43 :
名無し天狗:
「・・・・・・!!!???」
住職の意外な一言に、一同は筆舌に尽くしがたい驚愕を覚えた。
この村には寺はここだけの筈。
ならば、父母はここに弔われて然るべき。なのに何故・・・?
ユキは当惑した。お順も「信じられない」と言った面持ちである。
墓参のための帰郷。しかし、この寺に父母の墓はない。
・・・一体どう言うことなのか!?
ユキは、思い切ってその理由を住職に尋ねた。
44 :
名無し天狗:03/10/25 20:51 ID:rsicQ+I7
そのユキの問いに対し、住職いわく
「いや、正確には“今は”存在しない、と言うべきですか。
かつて、あなたのご両親が悲運のご最期を遂げられた時、
拙僧はお二人のご遺骸をお棺に納めて、手厚く弔って進ぜようとしたのですが、
葬儀のあとに、「いかなる病もたちどころに治し、死人をも目覚めさせる」と言う
名医の方が現われて、ご遺骸をお引取りしたい、と申し出て来られたのです。
当初は拙僧共も半信半疑にございましたが、そのお医師…
お名前まではちと存じませんが、そのお方の熱意に負けて、それならばと
蘇生のことをお願い致したのです。」
ユキには、俄かには信じがたい話であった。
殺された筈の父と母が生きていた。しかもそれは、その「奇跡を呼ぶ名医」の手による
ものであるなど。となると、これまでの苦労は何だったと言うのか。
嬉しい反面、生涯を懸けてまで自らが背負った辛苦が水泡に帰した虚無感がユキに圧し掛かった。
更にユキは問う。冷静を装ってはいるが、心中穏やかではなかった。
「・・・では、私の両親がかつては弔われる筈であったと言う証をお見せ願いたい。」
45 :
名無し天狗:03/10/25 21:20 ID:rsicQ+I7
「・・・判りました。お見せしましょう。ささ、こちらへ…。」
住職は立ち上がり、三人をとある場所へと案内した。
辿り着いたところは…一戸の土蔵であった。
何でも、お焚き上げをする仏具を一旦安置するための物であると住職は言う。
その土蔵に施された錠を開け、四人は土蔵の中に入った。
灯りを点す住職。土蔵の内部には、所狭しと様々な仏具が並んでいた。
「あれですじゃ、ご覧なされ。」
と、住職が指差した先には、二つの樽のような桶と位牌があった。
(江戸時代の棺桶は樽のような形をしており、遺体を屈めるように折り畳んで
中に収めていたのである)
「・・・これが…。」
ユキとお順は呆然と立ち竦んでその棺桶と位牌を見つめていた。
いずれもユキの父母の両親の戒名と俗名が書き記されている。
ユキは恐る恐る棺桶の中を覗くが、やはり中は空であった。
となると…両親は今どこにいるのか!?
早く逢いたいと言う衝動から、ユキの心は紅潮していた。
「もし・・・両親の今の居場所をご存じあらば、ご無礼にはござるが
お教え頂きとう存ずる。」
と言うユキの問いに、住職が出した答えは意外な物であった。
「あなたのご実家におりますが・・・・・・。」
46 :
名無し天狗:03/10/25 21:32 ID:rsicQ+I7
「な・・・何と!!??」
ユキとお順は、これまでにない驚嘆を示した。
「そ・・・それは真にござりまするか!?」
「勿論、お二人とも今や達者で、以前のように畑仕事やご内職に
勤しんでおりまする。」
「かたじけない…馳走に相成り申した!然らばこれにて、ご免!!」
一度は怪しいと思い、ユキは問い返したが、住職の更なる「証言」は
真実味を帯びた物となって、早く両親に逢いたいと言うユキの心を虜にした。
不審感をすっかり掻き消されたユキは、お順・お美和と共に
住職に礼を述べつつ、生まれ育った実家へと急いだ。
47 :
名無し天狗:03/10/25 21:46 ID:rsicQ+I7
その頃・・・
「おかしら様、いよいよですな。
第二・第三・第四の罠もまた悉く破られましたが、遂にここで・・・!!」
「うむ、ユキめの苦悶に泣き叫ぶ無様な面が目に浮かぶわ!!」
血車党の本拠地では、魔神斎と骸丸が「最後の罠」に一縷の望みを託し、
必勝を期してほくそ笑んでいた。
果たして、「最後の罠」とは・・・・・・!?
一方、ユキたちは一軒のあばら家に到着していた。
これこそがユキの生家なのである。
「うわぁ…何もかも昔のまま…懐かしいなぁ。」
ユキは、久々の実家への帰着に胸を高鳴らせていた。
お順も、兄との再会に心が弾む。
そんな二人を、お美和は複雑な面持ちで見ていた。
いても立ってもいられず、ユキとお順は家の敷居を跨ぐ。
「父上!母上!ユキでござる!ただ今戻りました!!」
「兄上!お順もこれにおりまする!!」
48 :
名無し天狗:03/10/25 22:16 ID:rsicQ+I7
家の中では、二人の老いた夫婦らしき男女が、何やら物を作っていた。
男は笠と草鞋を、女は機織りで反物を。
その二人は、ふと聞こえたユキとお順の声に一旦手を休めて振り向いた。
驚嘆する二人。
「・・・・・・!!ユキ!お順!!」
「ユキ!!」
内職に従事していたこの二人こそ、ユキの両親であった!
更に父親の方は、お順の兄えもある。
突然のユキたちの来訪を二人は喜び、駆け寄ってきた彼女たちと抱き合って
再会の喜びを分かち合った。
「ああ…父上、母上、夢のようにござりまする。
まさか生きて再びこうしてお目に掛かれるなんて……。」
「わしたちも嬉しいよユキ。お順も暫くぶりじゃなぁ。」
「うう…兄上……。」
感激に咽び泣く四人。ユキの心の中からは、先程の警戒心は
さっぱりと消え失せていた。むしろ、今の彼女の心境は、
両親に逢えたと言う歓喜の思いが遥かに勝っていた。
「ささ、長旅で疲れただろう。今、風呂の支度をしてやるからな・・・
?おや?そちらの方は?」
「あ…、こちらは高知へ向かう船の中で知り合った安房生まれのお美和さんと申しまして、
唄上手で旅好きな気立ての良い娘さんにござりまする。」
「そうか、そうか。え〜…お美和さん、でしたかな?
あなたもご一緒にいかがですかな?」
「はぁ…そう仰られるのでしたら…お言葉に甘えまして…。」
何故かよそよそしく振舞い出すお美和…。
49 :
名無し天狗:03/10/25 22:45 ID:rsicQ+I7
「・・・?お美和さん?どうなされた?」
お美和の突然の挙動不審に、心配したユキが声を掛ける。
「・・・!あ、いえ、何でもございません……。」
「然様か。いや、様子がおかしいので、お身体の具合でも悪くされたかと
ちと懸念しておったのだが…大事無いのであれば安堵致した。許されよ。」
ユキの言葉に慌てて笑顔を繕うお美和。
しかし、普段なら周囲の様々な人々のいかなる挙動不審を
僅かでも見逃さぬユキはその彼女の異変を全く気に掛けていなかった。
やがて風呂の支度も整い、ユキたち三人は入浴して長旅の疲れを癒した。
何せここに来るまで四度に亘って血車党の仕掛けた罠に出くわしてきたのだから
心地よさもひとしおであった。
文字通り、極楽気分に浸る三人であったが、ここに来て漸く落ち着いたユキは
普段の自分を取り戻し、ここに到るまでの系譜を反芻した。
50 :
名無し天狗:03/10/25 23:06 ID:rsicQ+I7
「・・・叔母上。お美和さん。」
「「はい?」」
「シッ!お声が高うござる!」
「え…?」
「それって、どう言う…?」
やっと不審に気付いたユキが、お順とお美和に声を潜めるよう注意し、
この不可思議な事態を振り返ってこう切り出した。
「あの時は、生きた両親に逢えると言う望郷の感に駆られて
恥ずかしくも斯様に取り乱してしまったが…
今になって考え直してみるとどうもおかしい!
私が両親の遺体を見た時は…確か蘇生も叶わぬ程
惨たらしくズタズタにされていた筈だ。それをあのように…
まるで何事もなかったかのように生きて歳を重ねているなど…
どのような名医であっても、あそこまで生かすのは到底無理だ!!
…風呂から上がったら、ちと確かめてみようと思う。」
声を潜めて今感付いた点を打ち明けるユキ。お順もお美和も声を潜めて
ユキの言葉に耳を傾ける。
「では…やはり血車の罠とでも…?」
「恐らくは…。もしこの読みが当たっているとすれば許せぬ!!
幼くして両親を失った悲しみにつけ込み、私を謀るとは・・・!!!」
「ユキさん・・・やっとご両親に逢えたのに・・・・・・。」
「お美和さん、お気に召されることではない…。」