77 :
名無し天狗:
今宵はチョット早い時間から始めます!
―――――――――――――――――――――――――――――
「ホホホホ…どうだい、あたいの血車忍法・蛇枷地獄の味は?
これであんたも一巻の終わりさ。ホホホホ…オッホホホホホ……!!」
勝ち誇る笑いと共に、「毒蛇妙尼」は鋭い牙を嵐にひけらかすように突きつける。
その牙からはポタ、ポタ、と、怪しい液体が滴り落ちている。
そのうちの一滴が「毒蛇妙尼」の足元の雑草に付着した瞬間・・・
「・・・・・・!!」
悶絶寸前の嵐が目の当たりにした光景・・・
何と、滴を浴びた雑草が、悪臭を放ちジュクジュクと不気味な音を立てながら
蒸発して溶け去ったのだ。
これこそ、この蛇女が「毒蛇妙尼」と呼ばれる所以である。
この毒液の恐ろしさをまざまざと見せ付けられ、嵐は言葉を失った。
「そう急くな、「毒蛇妙尼」。さっきも言ったように、簡単に殺してはつまらん。」
「そりゃまぁ、そうだけどさぁ…あたい、もう待ちきれないよぉ。」
「本当にせっかちだな姐御は。この俺でさえ我慢してるってのによ。」
風前の灯火の嵐を前に、まるで遊びを楽しむように〜尤も、彼らにとっては
「今この時」が遊びなのであろうが〜賑やかしく談笑する。
岩壁に打ち付けられた打撃があと少しで癒えるといったところへ、この「蛇枷地獄」の責め。
嵐は再び蓄積されてしまった更なる大打撃と、「鬼火蝮」の操る抜け殻人形の攻撃で
またも力尽き、その場に崩れるように倒れてしまった。
78 :
名無し天狗:03/10/28 17:52 ID:V49eP5EB
「む・・・むね、ん・・・・・・。」
父上、母上。ユキは親の悔恨も晴らせぬ親不孝者にござりました。
この上は、冥府において父上と母上よりのお叱りを賜る所存・・・・・・!!
嵐=ユキは、遂に死を覚悟した。
・・・その時!!
『ユキ…ユキ……。』
「な・・・何だ?この、聞き覚えのある…暖かい声は……?」
朦朧とした意識の中で、“ユキ”は自分を呼ぶ声に気付いた。
『ユキ、わしらだよ。』
「!・・・その声は…やはり!!」
ユキの目の前に現われた二人の老いた夫婦。この二人こそ・・・
「間違いない、あなた方は私の父上と母上!しかしなぜ…?」
戸惑うユキ。実はこの二人、肉体を失ったあとも、霊体となって
ユキを見守り続けていたのである。
『ユキや、お前はここで死んではいけない。
まだわしらのところに来てはいけないんだよ。』
『そうですよ。あなたにはまだやらねばならぬことが山ほどある筈です。
それに・・・「これからも」「あなたを必要とする人」が現われることでしょう。
「その人たち」のためにも、あなたはここで挫けてはなりません。
辛いでしょうが、それがあなたの運命(さだめ)なのです…。』
「こ・・・「これから」・・・「私を必要とする人」・・・・・・??」
79 :
名無し天狗:03/10/28 18:11 ID:V49eP5EB
『母さんの言う通りだよユキ。そのためにもお前は、まずこの戦いに勝って、
お前がどれだけ成長したか、わしらに見せておくれ。そしてわしらを安心させておくれ。
そうでないと、わしらは死んでも死にきれん・・・・・・。』
『さあ、行きなさいユキ。自分の本当の力を信じるのです!』
「・・・・・・はい!!」
死の淵に立たされ、しかしそこで父母の霊の叱咤激励を受けたユキ=嵐は、
最後の望みを胸に再び立ち上がった!!
「うぉおおおおおおおおおおお……!!!!!」
決して諦めはしない!嵐、不撓不屈の雄叫び!!
その嵐の身体を、「蛇枷地獄」の蛇たちは未だに噛んでいたが、
今の嵐はそれに耐えることが出来る。
そう、亡き父母の思いを心にしっかと受け止めた今ならば。
「・・・!やぁだ、ちょっとぉ!こいつまだ立ち上がって来るよぉ!!」
「つくづく往生際の悪い奴だ!今度こそ息の根を止めてやる!!」
「おお!とっととくたばれ、この死に損ないめ!!」
相変わらず蛇たちは嵐の身体に纏わり付いたまま離れない。
だが、持てる力を振り絞ってハヤカゼを構える!
その切っ先が指し示すのは当然、目の前の邪悪で卑劣な三匹の化身忍者だ!!
80 :
名無し天狗:03/10/28 18:27 ID:V49eP5EB
「どう足掻いても無駄だ、死ね!嵐!!」
「鬼火蝮」が抜け殻人形に一斉攻撃を指示する。だが・・・
その抜け殻人形の動きが突然鈍った。
「え・・・?」
突然の敵の異変に、嵐は呆気に取られた。だが、異変はこれだけではなかった。
更に見ると、三匹の化身忍者が急に苦しみ、痙攣を起こしている。
と同時に、嵐の身体を蝕んでいた「蛇枷地獄」の蛇たちも一匹残らず死滅し、
ポロポロと落ちていくではないか。
「一体何が・・・?」
事態が飲み込めない嵐。と、そこへ…
「ユキさん、息を止めて!!」
上空から嵐に呼び掛ける声が聞こえた。
その声の主たるや・・・
「・・・く…「狂い毒蛾」…お美和さん!!??」
そう、もう“一人”の化身忍者・「狂い毒蛾」ことお美和が、嵐の危機を救うため、
そして血車党の非道の犠牲にされた家族の怨みを晴らすため、また欺かれたことへの
報復のため、更には嵐たちへの懺悔のために、三匹の化身忍者に
「狂い粉」を浴びせていたのだ!!
81 :
名無し天狗:03/10/28 18:49 ID:V49eP5EB
「!!…く…「狂い毒蛾」ぁ、貴様あああああ!!」
上空の「狂い毒蛾」に呪詛の声を上げる「鬼火蝮」。
「よくもあたしから大事な物を全て奪い、その上騙し続けてくれたわね!!
許せない・・・・・・あんたたち、絶対に許さないんだからぁ!!」
涙混じりに絶叫し、「狂い毒蛾」、いや、お美和は怨みを込めて
「狂い粉」の勢いを強めていく。
その彼女を、嵐はいじらしい思いで見つめていた。
「お美和さん…あなたは……。」
だが、卑怯未練な三匹の化身忍者は・・・・・・!
「ぬうぅ…裏切り者めぇ!!」
「鬼火蝮」が、口から火を吐いてお美和…「狂い毒蛾」の片羽を焼き焦がした!
同時に「狂い粉」も止み、お美和は真っ逆さまに墜落していった…。
「お・・・・・・お美和さぁあああああああん!!!!!」
奮戦空しく、敵の手に掛かってしまったお美和に、嵐は慟哭する!
「フン、とんだ邪魔が入ったか。」
「やっぱりチャッチャと片付けた方がよかったんだよ、死に損ないも裏切り者もさ。」
「まぁ、裏切り者の処刑はあとでじっくりとやることにしてだ…
まずはあのくたばり損ないから仕留めてしまおうぞ!!」
「「おお!!」」
・・・もう、彼らの非人道ぶりは、繰り返して書く必要もあるまい…。
82 :
名無し天狗:03/10/28 19:18 ID:V49eP5EB
「く…き…貴様らああああああああ!!!!!!」
嵐は激昂した!!これまでとは比較にならぬ程の激しい怒りが、彼女の身体を、心を駆け巡る!!
そして仮面然とした鷹の目からは、滂沱の涙が滝の如く溢れ出す!!
血車党に対するこの世の物とは思えぬ憎悪を面に、嵐は外道共に飛び掛かる!!
だが、諦めの悪い敵は、なおも抵抗を試みる。
「「毒蛇妙尼」、参るぞ!」
「?・・・“あれ”をやるんだね、兄さん!判ったよ!」
お互い相槌を打ち合い、「鬼火蝮」は「毒蛇妙尼」を肩車に担ぎ、二匹はその身をくねらせた。
すると…みるみるうちに二匹の身体が溶け合い、一つの大きな塊となった。
更にその塊は前と後ろに向かってゴワゴワと伸び、その形を徐々に変化させていく。
そして遂には・・・二匹の身体は完全に一体の巨大な大蛇の姿を成した!!
「・・・う、うぉ!!??何だこれは!!??」
更なる予期せぬ事態に嵐は絶句する。その嵐を、大蛇は嘲りの眼で見据える。
「ウヮハハハハハハ…見たか嵐!!」
「これこそあたいら蛇忍者の合身忍法…「血車大蛇(ちぐるまおろち)」さ!!」
「ち・・・血車大蛇だとぉ!!??」
嵐はなおも驚愕する。恐るべき血車党の化身の技術!!
「血車大蛇」と化した「鬼火蝮」と「毒蛇妙尼」の悪辣な声が邪悪に轟く。
その頭上には、いつの間にか「不死身ましら」が乗っている。
「ヒーヒヒヒ!さぁ嵐、観念して兄貴と姐御に呑まれちまいな!!」
勝利を確信し、勢い付く「不死身ましら」。その様は、「虎の威を借る狐」さながらである。
83 :
名無し天狗:03/10/28 19:40 ID:V49eP5EB
「不死身ましら」を乗せたまま、猛威を振るってのたうち回る「血車大蛇」は
嵐を追いながら、岩を蹴散らし、木を倒し、村を襲い、人を狙う。
嵐は逃げる先々の村人たちに避難を呼び掛けながら、
死に物狂いで人々に危害の及ばぬ場所を探す。
やがて嵐と「血車大蛇」は、人里を遠く離れて桂浜に辿り着いた。
「よし、ここならば誰にも危害は及ぶまい!さぁ行くぞ血車党!!」
「馬鹿が!自分から墓場を選ぶとはな!!」
激戦の火蓋が再び切って落とされた。
嵐は大きく舞い上がり、上空から斬り掛かるが、「血車大蛇」は
尻尾でいとも容易く彼女を弾く。
砂浜に叩き付けられる嵐。だが、彼女は挫けない。
両親との誓いがある限り、嵐は血車党に抗う。
「血車大蛇」の頭上では、「不死身ましら」が喚き散らしている。
「ヒャーハハハハ!兄貴ぃ!姐御ぉ!もっとやっちまぇー!!」
「不死身ましら」に捲くし立てられるまでもなく、「血車大蛇」は攻勢を緩めず、
嵐を一呑みにしようと彼女に肉薄する。
次々と間髪入れずに繰り出して来る巨大な「血車大蛇」の猛攻を、
嵐は(「血車大蛇」から見て)小粒ななりと俊敏さを活かして回避していく。
両親と、「これから出会うであろう人々」への熱い思い…
それが今の嵐の支えであった。
84 :
名無し天狗:03/10/28 20:05 ID:V49eP5EB
回避しつつ、嵐は「血車大蛇」に斬り掛かるが、
「血車大蛇」の全身の鱗は、「不死身ましら」の「鉄ましら」並みの硬度を持ち、
ハヤカゼの刃は幾度となく弾かれた。
「ここまで必死に喰らい付くとは…見上げた度胸だな、嵐!」
「だけど、それもここまでだよ!大人しくあたいらの餌になりな!!」
蛇忍者二匹の声と共に、大口を開けて嵐を狙う「血車大蛇」!
嵐は走った!血を吐く程に!!その行く先には崖下と思しき岩壁が!!
それを見て、嵐は咄嗟に死中に活を見出した!!
「グァアアアアアア・・・・・・!!!」
嵐の背後に徐々に迫り来るのは「血車大蛇」そのものの唸り声だ。
だが嵐は臆することなく、「血車大蛇」を引き付けていく。
そして・・・嵐は眼前の崖へ跳び、その岩壁を蹴った反動で「血車大蛇」の
頭上高くまで舞い上がり、羽手裏剣を「血車大蛇」に投げ付けた!!
その狙いは・・・「血車大蛇」の両眼だ!!
「グギェエエエエエェェェ・・・・・・!!!!」
両眼を羽手裏剣で射抜かれ、苦しみ、もがき、のたうつ「血車大蛇」。
頭上の「不死身ましら」も、その影響をまともに受けて砂地に転落した。
そして嵐を散々苦しめた「血車大蛇」は・・・
堪らず元の二匹・「鬼火蝮」と「毒蛇妙尼」の姿に分離した。
85 :
名無し天狗:03/10/28 20:23 ID:V49eP5EB
あの手この手で嵐に苦戦を強いた三匹の化身忍者であったが、
ことここに到り、遂に万策尽き果てた。
「血車地獄の罠」も、いよいよここに終焉を迎える時が来たのだ。
だが、この期に及んで未だ未練がましい三匹は、
「不死身ましら」の「鉄ましら」を盾になおも足掻く。
だが、彼らに代わって勝利を確信した嵐は落ち着きを取り戻し、ハヤブサオーを呼んだ。
仇を討つならハヤブサオー…お順と共に、と言う思いからである。
嵐の元に駆け付けたハヤブサオーはお順の姿に戻り、彼女の横に並んで小太刀を構える。
毅然と叫ぶ嵐。
「貴様らはもうお終いだ、父・母の仇、覚悟!!」
嵐は羽手裏剣を「不死身ましら」に見舞った。
先程の「血車大蛇」との戦いで、「どれ程身を強固にしたところで、目だけは
手の施しようがあるまい」と見極めた上での攻撃であった。
そしてその読みは見事に的中した。
「ウガアアァァァアアアァ…目が、お…俺の目があああぁぁぁああ!!!」
「不死身ましら」は苦悶からその場を転げ回る。
86 :
名無し天狗:03/10/28 20:43 ID:V49eP5EB
そして遂には、激痛から「鉄ましら」の術を思わず解いてしまった。
「!・・・い、いかん!!」
慌てる「不死身ましら」。だが、彼の悪運はここに尽きた。
この機を逃さず嵐は走る!十三年間の万感の思いを抱きながら!!
「父上、母上・・・・・・
秘剣!針千本!!・・・今こそ第一の首を!!」
瞬間、ハヤカゼの切っ先が目にも止まらぬ速さで次々繰り出され、
今やただの猿の化け物にまで堕ちた「不死身ましら」の身体を矢継ぎ早に貫く!!
刺突を繰り返す嵐。既に「不死身ましら」は息絶えていた・・・。
にも関わらず、なおも刺突を続ける嵐。
それ程までにこの一味には大きな怨みを抱いていたのであろう。
お順に「まだ二匹残っています!」と宥められるまで、彼女は必死の思いで
「針千本」を続けていた。
87 :
名無し天狗:03/10/28 20:56 ID:V49eP5EB
さて、残るは「鬼火蝮」と「毒蛇妙尼」の二匹。
これで丁度二対二、五分の戦いとなった。
嵐は母の姿をやつした「毒蛇妙尼」に、
お順は住職に化けて偽の報せをもたらした「鬼火蝮」にそれぞれ挑む。
「よくも母の御霊を愚弄してくれたな!!」
「フン、あんたさえいなけりゃ、あたいらは今頃大金持ちになれたんだ!!
こんなに邪魔になるんなら、あんたも殺っときゃよかったよ、あん時にね!!」
母の弔い合戦に燃える嵐に、「毒蛇妙尼」は捨て台詞を吐く。
「醜い欲のために“女の本分”を捨てて血車党に入ったとは・・・益々持って許せん!!」
「ハン、何とでも言いな!!」
半ば自暴自棄の「毒蛇妙尼」は、再び「蛇枷地獄」を仕掛ける!
だが嵐は・・・
「嵐・旋風斬り、蜻蛉剣!!」
手にしたハヤカゼを風車のように素早く回し、蛇の群れを打ち落としていく。
88 :
名無し天狗:03/10/28 21:13 ID:V49eP5EB
一方、お順対「鬼火蝮」。
「兄上と義姉上が生きていたなどと…ようもまあ傷口に塩を塗り込むような
大嘘を吐(つ)いたものですね!そなたによって受けた私たちの心の痛み…
今こそ思い知りなさい!!」
「ほざけ、落人が!貴様も柳澤家と同じ目に逢わせてやろうか!?」
「やはり・・・柳澤のお家もそなたたちが滅ぼしたのですね・・・!!」
「だったらどうした!お喋りは終わりだ、死ねぇ!!」
口から毒液と火炎を交互に吐き、また杖の蛇頭からも火炎を噴き付けて
お順に迫る「鬼火蝮」。だが、お順も化身の手術を受けた身である。
「鬼火蝮」の猛攻を巧みにかわすと、お順とハヤブサオー、二つの姿を使い分けて
「鬼火蝮」を翻弄する!!
「くそぉ、このっ……!!」
お順=ハヤブサオーの変幻自在の攻勢に、流石の「鬼火蝮」もキリキリ舞いである。
「鬼火蝮」は「蛇抜け殻」で応戦しようと地に伏すが、それより一瞬早くハヤブサオーは
上空高く跳び上がり、そのまま高速の急降下!!
そしてハヤブサオーは、己の全体重を前足に集中させ、脱皮中の「鬼火蝮」の背中を
強く踏み付けた!!!
「ギェエエアアアアアアアア・・・・・・!!!」
断末魔の絶叫を残し、「鬼火蝮」はその悪意に満ち溢れた生涯を閉じた。
ハヤブサオーはお順の姿に戻り、一言呟いた。
「二番首、頂戴…。」
89 :
名無し天狗:03/10/28 21:33 ID:V49eP5EB
悪鬼外道の「血車地獄の罠」、それも遂に「毒蛇妙尼」ただ一匹を残すのみとなった。
「これであとは貴様だけだな、「毒蛇妙尼」!!」
「うっさいねぇ!こうなったらお前だけでも、この手でブチ殺してやるよっ!!」
・・・だが、その幕切れは、意外過ぎる程呆気なく訪れた・・・。
毒の牙で噛み付こうと、嵐に跳び掛かる「毒蛇妙尼」。
その彼女を「やれやれ…」と言った風で見ていた嵐は、大きく開いた「毒蛇妙尼」の
口内目掛け、サックリとハヤカゼを突き入れたのだ…。
そしてそのまま・・・
「地獄へ落ちよ…嵐・唐竹割り!」
真下へと一直線に「毒蛇妙尼」の身体を斬り下げたのだった。
身も心も悪魔に売り渡した外道の女の、正にそれ相応の最期であった。
「ふぅ…三番首、頂戴…。」
ここに、嵐=ユキの心理につけ込んだ卑劣な「血車地獄の罠」は潰え去った。
「父上、母上、私たちは…今、やっとその無念を晴らすことが出来ました…。
これからも世のため、人のために尽くし、いかなる運命も受け入れて、
戦い抜くことを誓います。父上・母上におかれましては、どうか安らかに…。」
90 :
名無し天狗:03/10/28 21:47 ID:V49eP5EB
感慨に浸るユキとお順。だが、それも束の間であった。
「・・・!そ、そうだ!お美和さん!!」
家族の命を奪い、自身の生涯の歯車を狂わせた血車党に一矢報いようと、
その身を挺して嵐に加勢したお美和=「狂い毒蛾」。
その彼女は、卑怯極まる「鬼火蝮」の手に掛かり負傷してしまっている。
本懐を遂げたあと、彼女が気掛かりになったユキとお順は、
急ぎ先の戦いの場へと馳せ戻った。
既に夜は明け、朝日が燦然と光り輝いている。
お順はハヤブサオーと化し、深手を負ったユキをその背に乗せてひた走る。
やがて彼女たちは、「狂い毒蛾」が墜落したと思しき場所に到達。彼女を探して回った。
「お美和さぁ――――ん!!!」
懸命にお美和の名を呼ぶ二人。ユキは立っていられず、這ったまま彼女を探す。
やがて・・・
「・・・・・・ううぅっっ・・・・・・。」
茂みから若い女の呻き声が聞こえて来た。
91 :
名無し天狗:03/10/28 21:53 ID:V49eP5EB
「!・・・今の声…お美和さんでは!?」
「ユキ、あちらから!!」
声のする方角へと移る二人。やがて彼女たちが目にしたのは・・・
「・・・!お美和さん!!」
それは、背中に大火傷を負ったお美和の痛々しい姿であった…。
お順がユキを背負い、二人は彼女の許へと駆け寄る。
「お美和さん…お美和さん!!」
必死に呼び掛ける二人。暫くして・・・
「う・・・あ、ユキ…さん、お、順…さん……。」
「よかった、気が付いたか。」
92 :
名無し天狗:03/10/28 22:07 ID:V49eP5EB
「ごめん…なさい…あ…あた、し、の…せい…で……。」
涙を浮かべ、今回の一件の一因を作ってしまったことを詫びるお美和。
「いや…良いのだ!!もう気になどしていない!!
それよりもお美和さん、私たちは本懐を成就したぞ!!無論、そなたの
家族の怨みも晴らした!!そなたには感謝している!!!」
お美和は根っからの血車ではなかったのだ。
ユキは心ならずも血車党の片棒を担がされていた心から許し、感謝の意を表した。
「え…あ…あたしの……か、ぞく…の、怨みも……嬉しい……。」
「そうだお美和さん、また一緒に旅をしよう!土地土地の民謡も一緒に唄おう!
三人で楽しくワイワイやりながら、な!!私たちはこれからも仲間だ!!!」
改めてお美和を「仲間」として迎え入れ、親身になって彼女を励ますユキ。
今のお美和にとっては、彼女の「これからも仲間だ」と言う一言が、何よりも嬉しかった。
「あ・・・り・・・が・・・と・・・う・・・・・・。」
苦しい息の下から、感慨の涙を流すお美和。
そして彼女は、そのまま眠るように・・・。
93 :
名無し天狗:03/10/28 22:22 ID:V49eP5EB
「お美和さん?・・・・・・お美和さん!!?」
事切れたか!?必死にお美和の身体を揺するお順。
だが・・・
「・・・いや、気を…失っただけです。かつての私と同様に…。」
ユキもかつて、生身であった頃、血車党の悪辣な罠に陥り、生死の境を彷徨っていた。
今のお美和も、正に今、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされているのだ。
「ユキ・・・・・・。」
ユキは暫く黙していた。長いようで短い静寂の時…。
やがて、ユキの口から出た結論は・・・・・・
「…叔母上、私はお美和さんをこのまま死なせとうはありませぬ!
ですが、今のお美和さんは医者の養生も叶わぬ程の深手……!!」
「となると・・・やはり・・・・・・。」
「ええ、叔母上、参りましょう!!」
お順はユキの言葉の意味を察し、同意した。
かくしてユキは、重体のお美和をお順=ハヤブサオーに乗せ、
自らはその手綱を引いて生まれ育った故郷を後にした。
「父上、母上、そして私の故郷…“前田村”よ、一先ずおさらば致します…。」
多分第44話「父の魂・母の涙〜変身忍者嵐・第二章〜」 完
94 :
名無し天狗:03/10/28 22:26 ID:V49eP5EB
さて、嵐・第二章、今宵をもちまして読み切りにございます。
皆様には大変ご迷惑をお掛けしました。今、ようやく終わったところです!
また暫くは読み手に戻って「第三章」、ひょっとしたら「第四章」まで作り、
その上で嵐を中澤軍団と合流させる、と言う運びの予定です。
長らくのご愛顧(←ウソコケ、コノ)、誠にありがとうございました。
では、次の方、ヨロシクです!