(☆)さて一方、こちらはとある街道。その道中を旅する二人連れの女性
(にょしょう)がおりました。
「しかし…お美和さんも一命を取りとめ、またあなたの負傷も癒えて、
先ずは安心しました。」
「ええ、私もお美和さんが助かるか否か、治療を受けている間中、居ても立ってもいられませんでした。
でも助かった今は、お師匠様がお守りすると仰ってましたし…谷一族の隠れ里は容易く見つかることは
ないでしょうから、お美和さんの身の上は先ず大丈夫でしょう。」
然様。この二人は先の第二章に於いて各々の家族の仇討ち本懐を果たした五木家家臣のくノ一ユキと
その叔母でユキの愛馬と言う化身の姿を持つお順にございます。
彼女たちは、先の仇討ちの戦いの最中深い傷を負ったお美和と言う娘を、自分たちの育った
谷一族の隠れ里へと連れ、治癒と擁護を師たる頭領・谷の鬼十に依頼していたのであります。
同じように激戦から重度の打撃を被(こうむ)っていたユキもまた治療を受け、里を下る頃にはすっかり
本復致しておりました。
(☆)仇討ちを成し遂げた今、彼女たちに課せられた使命は一つ!
(☆☆・☆)日本各地で悪逆非道の限りを尽くし、倒幕しいては日本制圧を目論む「血車党」を
完膚無きまでに殲滅することのみ!!
(☆)今日も今日とて、血車党討伐の旅路を行くユキとお順でございます・・・!!
(☆)ユキたちが隠れ里を下っておよそひと月後、街道筋の茶店で一服していた所へ
奇妙奇天烈な生き物が彼女たちの前に降り立って参りました。
(☆)その容貌たるや、大きさは大の大人並み、姿形はカラスを不恰好に人の形に模った様!!
(☆・☆)その上嘴からは人の、それも若い女子の顔が覗いていると言う奇怪千万な風体!!
(☆☆・☆)一瞬、すわ血車党の化身忍者か!?と思わず身構えたユキではありましたが、
そのカラスの成りを見て、何故かユキは胸を撫で下ろしたのでありました。
(☆)それを見て、何とカラスが突然口を利いたのでありました!
「オイオイ、長年見慣れた伝書ガラスを忘れんなよぉ。」
「あ…イヤ、済まぬ。見慣れたつもりであっても…やはり…その…何だ……。」
不気味なカラスが五木家と谷一族が書簡のやり取りに使う伝書ガラスとわかり、
ユキはただただ平謝り。しかし、いつ何どき見ても、その異様さは中々否めません。
ようやく落ち着いたユキはカラスに用件を尋ねます。
「して…そなたがこうしてやって来たと言うことは…何か仔細でも!?」
(☆)問われてカラスはこう答えます。
「おう、そのことよ。お殿様からのお達しでなぁ、信州諏訪藩へ行けってさ。
何でも、諏訪神社に祀られている宝を血車党が狙っているって、物見の報せで
わかったんだとさ。」
「諏訪神社の宝?」
「ああ。詳しいことはよくわかんないけど、よっぽどドエライお宝なんだろうねぇ。
あと、これは鬼十のおかしら様から。秘伝の書は取り返したらその場で処分してくれって。
世のため人のためにって取っておいた技術が悪の手に渡ったことを大層悔やんでたみたいだよ、
お殿様もおかしら様も。」
「そうか…相判った。遠路ご苦労、殿とお師匠様に良しなに伝えてくれ。」
「あいよー。」
用件を伝え終わるとカラスはまた飛び去って行きました。
(☆)さて、カラスの報せから更なる事の重大事を知ったユキとお順は…
「叔母上、事態は一刻を争います!」
「ええ、先ずは信州諏訪へ急ぎましょう!!」
「心得ました!」
(☆)次なる目的を定めてユキはお順の変じた愛馬・ハヤブサオーに跨って
信州諏訪、即ち現在の長野県へと急いだのであります。
ここで一旦、栞にございます。
さて、お話しの続きに掛かります。
(☆)天翔ける勢いで信州諏訪に辿り着いたユキとお順。血車党が狙うと言う諏訪神社奉納の
宝について何かわかりはせぬかと、手掛かりを求めて領内を尋ね回ります。
(☆)と、その彼女たちの耳に突如響いた人の悲鳴!!(☆・☆☆・☆)
「だ…誰かぁ〜〜〜!!誰かおりませぬかぁ〜〜〜!!!」
(☆)遠く彼方より聞こえましたのは、何物かに脅え助けを求める男の声!
何事なるかと、声のする方角へユキたちは駆け出します。(☆)一方、こちらは諏訪のご領内のとある農村。
「誰かぁ、誰かぁ〜〜〜!!!!」
「何だ…おい、お前惣兵衛じゃないか、どうした!?」
「あ・・・名主様ぁ〜〜〜!!助けて下せぇ〜〜〜!!!!」
惣兵衛と言う百姓は、恐怖から取り乱しておりました。
「おおお…落ち着け惣兵衛、一体、何があったんじゃ?」
「な…名主様ぁ、実は、ワシの家に…ぞ、賊がぁ!!」
「賊!?盗っ人か!?」
「へぇ…!」
やや落ち着いて名主の問いに答えるも、惣兵衛は身体の震えが止まりません。
「で…盗っ人は何人だ?」
「一人でございます!」
「一人か!ならばワシの張り手一発で、首の骨を圧し折ってやるわぃ!」
と意気込んだのは名主の傍らで事の顛末を聞いていた、力自慢の百姓でありました。ところが…(☆)
「ですがあの盗っ人…うちの娘を人質に獲って、その上…大きな刀を振り回しておりますぅ!!!」
「「な、何じゃと!!?」」
「うぉおおおおぉぉぉおおぉぉおおおお!!!!!」
(☆)百姓たちが戸惑う中、鬼の如き凶悪な形相で、ひとりの幼い娘を重荷のように肩に担ぎ、刃渡り三尺は
あろうかと言う長太刀を狂ったように振り回している男が駆け回り、何やら喚き散らしております。(☆)
「酒を出せ!食いもん寄越せ!!有り金残らず持って来い!!!」
(☆・☆・☆)出さねば娘の命をも奪いかねない剣幕で暴れ、騒ぐ男を追って、娘を返してほしいと懇願する
惣兵衛の女房が、家の軒に吊るしてあったであろう干し柿を差し出し、縋るような面持ちで男にこう呼びかけます。
「今はこれしかございません!どうか…どうか娘の命は!!」
ところが盗っ人の男は「そんな物が腹の足しになるか!」と手酷く一蹴!
困り果てた名主は止むを得ず、惣兵衛に「ワシの家から何でもいい、酒と米の飯を持って来い!」
と促したのでした。
「銭ならここにある。ほら、持ってけ!今、米の飯も持ってくる!!」
「ですからそれまでは…どうか、どうかこれで……!!」
名主と惣兵衛の女房は、何とか待ってもらおうと必死に男に懇願します。
(☆)ですが男は待ちきれぬ様子!痺れを切らせて遂に・・・・・・!!(☆・☆☆・☆・☆)
「そんな干し柿…要らんと言うておろうがぁああ!!!」と怒声一発、そして・・・バッサリ!!
「名主様、持って来ま・・・!!お…おせい!おせええええぇぇぇい!!!」
名主の家から酒と握り飯を持って来た惣兵衛が、不幸にも自分の女房おせいが
斬り付けられたのを目撃してしまいました。倒れたおせいに縋りつき泣きじゃくる惣兵衛…。
一方の男は興奮治まらず尚も刀を打ち下ろそうとしております!!!(☆☆☆・☆)
嗚呼、このまま皆殺しに遭うのか…と思われたその時!!!