「ふん、死に損ないが。
今度こそとどめを刺してやる」
ドクロ少佐は戻ってきた鎌を再び構えた。
「今の私は前の私と同じじゃない。
今度はさっきみたいにはいかないよ」
「ほざけ! 貴様に一体何が出来る!」
「見せてあげる。私の新しい力を」
くるりとその場で一回転したストロンガーは、ぴしりとポーズを決める。
「チャージアップ!」
かけ声とともに胸の「S」のマークがくるくると回った。
体に埋め込まれた超電子ダイナモが、無尽蔵の力を生み出し始める。
シューシューとあふれ出たエネルギーがスパークし、辺りに火柱を作った。
「とぅ!」
丘の上から飛び降りる。華麗に着地したその姿は、先ほどまでとは異なっていた。
顔のツノ、カブトショッカーが銀色に変わり、胸のプロテクター、カブテクターに
銀のラインが描かれる。
超電子人間として生まれ変わったストロンガーの新たなる姿。
「そ、その姿は……」
「ちぃ、そん程度のこけおどしで、この俺がビビるかよ!」
岩石男爵は一声叫んでストロンガーへと詰め寄った。
固く握りしめた拳を振りかぶる。
ガシリ、と固いものがぶつかり合う鈍い音がした。
「な、何じゃと!」
岩を砕く強力な腕の一振り。
だがその攻撃は、ストロンガーの片手で軽々と受け止められていた。
「ええい、こいつめ!」
逆の手の攻撃をストロンガーは身を沈めてかわした。
代わりに自分の拳を岩石男爵に叩きつける。
「へん、そんなパンチ効くわけが──」
びしり、と音を立てて岩石男爵の体にひびが入った。
「ば、馬鹿な!」
「圭織!」
戦友の名前を呼び、ストロンガーは岩石男爵の腕を掴んだまま、真上に放り投げる。
「ええい、ちきしょう! このくらいで……。な、なんだ!」
「セイリングジャンプ!」
投げ飛ばされた体は、スカイライダーに空中でキャッチされていた。
重力低減装置の力。重たげな体を抱えたまま、ぐんぐん上昇する。
「こ、このぉ、何しやがる! 離さんかい!」
「はい、どうぞ」
真っ正直にスカイライダーはその手を離した。
岩石男爵は重力に引かれ真っ逆さまに落ちていく。
「う、うおぉぉ!」
「きたきた。いくぞぉ! 衝撃集中爆弾!」
「ゼーバー・イナズマンフラッシュ!」
ストロンガーの付けたひび。そこを狙ってZXとイナズマンが攻撃をぶつける。
二人の必殺技に、岩石男爵の体のひびがさらに大きくなった。
「よっしゃ、次はこれや! ライドルホィップ!」
やり投げのような体勢でXライダーはライドルホィップを投げつけた。
鋭い先端が、ひび割れた岩石男爵の体に突き刺さる。
「く、くそぉ! こんなもので、こんなものでこの俺が!」
吠え猛る岩石男爵はなおも落下を続ける。
その真下で、スーパー1は静かに構えをとった。
そのままゆっくりと敵を見上げる。
「き、貴様、まさか……まさか!」
落ちてくる敵を迎え撃つように、スーパー1は空中に飛び上がった。
「ば、馬鹿な! 俺が、この俺がこんなところで!」
「スーパーライダー! 月面キック!」
下から上に閃光が走る。
しなやかに伸びたスーパー1の脚は、突き刺さったライドルを正確に捉えていた。
強烈な蹴りの力に落下の加速度が重なり、ライドルは硬い体を背中まで貫く。
「馬鹿な! ばかなぁぁぁぁぁ!」
ライドルを中心に岩石男爵の体はバラバラに砕けた。
耳をつんざく爆発音。
空中に真っ黒な爆煙が巻き起こった。
その光に照らされながら、ストロンガーは一歩前に踏み出す。
「後はあなただけよ」
「お前は……。これはまさか、超電子の力。
そうか……正木があそこにいたのは……。
おのれ、正木め。こんなことならもう少し早く始末しておくべきだった」
全てを悟ったドクロ少佐は忌々しげに呟いた。
「まさか、まさかあなた博士を!?」
「ふん、正木が地獄で待っている。お前もすぐそこに送ってやるさ。
この……俺がな!」
ぶん、とドクロ少佐は再び鎌を飛ばした。
唸りをあげて回転する鎌。
しかし、禍々しい凶器が通り過ぎたときには、ストロンガーの姿はもうそこにはなかった。
「ぬぉ!」
ドクロ少佐は上を見上げる。
太陽の光の中、力強いシルエットが浮かび上がる。
「ええい! 燃え尽きてしまえ」
ドクロ少佐から炎が伸びた。
何者をも焼き尽くす地獄の火炎。
ストロンガーの体がきりもみを始めた。
鋭い回転が、迫り来る炎を切り裂いていく。
「おのれ! これが、これが超電子の力かぁ!」
「超電子ドリルキィック!!
ストロンガーの右足が、ドクロ少佐の体を貫いた。着地した地面がぼこりと陥没する。
逆光に浮かぶストロンガーの背中越し、体が真っ二つになるほどの穴を開け、
ドクロ少佐はよろよろとよろめきながらも両手を真上にあげた。
「うぉぉぉ! デルザー軍団! バンザァァァァイ」
再び、静かな丘に爆音が響いた。
ばらばらと飛んでくる破片を浴びながら立ち上がるストロンガー。
そのツノはもとの赤い色に戻っていた。
「なっち!」
名前を呼ばれて振り返る。
既に変身を解いた飯田が、唇を震わせてそこに立っていた。
「圭織……」
安倍も変身を解き、飯田の前に進み出る。
「なっち……」
「圭織……ごめんね、心配させちゃって。
でも、なっちは大丈夫。新しい力も手に入れた。
だから、だからもう──」
「……ずるい」
「へ?」
「ずるーい、ずるいよ。なっちだけパワーアップしちゃってさ」
「ちょ、ちょっとずるいって何さ。
なぁに子供みたいなこと言ってんの」
「だって、だってこんなに簡単に……。
あたしは強くなろうとしていろいろ考えてるのにさ。
それなのに、それなのに、なんでなっちばっかり!」
「あのねえ、なっちだっていろいろ大変だったんだから!」
ぷう、と頬を膨らませる飯田。
安倍も負けじと腰に手を当てて睨み返す。
高まる緊張感。
人生経験の足りないメンバー達は、不用意に声をかけることさえ出来ない。
「あ、安倍さん!」
しかし突然、その場の空気を無視するように、場違いなほど大きな声で高橋が安倍を呼んだ。
「もー、なんだよ」
「これ、これ見てください」
「これは……」
高橋の指さした先、荒れ果てた地に立てられた墓標の前。
そこには小さな小さな草の芽が、ほんの少しだけ顔を覗かせていた。
「ずっと……ずっと何も生えてこなかったのに。
何もかも、全て枯れてしまっていたのに……」
わずかな、本当にわずかな命の息吹。
しかし、それは確かな生命の証。
「良かったね、なっち」
「うん……」
「きっと、なっちの気持ちが通じたんだよ。
なっちの愛が。……なっちの植えた、愛の種が」
「うん、うん……」
墓標の前で、安倍は静かに頭を垂れていた。
他の者も何も言わず、ただその背中を見つめる。
海を渡ってきた風が、安倍の柔らかな髪を揺らした。
「よし! やっぱりなっちには負けてらんないや。
さあ、特訓に行くよ!」
「え!? ちょっと飯田さん、今からですかぁ」
「当たり前でしょ、なっちだけ強くなるなんて、そんなのやっぱり許せないんだから」
「え、えええぇぇ!」
「で、でも飯田さぁん」
「ごちゃごちゃ言わない! さ、行くよ」
「あーあ、大変だねぇみんな」
「ちょっと! 何、他人事みたいなこと言ってんの。なっちも来るのよ」
「な、なんでさ。なっちはもう強くなったから──」
「ダメよ。その新しい力もじっくり見せてもらわなきゃ。
付き合ってちょうだいよ。あたしが満足するまで……ね」
「か、かんべんしてくださいよぉ」
じゃれ合うように、はしゃいだ声が風に乗って流れていく。
その様子を新たに生まれた小さな芽が、ずっとずっと見つめ続けていた。
第51話 「新生の雷(いかづち)」 終