「安倍さん! 安倍さぁん!」
「安倍さん! どこにおるんですかぁ!」
結局、飯田達は先ほどの高台に戻ってきてしまっていた。
安倍を捜し求める五人の顔に、不安の色が色濃く浮かぶ。
「誰もいない……まさか安倍さんはもう……」
「何馬鹿なこと言ってんの! なっちがあんな奴らに負けるわけ無いでしょ!」
弱気な発言をする紺野を、飯田は強い口調で戒めた。
安倍は自分が認めた人物だ。簡単にやられるような相手ではない。
不安を押し隠し、飯田はそう自分に言い聞かせた。
「それになっちは約束した。
こんなところで死んだりしない。まだやることがあるんだって。
だから無事だよ。絶対に……」
「飯田さん……」
「馬鹿な奴らじゃの。のこのこと戻ってくるとはな」
聞こえてきた声に五人はすぐさま戦闘態勢を取る。
どこから現われたのか、岩石男爵は悠然とその様子を眺めていた。
「なっちは……なっちはどこに行ったの!」
「アイツか。さあな、そこら辺でくたばってるんじゃねぇのかい」
「ふざけないで! なっちがそんな簡単にやられるもんか!」
「なら、試してみるかい。さっきはドクロ少佐にもってかれちまったからな。
まだ戦い足りねぇんだよ。このままじゃ体が鈍ってしょうがねぇや」
「みんな、いくよ!」
飯田はそう叫ぶと両手を斜めに開いた。
精神を集中しながら赤心少林拳の型を決め、前に突き出した両手を90度回転させる。
「変身!」
光に包まれる飯田の横で、残る四人もそれぞれ変身ポーズを取る。
「大・変・身!」
「スカイ! 変身!」
「変・身!」
「超力招来!」
五人の戦士達が勢揃いした。
目の前の相手が恐るべき敵だと言うことは分かっている。
しかし、ここで引くわけにはいかない。
「コイツを倒してなっちを探すよ。いいね、みんな油断しないで」
「任せてください! こいつ一人だけなら、あたし達で倒してやります」
「ふん、大きな口を叩くじゃねぇか!」
岩石男爵は拳を振り上げ、そのまま突っ込んできた。
力任せの攻撃を左右に散開してかわす。
先ほどまでいたところにあった岩が、腕の一振りで粉々に砕け散った。
「おめぇらみてーな小娘どもなんぞ、俺一人で十分なんよ」
「言ったな! くらえ、チェストォ!」
イナズマンが一声かけると、辺りが真っ白に光った。
電気を操る超能力者、イナズマンによる閃光が輝く。
「う、うぉ!」
「ライドルロープ!」
「マイクロチェーン!」
目つぶしにひるんだ隙をつき、XライダーとZXの二人が岩石男爵の腕を絡め取る。
「あさ美ちゃん!」
「OK!」
飛び上がったスカイライダーの体が前方に回転する。
「スカイ! キック!」
そのまま必殺の蹴りが、身動きできないごつごつした体に叩き込まれた。
「やるじゃん、アイツラ。ナイスコンビネーション」
思わず呟いたスーパー1。だが、それも一瞬のことであった。
腕の拘束をものともせず、岩石男爵はスカイライダーの蹴り足をがしりと捕んだ。
振り回されたXライダーとZXは吹き飛ばされて前方に転がる。
「ふふん、ぬるい攻撃じゃの」
「きゃあああ!」
足を掴まれたまま無造作に投げ飛ばされたスカイライダーは、
起きあがりかけたXライダー達にぶつかった。
敵の力に驚愕したイナズマンは慌てて仲間の元に駆け寄る。
「みんな大丈夫!」
「く! こいつ強い」
「オマエラまとめてペチャンコにしてくれるわ。くたばれ!」
「う、うわあああ!」
勢いを付け突進してくる岩石男爵。
その迫力に四人はとっさに動くことも出来ない。
体を丸めるように、肩から突っ込んでくる敵。まともに食らえば、ただでは済まない。
そこへスーパー1がするりと割って入った。
「お前もつぶされたいんか」
「赤心少林拳、梅花の型!」
兄弟子、弁慶直伝の技。攻撃に使えば剛健、守りに使えば堅牢。
それはまさに赤心少林拳奥義。怒濤の突進をその力に逆らわず、きれいに受け流す。
「な、なにぃ!」
岩石男爵がバランスを崩す。その隙をZXとイナズマンは見逃さなかった。
「今だ! 十時手裏剣!」
「超力稲妻落とし!」
「う、うぉぉ!」
無防備なところに攻撃を受け、さすがの岩石男爵もよろよろとよろけてしまう。
チャンスと見て、スーパー1が宙に舞った。空中で型を決め、右足を真っ直ぐ伸ばす。
「スーパーライダー! 閃光キック!」
「ぬぉぉぉぉ!」
見惚れるほどに美しい体さばき。鋭い蹴りが岩石男爵に突き刺さろうとしたその瞬間。
「きゃああ!」
どこからともなく巻き起こった炎が、銀色の体を包み込んだ。
不意打ちを食らったスーパー1はそのまま真下に落下してしまう。
「油断したな、岩石男爵」
声とともに不気味な姿が現われた。
ドクロ少佐は自らが燃やしたスーパー1を冷たく睨み付ける。
「へ! 余計なことをしやがって。これくらいたいしたこたぁねえのよ」
「まあいいさ、せっかくこうして雁首をそろえて来てくれたんだ。
ここでまとめて片づけてくれる」
「飯田さん!」
「くぅ、二人目か……ヤバいな」
たった一人の敵に五人がかりで苦しい戦いを強いられていたのだ。
それが二人になったということは。飯田の胸に絶望感が広がる。
「さあ、死ぬがいい」
その時、冷たい風の吹きすさぶ丘の上に、朗々としたメロディが響き渡った。
「む、何だ!」
ドクロ少佐と岩石男爵は慌てて辺りを見渡す。
「この口笛は……」
「まさか!」
口笛は静かにその音色を止めた。
代わりに高らかな口上が風に乗せて流れてくる。
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ。
悪を倒せと私を呼ぶ!」
飯田は傷ついた体を抱え、小さな声で呟いた。
「ふ、なんだよ。
やっぱり、やっぱり無事だったんじゃんか……」
「そこか!」
ドクロ少佐は手にした鎌をブーメランのように投げた。
鎌は一段高くなっていた丘の岩を粉々に砕く。
そこから現われた姿。
黒を基調とした体。
強さを象徴するかのような頭の角。
風にたなびく黄色いマフラー。
肩を覆う深紅のプロテクター。
そして、胸に輝くSのマーク。
カブト虫の強靱な力を持ち、体内に搭載された発電機で電気を操る改造人間。
「聞け! 悪人ども。
私は正義の戦士、仮面ライダーストロンガー!!」
「なっち!」
仮面ライダーストロンガーこと、安倍なつみは目前の敵を見下ろし、
気合いを入れるかのように手袋をぎゅっと引き絞った。