「で、妖怪ポストを作ってるわけかい。」
黙々と工作をしている二人に中澤が声をかけた。
「妖怪ポストじゃないよ。これは『ライダーポスト』!」
矢口はそう言って木や葉っぱでカモフラージュされたポスト(のようなもの)を持ち上げた。
「でもなあ・・・」
中澤は半笑いで『ライダーポスト』を見ていた。
「なんでー?こんなにかっこいいのにね。」
「いや、かっこいいかどうかは・・・目立たないからいいけど。」
矢口にそう言われてケイは少し落ち込んだ。どうやらケイのデザインらしい。
そこへ買い物から帰った安倍が部屋に入ってきた。
「ただいま〜・・あれ?どうしたのケイちゃん。妖怪ポストなんか持って。」
「・・・ほらな」
「うう・・・」
ケイはますます落ち込んだ。
「・・・で、そのポストどうすんねん?」
落ち込むケイに中澤が聞いた。
「学校の裏山に置くの。場所はあの子たちにしか知らせないつもりだし。」
「でも、回収に行く時にバレたりしない?」
安倍もちょっと心配そうに聞いた。
「大丈夫よ。底が1日に1回開くように細工してあるから。」
「それで、手紙はパイプを伝って地下150mのトンネルに落っこちるから、そこに拾いに行けば誰とも顔は合わせなくて済むんだよ。」
「そのトンネルの出入り口はさらに1キロぐらい離れた山のトンネルの、そのまた避難道につながっていて・・・」
「・・・ちょっと待て。」
中澤がケイと矢口の説明を遮った。
「その150mのパイプとか、1キロのトンネルとか・・・そんなもん誰が作んねん。」
「こいつが『朝飯前』だって。」
「俺に任せてくれれば1日もかからないよお。チューチュー」
「モグラ・・・おったんかい。」
「お前、目立つからあんまり上がって来るなと言っとるやろ・・・」
「あー、はいはい帰りますよお・・チューチュー・・・」
地下室に行きかけたモグラ男は何か思い出したように立ち止まって言った。
「あっ姐さん、これ新しい部屋の鍵です。今度は防音仕様にしときましたよお。チューチュー・・」
モグラ男はそう言って中澤に鍵を放り投げると地下室に帰っていった。
「・・・あいつ地下室に住んでるの?」
安倍がちょっと驚いた様子で言った
「住んでる、ちゅーか勝手に地下室増設してるんやけどな・・・」
新しい鍵を眺めながら中澤が言った。
「どーりで最近地下室が広くなったり、部屋が増えたりしたと思ったら・・・」
「食事とかどうしてるの?それに地下室の資材とか電気とか・・・」
「まあ『聞かぬが花』ってやつや。」
「最近農作物の盗難が増えたと思ったら・・・」
「・・・いいのかな?」
中澤以外の3人はそう言って顔を見合わせた。
「言っとくけど、時々野菜とか差し入れしてもらってるからあんたらも同罪やで。」
「・・い、いいのかな?」
・・その晩V3は雅の部屋に忍び込み、直接ポストのことを伝えた。
雅は大喜びで「がんばります!」と張り切っていた。
そして数日後・・・
「ただいま〜・・」
「おぉ〜!」
矢口が十数通の手紙を抱えてリビングに入ると歓声が起きた。
「な、何?どうしたのみんな?」
リビングにはケイをはじめ、辻加護、安倍、紺野、高橋、小川、新垣らが集まっていた。
「いや、今日が『第一便』って聞いたもんで・・」
「すごーい、ちゃんと手紙来たんだね。」
「早く読んでほしいのれす」
「あーうるさいなあ。わかったよ。」
矢口はそう言いながら嬉しそうに手紙の封を開けた。
「じゃあ読むよ。コホン・・・」
矢口の言葉に全員が身を乗り出す。
「・・・・・・」
しかし矢口は手紙を見るなり黙り込んでしまった。
「どうしたのれすか?」
「もったいぶらず、早く読んでよ。」
「・・・わかったよ。・・・『わー!かいじんだー!ライダーはやく助けてー!』・・だってさ」
「・・・・・」
「・・・・・」
「え?たいへんなのれす!はやく助けに行かないと・・・」
「アホ・・・」
加護は辻にやさしく突っ込んだ。
「どうする?助けに行く?」
しばしの沈黙の後、安倍が矢口に聞いた。
「・・・聞くか?普通?」
「ライダーに会いたいだけじゃないの?・・・まあ一発目だしね。次行こ!」
「そうだね。」
ケイにそう言われ、矢口は2通目の封を開けた。
「『ライダーさんへ。ぼくのクラスにあやしいやつがいます。きっとかいじんです。たいじしてください・・・』」
「おっ?・・・」
「『・・・そいつはすごくらんぼうで、すぐにぼうりょくをふるいます。しげおというなまえです。ぜったいにやっつけてください』・・・」
「そいつ、ただのいじめっこでしょ・・・」
「自分で解決しろ!次!」
「・・・『拝啓、ライダーさんへ。僕は勉強が得意です。そして家はお金持ちです。・・・』」
「・・・何が言いたいんだこいつは・・」
「『・・・(中略)でも僕は父の後を継ぎたくはないのです。僕は本当は医者になって
貧しい病気の人をたくさん助けてあげたいのです。どうしたら父を説得することが
出来るのでしょうか。』・・・って大変だねえ。」
「素敵な夢だよね。」
「応援してあげたいよね。」
「がんばってほしいのれす!」
「・・・ええ話や・・・って人生相談に乗ってどうする!次!」
「えーと、『ライダーさん!私には好きな人がいるんです!その人っていうのは隣のクラスの先生でぇ〜・・・』」
「今度は恋愛相談かよ!」
「『・・・(中略)とにかく、すっごくステキなんです!わたし、先生にだったら私の・・・私の・・・』」
矢口は急に顔を赤くして黙り込んでしまった。
「どうしたんですか?矢口さん・・・」
そう言って高橋たち4人は手紙を覗き込んだ。
「わ!」
「キャ!」
「わあ!」
「あは!」
そして4人も苦笑いをしながら黙り込んでしまった。
「一体なんやねん・・・」
「どうしたんだべさ?・・・」
加護は黙り込む矢口から手紙を奪い取った。
そして覗き込んだ安倍と共に固まってしまった。
「どうしたのれすか?」
「ダメ!ダメ!ののは見ちゃダメ!」
安倍は慌てて手紙を高く持ち上げた。
「何やってんの、あんたたちは。」
そう言ってケイは安倍の手から手紙を奪った。
「まったくなっちも矢口もいい歳して、中学生じゃあるまいしうわあ・・・・」
・・・結局中澤が帰って来るまで妙な沈黙が続いた。