狼から来ました

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404ハナゲ ◆hANagEBvfs

『人造舎』の貸し出しリストに登録している人材は、
特に魔界街に住んでいると言う訳ではない。
それは、朝娘市警察の管轄が、市外には及ばないという事が主な理由…
足が付いても直ぐに逃げられるように、
朝娘市警察の手が届かない市外に住む魔人は多いのだ。


東京都港区、六本木ヒルズに有る高級マンション。
その高層マンションの18階に心臓を抜く暗殺者の部屋が有った。
豪華な造りの2LDKの洋室に有るベッドの上で『KEI』こと保田圭は
うなされる日々を送っていた。

新たな心臓を手に入れた保田の体は、拒絶反応に苦しみ
高熱にうなされ、身悶えする日の連続だった。

だが、拒絶反応の痛みは一週間で消えた。
魔人の体力が、拒み続ける心臓を吸収したのだ。

それなのに、眠れない日々が永延と続いた。

一ヶ月(四週間)たった今でも、ベッドの上で悶えるのには理由が有る。

眠ると、必ず見る夢のせいだ…

取り込んだと思っていた心臓は、未だに拒み続ける…

石黒が施したカオスの契約により、心臓には魂が宿っていたのだ。

その魂が悪夢を見させる…

…夢…
405ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/01/17 17:11 ID:LjWTDdJ8





真紅の世界にポツンと佇む、一人の少女…

真っ赤な花弁が咲き乱れる、気高き薔薇の絨毯の下には
保田の動きを止める,、棘(いばら)が足に絡みつく…

その少女は保田に気付くと、微笑みながら近付いて来た…

見覚えの有る顔…

当たり前だ。

その少女の心臓は今、自分の体の中に有るのだから。


「…藤本美貴」

少女は、そう名乗った。

「返して頂きますわ…」

そう言って、藤本は細い腕を保田に伸ばす…

「ふざけるな!コレは私の物だ!」

ビキビキと音を立てて禍々しく変形した右手で、
保田は藤本の左胸の中心を目掛けて鉤手を振った。
406ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/01/17 17:14 ID:LjWTDdJ8

だが、藤本の心臓を抜き取る筈の魔手は虚を掴む…

当然の事だ。

藤本の心臓は今、自分の体内で脈打っているのだから。
http://blanch-web.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/data/IMG_000045.jpg


「無駄な事を…」

藤本の後ろから、影の様に ひっそりと現れる、見た事も無い男…

冷たい眼差しの美貌の少年は、ゆっくりと右手を保田の左胸に向けて伸ばす…


---ドクン---

保田の心臓は、経験した事が無い胸の高鳴りに疼いた。


---ドクン---ドクン---ドクン---

「だ、誰だ…?」

自分の声が擦(かす)れている事が分かる…

「…吉澤ひとみ」

男とは思えない、ほっそりとした美しい指が胸に掛かった。
407ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/01/17 17:16 ID:LjWTDdJ8


---ズズ・・---

指は、静かに、そして確実に心臓を目掛けて沈む。


---ズブ---ズブ---ズブ---

「や、やめて…」


冷ややかな瞳の吉澤………

ブチブチと音を立てて動脈を引き千切りながら、
握られた心臓は引き抜かれた。


「返して!それは、私の…!」

「貴女の物ではないわ」

吉澤の隣に寄り添う藤本がそう言うと、
真紅の薔薇の花弁がブワリと舞い上がり、保田の視界を奪った…





408ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/01/17 17:22 ID:LjWTDdJ8


「わぁああ!」
保田は叫びと共に飛び起きた。
グッショリと寝汗を掻いている。

ハァハァと荒い息を付きながら、股間に手を伸ばして気付く。

濡れていた…

「…ふざけるな」

悪夢だ…

「…殺してやる」

有った事も無い人間を愛してしまっている…

「必ず私の手で殺してやる!」

保田の叫びに呼応するかのように、
ベッドの横に誰かが立つ気配…

「キサマ!!」

それは、ひっそりと不適に笑う藤本の幻影だった。
409ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/01/17 17:38 ID:LjWTDdJ8

「殺してやるぞ!キサマが愛してる男を!!」

保田を見下すように、藤本は高貴な微笑みを湛えている。

だが、その美しき微笑みさえも、保田には歪んで見えた。

憎悪に染まるドス黒い心…


「そして、その次はキサマだ!藤本!!
キサマを殺して、魂ごと完全に心臓を取り込んでやる!!」


揺らめく陽炎のように消える、 藤本の幻影を見詰める
保田の怒りに燃える目は、血色に染まっていた…
http://blanch-web.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/data/IMG_000044.jpg








410ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/01/17 17:43 ID:LjWTDdJ8

---リリリリリリ---

肩で息をする保田の耳に滅多に鳴らない電話の呼び鈴が届いた。

取った受話器の向こうから聞こえるのは、
リサと呼ばれる豆みたいな少女の声だ。

「…何か分かったか?」

保田は、有る事を自分の所属する『人造舎』に頼んでいた。
それは藤本美貴と吉澤ひとみ という、悪夢に出てくる人間の所在だった。


---藤本の事件はハロー製薬によって完璧に隠蔽されていて
   同級生さえも(吉澤を除いて)事件そのものを知らない---


石黒に聞いても良かったが、彼女が知ってるとも思えないし、
知っていたとしても、これ以上 借りを作る事は保田のプライドに関わった。

『へへへ、分かったよ、藤本ってのはハロー製薬専務の一人娘で
吉澤ってのが、その同級生、事件が公(おおやけ)にならないのは
ハロー製薬がバックに付いてるからだよ』

受話器の声は、何時もの事だが やけに明るい。
411ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/01/17 17:45 ID:LjWTDdJ8

『相手がハロー製薬じゃ、少しヤバイんじゃない?
手を貸そうか?…勿論有料で』

「バカ言え…」

『ふふ‥そう言うと思った、じゃあ情報料は次の仕事が入った時に、
ギャラから天引きしとくから…』

皆から『殿』と呼ばれている、白髪で盲目の人造舎総帥と、魔人達の間を繋ぐ
連絡係のリサのハシャギ声を苦々しく思いながら、
頼んでいた情報をメモに取り、保田は無造作に受話器を置いた。

「……」

無言で胸に手を置いてみる。

トクントクン…と脈打つ心臓は、何時もより鼓動が早い…


仕事着のラバースーツに着替えて、部屋を出る保田の額には
うっすらと汗が滲んでいた…