「では、いよいよあ奴らを」
「うむ」
悪の秘密結社「ゼティマ」の幹部、死神博士の言葉に、悪魔元帥は重々しく頷いた。
「今まで我々は奴らに対して本格的な攻撃を加えることはなかった。
それは、奴らの潜在能力を評価していたからだ。
脳改造を施していない素体。ヒトの心を持つものの強さをみたかったからだ。
しかし、奴らは力をつけすぎた。我々の想像を大きく上回るほどにな。
これ以上、奴らを好きにさせるわけにはいかん。
ここらで戦力を削っておく必要がある」
その場にいた幹部たちは皆一様に首を縦に振った。
ここは「ゼティマ」の数ある秘密基地のひとつ。
そうそうたる面々が居並ぶテーブル。
その中の一人が突然立ち上がった。
「悪魔元帥!」
「アポロガイストか。どうした」
「その役目、このアポロガイストに御命じください。
なにとぞ、なにとぞ私に汚名返上のチャンスを!」
赤い仮面のせいで表情は分からないが、アポロガイストの声は怒りにふるえていた。
しかし、それも当然だろう。
GODの怪人が集められていたゼティマ北信越支部はライダー達により壊滅。
秘密兵器であったキングダークも破壊された。
さらに生き残りのGOD怪人も、つい先日他のライダーに倒されてしまった。
同じGODに連なるアポロガイストにとって、ライダー達は大きな恨みの対象なのである。
普段の冷静さを感じさせないその姿を、悪魔元帥は黙って見つめた。
「しかし、貴様は前に奴らに敗れたではないか」
冷たく言い放たれ、アポロがイストは身を硬くした。
そう、北信越支部が壊滅した際、油断していたとはいえアポロガイスト自身も進入してきた
4人の小娘にしてやられたのだ。
プライドの高いアポロガイストにとって、この屈辱はとうてい耐えられるものではなかった。
「確かにあの時は不覚をを受けました。ですが今度こそは!
そのために、私は自らの体を改造いたしました」
「ほう」
「ですからなにとぞ、なにとぞ私にチャンスを」
「お待ちください」
二人以外の別の声が上がった。
アポロガイストは声のした方を振り返る。
「ゼネラル・シャドウ、何のつもりだ!」
テーブルの端で立ち上がった白ずくめの不気味な怪人、
ゼネラル・シャドウはアポロガイストを無視するように、悪魔元帥へと向き直る。
「確かにあの小娘どもは、前とは比べ物にならぬほどの力を付けてきております。
もはや普通の怪人では到底太刀打ちできないでしょう。
たとえ改造の終わったアポロガイストといえど、一人では……」
「黙れ! 私の力を愚弄するつもりか!」
「フフフ、まあ落ち着け、アポロガイスト。
第一、お前はもともとゼティマ秘密警察の室長。
私怨などは捨て、己の職務を全うするのが筋ではないのか」
「くっ、そ、それは……」
「ではゼネラル・シャドウ。
お前はライダー達をどうするつもりなのだ。
何か良い考えがあるというのか」
悪魔元帥の問いかけに、ゼネラル・シャドウはその醜い顔を歪めた。
「奴らは力を付けた。我々の想像する以上に。
であれば、それを上回る力をぶつければ良い。そうではありませんかな」
「奴らを上回る力だと。そんなもの、一体どこに」
「我が故郷『魔の国』より呼び寄せた改造魔人達。奴らを使います」
「奴ら……デルザーか」
デルザー軍団。
一人一人が大幹部並みの力を持つという恐るべき戦闘集団。
一つ目タイタンの策略により、その中の一人ドクター・ケイトを失ったものの、
攻撃力は未だゼティマ最強であるといえた。
「よかろう。ゼネラル・シャドウよ、ライダー達はお前に任せる。
奴らの戦力を削って参れ」
「し、しかし!」
「アポロガイスト、お前にもやって貰いたいことがある。
秘密警察室長としての任務をな」
悪魔元帥の言葉に、アポロガイストは不承不承頷く。
「……分かりました。仰せのままに」
「ふふふ、心配するなアポロガイスト。我らデルザーの魔人は最強。
あんな小娘達に後れを取るはずがない。
ふはは、ふははははは」
笑い声とともに、ゼネラル・シャドウはトランプへと変わった。
そのままどこへとともなく消え去っていく。
残った幹部たちもそれぞれ引き上げ始めた。その中でアポロガイストは拳を握りしめる。
「おのれ、ゼネラル・シャドウめ。
まあよかろう、今回はデルザーのお手並み拝見と行こう。
だが、奴らがしくじったときは、今度こそこの私が。
とくにあの小娘。Xライダーだけはなんとしてもこの私の手で!」
アポロガイストはその仮面の下で暗く闘志を燃やしていた。
一方その頃、おなじみ中澤邸はいつものように喧騒の中にあった。
「ほぉら、なっち。トレーニングに行くよ、トレーニングに」
「えー、ヤだよ。外は寒いべさ。他あたって、他」
「矢口と圭ちゃんは迷子の子猫探しのバイト、ひとみと梨華は買い出し。
で、あいぼんとのんちゃんはパトロール。
一人じゃトレーニングにはならないし、空いてるのはなっちしかいないのよ」
コタツに首まで潜り込んでいる安倍を、腰に手を当てて見下ろす飯田。
端から見るとふざけているかのような光景だが、当の飯田は実に真剣だった。
「もー、高橋達誘っていけばいいっしょ」
その発言に飯田の目がすうっと細くなる。
「ダメよ! それじゃ意味がないんだから」
「なにがさ」
「矢口に聞いたでしょ。この間の敵が言ってたって。
あたし達は高橋達より弱いと思われてるのよ。
そんなの悔しいじゃない」
「いいでないの、敵が勘違いしてるくらいのこと」
「勘違い……なら良いんだけどね」
自分たちだけでゼティマの支部を壊滅させた。
その出来事が自信につながったのだろう。
若き戦士達は最近、めきめきと力を付けてきている。
それを考えると、飯田たち年上組もうかうかしてはいられないのだ。
「なっちは強くなりたいとは思わないの?
今以上の力がほしいとは思わないの?」
「そりゃ強くはなりたいけど、寒いのはヤだ。
あーあ、なんかこう、ちょちょっと強くなる方法とか無いかねぇ」
気合の入った飯田と裏腹に、安倍は相変わらずコタツでぬくぬくと丸まっている。
その幸せそうな顔は、童顔のせいもあり、とても飯田と同い年には見えない。
「もー、なんでそういうこと言うかな! そんな考えいくないべさ。
ほぉら、行くよ! コタツから出て」
どうにも掴み所のない安倍の態度に業を煮やした飯田は、
結局力ずくで小柄な体をコタツから引き釣りだす。
「ちょ、ちょっと、引っ張っちゃダメ!」
話をしていて分かったことだが、二人はどちらも北海道出身。
それどころか、生まれた病院も同じ、生まれた日もわずかに飯田が早いだけ。
もしかしたら隣に並んで眠っていたかもしれないと、話の後に二人で笑い合ったものだ。
スタート地点は同じなのに、顔も体つきも正反対。
もちろん性格も、神経質で生真面目な飯田と、楽天的な安倍は正反対であった。
「だいたいなっちは、いっつもそうやってふざけてばっかで。
あたし達が普段どれだけ大変か分かってるの!?」
「い、痛い! 圭織、痛いって、ねえ」
騒々しく部屋から出てきた二人を見かけ、
縁側でのんびり日向ぼっこしていた01──まいが声をかけてきた。
「あれぇ? お出かけですかぁ」
「特訓だよ、トックン!」
「とっくん?」
「そう! 今まで以上の力を手に入れるためにね。
うん、今の力に安心してちゃダメなのよ。
自分の望むものを手に入れるためには努力を惜しんでちゃイケナイの。
若い子なんかにはマケテられない。
だから秘密の特訓をするんだ!
あ、そだ、あんたも来る?」
「いやぁ、わたしは今充電中なんで」
「充電?」
飯田は片方の眉を吊り上げた。のほほんとした笑顔を浮かべるまい。
ひとみ達と同じで寒さを感じないのか、すらりとした足は相変わらず剥き出しのままだ。
「あ、なっちも充で──」
「あんたはちゃんと来なさい!」
「いってらっしゃ〜い」
安倍を引きずりながら玄関へと向かう飯田の背中に、まいはひらひらと手を振った。
勢いよく玄関の扉を開けた飯田は、しかしそのままぴたりと固まってしまった。
「あ、飯田さん。特訓に行くんなら、あたし達も付き合いますよぉ」
目の前にはニヤニヤと意味深な笑みを浮かべる小川の顔。
「水臭いじゃないすか。二人っきりで特訓やなんて」
「そーですよ。あたし達ももっともっと強くなりたいんですから」
「よろしくお願いします! 先輩!」
高橋、紺野、新垣と立て続けにそう言われ、飯田は頭を抱える。
人数が多い割に手狭な中澤家。大きな声での会話は全て筒抜けなのだった。
当てが外れた飯田は、覚悟を決めたのかゆらりとその顔を上げる。
「……いいわよ、教えてあげる。
その代わり容赦しないでビシビシいくからね!」
「はい! よろしくお願いします!」
「ほら! なっちも気合入れて!」
「もー、しつっこいな圭織は。
分かったよ、行けばいいんでしょ、行けば」
「やっとその気になってくれたんだね。
よし、それじゃあレッツゴー!」
「あ、でもその前に、ちょっと付き合ってね」
「へ?」
疑問符を頭に浮かべる飯田に、安倍は柔らかく微笑みかけた。