても、その欠片(かけら)さえも見当たらない。
只単に普通の女子高生だ。

だが…しかし…

極近い未来、確実に この娘の何かが変わる…

手相を見て、こんな感覚になったのは初めてだった。

469ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/02/08 18:33 ID:uOGB0jui

「どうかしました?」

「いや…」

不安気に聞く石川に首を振って見せ、
「貴女、少し間 私の手伝いをしてみる?」
と、聞いてみた。

「本当ですか!」
手を叩いて喜ぶ、石川に微笑みながら頷いて見せた平家は、
自分に関心を寄せる、この少女の近い未来に起こる筈の
出来事?に興味が沸いたのだ。


「おい、いいのか?」
本気なのか、と聞く飯田に「ええ」と答えて、
平家は石川に「行きましょ」と促し、
呆然と見送る飯田と吉澤にニーッと笑って見せた。








470ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/02/08 18:34 ID:uOGB0jui

窓一つ無い真っ暗な室内で、車座になって座る3人の少女…

白い布を巻いて目隠しをした少女達の中心には、
頭蓋骨が置かれていて、そのドクロをロウ台に
一本の太いロウソクが立てられ、揺らめく小さな炎が
瞑想をする少女達を薄く照らしていた。
http://blanch-web.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/data/IMG_000050.jpg

「死んだ!保田が死んだよ!」
「殺された!相手は手強いよ!」
「私達の秘密も盗まれたよ!」
「盗んだのは記憶を読み取る情報屋だよ!」
「ここの場所も知られたよ!」
「大変だ!あっちには警察が付いてるよ!」
「殺されるよ!次は私達が殺されるよ!」
「殺される前に殺さないと駄目だよ!」

次々に喋りだした少女達に
「その情報屋は、警察に情報を流したの?」
と聞いたのは、『人造舎』の連絡係、
3人の少女達が陰で『マメ』と呼んでいる新垣里沙という少女だった。

保田の動向を追うように社長の北野から指示されて
保田が自宅マンションを出てから、『六鬼聖』と呼ばれる
少女達を使い、その少女3人が力を合わせる事で可能になる秘術、
『鬼術其の一、千里眼』を用(もち)いて保田を追っていたのだ。
(ちなみに鬼術は其の六まで有るので六鬼聖と呼ばれている)

「警察には、まだ話してないよ!」
「でも、バレるのは時間の問題だよ!」
「早く情報屋を殺さないと、殺されるのはこっちだよ!」
471ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/02/08 18:34 ID:uOGB0jui

「…で、その情報屋って?」

「知らないよ!」
「保田が死んだから、探れないよ!」
「これ以上は無理だよ!」


「…ちぇ、使えない子達だねぇ」

「なんだって!」
「許さないよ!」
「謝りなよ!」


「…ウグッ!…い、痛でぇ!!」
ギュルギュルと腸が捻じれる感覚に、新垣が腹を押さえて のた打ち回る。
『鬼術其の四、超念転』で内臓を掻き回され、
涙ながらに謝って、新垣は解放された。


「と、とにかく、殿に連絡しないと…」

顔面蒼白になりながら『六鬼聖』を睨み付け、
新垣はポケットから携帯を取り出した。






472ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/02/08 18:35 ID:uOGB0jui


吉澤の無期停学は解除され、藤本も登校する事になり、
久しぶりに3年B組にも活気が戻っていた。

昼休み、弁当を広げていると 遅い登校の藤本の高笑いが
廊下に響いて来る。

「ゲッ、あの笑い声は…」
「また、石川と喧嘩するな」
仲良く弁当を食べていた安倍と矢口が顔を見合す。

その石川は嫌がる吉澤にベタベタと くっ付き、
廊下に響く藤本の高笑いを聞きながら、立ち上がり 手を上げて
「重大発表よ!みんな、聞いて〜〜!!」
と、クラスの注目を引いた。

「実はぁ、私とよっすぃは近いうちに結婚する事になりました〜!
きゃー!パチパチパチ」

どよめく教室に、目が点になる吉澤。

矢口はオレンジジュースを噴き出し、
安倍はコロッケを喉に詰まらせて咽(むせ)た。

「ななな、何言ってんだ、アイツ」
「が、学生結婚だべ!高校生夫婦だべさ!」


「この前、よっすぃが約束してくれたんだよ!」
皆に向かって手を振る石川はハッピーの極致だ。
473ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/02/08 18:39 ID:uOGB0jui


「有り得ませんわ!バカバカしい!」
教室に戻った藤本は開口一番、石川を指差し怒鳴りつけた。

「吉澤さんは、私を命懸けで助けてくれたのよ!」

「だから、何よ?」

「それ程、私の事を想ってくれてるって事だわ、
愛情の深さが違いますのよ!」

「単なる同級生を救っただけじゃん、
よっすぃはね、私と結婚の約束をしたのよ!」

さすがにムッとする藤本に向かって、ニーッと白い歯を見せた石川は、
目が点になってる吉澤にニコリと少女のように微笑んだ。

「ねぇ、よっすぃ?」

喜びいっぱいで聞いた石川に向かって出た、
吉澤の答えは「約束してない」と、そっけない。

一瞬「へ?」と顔が固まる石川。

「何言ってんのよ!あの時言ったじゃない!結婚しようって!」

「言ってない」

石川の言う『あの時』とは、保田との魔戦の時、
吉澤が石川を抱きしめて、耳元で囁いた時の言葉だ。
474ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/02/08 18:39 ID:uOGB0jui

吉澤は確かに『あの時』、『結婚しよう』と、言った。
だがそれは、殺気を放つ保田の存在に気付いた吉澤が、
足手まといの石川を黙らせるために付いた方便、
つまり、嘘の言葉だったのだ。

それを吉澤は、石川が浮かれて発表した、今の今まで忘れていた。

「言いました!」

「言ってない」
それでもシラを切り通す吉澤。

「言ったもん!」
石川は涙目だ。

フウっと溜め息を付いて「やれやれ…」と肩を竦める吉澤に、
藤本が「ほらね」と鼻で笑った。

「そんな事より、私と貴女では、歴然とした差が出来ましたのよ」

「な、なによ?」

「…私も吉澤さんと同じ世界に棲む人間になったという事」

フフンと勝ち誇る藤本の言葉に、ピクリと反応する吉澤。
475ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/02/08 18:40 ID:uOGB0jui

「どう言う事よ?」
詰め寄る石川に背を向けた藤本は
「ホ〜ホッホッホッホ」と何時もの高笑いで返した。

「逃げるの?」
クラス中に恥を晒した石川はプルプルと震えている。


少し振り向いた藤本の横顔は、ポツリと囁くように呟いた。

「いずれ分かる事よ…」


高笑いをしながら、クラスの取り巻き連中と
談笑する藤本の背中を見る、石川の唇はワナワナと振るえ、
それを見た吉澤は、コッソリと教室から逃げ出した。


「…逃げたべさ」
「いつもの事だろ」

事の成り行きを見守っていた、安倍と矢口も
いつものクラスに戻ったと、顔を見合わせてクスリと笑った…





476ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/02/08 18:44 ID:uOGB0jui
お久しぶりです。今日はココまでです。
次回更新も未定って事で、スマソ。

>>462
次回はなっちと矢口の物語です。
…確かに、解かり辛くなってるかも。。。
後で、登場人物紹介を書いて貼っときます。    では。
477名無し募集中。。。:04/02/08 18:57 ID:ugol/4mS
ハナゲ乙
やっぱ登場人物把握しにくいねぇでもガンガレ
478名無し@チャチャチャ:04/02/08 19:21 ID:06W+7/lx
でもこの三人のやり取り好きよ俺
藤本はとりあえず、白百合つぼみの成長したバージョンだと勝手に脳内変換
479ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/02/08 21:10 ID:uOGB0jui
『魔界街』登場人物紹介

安倍なつみ:私立ハロー女子高3年B組。
        MAHO堂で修行する魔女見習い。
        使い魔は白猫のメロン。矢口と仲が良い。
        ハロー製薬部長の父を持つ恵まれた家庭に育つ。
        (真夏の光線の時のイメージ)

矢口真里:私立ハロー女子高3年B組。
       MAHO堂で修行する魔女見習い。
       使い魔は猫のヤグ。安倍と仲が良い。
       (ミニモニリーダーの時のイメージ)

辻希美:市立朝娘中学3年。MAHO堂で修行する魔女見習い。
     家が貧乏で、同じ長屋に住む飯田圭織を慕う。使い魔はハムスターのマロン。
     加護、紺野と仲良し。
      (中三の時のイメージ)

加護亜依:市立朝娘中学3年。MAHO堂で修行する魔女見習い。
       小料理屋を営む母親と二人暮し。使い魔はハムスターのボンボン。
       辻、紺野と仲良し。
        (中三の時のイメージ)

紺野あさみ:市立朝娘中学3年。MAHO堂で修行する魔女見習い。
        どんな死の病に感染しても死なない特異体質の少女。
        ハロー製薬の実験体だったが、辻達に救出されて、MAHO堂に住み込む。
         (5期新人の時のイメージ)
480ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/02/08 21:10 ID:uOGB0jui
飯田圭織:朝娘市警察の特殊刑事(デカ)。別名、魔人ハンター。
        (今のイメージ)

吉澤ひとみ:私立ハロー女子高3年B組。
        魔界街での影響なのか?男に変わった元女。
        ただし満月の夜は女に体に戻る。
        右手をテレポートさせる事が出来る。
        魔人ハンター見習い。家庭は極普通。
         (4期で入った頃のクールな美少女の時のイメージ)

石川梨華:私立ハロー女子高3年B組。
       吉澤を慕う天然ハッピーな女子高生。
       夜中に外出しても怒られる事の無い複雑な家庭環境に身を置く。
        (ハッピーなイメージ)

藤本美貴:私立ハロー女子高3年B組。高慢チキな生徒会長。
       ハロー製薬専務の一人娘。吉澤を慕う。
       魔人KEIに心臓を盗まれた事によって特殊能力を身に着ける?
        (美貴帝なイメージ)

平家みちよ:『スナックみちよ』を経営するサイコメトラー。
        普段は17時から0時まで営業するスナックママ。
        だが真の家業は午前3時から開業する情報屋。
         (スナックママのイメージ)

中澤祐子:MAHO堂を経営する、齢200歳の魔女。
       辻達に辛く当たるも、実は可愛くてしょうがない。
        (200歳の婆のイメージ)

石黒彩:石黒音楽事務所社長。中澤の元弟子の魔女。
     あややと高橋愛の2人のアイドルを抱える敏腕社長。
      (若く見えるが実は80歳の魔女のイメージ)
481ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/02/08 21:11 ID:uOGB0jui

松浦亜弥:私立ハロー女子高2年A組に通うスーパーアイドル。
       通称あやや。彼女の出自については不明。
        (ぁゃゃのイメージ)

高橋愛:市立朝娘中学3年。辻達の同級生。
      新人アイドル。石黒を師事に仰ぐ魔女見習い。小悪魔的な存在である。
       (現在の高橋のイメージ)

後藤真希:朝娘市警察の巡査。魔人ハンターを志す。
       (今のイメージ)

殿:犯罪組織『人造舎』主催。盲目の白髪鬼。

新垣里沙:犯罪組織『人造舎』の連絡係。
       (豆のイメージ)

6期生:犯罪組織『人造舎』に所属する六鬼聖と呼ばれる3人組。
       (今のイメージ)

小川麻琴:小川姓発祥の寺、小川神社の末妹。巫女さん。鬼拳小川流拳法の使い手。
         (今のイメージ)

小川直也:小川神社の長兄。全国に散らばる小川一門を手中に治めるべく
       小川家当主、小川龍拳と対立。鬼のように強い。
        (そのまんま)
        
なお、この物語は日本とは魔震で隔離した陸の孤島、朝娘市、通称 魔界街で
繰り広げられる娘達の青春奇譚である。