狼から来ました

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267ハナゲ ◆hANagEBvfs

バーンと勢い良くMAHO堂のドアが開いて魔女見習い達が帰ってきた。

「裕子婆ちゃん!!大変なのです!」

「なんじゃい?騒がしいのぅ」

学校が終って直ぐ、息を切らせながら走って来た魔女見習いの3人は
日本茶をススっていた中澤を囲んだ。

「魔女見習いがいるのです!」
「ウチ等以外 魔女って居ないのとちゃうの?」
「有名人とお話し出来ました」
「高橋愛ちゃんっていうアイドルなのです」
「なんか、感じ悪かったでぇ」
「お友達になってくれるんでしょうか?」
「あやや の妹分なのです」
「あやや もなんや感じ悪いんちゃう?」
「今度サイン貰いましょう」

「……‥」
自分を囲み、ギャーギャー騒ぎ立てる3人に
プルプルと体を震わせる中澤…

「でねでねでね、ハムスターを持ってるのです」
「まぁ、ウチ等の使い魔の方が優秀に決まってるけどな」
「私はまだホウキさえ貰ってませんよ」

「………‥」
中澤の額に血管が浮き出てピクピクと動く…
268ハナゲ ◆hANagEBvfs :03/12/08 14:01 ID:kHKIw6yH

「でねでねでね…」
「そいでなぁ…」
「ですから…」

「……」
プツンと血管が切れる音が聞こえた…

「…バ、バババババッカモ〜〜〜〜ン!!
じゃかましいわ!きさま等!!!」

ガバッと立ち上がり、額の血管を浮き出させながら
噴火する中澤に、皆 腰を抜かして尻餅を付いた。

「あっ、腰が治ってるのです」
「ほんまや、ピンとなってるやん」
「良かったですね」

「おぉ、曲がってた腰が…って、アイタタタタタ…」
激情の余り腰を伸ばしてしまって、
つい やってしまった乗り突っ込みも腰の激痛には耐えられず、
腰を押さえて蹲る中澤を心配する3人。

「大丈夫ですか?」
紺野が支えて椅子に座らせた。

「…やれやれじゃわい、オマエ等、もうちょっと落ち着いて話せ」

「あのねあのね…」
言葉足らずの辻の代わりに加護と紺野が
今日の出来事を話した。
269ハナゲ ◆hANagEBvfs :03/12/08 14:04 ID:kHKIw6yH


「ふむ、成る程のぅ…」
目を瞑りながら聞いていた中澤は
聞き終わると、お茶を一口飲んだ。

「結論から言うと、思い当たる節が無い訳ではない」


「…やっぱり」
顔を見合わせ、頷き合う3人。



そこに、タイミング良くドアを開けて入ってきた2つの影…


「…あっ!」
「なんや、その格好!」
「お仕事じゃなかったの?」

紫のマントとトンガリ帽子の魔法のホウキを持ち微笑む高橋と
カラスを肩にとめる黒尽くめの目付きの鋭い女性…

「お師匠様、久しぶりね」
顔半分を隠していたフードを颯爽(さっそう)と外し、
石黒彩のドギツイ口紅に彩られた唇の端がキューッと吊りあがる。

「やはり、おぬし じゃったか…彩よ」

「フフフ…」
不適な微笑を湛える石黒…
270ハナゲ ◆hANagEBvfs :03/12/08 14:09 ID:kHKIw6yH

その石黒を辻達が指を差してクスクス笑った。

「…魔女なのです、本物なのです」
「あの鼻は、ほんまもんやろ」
「鉤のように鋭く曲がってますよ」


「じゃかましいわ!魔女見習い共!」

言われたくない所を突かれて、顔を高潮させた石黒に一喝されて、
ピンと固まる3人だが、笑いを堪(こら)えている表情が見え見えだ。

「…コイツ等…」
今度は石黒の額の血管がピクピクと動く。

「でも、裕子婆ちゃんを師匠と呼ぶって事は…」
「弟子だったんやろ?」
「でも、随分若いですね」

また、ヒソヒソと始める3人に、訳知り顔の中澤がニヤケながらボソリと呟く。
「…彩は、もう80歳を越えとるわ」

「…ゲッ!」
「ババアやん!」
「詐欺みたいな物ですね…」

「キー!うるさい!!…って、なんだ?お前まで!」
ムカつく事を言い放つ小娘共に、本気で腹を立てながら横を向くと、
一歩引いて 信じられない という表情の高橋がアングリと口を開けていた。
271ハナゲ ◆hANagEBvfs :03/12/08 14:19 ID:kHKIw6yH

「…師匠、この娘達を少し黙らせてくれ」
小娘達との言い合いは空しいだけだと思った石黒は
中澤に助けを求めた。

「そんな事より、何の用じゃ?」
石黒の要求を無視して、用件だけ聞く。

「……用という用は無いけど」
笑いを堪える3人と高橋を苦々しく睨み付けながら
石黒は店内を見回した。

「師匠が今、何をしてるのか気になってね…
おっと、私は今 こういう事をしてますの」

そう言って差し出した名刺には
『石黒音楽事務所社長』の肩書きが印刷されていた。

「…じゃから、なんじゃ?」

「今度、魔界街に事務所を開く事になりましてね、
その挨拶にと、こうして寄ったんですけど…」

石黒の顔が本来の余裕を取り戻し、不適な含み笑いを漏らす。

「随分と小汚い店ですね…売り上げは どの位有りますの?
まぁ、私共の年商はざっと50億は有りますのよ!
ホ〜〜ホッホッホッホッホ!」

石黒の目的は中澤を前にしての、この高笑いをする事だった。
272ハナゲ ◆hANagEBvfs :03/12/08 14:24 ID:kHKIw6yH

「…嫌味を言いに来たのか?」
ウンザリしたように聞く中澤。

「違いますわよ、現実を解からせる為に来ましたの」

「……」

「もう、全てにおいて完全に師匠を超えたという現実をね」


その昔、最悪の性格だった中澤の元で修行した石黒は
いつか中澤を超える事を胸に秘めて修行に明け暮れた。
そして、イジメにも近い修行の中で、中澤の性格までもを受け継いだ石黒は
金の亡者に成り果て、人心をも操る魔法を駆使して今の地位を築いた。
中澤越えを果たしたと確信した石黒は、中澤の居場所を探り出し、
自分との差をハッキリさせる為に、この魔界街に来たのだ。
弟子の高橋を私立のハロー女子中学に通わせず、
辻達が居る公立の朝娘市中学に転校させたのも
弟子の格の違いを解からせる為の嫌味な行為だったのだ。


「…ふん、なんじゃい、わざわざ そんな事を言いに来たのか?…」
ブスッと横を向いて茶をすする中澤は、それでも まだ余裕が有るようだ。

「さて、ワシには、どうでもいい事なんじゃが…
オマエの肩に乗ってるカラスのぅ」

チラリと石黒の使い魔のカラスを見て
ニヤリと不適な笑みを漏らす中澤。

「ワシの事を探りに来た時、ちょこっと細工をした…」
273ハナゲ ◆hANagEBvfs :03/12/08 14:27 ID:kHKIw6yH

「…何を?」
怪訝そうにカラスを見る石黒の表情が固まった。

「…く…」
首に違和感が有った…

触ってみると首に括(くび)れが出来ている。

「間抜けな使い魔にワシの髪の毛を一本付けておいたんじゃ」

「……」

「今、オマエの首を絞めているのは、ワシの髪じゃよ…」

ヒッヒッヒと笑う中澤が、杖を床に打ち付けると
首に食い込んでいる白髪はハラリと解けて床に落ちた。

「まだまだじゃのぅ、ワシを越える事は…」

ゲホゲホと咽(むせ)て、首を擦る石黒は
それでも余裕の表情だ。
274ハナゲ ◆hANagEBvfs :03/12/08 14:38 ID:kHKIw6yH

「流石は私の師匠、器用さだけは今でも健在って所ね、
でも…知ってるよ、もう、飛ぶ事さえも出来ないって事を…
因る年波には勝てないねぇ…
私は老いさらばえていく師匠を この目でジックリと見させてもらうよ」

ハッハッハッハーと勝ち誇る笑いを残して店を出る石黒と高橋…

ちょっぴり深刻な場面に遭遇して、
言葉も無く顔を見合わせる辻、加護、紺野…

中澤の米噛みがピクピクと震えた。

「塩 撒かんかい!塩!」


中澤に言われて外に出た魔女見習い達が見たもの…

それは、アイマスクで顔を隠した石黒と高橋が
杖とホウキに跨り、空高く飛んでいく姿だった。


「と、飛んだのです…」

「なんでやねん!なんでアイツが!」

「…すごい‥本当にいるんだ‥魔女って」

歴然とした自分達との差を見せつけられた3人は
只々、呆然と見送るしかなかった…