「バカなことを言わないで!明日香と二人で帰るんだから!!」
恐怖か、それとも熱のためか小刻みに震える身体を抱き寄せて紗耶香は明日香に
そう言って応える。明日香を残して自分ひとりで脱出することなど考えられない。
そんなことをするくらいならいっそ二人とも死んでしまったほうがいい、とさえ
紗耶香は思っていた。
かつて経験したことのない恐怖と戦いながら、二人の少女が身を縮め息を潜めて
いる頃、壁とドア一枚を隔てた廊下では二人にとって絶望的とも言える邂逅が実現
していた。コブラ男が率いるゼティマの部隊と、特殊部隊から一人飛び出した
隊長格の男。ついに両者が遭遇したのだ。紗耶香たちに気づかなかったコブラ男
達が別の場所を捜索しようとその場を離れようとしたその時、彼らの眼の前に
立ちはだかった一人の男。それが、あの特殊部隊の男だったのだ。
「ゼティマの改造人間だな」
男はコブラ男達を見るや、そう言ってニヤリと笑う。一方のコブラ男も、二人の
少女を狙う謎の一団の一人が眼の前にいると知るや、ただならぬ闘争心を燃やして
男をにらみつけた。
「貴様も小娘どもを探しているようだな・・・だが、貴様らなどには渡さんぞ」
「元々お前達のものでもないだろうに。手間を取らせやがる」
そういうと、男は鋭い眼光を放つ両目を大きく見開く。その直後、男の顔面には
しわとも模様とも取れる深い溝がくっきりと浮かび、人と異形の中間のような、
奇怪な人相へと変貌する。それはコブラ男にとっては思いがけない光景だった。
「きっ、貴様も改造人間なのか?!所属は?」
眼の前で起きた異変、もしかしたらこの男も改造人間なのか。だとすれば同士討ち
だ。そう思い、コブラ男は男の所属支部を問う。だが、眼の前の男は完全に異形
への変貌を遂げていた。眼の前に立っていたのは、灰白色の半獣人。そして、その
姿は獅子を思わせた。
『・・・スマートブレイン・・・オルフェノク』
灰白色の異形の者「ライオンオルフェノク」は一言だけ答えてコブラ男に向かって
飛び掛った。その行く手に立ちはだかるのはコブラ男ではなく、彼に付き従う
戦闘員達だ。コブラ男の命令が下るや、戦闘員達はそれぞれに武器を構えて敵を
迎え撃つべく身構えた。
「おのれ・・・構わぬ、殺れ!!」
恐怖におびえる少女達を他所に、二つの異形が激突する。