仮面ライダーののBLACK

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55名無し天狗
そこへ・・・

「どうだユキ、湯加減は。」

罐(かま)の外で薪をくべていた“ユキの父”が
浴室の彼女に声を掛けてきた。
どうやら、“密談”のことは外には漏れていないようだ。

「ええ、とってもいい湯加減で。」

平然と答えるユキ。だが、今度の彼女は、内心気を張り詰めていた。

――必ず尻尾を掴んでやる。


やがて入浴も終わり、三人は囲炉裏を囲んで
“ユキの母”が作った夕餉をご馳走になることになった。

「お…これは私の大好物の薇(ぜんまい)粥…幼少の砌に
 私がよく食していたことを覚えていて下さいましたか。いや、かたじけのう存じまする。」
「たくさんあるからね、どんどん食べなさい。お順さんもお美和さんもどうぞ。」
「ありがとうございます。」
「お言葉に甘えまして…頂きます。」

“両親”を交えて、(表面上)楽しく食事を摂るユキたち。
僅か三年ではあったが、ユキには一生忘れられない三年間であった。
昔話を語るユキの声も弾む。
56名無し天狗:03/10/26 19:29 ID:HBBRRcmC
「父上や母上には、実に返しきれない程のご恩がございます。
 まだ三つと幼かったこの私を育てるため、お二方はご内職で暮らしを
 助けて下さっていた…。」
「いいんだよユキ。わしらは貧しかったからなぁ。」
「そうだよ、暮らしを支えるために当然のことをしたまで。
 だからユキ、あなたは何も気にすることはないんだよ…。」

ユキを気遣う“両親”。その「心遣い」に、図らずも涙を流すユキは、
更にこう続ける。

「…久しぶりに、母上のお唄いになる“よさこい節”を聞きとうなりました。
 物心つくまで母上が私によく聞かせてくださっていたあの“よさこい節”…
 私は片時も忘れたことはござりませぬ。ささ、母上…。」
57名無し天狗:03/10/26 19:45 ID:HBBRRcmC
しかし、この瞬間から“両親”の様子がおかしくなり出した。

「・・・・・・。」

何故か、突然黙してしまった“ユキの母”。

「・・・?母上?どうなさいました?
 母上がよく唄うていた“よさこい節”ですよ?
 さぁ、ささぁ・・・母上?」

唄を催促するユキに返って来たのは…信じられない返事であった。
少なくとも、ユキも含む土佐生まれの者にとっては。

「・・・よ…“よさこい節”??」

この反応を示した時点で、浴室でのユキの読みは、ほぼ当たったことになる。
だが、彼女は念のため確認の意味を込めてこう続けた。

「まさか…“よさこい節”をご存知ない筈などござらぬ…
 もしや…忘れてしまわれたわけではござりますまいな!?」

ユキに問い詰められ、顔色の変わった“両親”は、返事に窮したのか、
苦し紛れにこう答えた。

「いや…それはねユキ、何も、知らないわけではないんだよ。
 わしも母さんも、この土佐に移り住んでからお前と言う子を授かったわけだし、
 母さんはお前が三つになるまで病に臥せっていたから…なぁ、母さんや。」
「え…ええ、そうですよ、ユキ。あなたの思い違いじゃ…。」

この二人の見苦しいまでの言い訳を聞くうちに、ユキは食事の手を止め、
二人を強く睨み据えた!!
58名無し天狗:03/10/26 20:05 ID:HBBRRcmC
「・・・言い訳はもうよい…。
 これで全てがハッキリした!やはり私の父と母は、あの日あの時死んでいたのだ!!
 不覚からとは言え、見せ掛けの面影に謀られたは一生涯の恥…。
 大方血車党であろうが、父と母の姿を奪った貴様らは一体何者だ!!」

ユキは偽の両親に怒りの一喝を浴びせる。
実はこれこそが、「血車地獄の罠」の総仕上げ、
ユキの両親の姿を借りて彼女の親を思う心を利用した最後の罠だったのである!!
その罠に落ちてしまった計り知れない無念から、彼女の声は徐々に涙ぐんでいく。

そのユキをせせら笑うかの如く、偽の両親は勝利を確信し、その本性を現わした!!
その本性たるや…

“父”の方は全身を白い体毛に覆われた猿の姿をしており、
“母”の方は蛇を人間の女性の形に作ったような姿であった。

「ククク…既に死んでおると判っていながら、斯様な罠に容易く掛かるとは!
 家族の生死に気を取られ、己を見失うとは忍び失格だな!!
 我こそは、血車党化身忍者「不死身ましら」!!」
「同じく…「毒蛇妙尼」!!」

二人の化身忍者を前に、ユキの怒りは更に増大する!

「やはり血車…貴様ら、どうやって偽の父と母を作った!!??」

化身忍者は、憎々しげに種を明かす。
59名無し天狗:03/10/26 20:21 ID:HBBRRcmC
「教えてやろう…
 貴様のことを調べていくうちに、貴様の両親のことを知ってな。
 貴様が仇討ちを狙っていることが判ったと同時に我らはその墓を暴き、
 その両親の遺体の薄皮一枚を拝借し、そ奴らに成り済ましておったのよ。」
「面白い程にまんまと引っ掛かってくれたもんだねぇ。あたいら笑っちまったよ、ホホホ…。
 でもまぁ、“よさこい節”であたいらが偽者だったって見抜いたことだけは褒めたげるよ!!」
「おのれ外道・・・・・・!?待て、貴様らその声は!!?」

怒り心頭、ハヤカゼを抜いて構えるユキ。
だが、敵二人の声に彼女はアッとなった。

「もしや貴様らは…十三年前、私の両親を殺した者たちの!!?」

瞬間、ユキが三歳の頃、その耳を衝いたあの忌まわしい声と会話が
彼女の脳裏に蘇った。

『チッ…結局金になりそうな物はなかったみてぇだな!』
『全く、あの二人も大人しくしてたら命だけは助かったろうによ…馬鹿な奴らよ。』
『ねぇ〜え、今度はもっとましなところに行きましょうよぉ。』
『そうだな、畜生!』

間違いない、この者たちこそ私の両親の仇…!!
ユキの怨みの炎は、より一層燃え上がった!!
60名無し天狗:03/10/26 20:34 ID:HBBRRcmC
「おいおい、驚いたな。十三年もしつこく覚えていやがったとはなぁ。」
「全く、見上げた執念と言うか、呆れたと言うか…
 いやぁねぇ、ずぅっと根に持ってるなんて。うふふ…。」
「黙れ!!
 ・・・待てよ、と言うことはあの住職も!!??」

怒りが収まらないユキではあったが、ここに到って更なる重大事に気付いた。

「その通りよ!
 全ては骸丸様のご指示に従い、この「鬼火蝮(おにびまむし)」様が
 指揮を執っていたのだ!!」

ユキの背後に現われたこの「鬼火蝮」と名乗る化身忍者は、
「毒蛇妙尼」と同じく蛇の化身忍者であったが、こちらは男性型で、
修行僧のような身なりをしていた。

その「鬼火蝮」の声にも、ユキは聞き覚えがあった。
仇の三人のうちのひとりである。

と、鬼火蝮はお美和の方を見遣った。そして彼女に掛けた言葉は、
ユキ・お順には信じられない物であった。
61名無し天狗:03/10/26 21:09 ID:HBBRRcmC
「お美和…いやさ、「狂い毒蛾」よ、よくやったぞ。
 ここまで彼奴らを追い詰めることが出来たのはお前の力があってこそだ。
 褒めて遣わそうぞ!」

「・・・・・・!!!!????」

何と言うことか!!
出逢った時から常に明るく振舞い、溌剌とした人柄でユキたちを和ませ、
今まで共に旅を続け、苦楽を、寝食を共にした仲間だと思っていた、あのお美和が
実は血車党の放った密偵であったとは!!

「どう言うことなんだ!?教えてくれお美和さん!、いや、「狂い毒蛾」とやら!!」

ユキは「信じていた者に裏切られた」と言うよりも、
「何故、これ程健気で悪意の微塵も感じられない彼女が血車に就いたのか」
と言った心境でお美和=「狂い毒蛾」に尋ねた。

彼女はその衷情を打ち明けた。

「私は…半年前に家族を血車党に連れ去られていました。
 そこで家族は…父も母も弟も、主人も息子も軒並み
 血車党の労力として働かされ続けていました。
 面会は月に一度だけ…。私は面会を繰り返す度に血車党の人々に
 家族を返してくれと必死に懇願しました!!
 そんな私に血車党はこう言いました。
 「返して欲しければ、お前も血車党のために働け。」と。
 そして、新しく現われた血車党の敵…つまりユキさん、あなたを罠に掛けて
 血車党を優勢に持ち込むことが出来たら家族を返す、とも言っていました。
 ・・・・・・こうするより仕方がなかったんです…。ユキさん、お順さん、ご免なさい!!」

苦しい事情を赤裸々に披瀝したお美和は、涙混じりに叫ぶと、その身を
毒蛾を人型に模った化身忍者「狂い毒蛾」へと変じて、ユキとお順に襲い掛かった!!
62名無し天狗:03/10/26 21:28 ID:HBBRRcmC
「狂い毒蛾」の攻勢を回避しつつ、ユキは尚も尋ねる。

「待て、「狂い毒蛾」!では本物の住職を殺したのも・・・!?」
「そうよ!!最初は躊躇った…無関係の人を殺めるなんて…あたしは泣いたわ。
 でも、全てはあたしの家族のため、仕方のなかったことなの!!」

苦衷から涙声の彼女は、「血車忍法・狂い粉」をユキに浴びせる。
彼女自身の全身の体毛と鱗粉の毒を混合した毒の粉末を、ユキは咄嗟にかわす。

「お願いユキさん…あたしと、あたしの家族のために・・・・・・死んで!!」

尚も「狂い粉」をユキに浴びせんとする「狂い毒蛾」。
と、そこへ・・・

「そこまでだ!「狂い毒蛾」よ。お前の役目はもう終わった!!」
「え・・・・・・??」

突然の「鬼火蝮」の言葉に唖然となる「狂い毒蛾」。

「それは・・・どう言う・・・こと?」
「お前は今回のこの「血車地獄の罠」の総仕上げのためだけに造られたのだ。
 そしてお前は見事その大役を果たした。ご苦労だったな、お前はもう用済みだ!!」
「!!!・・・そ、そんな・・・!!
 それじゃあ…あたしの家族は?家族はどうなるの!!??」

やはりと言うべきか、血車党の掟に則り「狂い毒蛾」を使い捨て扱いの化身忍者たち。
その彼ら三人のうちの「毒蛇妙尼」は残虐な笑みを浮かべて、「狂い毒蛾」を突き放すように
彼女に冷たくこう言い放った。
 
63名無し天狗:03/10/26 21:45 ID:HBBRRcmC
「フフン、冥土の土産に教えてあげるよ…。
 あんたの家族は、あたいら血車党の許から逃げ出そうとしたのさ。
 それで、ちょいと焼きを入れたってわけ。ふふ、どぅお?判ったかしら…?」
「え・・・・・・い・・・いやぁぁああああああ!!!!!」

恐るべき血車党の掟!
過酷な仕打ちに耐え切れず脱走した者を虫けらみたく容易く殺し、
しかも、そのことを身内に悪意を持って隠匿し、その身内を牛馬の如く
強引に自分達の所業に従事させるとは!!

「狂い毒蛾」は、ここに到って騙され続けていたことに気付き、
その心は荒れ狂う大波のように揺れ、乱れ、やがて慟哭した。

「・・・・・・。」

その彼女を、複雑そうに見つめるユキ。
彼女もまた、血車党の無法に泣かされた犠牲者だったのだ…。
ユキは改めて、血車党の殲滅を強く心に誓った。

だが、その悲しみを分かち合う心など、血車党の悪魔たちは微塵も持ち合わせていない。
“用済み”となった「狂い毒蛾」に「死」を宣告する化身忍者たち。
「鬼火蝮」は、蛇の頭の付いた杖を構え、「狂い毒蛾」目掛けてその蛇頭から炎を吹きつける!!
64名無し天狗:03/10/26 21:59 ID:HBBRRcmC
「・・・!危ないっ!!」

ユキは「狂い毒蛾」に体当たりし、彼女を突き飛ばした!
その炎は、彼女のすぐ後ろにあった大木を焼き尽くす。

遂に、ユキの怒りは頂点に達した!!

「おのれ血車党・・・私は今日、今この時程貴様らを憎う思うたことはない!!
 断じて許せん、貴様ら・・・“一匹”残らず地獄の底に叩き込んでやる・・・・・・!!!」

怨嗟の声と共に、ユキ・お順は各々懐から一通の書状を取り出した。
この書状こそ、彼女たちがこの日のために幕府から頂戴した「仇討ち免許状」である!

「十三年越しの怨み、そして貴様らの非道に泣かされた人々の怨み…
 併せて今、この場で晴らしてくれるぞ!いざ、尋常に勝負致せ!!」
「フン、猪口才な・・・いいだろう、貴様こそ両親と対面させてやる、あの世でな!!」

いよいよ、ユキとお順の悲願が果たされる機会が訪れたのだ。
ユキはハヤカゼを、お順は小太刀を構えて目の前の怨敵を強く凝視する!!