(☆)さて、盗っ人騒ぎもこれにて一件落着。
ユキ・お順・名主の三名は捕らえた鼬小僧の処遇について
あれこれ思案致しております。
「さて…この男どうしたものか…。」
「難しゅうございます…。」
「う〜む……。」
ユキもお順も名主も、頭を抱えて悩みます。
かつて主人・洋忠の恩を仇で返したこの男。それだけに早々と結論は出せません。
「…とりあえず起こすか。すべてはそれから…オイ、起きろ!」
そう言うやユキは鼬小僧の身体を揺さぶり、或いは彼の者の頬を張るなど致しますが
鼬小僧が目を覚ます気配は一向にございません。
その後もユキは水を浴びせたり棒で殴ったり、やはり出ました鳥の羽でくすぐったりと
あらゆる手を尽くしますが、鼬小僧はピクリとも致しません。
その様を見て名主いわく(☆)
「娘さん、ちょっと待っておくんなさいまし。今、鉈(なた)を用意して参りますんで…。」
(☆)するとどうでしょう!この名主の一言がいかなることか鼬小僧の耳に届いたらしく、
恐怖心からの大きな悲鳴と共に目を覚ましたのでありました!!
「おお、気が付いたようだな。」
鼬小僧が意識を取り戻し、先ずは一段落。
「鼬小僧、確かにお前は私に嫌がらせを仕掛け、数多くの何の罪も無き人々を
惨たらしく殺めてきた許し難き痴れ者。だがその反面、気の毒でもある。幼き日よりご家老に
お仕えするまでの間、斯様に心が荒むまでに不幸な人生を送ってきたのであろう…?」
いかに人非人と言えど、かつて同じ主家に共にお仕えした身として、
今のユキの心中には鼬小僧に対する憐憫の意が幽かに現われておりました。しかし・・・(☆)
「フン、今更同情なんざ要らぬわ!ワシゃどうせ代官所に引き出されて打ち首になるんだ!!」
と、あくまで頑なに意地を張り通す鼬小僧。ユキはまたも悩みます。
「どうする、主…。」
「まぁ…本来であれば代官所に突き出すのが筋かとは存じますが…
本人の心掛け次第によっては、解き放ってもよいかと思っております。」
ユキにとって名主のこの提案は余りにも突飛な意見!(☆)
「オイ主…よいのか本当にそれで!こやつは一度改心して、
我が藩のご家老の奉公人になるも狼藉を働いて藩を追われ、また盗っ人になった奴だぞ!?」
「なぁに…たらふく飯を食わせて、薪割り・水汲み・風呂焚きなど力仕事をたっぷりさせて、暖かいところで寝かせて、
三日に一度はお寺で説法を聞かせてやれば、性根も真っ直ぐになりましょう。」
「寺で説法…なるほど、それならばこの男も心の拠り所・生き甲斐を見出せるやもしれぬ。名案だ。
では主、鼬小僧のこと、よしなに頼む。」
「へぇ、かしこまりました。」
かくして鼬小僧もまた、この村に住み込みで働くことになったのです。今度こそ真人間になれるか否か、
すべては鼬小僧次第でございます。
「まぁ立ち話もなんですんで、手前の家にご案内致します。
あなた様方のご用件も、そこで承りましょう。大したもてなしが出来ず
恐縮ではありますが、ささ、どうぞ…。」
「そうか、済まんな。イヤ、私たちへの気遣いはどうか無用に願おう。」
「然様でございますか。恐れ入ります。」
ユキとお順は改めて名主のお世話になり、
漸く本題に差し掛かることと相成ったのでございます。
(☆)さて、ここは名主の家の応接間。
お茶をご馳走になるユキとお順は、早速事の肝心要を切り出します。
「ところで主…この諏訪藩のご領内にある諏訪神社に祀られていると言う
宝物について伺いたいのだが…。」
「諏訪神社のお宝…?おお、そう言えば、それにまつわる碑文の写しがございますので
少々お待ちを…。」
「?待たれい、碑文の写しとは…?」
「へぇ、実は手前は若い頃、全国の神社仏閣を巡る旅をよくしておりまして、そのお寺や神社の
起源や言い伝えとかに興味がございまして、書き残せる物は住職や宮司のお許しを頂いた上で
したためていたのでございます。」
「ほう…。」
名主の知られざる一面を知り、感服したユキたちでございました。
(☆)やがて名主は箪笥から一冊の書物を取り出し、パラパラとめくり始めました。
「え〜と、確かこの辺に…おお、あったあった!これでございます。」
そう言って名主がユキたちに見せたページ、そこには見出しにこう書いてありました。
『諏訪神社 霊石由来』
(☆)霊石とは何ぞや!?ユキたちは漢文で書かれたそのページを
食い入るように見つめ、解読に余念がございません。
ああでもない、こうでもない、ここはどう読む…
解読に向けて試行錯誤を繰り返すこと一刻、漸くユキたちは
その碑文の全容を知ることが出来たのでございます!(☆・☆)
ここで一旦、栞でございます。