ステッキ状の武器を手に、次々と打ちかかる戦闘員たち。廊下に響く鈍い
打撃音。しかし、その攻撃を両腕で防いだオルフェノクは手近な戦闘員の胸倉を
わしづかみにするや、そのまま片腕で引っこ抜くようにぶん回し始めた。次々と
なぎ倒される戦闘員の悲鳴にも似た奇声と、その攻撃によって破壊される廊下と
その周囲の音が手術台の下に潜む少女達の恐怖心を掻き立てる。外では一体何が
起きているのか。しかし、何が起きていようともここから離れるのは危険だ。
(敵同士で・・・殺し合い?)
両者の戦いが決着を見るとき、そのときこそがチャンスだと紗耶香は考えた。
少なくとも自分達を追う勢力のうちの一方は無くなる訳である。脱出の機会は
その分増えるはずだ。
「明日香、もう少しの辛抱だからね・・・」
小声でつぶやきながら、二人はさっきよりもきつく肩を寄せ合ってこの悪夢の
ような時間を耐える以外になかった。
廊下に目を転じると、そこはまさに死屍累々の有様であった。数の上では
優勢なはずのコブラ男らゼティマの一団は、ライオンオルフェノクの文字通り
獅子奮迅の戦いによって倒されていた。最後の一人が青白い炎を上げて灰に
なったと同時に、いよいよ戦いは改造人間とオルフェノク、二つの異形の者が
直接対決する事態となった。
「まさか我々がここまでの被害を被るとは・・・だが、俺が相手ではそうは
いかんぞ!」
怒気に声を荒げ、コブラ男は右腕のコブラをオルフェノクに突きつける。更に
頭部のひれが大きく蠢くと、コブラの口から真っ白い煙が迸る。オルフェノクは
難なくそれをかわして再び身構えるが、煙の触れた方向に目を遣ると、廊下の
壁が白い泡まみれになり、ボコボコという音を立てて溶解しているのが判った。
『毒ガスか・・・』
コブラ男の放った毒ガスは、浴びたものを溶かす効力がある。それでも何の被害
も受けなかったのは、噴射されたガスの範囲が狭かったためだろう。
「俺の技はまだこんなものではない。これでも喰らえ!!」
次の瞬間、先ほど毒ガスを噴出させたコブラ男は今度は口から炎を吐いて攻撃
してきた。長く伸びた火柱は廊下の天井までも届き、瞬く間に真っ白い壁は
すすで真っ黒に汚れてしまった。コブラ男は再び炎を迸らせると、その熱は炎の
触れた窓ガラスを打ち砕き、やがて炎と共にガラス片が降り注ぐ廊下は一面
火の海となった。