「あのガキ・・・生きていやがったのか」
紗耶香にしてみれば悪党のやり口など心得たもの。ひとたびあの場を離れれば、後は
自分を引っ立てて連れて行こうとするヤクザ者をふりほどき、叩きのめす事など造作も
ない話だ。思惑がはずれて歯がみする鬼勘。しかしすぐさま手下の者達に命令を下す。
「おぅっ野郎ども!構うこたぁネェや、撃ち殺せ!!」
鬼勘がそう言うや、ヤクザ者達はやおら銃を手にすると、紗耶香のいる社に向かって
撃ちまくった。素早く紗耶香は身を潜めたが、社の一角はすぐさま硝煙に包まれ、
激しい銃声とともに壁といわず石垣といわず、片っ端から土煙と火花が上がり紗耶香の
姿は硝煙の彼方に消えた。
「おねーちゃん!!」
紗耶香を呼ぶ少年の声も鳴り響く銃声にかき消され、その稲妻のような轟音はしばらく
静かな境内の空気を切り裂いて響き渡っていたが、ひとしきり弾を撃ち尽くしたところで
鬼勘が子分達の銃撃を手で制した。
「そのくらいで良いだろう・・・これだけ鉛弾食らわしゃあのガキも生きちゃいねぇ」
紗耶香の死を確信したかのようにほくそ笑む鬼勘一派。だが、その時何処から爆音が
とどろくと、白銀に輝くジェットファンを回転させながら真っ赤なマシンが鬼勘の
手下達をはねとばし突っ込んできた。
「なっ・・・なんでぇありゃあ!!」
マシンを駆る赤いスーツの戦士を乗せて、万能マシン「ズバッカー」は鬼勘の元へと
切り込むようにうなりを挙げて爆走してきた。さすがに自分の親分を轢き殺されまいと、
その間に素早くワルツ・リーが割って入る。ズバッカーは彼らの前方に少し距離を置いた
状態で停車した。
そこからさらに電光のような鞭の一撃がうなり、少年をとらえていたヤクザ者の顔面を
切り裂く。顔面を襲う激痛にヤクザ者達がうめく中、少年は見事この謎の戦士によって
救い出された。そして、華麗な大跳躍とともに操縦席から飛び出し、先ほどまで硝煙に
包まれていた社の屋根の上に立つのは白いマフラーをなびかせて赤いスーツに身を包み、
額に「Z」をかたどったヘルメットで素顔を隠した戦士。それは紗耶香のもう一つの
顔であった。
市井紗耶香が復讐の誓いを胸に友の遺したズバットスーツに身を固めた時、彼女は
「快傑ズバット」として悪に敢然と立ち向かうのだ。風になびく白いマフラー、青空に
映えるは赤と黒のコントラスト。ズバットは右と左に腕を構え、左腕を高くかざすや
そのまま両腕で天地を指すごとく開き、眼下の悪人どもに見得を切る。
「ズバッと参上、ズバッと解決!人呼んでさすらいのヒーロー、快傑ズバット!!」
これを見上げるのは大極道、鬼の勘三とその子分達。突如現れたズバットを目の前に
して、残る手下どもを呼び集めて迎え撃たんと身構える。
「ゼティマの秘密基地建設に荷担して住民を虐げ、あまつさえいたいけな少年の
父親を殺した鬼の勘三・・・許さん!!」
ズバットは集まった眼下の悪党たちを指さし、怒りを込めて叫ぶと社の屋根から身を
翻して敵のまっただ中へと舞い降りた。手近なヤクザ者に鉄拳一発食らわすと、
すぐさま鬼勘一家との戦いが始まった。