仮面ライダーののBLACK

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667名無しハンペン
ぎぃぃ、と音を立てて重たい扉が開いた。
薄暗い部屋の中にゼネラル・シャドウはゆっくりと歩を進める。
ねっとりと粘り気さえ感じる生臭い空気。
部屋の奥には複数の影が蠢いていた。醜悪な気を発するこの世ならぬもの達。
影はうねうねと絡み合い、はたして何人の魔物が存在しているのか、それさえも定かではない。

びりびりと肌を刺激する殺気。
じっとしているだけで息が詰まる。精気を根こそぎ吸い取られるような感覚。
同じ故郷を持つものとはいえ、決して歓迎されているとは思えなかった。

「何用だ、ゼネラル・シャドウ」
「お前がここに来るとは珍しいではないか」
「くく、どうせろくな用件ではないのだろう」
「また我々の力を借りようというのか」
「無論、我々に釣り合うだけの相手なのだろうな」
「詰まらぬ相手ならば、ただではおかんぞ」

地の底から響いてくるような声が部屋の中を木霊する。
668名無しハンペン:04/01/31 21:47 ID:xQNl2rMi
「お前たちも知っているだろう。仮面ライダーと呼ばれるもの達を。
 奴らを倒してほしいのだ」
「カメンライダーだと。あの小娘どもか」
「詰まらん。たいした相手ではないな」
「しかし、ドクター・ケイトを倒したのだろう?」
「ふん、大方小さな手柄に目を奪われて油断したのだろうさ」
「キキキ、まあいい。最近体が鈍っていたところだ」
「ああ、良い暇つぶしにはなるだろうよ」
「小娘どもの首、お前の前に並べてくれるわ」

ひひひ、くくく、とどこからともなく哄笑が暗闇で響いた。

「ふふふ、では頼んだぞ、デルザーの改造魔人たちよ」

ゼネラル・シャドウは闇の塊に向かってそう告げると、そのおぞましい顔を笑みに変えた。
669名無しハンペン:04/01/31 21:48 ID:xQNl2rMi
静かな波が立つ、海が見渡せる高台。
そこに立てられた一本の墓標。
何故かその周りには一本の草も生えていない。
墓前で手を合わせる安倍の後ろ姿を、飯田は黙って見つめていた。

「安倍さんは毎日ここに来て、ああやって花の種を植えてんです」
「種を?」
「はい、あさみさん、花好きやったからって」

高橋の言葉に、飯田はゆっくりと一つ頷いた。
しゃがみ込んだ安倍の小さな背中見ながら、不思議な感慨を抱く。
そう、二人は正反対でありながらよく似てもいた。
片や普通の女子高生、片や宇宙飛行士、日本とアメリカ、進んだ道が違っていながら、
ここでこうして同じ敵と戦っている。
それも、ともに冷酷非情な敵の所為で大切な親友を失い、その敵を討つために。
人ならざる力をその手にして。
何の因果か、不思議な運命の輪を飯田は感じずにはいられなかった。

「さ、もういいよ」

作業が終わったのか、安倍は手をぱんぱんと叩きながら立ち上がった。
その顔に浮かぶ晴れやかな笑顔を、飯田はじっと見つめた。
そう、いつもふざけているように見えて、安倍もまた悪を憎む正義の心を持っている。
自分と同じように。
670名無しハンペン:04/01/31 21:52 ID:TGmX20kv
「なっち……」
「ん? なした?」
「……ううん、何でもない」
「なぁにぃ、ヘンな顔しちゃって。
 おなかでも痛いのかい?」
「違うよ、あたしは──」
「くっくっく、お前達がカメンライダーか」
「何者!」

じゃれ合う二人にどこからか不気味な声がかかった。
声のした方を振り返る。
ひっそりと立った墓標の横に、いつの間に現われたのか二つの不気味な姿があった。

「あなた達……ゼティマね!」
「その通り。俺はデルザー軍団改造魔人、ドクロ少佐」
「同じく、岩石男爵とは俺のことよね」

その名の通り、赤い衛兵服を着たドクロと、岩の塊を重ねて作ったような怪人。
よほどの自信を持っているのか、6人のライダーを前に悠然と立っている。

「このぉ、そっちから現われるなんていい度胸じゃんか!」
「あたし達が相手になってやるでの」
「待って!」

前に出ようとする小川と高橋を、飯田は手で制した。
青ざめたその顔に浮かぶ表情は、恐ろしく硬いものだった。
671名無しハンペン:04/01/31 21:52 ID:TGmX20kv
「なっち、こいつらタダモンじゃない」
「うん、じっとしてるだけで体がびりびりしてくる。
 半端じゃなく強いよ」

人生経験の差か、若いメンバーとは違い二人は的確に敵の能力を見抜いていた。
うかつに飛び込めばやられてしまう。
そう判断した安倍は、油断無く相手の様子を伺いながら、一つの決断を下していた。

「圭織、その子達を連れて先に行って」
「え! 何言ってんのなっち。一人でどうするつもりなのよ」
「大丈夫、ちょっとだけ足止めするだけだから。
 こいつらと、まともにぶつかったらヤバい。
 いったん引いて対策を立てよう」
「でも……」
「大丈夫……なっちは大丈夫だから。
 まだやり残したことがある。こんなところで死んだりしない。
 だから、その子達を頼むよ。お願いだから」
672名無しハンペン:04/01/31 21:53 ID:TGmX20kv
肩越しに後ろを向いた安倍と目が合う。
びっくりするほど澄み切った瞳の色に、飯田は何も言い返せなくなってしまった。

「なっち……」
「どうした。何をごちゃごちゃ言っている。
 さあ、覚悟は出来たのか? どいつが最初だ」
「圭織!」
「……っく!
 みんな、ここはなっちに任せていったん引くよ」
「え! な、なんでですかぁ」
「安倍さん一人残していくなんて出来んて!」
「いいから!」
「だめですよ、安倍さん一人じゃ……」
「そおですよ、いくらなんでも──」
「いいから行け! 早く!」
「い、飯田さん」
673名無しハンペン:04/01/31 21:54 ID:TGmX20kv
飯田の剣幕に、4人は唇を噛み締めながらも後ろへと走っていった。
その足音がどんどん遠くなり、ついには聞こえなくなるまで、安倍は目の前の敵から
ずっと目を離さずにいた。
その様子を見て、ドクロ少佐は不気味に笑う。

「ケヒヒヒヒヒ、健気なものだな。
 自分を犠牲にして仲間を逃がしたのか。
 だが、それも無駄な努力だ。
 ほんの少しこの世にいる時間が延びただけのこと。
 お前を殺した後で、アイツラにもすぐにお前の後を追わせてやるんだからな」
「例えあなた達がどれだけ強くても、そう簡単にやられるつもりはない。
 電気人間ストロンガーの強さ、見せてあげるわ」

拳を握る安倍から、ドクロ少佐はゆっくりと横に目線をずらした。

「この墓」

安倍の肩がぴくりと震える。

「この周りだけ草木も育たぬ。全てが朽ち果ててしまっている。
 墓の下に強力な毒素が残っているのだな。
 ここに眠るものはその毒で死んだ。
 くくく、こんな毒を作れるものはそうはおらん。
 これはドクターケイトの……」
「その墓にさわるな!」

一声叫んで安倍は走り出した。
674名無しハンペン:04/01/31 21:59 ID:1R7b0DDC
「変身!」

両腕のコイルアームが火花を散らす。
小柄な少女は、カブトムシに似たフォルムを持つ改造人間、
仮面ライダーストロンガーへと変化した。
大切な人が眠る墓へと走るその前に、岩石男爵がずいと割ってはいる。

「邪魔よ! 電! パンチ!」

走ってくる勢いを乗せて、パンチをぶち当てる。
ばしゅっと音を立てて一万ボルトの高圧電流が走った。
しかし、見かけ同様に強固な体には、ダメージが通ったようにはみえない。

「へへへ、そんなもん効きゃーせんよね」
「それなら!」
「ぬお!」

掴みかかってきた腕をかわし、膝、腕、肩と岩石男爵の体をとんとんと駆け上がる。
そのまま頭を踏み台にして、ストロンガーは空中に舞い上がった。
防御力が高く、時間のかかりそうな相手を後回しにして、まずはドクロ少佐に狙いを定める。

「ストロンガー! 電! キック!」

前方に宙返りをしたストロンガーの体が赤く光る。
キックとともに、10万ワットのエネルギーがドクロ少佐に注ぎ込まれた。
確かな手応えを感じ、着地したストロンガーは後ろを振り返る。
675名無しハンペン:04/01/31 22:00 ID:1R7b0DDC
「どうだ!
 ……きゃあああ!」

炎に包まれるストロンガー。
目の前には、先ほど必殺技をクリーンヒットさせたはずの敵が、傷ついた様子もなく立っていた。

「なんだ、カメンライダーとはこの程度のものか」

馬鹿にしたような口調でドクロ少佐が呟く。
高温の炎を浴び、全身から煙を立ち上らせながらも、ストロンガーはよろよろと立ち上がった。

「まだ……このくらいじゃ……」
「無駄だ。お前の力では我々には勝てない。
 ええい、ゼネラル・シャドウめ。期待をさせおって。
 この程度の相手なら、我ら二人が出てくる必要などないではないか」
「ドクロ少佐よぉ、はぇぇとこ済ませちまおうぜ」
「そうだな。他の奴らの追わねばならんしな」
「そんなこと……させない。
 あたしは……あたしはまだ負けるわけにはいかないんだ。
 あたしにはまだ、やらなきゃいけないことが残ってる。
 明日香の敵も、あさみの敵も取ってない。
 こんなところで……こんなところでやられるわけにはいかない!」

気合いをいれ、握り締めた拳を勢いよく突き出す。
しかしそのパンチは、敵に届く前にあっさりと受け止められてしまっていた。

「無駄だといったはずだ」

拳を掴んだまま、ドクロ少佐は静かに言い放った。
ゆらゆらと陽炎のような炎が集まってくる。

676名無しハンペン:04/01/31 22:00 ID:1R7b0DDC


「死ね」


677名無しハンペン:04/01/31 22:00 ID:1R7b0DDC
──ドオオオン。

大音響が聞こえた。
飯田達は思わずバイクを止め振り返る。
先ほどまで自分たちのいた場所から、もくもくと黒い煙が立ち上っていた。

「安倍さぁん!」

大きな声で小川が叫ぶ。
言いようもない不安を感じ、飯田は脱いだヘルメットをぎゅっと抱きしめた。

「飯田さん! 今の爆発、もしかして安倍さんが!」

新垣の声も、今の飯田の耳には入らない。
正反対のようでよく似ている二人。
遠いようで近い戦友。
最後に見たあの澄んだ目が、飯田のまぶたに蘇ってくる。

「なっち……」

飯田はその場から動くことも出来ず、ただただその大きな目をさらに見開いて、
禍々しい黒い煙をずっと見つめていた。